笠原一輝のユビキタス情報局

Qualcomm、Snapdragon 835でのWindows 10の動作デモを公開

~2018年には64bitのWin32アプリも動作予定

ARM版Windows 10の最初の対応SoCはSnapdragon 835

 米Qualcommは、5月30日~6月3日の日程で台湾・台北にて開催されているCOMPUTEX TAIPEIで記者説明会を開催し、Microsoftが2016年12月に発表した「ARM版Windows 10」を最初にサポートするSoC「Snapdragon 835」でWindows 10が動作するデモを公開した。同社のリファレンスデザイン機となるQRD(Qualcomm Reference Design)上で動いており、Win32アプリであるMicrosoft Officeが動いていた。

 ARM版Windows 10は、RS3の開発コードネームで知られるWindows 10 Fall Creators Updateからサポートされることが予定されており、今回のCOMPUTEX TAIPEIではMicrosoftから最初のOEMメーカーがHP、Lenovo、ASUSの3社になることが発表されるなど、リリースに向けて準備が進んでいる。

x86版とARM版Windows 10は1点を除けばまったく同様の仕様

 現在のPC向けWindows 10(Windows 10 Home/Pro/Enterprise/S)は、いずれもx86/x64(IA32/AMD64)の命令セットをサポートしたCPUでしか動作しない。これに対して、ARM版Windows 10では、ARMv8(いわゆる64bit ARM)に対応しており、ARM SoCで動作する。

 対応するCPUの命令セットとある1点を除いて、ARM版Windows 10とx86/x64版Windows 10はまったく変わらない。SKUなども同じで、OEMメーカー向けはWindows 10 Home/Pro/S、ボリュームライセンスを持つ大企業などであればWindows 10 Enterpriseが選択できる。

Qualcommが公開したARM版Windows 10、Windows 10 Enterpriseが今回は使われていた

 今回Qualcommが公開したQRDに搭載されていたのはWindows 10 Enterpriseになっていた。Windowsの機能はすべて利用可能で、デバイスマネージャーを開いたり、仮想デスクトップの機能を開いたり、デュアルディスプレイにしたりなど、x86/64版のWindowsでできることは同じようにできる。

 ただし、ARM版にはx86/64版にない機能が搭載されている。それが、x86バイナリのARM変換機能だ。

 ARM版Windows 10は今回初めてリリースされるため、ARM向けに作られているデスクトップアプリケーションは皆無だ。将来的には、ソフトウェアベンダーが、アプリをコンパイルする段階でARMバイナリもWin32バイナリと同時に生成、配布するだろうが、現時点のWin32アプリをARM版Windows 10で使うには、バイナリ変換機能が必要になる。

Win32のMicrosoft Officeが動いている様子

 今回のデモではWin32のMicrosoft Officeや7zipなどの代表的なWin32アプリをライブで動かすことができることを確認した。Word、Excel、PowerPointといったアプリケーションを動かしていたが、何の引っかかりもなくスムーズに動いていた。

 ただし、Qualcommの説明員によれば、動作するのは32bitアプリのみで、64bitアプリは現状(RS3相当)では動作しないという。それが動作するようになるのは、2018年以降に登場する予定のRS3の次の大規模アップデートとなるRS4になる見通しという。

Win32の7zipを実行している様子

CPUは8コアすべてがOSから認識。Connected Standbyにも対応

 今回のデモは、Snapdragon 835のQRDに、ARM版Windows 10をインストールして行なわれていた。QRDはもともとスマートフォンメーカーの開発用として用意されているもので、実際のスマートフォンよりはかなり大きいが、PCとしてはかなりコンパクトになっている。

 Snapdragon 835に関しては別記事(Apple A10 Fusionを上回る性能を発揮するSnapdragon 835の詳細とその実力)を参照されたいが、Snapdragon 835のCPUコア「Kryo 280」は、ARMのCortex-AのセミカスタムCPUが8コア構成(big.LITTLEでbig側が4コア、LITTLE側が4コア)となっている。Windowsのデバイスマネージャーやタスクマネージャーで確認してみると、8つのプロセッサがすべてOSから認識されていることが確認できた。

タスクマネージャーで8コアを確認。0-3のCPUコアがLITTLE、4-7のCPUコアがbig
システムのプロパティ
デバイスマネージャー

 OSのSステート(S0~S5)をサポートしているほか、Connected Standbyにも対応しており、OEMメーカーの選択でどちらの実装も可能。Snapdragon 835は標準でセルラーモデムを内蔵していることを考えると、「Always Connected PC」仕様(Microsoft、国内/海外でも常時接続を実現するeSIMをWindowsに実装参照)にするOEMメーカーが多いと考えられる。このQRDにもLTEモデムが内蔵されており、テスト回線に接続して試すことが可能になっていたほか、PCらしくGigabit Ethernetに接続してインターネットに接続することも可能だった。

仮想デスクトップもサポート
Gigabit Ethernetで転送しているところ
ビデオ再生、GPUのハードウェアデコーダを使っているためCPU負荷は低い

IAの基板に比べて半分の実装面積になるとQualcomm

 今回Qualcommは、QRDのマザーボードも公開した。基板の底面積は50.4平方mm。その隣にはIntelのCoreプロセッサ(パッケージの形状からYプロセッサだと思われる)を搭載したノートPC用の基板が比較としておかれており、こちらは98.1平方mm。つまり、基板の実装面積は約半分になるため、より小型のノートPCを製造でき、逆に同じ筐体であれば、より大きなバッテリを搭載できる。

 その基板実装面積の小ささを利用してよりコンパクトなPC、あるいは長時間バッテリ駆動の製品ができれば、これまでのPCに対するメリットとなるだろう。

デモに利用されたSnapdragon 835を搭載したQRD
Snapdragon 835の基板
左がIAのYプロセッサの基板、右がQRDの基板
このように本体側のディスプレイとHDMI接続のディスプレイでデュアルディスプレイが可能に

 別記事でも紹介した通り、今回のCOMPUTEXではARM版Windows 10の最初のOEMメーカーがHP、Lenovo、ASUSだと明らかにされた。それらのメーカーが出す製品がどのような製品なのか、そしてMicrosoftのSurfaceブランドの製品はあるのかなどを含めて、Windows 10 Fall Creators Update後となる製品のリリースが楽しみだ。