笠原一輝のユビキタス情報局

Apple A10 Fusionを上回る性能を発揮するSnapdragon 835の詳細とその実力

~製品化に先駆けベンチマークで検証

QualcommのSnapdragon 835、100円玉と比較してそのパッケージの小ささは際立っている。この小さなパッケージの中に30億トランジスタが詰まっている

 Qualcommは、昨年(2016年)の暮れに同社の次世代ハイエンドSoCとなるSnapdragon 835を発表した。Snapdragon 835はSnapdragon 820の後継製品に位置付けられており、Samsung Electronicsの10nmプロセスルールで製造されている。

 今回Qualcommはアジア太平洋地域の記者を集めて北京で記者説明会を開催し、Snapdragon 835の詳細や実機などを公開した。その中で見えてきたSnapdragon 835の技術的な詳細、さらにはベンチマークデータなどについて紹介していきたい。

フルWinodws 10が動く最初のARM SoCとなる予定

 Snapdragon 835は、現在の多くのハイエンドスマートフォンに採用されているSnapdragon 820(とその高クロック版のSnapdragon 821)の後継製品となる。2013年に発表されたSnapdragon 800以降の800番台の製品をバリエーション(高クロック版や機能カット版)を除いて表にしたものが以下の表1となる。

【表1】Snapdragon 800シリーズの進化
Snapdragon 835Snapdragon 820Snapdragon 810Snapdragon 805
パーツナンバー8998899689948084
CPUKryo 280(8コア)/64bitKryo(4コア)/64bitCortex-A57/53(8コア)/64bitKrait450(4コア)/32bit
GPUAdreno 540Adreno 530Adreno 430Adreno 420
モデム(CAT、下り)X16(CAT16, 1Gbps)X12(CAT13, 600Mbps)X10(CAT9, 450Mbps)X7(CAT6, 300Mbps)
プロセスルール10nm14nm20nm28nm
発表2016年Q42015年Q42014年Q22013年Q4
主な搭載製品の出荷2017年2016年2015年2014年

 QualcommのSoCの特徴は、大きく言って2つある。1つは強力なCPU、GPUを搭載しており、それを最新のファウンダリのプロセスルールで製造していることだ。CPUは同社が自社開発しているCPUコアないしは、ARMのライセンスIPとなるCortex-Aシリーズが搭載されており、GPUはAMD(元をたどればATI)が開発していたImageonを買収して得たAdrenoブランドのGPUを採用している。さらに、さまざまな処理をオフロードできるHexagonブランドのDSPを搭載しており、それらを効率よく利用することで、低消費電力なSoCを実現している。

 今回の製品は、Samsung Electronicsがほかのファウンダリに先駆けて大量生産を開始した10nmプロセスルールを利用して製造されており、最新のプロセス技術の恩恵(高性能、低消費電力)も期待することができる。

Snapdragon 835の特徴を説明するスライド(出典:Qualcomm)
Snapdragon 835は10nmプロセスルールで製造されている(出典:Qualcomm)

 2つ目の特徴は、同社の強みであるセルラーモデム(実際にはベースバンド部分)が内蔵されていることだ。CDMA技術を開発したQualcommは、元々は通信関連の半導体を生産するベンダーだったこともあり、同社のセルラーモデムは、世界中の通信キャリアで標準のモデムチップとされており、それが強みの1つ。それが標準でSnapdragonには内蔵されており、OEMメーカーはRFチップを搭載するだけで、簡単にセルラー通信機能を実装できる。

 Snapdragon 835のセルラーモデムも、同社がSnapdragon X16 LTE Modemとして販売している単体モデムと同じ、LTE-Advancedのカテゴリ16として規格化されている下り最大1Gbpsのデータ通信に対応している。

ソニーモバイルのXperia XZ Premiumが最初の搭載製品として発表されている(出典:Qualcomm)
MWC 2017でのソニーモバイルのプレスカンファレンスで発表されたXperia XZ Premium(MWC2017にて撮影)

 2月末~3月上旬に行われたMWC 2017では、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社が発表したXperia XZ Premiumに採用されることが明らかにされており、今後順次ほかのOEMメーカーからも採用される見通しだ。

