笠原一輝のユビキタス情報局
Microsoftのノイキャンヘッドフォン「Surface Headphones」をレビュー
~PC&スマホの同時に利用に便利。日本でもまもなく発売
2019年1月8日 11:00
Surface Headphonesは、MicrosoftがSurfaceブランドで展開しているオーバーヘッド型ノイズキャンセリングヘッドフォンだ。
すでに米国では349ドルで販売されており、日本でも今年(2019年)の前半に販売が開始される予定。日本のMicrosoft Storeにも製品ページを見ることができる。
筆者は米国でSurface Headphoneを購入し、1カ月間使用している。ここでは、そのSurface Headphoneを使って見て感じたところをお伝えしていきたい。
なお、筆者は普段から原稿を書くときなどは、周りのノイズに惑わされないようにオーバーヘッド型ノイズキャンセリングヘッドフォンを愛用しており、最近ではソニーのWH-1000XM3を利用している。
ソニー以外のベンダーのノイズキャンセリングヘッドフォンも検討したが、そのなかでも最高のものだと思い購入している。そのWH-1000XM3を基準に比較して、Surface Headphonesがどうだったのか、評価をお伝えしたい。
日本でのSurface Headphonesの価格は39,938円
最近のSurfaceブランドの製品は、まず米国で販売され、その後日本などほかの市場でも展開されるというパターンが多い。今回紹介するSurface Headphonesもその例外ではなく、すでに昨年(2018年)に米国で販売が開始されているが、この記事の原稿執筆時点(1月上旬)では日本ではまだはじまっていない。
今回の記事作成に当たっては、米国で販売されていた本製品を購入して、レビューしている。このため、今後日本で販売される可能性があるSurfaceヘッドフォンとは仕様が異なっている可能性もある(ただし、これまでの通例から言うと、日本語配列のキーボードやソフトウェアなどを除くと日本で販売されているものとグローバルで仕様が違うというのはあまりない)。
なお、米国モデルには技適(技術適合認定)マークが本体貼付のシールに記載されており、日本での使用に問題がないことをお伝えしておく。
今回筆者が購入したのは米国のMicrosoft Storeのリアル店舗で販売されていたSurface Headphonesで、米国での価格は349ドルだった(国内での直販価格は39,938円)。
Surface Headphonesの化粧箱は、ほかのSurfaceシリーズと共通のデザインになっており、箱を開けるとキャリングポーチが見え、そのなかにヘッドフォンが格納されている。ヘッドフォンの可動部はシールで固定されており、そのシールに各国の認証マークがついている。このなかには日本の技適マークも含まれており、米国で買ったモデルであっても日本で合法的に使うことが可能だ。
付属品はUSB Type-A、USB Type-Cのケーブルと、3.5mmのオーディオ端子となっている。前者はPCや充電器での充電用、後者は有線でPCやスマートフォンなどに接続する場合に利用する。
Windows 10 April 2018 Update以降でサポートされた高速ペアリングに対応
本製品のハードウェアについて見ていくと、密閉型オンイヤーと呼ばれる耳を完全に覆うかたちのスピーカーを採用し、ドライバは40mm Free Edgeというドーム型のものになっている。このクラスのヘッドフォンとしては一般的なものだ。
スイッチは2つだけ用意されており、1つは電源、もう1つはミュートボタン。電源は長押しではなく、ワンタッチでオン/オフが切り替わる。日本のメーカーのBluetoothヘッドフォンだと誤動作を防ぐために電源スイッチは長押しになっているのが通例なので、最初は戸惑うかもしれないが、しばらくするとなれるだろう。
ただ、これでカバンのなかに入れていて誤動作しないのかはちょっと心配なところではあるのだが、頭から外すとサウンドがオフになるようになっている。そのため、カバンのなかで電源は入ってしまうかもしれないが、意味もなく音が鳴り続けるという状態は防げるので、今のところとくに気にしていない。
なお、WH-1000XM3などはアーム部分が2カ所折れ曲がるようになっており、カバンに収納するときはかなり小さくして収納できる。これに対して本製品はスピーカー部の角度を変えることができる程度で、カバンに入れるときにはややかさばる。このあたりは次世代製品で小さくできるようにアーム部分の設計を見直していただきたいものだ。
