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Copilot+ PCは、コンピュータが人間を理解する第一歩になる

MicrosoftはCopilot+ PCが、Apple MacBook Air(M3搭載)よりも58%高速だとアピール

 Microsoftは5月20日(米国時間)、米国ワシントン州レッドモンドで記者会見を開催し、PC業界では「次世代AI PC」(Next-gen AI PC)と呼ばれてきた第2世代のAI PCを「Copilot+ PC」としてプラットフォームとして提供していくことを明らかにした。会見ではその最初の製品として「Surface Pro(11th Edition)」、「Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)」、「Surface Laptop 15”( 7th Edition)」、そしてOEMメーカーのCopilot+ PCが発表された。

 この中でMicrosoftは、Copilot+ PC向けに提供されるWindows標準のAIアプリケーションのデモを行ない、「Recall」、「Cocreator」、「Live Captions」などのデモを行なった。こうしたWindows標準のAIアプリケーションはCopilot+ PC向けに提供され、SurfaceとともにMicrosoftのオンデバイスAIソリューションの「ショーケース」の役目を果たすことになる。

Copilot+ PCは「コンピュータが人間を理解してアクションを起こす」時代への第一歩に

Microsoft CEO サティア・ナデラ氏

 記者会見の冒頭には、Microsoft CEO サティヤ・ナデラ氏が登壇した。ナデラ氏は「今回記者会見をコロナ前以来となるここレッドモンドで行なえることを喜んでいる。ここでは約30年前にWindows 95の発表会を行なった場所でもある」と述べ、Microsoftが飛躍することになったWindows 95の記者会見が行なわれたレッドモンドで、これからのWindowsに関する発表が行なえることは嬉しいとした。

 今回の発表会は、Microsoftがレッドモンドに新しく開設したキャンパスで行なわれており、記者会見そのものは臨時に作られたテントで、その後の展示会などは真新しいビルの中で行なわれた。

 ナデラ氏は「Windows 95以来、我々は人間がコンピュータを理解するのではなく、コンピュータが人間を理解することを実現すべく研究を続けてきた。今まさにそれを実現するブレークスルーに近づいており、人間が望むものを予測し、それを提案するような時代に近づいている。

 そうしたプラットフォームにWindowsをシフトするにあたって、その変化はCopilotから始まる。Copilotは人間について学習し、分析し、人間が創造性を拡大し、生産性を向上することを助ける副操縦士の役割を果たす」と述べ、Microsoftは最終的にコンピュータが人間やその人がもっているデータなどを深く理解し、それに基づいたさまざまな助けとなるような提案をできるようになるAIを実現することが目標で、その最初の一歩となるのがMicrosoftのCopilotだと強調した。

Copilotは大きなコンピュータの進化への第一歩

 ナデラ氏は「Microsoftはコンピューティングの環境は常に分散されていくと信じている。これまでAIはクラウドに構築されてきたが、今後はクラウドからデバイスへと移行し、電力とスペースというクラウドの制約を取り除き、遅延を減らし、プライバシーを確保していくことが可能になる。我々はそのようにしてAIが分散していくと考えている。そしてもっともリッチな体験にはクラウドとエッジが連動して動作させる、今後はそういうソリューションも提供していく」と述べ、今後AIはクラウドからエッジ(PCのようなクライアントデバイスのこと)へ、そして最終的にはクライドとエッジが連携して実現していくハイブリッドと呼ばれるような形になっていくだろうと指摘した。

次世代AI PCはCopilot+ PCへと進化

 そうしたエッジ側でAI処理を行なえるWindowsデバイスの名称を「Copilot+ PC」だと明らかにし、今後MicrosoftがSoCベンダーや、OEMベンダーと協力して強力な新世代のAI PCとなるCopilot+ PCを推進していくと強調した。

Snapdragon X ElitePCは、MacBook Airを58%性能で上回り、バッテリ駆動時間も長い

Snapdragon X Eliteを搭載したCopilot+ PCは、これまでのWindowsデバイスとしては最高性能かつ長時間バッテリ駆動

 既に別記事でも紹介している通り、今回発表されたCopilot+ PCのSoCとしては、現時点ではQualcommのSnapdragon X Elite/Plusが唯一の選択肢となる。

 今回Microsoftは、そうしたSnapdragon X Eliteを「高性能と低消費電力で長時間バッテリ駆動時間」という表現をなんども繰り返して、高性能と低消費電力が共存しているSoCだと強調した。

3つのマシンのバッテリベンチマーク。最初にSurface Laptop 5が落ちて、次にM3 MacBook Airが落ち、Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)は最後までバッテリで駆動できていた

 Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)のデモでは、Surface Laptop 5(Intel 第12世代Core)とM3を搭載したApple Macbook Airとのバッテリ駆動時間の比較が行なわれた。同じWebへのアクセスを繰り返すテストで、まずSurface Laptop 5のバッテリがなくなり、次にMacBook Airのバッテリがなくなり、Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)だけが最後までバッテリで動作し続ける様子が公開された(もちろん早回し)。

 Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)のバッテリ駆動時間公称値はビデオ再生時で22時間。MacBook Airのビデオ再生時の公称値はApple TVアプリのムービー再生で最大18時間となっており、ビデオ再生時の解像度などはそれぞれ明らかではないため、直接比較はできないが、確かにSurface Laptop 13.8”( 7th Edition)の方が長時間駆動というMicrosoftの主張には裏付けがないわけではない。

Photoshopの画像処理比較。左がMacBook Air(M3)で、右がSurface Laptop 13.8”( 7th Edition)。Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)が20枚目の処理を終える頃、MacBook Airはまだ11枚目

 また、Photoshopの画像処理でも、Surface Laptop 13.8”( 7th Edition)が20枚の画像処理を終える頃、M3のMacBook Airはまだ11枚目を処理しており、大きな性能差があることが見てとれる。Microsoftは、Snapdragon X EliteはM3のMacBook Airよりも58%高速であるとアピールし、同時にWindowsデバイスとしても過去最高性能だと強調した。

Copilot+ PCにのみ対応したMicrosoft純正AIアプリケーションをデモ

Recallのデモ

 今回Microsoftは、Copilot+ PC向けに提供されるMicrosoftの純正AIアプリケーションの機能に関しての説明に多くの時間を割いた。今回のイベントで紹介されたAIアプリケーションは大きくいうと、「Recall」、「Cocreator」、「Live Captions」の3つになる。

過去のスナップショットなどや開いたドキュメントなどから、AIが目的のものを探してきてくれる

 Recallは、簡単にいうとユーザーがPCで、電子メール、Webサイト、イメージ、ドキュメントどのように使っていたかのデータをスナップショットやテキストの形で記録しておき、そうした記録をAIが目的のドキュメントを探してきてくれたりする。スナップショットはタイムラインになっており、自分でスクロールして見ることも可能。

 具体的には、「どのPowerPointのファイルだったか忘れたけど、CPUのスペックについてのページなのだけど」みたいにプロンプトにいれると、目的のファイルとその資料のページを探してきてRecallに表示してくれる。これらの処理はCopilot+ PC上にあるNPUで処理が行なわれるので、CPUやGPUなどには負荷をかけずに使うことができる。

 Recallは6月18日以降に、ユーザーがCopilot+ PCを使っており、かつ最新のWindows 11 Updateがインストールされている場合にタスクバーやシステムトレイにアイコンが表示されるようになる。

Paintを創作ツールにしてしまうCocreator、左にペンで適当な絵を描くと、右側にちゃんとしたイラストを生成してくれる

 Cocreatorは、画像生成AIツールの一種で、Paintアプリでユーザーが適当な絵をデジタイザーペンで書くと、それを元に綺麗なイラストに仕上げてくれる。大本の絵はユーザーが書く必要があるが、それをベースに本格的なイラストを生成することができる。

 こちらも6月18日以降に、ユーザーがCopilot+ PCを使っており、かつ最新のWindows 11 Updateがインストールされている場合、Paintアプリの機能として利用することができる。

Teamsでほかの言語でしゃべった言葉が英語にリアルタイム変換される

 Live Captionsはその名の通り、リアルタイム自動翻訳の機能になる。44の言語を英語に変換することが可能になる。たとえば、複数の母国語の話者でTeamsミーティングをやっているときに、日本語で話している話者の話は他の視聴者には英語で聞こえ、中国語で話している話者の言葉も他の視聴者には英語に自動でリアルタイム翻訳される。まさにドラえもんの翻訳こんにゃくの機能が、片方向だけだが実現することになる。

 こちらも6月18日以降に、ユーザーがCopilot+ PCを使っており、かつ最新のWindows 11 Updateがインストールされているとビデオ再生時に利用できるようになる。

自然言語で応答する対話型AIと話しながらマインクラフトをプレイしている様子。NPUがAIを、GPUがグラフィックスを処理するというのも、Copilot+ PCらしい処理

 また、ゲーミングのデモでは、NPUを利用してAIが自然Genと応答しながら、マインクラフトをプレイする様子がデモされた。これはGPUではマインクラフトを描画するのに使いながら、NPUでLLMを動かしながら使うというデモで、45TOPSという高い処理能力を持つSnapdragon X Eliteのメリットを感じさせるデモになった。

Windows 11のバージョンは24H2だった

 なお、今回MicrosoftはRecallなどのMicrosoft標準のAIプリケーションを利用するために必要な「Windows 11 Update」とは何に該当するのかは明確に言わなかったが、展示会場にあったSurface Proなどで確認したところ、24H2とバージョン表示がされていた(現在のWindows 11の最新版は23H2)。

 今回発表されたCopilot+ PCは、Microsoft自身のSurfaceも、OEMメーカーのマシンも軒並み6月18日から販売開始とアナウンスされている。つまり、6月18日までに何らかの形で24H2の提供が開始され、それがプレインストールか、あるいはユーザー開封後にWindows UpdateをかけてもらうことでRecallなどのAIアプリケーションが利用可能になるということだろう。