笠原一輝のユビキタス情報局
Copilot+ PCとしてハードウェアが大きく進化した新Surface Pro/Laptop
2024年5月23日 12:47
Microsoftは5月20日、ワシントン州レッドモンドの本社で記者会見を行ない、「Surface Pro(11th Edition)」と、「Surface Laptop(7th Edition)」の2製品を発表した。
両製品ともに、Copilot+ PCと呼ばれるMicrosoftが提唱する、第2フェーズのAI PCである。40TOPSというCopilot+ PCの要件を現時点で唯一満たす性能を誇り、新しいAIアプリにも対応することが大きな特徴になる。
本記事では、新しいSurface Pro/Laptopに関して、現地で担当者に取材したこと、実機で確認したことなどを含めてお届けしていきたい。
新Surface Pro/Laptopはコンシューマ向けのみ
この発表が行なわれる前、筆者はMicrosoftが発表するSnapdragon X Eliteを搭載した新しいSurfaceは、3月に発表された法人向けSurface Pro 10、Surface Laptop 6の一般消費者向けバージョンになるのだろうと思っていた。
しかし後述するように、発表された両製品のスペックを見ると、共通する部分もあるが、今回発表されたSurface Pro/Laptopのほうが多くの点で強化されている。
このためか、MicrosoftとしてはSurface Pro 10やSurface Laptop 6でもないという位置付けのようだ。ただし、両製品とも11th Edition(第11世代)、7th Edition(第7世代)といった副題的な表記はあり、立ち位置としてはSurface Pro 11、Surface Laptop 7であることが分かる。
ただ、今回発表されたSurface Pro/Laptopは一法人向け版は用意されていない。このことについて、Microsoft 執行役員(CVP) Surface プロダクトマネージャー/ユーザー体験担当のピート・キャリアコウ氏は次のように述べている。
「今回Copilot+ PCとして発表したSurface Pro/Laptopは一般消費者向けだけの製品になり、法人向けは(今の時点では)用意されない。法人向けは3月に発表したCore Ultra搭載製品を提供していく」。
つまり、法人向けのSurface ProやSurface Laptopが欲しい場合には、Surface Pro 10、Surface Laptop 6が用意されているということだ。
無論、キャリアコウ氏は将来の製品に関して言及しなかったため、一般消費者向けがSnapdragon、法人向けがCore Ultraという切り分けで固定されるかどうかはまだ分からない。しかし現時点で、一般消費者向けをArmベースのSnapdragon、法人向けをCore Ultraとしているのは合理的だろう。
というのも、Windowsはこれまでx86が主流で、Armアーキテクチャに関しては依然としてソフトウェアの互換性に課題があるからだ。法人向けのPCでは、過去のソフトウェア資産が新しいデバイスでも使えることが重要だ。その意味で、Armという異なるISA(命令セットアーキテクチャ)のSnapdragonに不安があるIT管理者などは少なくないだろう。
以前に比べればソフトウェア互換性の問題は解消されているが、それでもIT管理者にすれば自社で使っているソフトウェアで動かないものが1つでもあれば購入はできない。
それに対して、一般消費者向けのPCは、基本的にプリインストールされているソフトウェアやMicrosoft 365 App(Word/Excelなど)をインストールして使うのが一般的だ。そのため、過去のソフトウェアとの互換性は、法人向け版に比べればあまり問われない。
その意味で一般消費者が向けx86からArmになっても、法人市場向けよりは影響や混乱は多少小さくできる。一般消費者向けがArmで性能も高くなったSnapdragonに、企業向けが互換性に懸念がないx86のCore Ultraになったのは合理的だ。
新Surfaceのハードウェア面での強化点は6つ
それではSurface Pro/Laptopのハードウェアは、法人向けのSurface Pro 10/Laptop 6、および前世代(Microsoftの数え方だと2つ前の世代)のSurface Pro 9 with 5G/Laptop 5と何が違うだろうか?