本製品の最大の特徴は、左右両方に操作が可能なタッチパッドが用意されていることだ。このため、タップ操作などで、BluetoothのプロファイルであるAVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)で規定されている、再生/停止(ワンタップ)、次へ(2回タップ)、戻る(3回タップ)などのリモコン操作が可能になっている。WH-1000XM3は右側のみがタッチ操作可能であるのに比べると、左利きの人などにもうれしい仕様と言えるだろう。
また、左右それぞれに円状になっているタッチパッドの周囲にホイールが用意されており、左のホイールはノイズキャンセリングの効きを、右側はボリュームの大きさを調整できる。タッチパッドを長押しすると、WindowsであればCortanaを、AndroidであればGoogleアシスタントを、iOSであればSiriといった音声アシスタント機能を呼び出すことができる。
NFCの機能は用意されておらず、NFCの機能を持ったAndroidスマートフォンやWindows PCとのワンタッチ・ペアリング機能は利用できない。ただし、Swift Pair(スィフトペア)という機能が用意されており、Windows 10 April 2018 Update(バージョン 1803、RS4)以降で対応している高速ペアリング機能が利用できる。
Windows 10の設定の「Bluetoothとのその他のデバイス」という項目で「クイックペアリングを使用して接続するための通知を表示する」にチェックを入れておけば、本製品の電源をオンにしたさいに、Windowsに表示される通知をタッチするだけでペアリングできるのは簡単で良い。
バッテリは前述のUSB Type-A/Cケーブルを利用して行なうが、もちろん一般的なUSB Type-Cケーブルでも可能だ。スペック上は1回の充電で15時間程度利用可能になっており、実際12時間ずっと使ってみたがバッテリはなくならなかった。バッテリの推定駆動時間は本製品を頭につけたまま電源を入れるときに聞けるメッセージで確認できるし、後述するWindows PC上のアプリでも確認可能だ。
Windows 10で標準対応しているはずのaptXに未対応なのは正直もったいない
それでは、気になる本製品の音質や使い勝手についてふれていきたい。まずは、音質とノイズキャンセリングだ。
音質についてふれる前に1つだけこの製品の明確な弱点について言っておきたい。それは、aptX、aptX HD、AAC、LDACなどのA2DPプロファイルのオーディオ転送を高音質化、低遅延化するコーデックには未対応だということだ。
しかもこのことはスペック表には一切記載がない。実際にどのコーデックで接続されているか表示可能なAndroidスマートフォンで確認したところ、SBCでしか接続されなかったため、aptXやLDACに対応していないことはほぼ間違いないだろう。
Bluetoothのヘッドフォンでは、一般的にSBCというオーディオのコーデックを利用して転送される。このSBCはBluetoothの初期のバージョンで決められた仕組みで、現在のようにワイヤレスなヘッドフォンでも低遅延、高音質(具体的には高ビットレート)で転送する必要がなかった当時の規格だ。
現在ではワイヤレスオーディオでも、ハイレゾのような高ビットレートで低遅延で送りたいというニーズが高まっており、Bluetoothの規格には含まれていないコーデックを利用して転送することが一般的になっている。
それが前出のaptX、aptX HD、AAC、LDACなどであり、ソースと呼ばれる本体(PCやスマートフォン)側、シンクと呼ばれるヘッドフォン側の両方が対応していれば高音質/低遅延で楽しむことができる。このあたりの事情は過去の記事(Windows 10も標準で対応しているaptXをハイレゾ化する「aptX HD」)で解説している。
たとえば、今回比較に利用したWH-1000XM3は、aptX、AAC、LADCに対応しているし、Appleが販売しているBeats Studio3 WirelessヘッドフォンはAACに対応している。3万円前後のノイズキャンセリング対応ヘッドフォンというくくりで見ると、他社製品はなんらかの高音質化コーデックが利用できるものの、本製品はSBCのみ。Windows 10が標準で対応しているaptXにも対応していないのだ。