 また、PCユーザーにとって注目なのは、このSnapdragon 835がスマートフォン用としてだけでなく、PCクライアント用としても位置付けられていることだ。Microsoftは昨年の12月に行なった「WinHEC Shenzhen」において、ARM CPU向けにx86アプリの実行環境を含むフル機能のWindows 10をリリースすることを発表しており、今年の年末商戦に投入される製品は、このSnapdragon 835を搭載することも明らかにされている。

Symphony System Managerの搭載により各ブロックが協調動作

 Snapdragon 835は、前世代のSnapdragon 820に比較してCPU、GPU、DSP、ISP(Image Signal Processor、カメラのための画像処理エンジン)がそれぞれ強化されているほか、それらを協調して動作させる仕組みにも手が入れられており、より低消費電力で高性能を実現する。

従来製品のSnapdragon 820(左)と比較して、パッケージが小さくなっているSnapdragon 835(右)

 Snapdragon 835で新しく導入されたのは、「Symphony System Manager」と呼ばれる、SoC内のシステムリソース(CPU、GPU、DSP)をより効率よく割り当てて利用する仕組みだ。Symphony System Managerは、アプリケーションからのタスク処理の要求を解析し、SoC内のどのリソースに処理を割り当てるのが最適なのかを決めてタスクスケジューリングを行なう。例えば、ベクトル演算の場合には、従来ではCPUで行なっているのに換えてDSPを利用して演算すると、同じような演算性能であっても、より少ない消費電力で実行できる。

 このSymphony System Managerはソフトウェア実装となり、現状ではAndroid OSでしか実行できない。具体的に言うと、OEMメーカーとサードパーティのソフトウェアベンダーに対してSDKの形で提供されていく。今後対応するソフトウェアが増えれば、Snapdragon 835で、本格的にヘテロジニアスにリソースを利用できる環境が整うことになる。

“セミカスタム”デザインとなるKryo 280

 Snapdragon 835のCPUは、Kryo 280と呼ばれるCPUになっている。前世代のSnapdragon 820で採用されていたQualcomm自社開発のKryoに似た名称なので、その発展系なのかと言えば、実は違う。

【表2】SnapdragonシリーズのCPUの違い
Snapdragon 835Snapdragon 820Snapdragon 810Snapdragon 805Snapdragon 800
アーキテクチャーKryo 280KryoCortex-A57/53Krait 450Krait 400
形態セミカスタムフルカスタムARMデザインフルカスタムフルカスタム
ライセンスBoCライセンスアーキテクチャライセンスIPライセンスアーキテクチャライセンスアーキテクチャライセンス
ISA64bit64bit64bit32bit32bit
big.コアKryo 280(4コア)Kryo(2コア)Cortex-A57(4コア)Krait450(4コア)Krait400(4コア)
littleコアKryo 280(4コア)Kryo(2コア)Cortex-A53(4コア)--

 Kryoは、QualcommがARMのアーキテクチャライセンス(ARMのISAを利用した独自のCPUを開発できるライセンス)を利用して開発された自社設計の64bit ARMプロセッサだった。ARMは32bit時代にScorpionやKraitといった独自開発のARM CPUコアを開発してきたが、64bit時代の最初の製品になったSnapdragon 810では、ARMのIPライセンスとしてCortex-A57/53を採用した。そして、2世代目の製品となるSnapdragon 820で自社開発したKryoを採用していたのだ。

Kryo 280の特徴。セミカスタムCPUとなっているのがKryoとの大きな違い(出典:Qualcomm)

 そのKryoと同じKryoの名前のついたKryo 280も独自開発だと理解されがちなのだが、実際にはそうではない。Kryo 280は、ARMのBoC(Based On arm Cortex technology)ライセンスと呼ばれる、新しいライセンス形態を利用して作られた製品になる。BoCライセンスは最近導入された新しいARM社のライセンス形態で、ARM社が提供するCortexのIPライセンスを使いながら、SoCベンダーが独自にセミカスタマイズ(一部分だけカスタマイズすること)して利用できるものとなっている。例えば、Cortex-A73(現状のARM社のハイエンドCPUデザイン)をCPUコアとして利用しながら、メモリコントローラや内部バスの構造を自社設計にできるようになる。