以下の表1がSurface Proの3つの世代、表2がSurface Laptop 13型級の3つの世代、表3がSurface Laptop 15型の、直近3つの世代のスペックで、強化されたところを抜き出したものだ。
製品名 | Surface Pro(11th Edition) | Surface 10 | Surface 9 with 5G |
---|---|---|---|
SoC | Snapdragon X Elite/Plus | Core Ultra | Microsoft SQ3 |
CPUの命令 | Arm | x86 | Arm |
NPU | 45TOPS | 11TOPS | (未公表) |
ディスプレイ | 13型有機EL/液晶 | 13型液晶 | 13型液晶 |
解像度 | 2880x1920/120Hz | 2880x1920/120Hz | 2880x1920/120Hz |
フロントカメラ | QHD(MIPI) | QHD(MIPI) | フルHD(MIPI) |
Wi-Fi | Wi-Fi 7 | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6E |
バッテリ | 53Wh/48Wh | 48Wh | 47Wh |
タッチパッド | オプション | オプション | オプション |
重量 | 893g | 879g | 878g |
赤字 : 今回の世代からの強化
青字 : Surface Pro 10/Laptop 6からの強化
製品名 | Surface Laptop 13.8"(7th Edition) | Surface Laptop 6 13.5" for Business | Surface Laptop 5 13.5" | |
---|---|---|---|---|
SoC | Snapdragon X Elite | Core Ultra | 第12世代Core | |
CPUの命令 | Arm | x86 | x86 | |
NPU | 45TOPS | 11TOPS | - | |
ディスプレイ | 13.8型LC | D | 13.5型液晶 | 13.5型液晶 |
解像度 | 2,304×1,536ドット/120Hz | 2,256×1,504ドット/60Hz | 2,256×1,504ドット/60Hz | |
フロントカメラ | フルHD | フルHD | HD | |
Wi-Fi | Wi-Fi 7 | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6 | |
バッテリ | 53Wh | 48Wh | 47Wh | |
タッチパッド | Precision Haptic Touchpad | Touchpad | Touchpad | |
重量 | 1.34kg | 1.38kg | 1.297kg |
製品名 | Surface Laptop 15"(7th Edition) | Surface Laptop 6 15" for Business | Surface Laptop 5 15" |
---|---|---|---|
SoC | Snapdragon X Elite | Core Ultra | 第12世代Core |
CPUの命令 | Arm | x86 | x86 |
NPU | 45TOPS | 11TOPS | - |
ディスプレイ | 15型液晶 | 15型液晶 | 15型液晶 |
解像度 | 2,496×1,664ドット/120Hz | 2,496×1,664ドット/60Hz | 2,496×1,664ドット/60Hz |
フロントカメラ | フルHD | フルHD | HD |
Wi-Fi | Wi-Fi 7 | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6 |
バッテリ | 66Wh | 48Wh | 47Wh |
タッチパッド | Precision Haptic Touchpad | Touchpad | Touchpad |
重量 | 1.66kg | 1.68kg | 1.56kg |
大きく言うと、新しいSurface Pro/Laptopで、前世代(Surface Pro 9 with 5G、Surface Laptop 5)から大きく強化された点は6つある。SoC、ディスプレイ、フロントカメラ、タッチパッド、Wi-Fi、そしてバッテリだ。
SoCの強化
1つ目のSoCは、Intelの第12世代CoreないしはMicrosoft SQ3という古い世代のSoCから最新のSoCであるSnapdragon X Eliteに強化されたことだ。これにより、CPUやGPU、そしてNPUの性能が上がっている。
なお、Surface Laptopシリーズに、ArmアーキテクチャのSoCが採用されたのは今回のSurface Laptopが初めてだ。