もちろん、元々の圧縮音楽のビットレートが低いデータであればSBCでもさほど差は感じないが、ビットレートが高い音楽データだったりすると、明らかに音の奥行きという違うということが、音に関して素人に近い筆者でもわかる。
最新のコーデックでWindows 10ではまだ対応されていないaptX HDやLDACに対応していないのは致し方ないとしても、Windows 10では標準対応しているaptXをサポートしていても罰は当たらないと思うのだが……。
これは明確に残念な点として指摘しておく必要がある。ぜひ次期製品では、少なくともaptXには対応して、OSとしてのWindows 10自体にもLDACやaptX HDなどをサポートし、もっと高音質なBluetoothヘッドフォンを利用できるようにしてほしいものだ。
ノイズキャンセリングの効きを調整できる左側のホイールはつねに最大で使うことになりそう
そのaptXなどに対応していないという前提で音質の話をすると、SBCだけのわりには悪くないと思う。ビットレートがあまり高くない128kbpsのMP3ファイルや256kbpsのMP4ファイルで聞いていると、筆者が普段利用しているソニーのWH-1000XM3と大きな違いは感じられない。
しかし、ハイレゾ音源+LDACに対応しているAndroidデバイスでハイレゾコンテンツで聞いたりしてみると、LDACに対応しているWH-1000XM3との差は顕著だ。せっかくのハイレゾ音源なのに本製品ではまったく音の広がりなどが感じられないのに対して、WH-1000XM3はクリアで奥行きが感じられる音になる。
筆者は音の専門ではないし、それを偉そうに語るほど耳に自信があるわけではないが、その筆者が差を感じられるぐらいなので、その差は小さくないということだ。
ただ、逆に言えば、再生する音楽ファイルがMP3やMP4でビットレートが128Kbpsだったり、256Kbps程度であれば、あまり大きな差は感じられないので、そうした用途がメインであればaptXなどに対応していなくてもそんなに不便は感じないだろう。ただし遅延に関しては、aptXやLDACなどで接続した場合に比べると、リップシンクしていないな、ぐらいには感じるので、動画再生のはあまり向いていない。
ノイズキャンセリングに関してだが、飛行機に乗っているときでも、カフェなどで仕事をしているときでもしっかりと余分な音をカットしてくれる。
WH-1000XM3と比較したところ、無音の状態では、やや効きは弱いかなとも感じたが、音楽を再生しているとWH-1000XM3と比較しても不満を感じることはなかった。カフェでも、音楽を再生した状態であればほかの人が話をしている声、なかでも子供達の声のような高音などもしっかりとカットしてくれるので、仕事に集中することできた。
ただし、左側のホイールでノイズキャンセリングの効き具合を調整する機能は実質的にはあまり意味がないと感じた。というのも、このホイールで調整できるのは、ノイズキャンセリングの効き具合というよりも、マイクから拾っている外音をどれだけヘッドフォンに流すかだからだ。
実際にホイールを調整してノイズキャンセリングの効き具合をもっとも低くしてみると、外音のノイズがかなりうるさかった。あれっと思ってヘッドフォンを外してみると、実際のノイズはもっと音量が小さかった。
確かに、外音を取り入れるということは、ノイズを取り入れるということだから、ノイズキャンセリングの効きと表現するのは間違っていないと思うが、1回マイクを通したノイズになるので、逆に気になってしょうがないというのが正直な感想で、実質的にはノイズキャンセルはつねに最大で使い、ちょっと外音を聞きたいときだけ弱めるという使い方になるのではないだろうか。
2台のソースに対してA2DP/HSPの両方で同時に接続できるのは便利で使い勝手は良好
aptXに対応していないことが本製品の最大の弱点だということはすでに説明したとおりだが、ビジネスパーソンがPCで仕事をするときに集中したい場合、本製品の使い勝手は非常に良好だ。
まず、本製品は同時に2つのデバイスまで接続して切り替えて利用できる。ソニーのWH-1000XM3も、HFP(ハンズフリーヘッドフォン用のプロファイル)、A2DP(オーディオ用のプロファイル)の2つのプロファイルでそれぞれ別のデバイスに接続できる。たとえば、HFPはスマートフォンに接続してハンズフリーとして利用して、A2DPはPCに接続して音楽再生という使い方が可能だ。ただし、同時に2つのプロファイルを2つのデバイスに接続することはできない。