 ただし、QualcommはBoCを利用していることは公開しているが、それ以上の詳細は明らかにしていないため、ベースになっているCortex-AプロセッサがCortex-A72なのか、Cortex-A73なのか、はたまたbig.LITTLE時のLITTLE側がCortex-A53なのかなどについては分からない。一般的に考えればbig側がCortex-A73、LITTLE側がCortex-A53がベースになっている可能性が高いだろう。

 Qualcommによれば、Kryo 280はKryoに比べて20%ほど性能が向上しており、big側のプロセッサが最大2.45GHzで2MB L2キャッシュ、LITTLE側のプロセッサが最大1.9GHzで1MBのL2キャッシュを搭載しているという。重要なのはLITTLE側のプロセッサのL2キャッシュが1MBと大容量になっていることだ。Qualcommによれば、スマートフォンなどでは省電力のために80%はLITTLE側で使われており、LITTLE側の性能を強化する1MBのL2キャッシュは、性能の底上げに大きく貢献するということだ。

Adreno 530に比べて25%の性能向上が実現されているAdreno 540

 GPUはAdreno 540へと強化されている。では、このAdreno 540がSnapdragon 820に搭載されていたAdreno 530と比較して何が強化されているのかに関しては、実のところわからないし、Qualcommは明らかにしようとしていない。ただし、Qualcommによれば、Adreno 530と比較して25%性能が強化されており、アーキテクチャに関してはAdreno 530と共通とだけ説明されている。また、APIでは大きな強化があって、このAdreno 540からDirectX 12に対応しており、特にWindows環境では3Dゲームなどで大きな効果が期待できる。

 このほかにも、DSPやISPなども強化されている。DSPはSnapdragon 820で導入されたHexagon 680から強化されてHexagon 682 with HVXとなっている。HVXはHexagon Vector eXtensionsの略称で、Qualcommのベクトル演算のための命令セットとなっている。ISPに関しても強化が行なわれており、イメージスタビライザー関連の機能などが強化されている。

ベンチマークでA10 Fusionを上回って見せたSnapdragon 835

 今回の記者説明会では、Qualcommより提供されたSnapdragon 835を搭載したQRD(Qualcomm Reference Design、QualcommがOEMメーカーなどに提供しているデザインサンプル)を利用してベンチマークを行なうことが可能だった。以下の結果は、それを利用して筆者が測定した結果になる。なお、通常時であればベンチマークの結果は数回取ってその中間値などを取るのであるが、今回は時間が限られていたため、すべてのベンチマークは1回だけ測定している、そのことはあらかじめお断りしておく。

テストに利用したSnapdragon 835を搭載したQRD、USB Type-Cコネクタを備えている
OSはAndroid 7.1.1

 比較対象として用意したのは、Snapdragon 820を搭載したソニーモバイル「Xperia X Performance(NTTドコモ SO-04H)」、Snapdragon 808を搭載した「Nexus 5X(SIMフリー版)」、Snapdragon 805を搭載したSamsung Electronicsの「Galaxy Note Edge(NTTドコモ SC-01G)」、Snapdragon 800を搭載したソニーモバイルの「Xperia Z1(SIMフリー版、C6903)」、およびApple A10 Fusionを搭載した「iPhone 7(SIMフリー版)」。テスト機材の情報は以下のようになっている、OSなどはテスト時点でOSの最新版にアップグレード済みだ。

【表3】テスト機材
Qualcomm 835 リファレンスデザインXperia X PerformanceiPhone 7Nexus 5XGalaxy Note EdgeXperia Z1(C6903)
SoCブランド名Snapdragon 835Snapdragon 820A10 FusionSnapdragon 808Snapdragon 805Snapdragon 800
型番MSM8998MSM8996-MSM8992APQ8084MSM8974
CPUアーキテクチャKryo 280KryoA10 CPUCortex A57(2)+Cortex A53(4)Krait 450Krait 400
コア数4+42+22+22+644
最高動作クロック2.45GHz2.2GHz2.34GHz2GHz2.7GHz2.3GHz
GPUAdreno 540Adreno 530A10 GPU(PowerVR)Adreno 418/600MHzAdreno 420/600MHzAdreno 330/450MHz
メモリ6GB3GB2GB2GB3GB2GB
ディスプレイ解像度1,440×2,560ドット1,080×1,920ドット750×1,334ドット1,080×1,920ドット1,440×2,560ドット1,080×1,920ドット
AndroidバージョンAndroid 7.1.1Android 7.0iOS 10.2.1Android 7.1.1Android 6.0.1Android 5.1.1