Snapdragon X Eliteそのものの性能に関しては以下の関連記事で触れているのでそちらを参照してほしい。
キャリアコウ氏が「Surface Laptopは従来のモデルに比べて約86%、Surface Proに関してはSurface Pro 9に比べて約90%高速だ」と説明する通り、Qualcommが自社開発をしたOryon CPUがAppleやIntelといったほかのSoCベンダーに比べて高い性能を発揮することが、今回のSnapdragon X Eliteを採用した大きなメリットだと言える。
ディスプレイはOLED採用、解像度もアップ
2つ目はディスプレイだ。Surface Proはサイズこそ13型と同じだが、上位モデルはパネルがOLED(有機EL)になっており、コントラストや黒の表現などが向上していることが特徴だ。
ただし、OLEDのパネル全般に言えることだが、消費電力が増えてしまうので、そのぶんバッテリの容量は増やされている(48Whが53Whになっている)。キャリアコウ氏は「OLED搭載モデルは若干厚くなり、かつ重量も増えている」と述べているのだが、それがどのくらいなのかは公開されていない。
Surface Laptopのほうは、15型モデルは従来と同じ液晶でスペック上の違いはリフレッシュレートが120Hzに向上したことぐらいだが、13.5型モデルのほうはサイズが13.8型に強化されている。
ディスプレイサイズが大きくなったことに伴い、2,256×1,504ドット/60Hzから、2,304×1,536ドット/120Hzへと引き上げられている(アスペクト比は同じ3:2のまま)。
これにより縦方向も、横方向も表示できる情報が増え、ほぼ14型のノートPCのサイズに近付いたと言えるだろう。
カメラの解像度アップ
3つ目はフロントカメラのセンサー解像度だ。従来のSurface Pro 9 with 5GでフロントカメラはフルHD(1080p)、Surface Laptop 5ではHD(720p)の解像度になっていた。
Surfaceシリーズのカメラは、MIPI-CSI2での接続になっており、SoCに内蔵されているISP(Image Signal Processor)で処理されるため、USBエンコーダで処理される一般的なフロントカメラに比べて画質が優れていることに定評がある。とはいえ、CMOSセンサーの解像度自体が画質に大きく影響するのは言うまでもない。
確かに、ZoomやTeamsなどはネットワーク帯域の問題もあるので、結局はHD程度にリサイズされてしまうのだが、それでも元のセンサーで撮った絵が高画質だとリサイズしても高画質なまま相手に自分の映像を届けられる。
今回Surface ProはフルHDからQHD(1440p)に、Surface LaptopはHDからフルHD(1080p)にCMOSセンサーの解像度が引き上げられている。キャリアコウ氏によればMIPI-CSI2接続の仕組みも継続されているとのこと。
そうした強化により、高画質なフロントカメラとして定評があったSurfaceシリーズの特徴がさらに引き上げられることになる。
さらに、Surface ProのカメラはCMOSの解像度が引き上げられただけでなく、視野角も114度に広げられている。もちろん逆に視野角を狭くして人間だけを映したいといった場合には、必要に応じてWindows Studio Effectsの自動ズーム機能を利用して映る範囲を制限可能だ。
Laptopのタッチパッドはハプティックに対応
4つ目は、Surface Laptop (7th Edition)ではタッチパッドがハプティックのフィードバックが付いたタッチパッドへと進化していることだ。実際に触ってみたが、確かに触ったあたりからのフィードバックが感じられるので、操作性が向上していると言ってよい。
Wi-Fi 7に対応
5つ目は、ネットワークの高速化だ。ただ、残念ながらどちらのモデルもセルラーモデムのオプションは用意されていない。その代わりにというわけではないが、両モデルとも最新のWi-Fi 7に対応したことで、より速いネットワークを使いたいというニーズに応えられるようになっている。
Surface Laptop 15"ではバッテリ容量が約40%増えているが重量は増えず
最後の強化点は、バッテリ駆動時間の強化だ。今回Microsoftは5月20日に行なった記者会見でSurface Laptop 13.8"、従来モデルとなるSurface Laptop 5(第12世代Core)、M3を搭載したMacBook Airとのバッテリ動作の比較デモを公開した。
最初にSurface Laptop 5のバッテリがなくなり、その次にMacBook Airが、そして最後までSurface Laptop 13.8"が動作し続けるという早回し映像を公開し、Snapdragon X Eliteを採用したことで消費電力が少なくなったのだとアピールしている。