しかし、本製品の場合は、HFP、A2DPのどちらも複数のソース(本体)に接続して利用可能だ。スマートフォンもPCもA2DPでヘッドフォンに接続しておけるのは想像以上に便利だ。
たとえば、スマートフォンにヘッドフォンを接続して音楽を聴いていて、PCのOneNoteで録音した音声メモを聞き直すシーンを考えてほしい。普通だと、まずBluetoothヘッドフォンの電源を切って、もう一度電源を入れてペアリングモードにし(そうしないと、もう一度自動でスマートフォンにペアリングしてしまうからだ)、PCからペアリングし直すとPCのA2DPに接続され、音声再生が可能になる。結構この手間がめんどうだったりする。
それに対して本製品であれば、2つのソースに同時にA2DPで接続されるため、切り替えは簡単だ。ヘッドフォンで再生されるのは、先に音声を再生していたソース側になるので、まずスマートフォン側の音楽再生を停止し、PC側のOneNoteの音楽再生を再生すれば自動でPC側に切り替わる(切り替わるまで数秒はかかるが)。スマートフォンで音楽再生をしたければその逆をやって戻るだけだ。非常にシンプルでわかりやすく、面倒が少ないのはすばらしい。
現代のPCユーザーで、スマートフォンとノートPCを同時に使っていないというユーザーは数少ないだろうから、同時に接続しておけるこの機能は想像以上に便利である。
また、本製品ではBluetoothで接続した状態を維持したまま、PCとUSB Type-Cケーブルで接続すると、充電しながら利用できる。WH-1000XM3の場合には充電ケーブルを挿すと電源がオフになってしまうので、この点は本製品のほうが便利だ。もっとも、その場合には長めのUSB Type-Cケーブル(2mぐらい)が必要になるので、そういう使い方をしたいユーザーはあらかじめ用意しておくと良いだろう。
Windowsのユーティリティから設定が可能。PC中心の使い方なら検討の価値あり
各種の設定、アップデートなどはUWPアプリの「Cortana Device Setup」から行なえる。Cortana Device Setup自体は、本製品だけでなくCortanaが使えるスマートスピーカーなどの設定を行なうツールで、これを利用すると本体だけではできないイコライザーの設定、ヘッドフォンのスピーカーから流れる言語の変更、ファームウェアのアップデートなどをWindowsデバイス上から可能だ。
そのほかにも、Bluetoothでペアリングしているソースをペアリング解除したり、ボリューム、ノイズキャンセリングの効き、バッテリの残りや残駆動時間などを確認できる。
今回比較に利用しているWH-1000XM3は、Android OS用とiOS用の設定ツールを用意しており、Windows版はなくPCでの利便性は実質的に無視されている。
こうしたノイズキャンセリングヘッドフォンが、単にオーディオ用として使われるのではなく、ビジネスパーソンが集中して仕事をするという用途にも使われていることを考えれば、ソニーがWindows版を用意していないことは残念だと言わざるを得ない。
その点本製品は、Windows用の設定ツールが用意されており、大きなメリットと言える。ただ、逆にスマートフォン向けのアプリは、iOS版は用意されているが、Android版は現状では用意されていない。これも逆の意味で、残念だと言わざるを得なく、Microsoftには早急にAndroid用アプリのリリースを期待したいところだ。
こうして見ていくと、aptXやLDACといった高音質なコーデックに対応していないことが惜しいことは事実だが、逆に言えばそれをあんまり気にしないというユーザーであれば、A2DP/HSPの2つのプロファイルそれぞれに2つのデバイスを同時接続できてシームレスに再生ソースを切り替えられる点、そしてWindows向けの設定ツールが用意されており、Windowsからもさまざまな操作が可能な点など、PCとスマートフォンを同時に使うユーザーにとっては使い勝手が良い点は評価できる。
したがって、PCとスマートフォンを同時に利用することが多く、MP3やMP4などのビットレートがあまり高くない音楽配信などによる音楽試聴がメインで、ノイズキャンセリングヘッドフォンはPCで仕事で集中したいときのデバイスとしての用途がメインというユーザーであれば、このSurface Headphonesを検討してもいいのではないだろうか。