 ベンチマークに利用したのは「Geekbench 4」、「PCMark」、「3DMark」、「GFXBench-OpenGL」で、Android、iOS間でマルチプラットフォームでできるものを利用している(PCMarkに関してはiOS未対応なのでAndroidのみ)。

 なお、Snapdragon 835では、まだリリース前の製品ということもあり、Geekbench 4とGFXBenchに関しては、Google Play Store経由で配布されている標準版は利用できず、Qualcomm側であらかじめ用意したバイナリを利用して行なっている。これは、Geekbench 4とGFXbenchの起動時のネットワーク接続チェックを回避するための措置で、ベンチマーク本体には手が入っていないものとなる。

 結果はグラフ1~グラフ5の通りだ。参考までに各ベンチマークの詳細結果もあるものは掲載しておく。

【グラフ1】Geekbench 4
【表4】Geekbench 4詳細結果
Xperia Z1(Snapdragon 800)Galaxy Note Edge(Snapdragon 805)Nexus 5X(Snapdragon 808)iPhone 7(A10 Fusion)Xperia X Performance(Snapdragon 820)Snapdragon 835 QRD
シングルコアAESスコア455686923918051175
MB/s34.943.6670.11.8620.8906.2
LZMAスコア88910791183340313121888
MB/s1.391.691.855.322.052.95
JPEGスコア113114491489354423422054
Mピクセル/s9.1111.71228.518.816.5
Cannyスコア90810241537349516531700
Mピクセル/s12.614.221.348.522.923.6
Luaスコア6587831118412913251766
MB/s693.3824.21.154.241.361.82
Dijikstraスコア143116331263410818572535
MTE/s968.61.11854.82.781.261.72
SQLITEスコア5165771196348812001910
Knows/s14.31633.296.733.353
HTML5 Parseスコア8149341353369314921950
MB/s3.74.246.1416.86.788.85
HTML5 DOMスコア787105459646764052583
Melememnts/s713.2955.2540.54.24367.72.34
Histogram Equalizationスコア111113261591320014481648
Mピクセル/s34.741.449.710045.351.5
PDF Renderingスコア87810551495345517471869
Mピクセル/s23.32839.791.846.449.7
LLVMスコア93211231596466015392050
ファンクション/s64.177.2109.8320.4105.8193.7
Cameraスコア96911991605407722882050
イメージ/s2.693.334.4511.36.355.69
SGEMMスコア1752134852225565538
GFLOPS3.724.5110.34711.911.4
SFFTスコア603871915279611791159
GFLOPS1.512.172.286.972.942.89
N-Body Physicsスコア517630729322914181152
Mペア/s0.38650.6170.54512.411.060.8608
Ray Tracingスコア5261036825353318471589
Kピクセル/s76.83032.8120.6515.9269.8232.1
Rigid Body Physicsスコア84410361328359821392111
FPS2471.33032.83889.910535.262646181.3
HDRスコア99713101806403226562135
Mピクセル/s3.624.756.5514.69.637.74
Gaussian Blurスコア5877881052360625231327
Mピクセル/s10.313.818.463.244.223.3
Speech Recognitionスコア751896932334610821614
ワード/s6.437.677.9828.69.2613.8
Face Detectionスコア6738151124379720661844
Kサブウインドウ/s196.6238.1328.51.11603.7538.8
Memory Copyスコア139614901228349025401701
GB/s3.874.133.49.677.014.71
Memory Latencyスコア337731651837378318176105
Mオペレーション/s7.87.314.248.744.214.1
Memory Bandwidthスコア112714851194254321623382
GB/s6.027.936.3813.111.518.1
マルチコアAESスコア1382222777445719766127
MB/s107.2171.42.093.361.494.61
LZMAスコア218636473801567141648411
MB/s3.415.75.948.866.513.1
JPEGスコア269654424047645370019927
Mピクセル/s21.743.832.651.956.379.9
Cannyスコア212538482527637553048346
Mピクセル/s29.553.435.186.473.6115.7
Luaスコア155329551993732239117910
MB/s1.63.042.057.534.028.13
Dijikstraスコア422456862723662446598040
MTE/s2.863.851.844.483.155.44
SQLITEスコア163520851911602135788374
Knows/s45.357.853166.999.2232.2
HTML5 Parseスコア185434142242656745589118
MB/s8.4215.510.229.820.741.4
HTML5 DOMスコア142920101000875416123877
Melememnts/s1.291.82906.47.931.463.51
Histogram Equalizationスコア244744452640588651538385
Mピクセル/s76.5138.982.5183.9161262
PDF Renderingスコア193438352553586550799181
Mピクセル/s51.4101.967.8155.8134.9243.9
LLVMスコア222540582829723436567416
ファンクション/s153279194.5497.4251.4509.9
Cameraスコア220742752642736971229978
イメージ/s6.1211.97.3320.419.727.7
SGEMMスコア397650513419715052372
GFLOPS8.4113.810.988.731.850.2
SFFTスコア136930691577513035195923
GFLOPS3.417.653.9312.88.7714.8
N-Body Physicsスコア123223021207584537595350
Mペア/s920.71.72901.54.372.814
Ray Tracingスコア123424251532624850656845
Kピクセル/s180.3354.2223.7912.5739.7999.6
Rigid Body Physicsスコア196538902116656860389755
FPS5753.211389.76194.319229.11767828557.3
HDRスコア246145932598739175019915
Mピクセル/s8.9216.79.4226.827.235.9
Gaussian Blurスコア116116491228654259496184
Mピクセル/s20.329.721.5114.6104.2108.3
Speech Recognitionスコア178325811447493733395261
ワード/s15.322.112.442.228.645
Face Detectionスコア158131081700677156367915
Kサブウインドウ/s461.9907.8496.81.981.652.31
Memory Copyスコア144122421048350831632554
GB/s3.996.212.919.728.767.08
Memory Latencyスコア273031262645379822225698
Mオペレーション/s6.317.226.118.775.1313.2
Memory Bandwidthスコア112420311067247729263001
GB/s610.85.713.215.616