ただ、少なくともSurface Laptop 5との比較ではフェアな評価ではない。
というのも、Surface Laptop 5のバッテリ容量は47Whで、Surface Laptop 13.8"は53Whで、約10%バッテリの容量が大きいからだ。なので、Snapdragon X Eliteの恩恵がどれほどのもなのかは、今の時点ではまだよく分からない。
ちなみに、Surface Pro 9の時に、第12世代Core版と、Microsoft SQ3(中身はSnapdragon 8cx Gen 3)版のバッテリ容量は同じだったので、その時の結果を引用しておくと前者が15.5時間、後者が19時間となっていた。
計算上は約23%が第12世代CoreとSnapdragonのバッテリ駆動時間の違いだったので、それがCore UltraとSnapdragon X Eliteではどのような差になるのかが、Surface Pro 10とSurface Pro(11th Edition)の比較などでチェックしていく必要があるだろう。
なお、M3 MacBook Airとの比較では、どちらもバッテリ容量が約53Whなので、ほぼ条件は同一だと考えられる。
より消費電力が増える解像度ではMacBook Airが2,560×1,664ドットとやや上なので、そのぶん不利だと思われるが、4Kと2Kほどの違いはないため、こちらは明確にM3よりSnapdragon X Eliteが省電力だと言えそうだ。
おもしろいのは15型のほうだ。よくスペックを確認してみると、15型のSurface Laptopはバッテリの容量が66Wに増えている。従来モデルが47Whのバッテリ容量だったのと比較すると約40%増だ。
しかし、本来バッテリの容量が増えれば、それだけ重量も増えるはずなのに、Surface Laptop 5やSurface Laptop 6と同じような重量になっているのは正直驚いた。最初スペック表が間違っているのかと思ったぐらいだ。エンドユーザーにとっては素直に歓迎できることだろう。
MicrosoftのAIアプリと新しいSurfaceは、次の時代のAI PCの「新しい形」を示している
今回のSurface ProとSurface Laptopはハードウェアの強化と同時に、Microsoft自身がけん引するCopilot+ PCに対応していることがもう1つの大きな特徴となる。
MicrosoftはCopilot+ PC向けのAIアプリを動作させるミドルウェアとして「Windows Copilot Runtime」を次のWindows 11のアップデートで搭載し、その開発ツールとなる「Windows Copilot Library」の提供を開始する。
それらで作られたWindows Copilot Runtime上で動作するAIアプリが動くAI PCが「Copilot+ PC」ということになる。
今回Microsoftは「Recall」、「Cocreator」、「Live Captions」などの、Microsoft自身が作成したWindows Copilot Runtimeに対応したAIアプリのデモを、いくつかのイベントで何度も繰り返したことからも、その重要度の高さがうかがい知れる。
キャリアコウ氏は、「今回我々が提供しているAIアプリは、ユーザーに新しいPCの使い方を提案するものだ。たとえば、Live Captionsでは英語のスピーカーではない人が英語の会議に参加している時に、自分の言葉を使って話しても相手には英語に自動で翻訳して伝わる」という。
ネットワークにデータを送っていてはレイテンシーにより実現できないようなライブ翻訳機能も、45TOPSという高い性能を持つNPUがローカルにあるからこそ実現できたのだと強調する。
筆者個人としては、PaintにCocreatorの機能が追加されていたことが、何よりも印象的だった。
Windowsが一般的になる前からある、あまり使わないアプリの筆頭の「Paint」だが、そのPaintがAIによって大きな進化を遂げている。ペンでちょっとした絵を描いていくと、AIがしっかりとしたイラストに変換してくれ、絵があまり上手ではない人でも絵を描けてしまう。それがCocreatorの機能だ。
もし本当にタイムマシンがあって、30年前に戻って「30年後のPaint、マジすごいですよ!」といっても誰も信じてくれないのではないだろうか……それぐらい衝撃だった。
話が逸れたが、今回の新しいAIアプリのデモは非常に印象的だったし、今後ISVなどがAIアプリに取り組む上でいいショーケースになっていたと言える。そもそも、Surface自体も、OEMメーカーに対して新しいPCの形を示すショーケースとしての役割があるのだ。
そうした意味で、今回の新しいSurfaceは、AI PCやCopilot+ PCが実現していくAI時代の「PCの新しい形」を示していると言っていいだろう。