 Geekbench 4はCPUを利用して、各種演算を行なう形のベンチマーク。単純にCPUの性能を示す指標となる。シングルスレッド、マルチスレッドのテストが用意されており、CPUのコアだけの性能、複数コアで同時実行するときの性能を計測することができる。

 AppleのA10 Fusionと比較すると、Snapdragon 835はシングルコアの性能は劣るものの、マルチコアの性能では大きく上回っていることがわかる。これは、CPU設計時の哲学の問題で、AppleのA10 Fusionは(bigの)デュアルコアで、それぞれのCPUコアが高い性能を発揮する形で設計されていることを示している。これに対して、Snapdragon 835はシングルコア時の性能はさほどではないが、マルチコア時の性能ではA10 Fusionを上回っている。

 Snapdragon 820の時代には、シングルスレッドでも、マルチスレッドでもA10 Fusionに劣っていたことを考えると、今回Snapdragon 820のKryo 280は、セミカスタムデザインのARM Cortex-AシリーズのCPUを採用し、Qualcomm独自の拡張を加えたことで、特にマルチコア時の性能が大きく向上していることが見て取れると結論づけられるだろう。

【グラフ2】PCMark
【表5】PCMark詳細
Xperia Z1(Snapdragon 800)Galaxy Note Edge(Snapdragon 805)Nexus 5X(Snapdragon 808)Xperia X Performance(Snapdragon 820)Snapdragon 835 QRD
Work 2.0 Performance score31013392334655788042
Web Browsing 2.0 Score347234843570465610036
Video Editing score46325246481252143592
Writing 2.0 Score21882127214147598321
Photo Editing 2.0 score4503615446141134413942

 PCMarkは、PC向けのPCMarkと同じようにWebブラウザなどのアプリケーションを実行して、生産性向上にデバイスを使う場合の性能を示している。Androidをそうした用途に使うユーザーはあまり多くないかもしれないが、今後Windows 10に対応したときの性能を示すものとしては参考になるだろう。

 Snapdragon 835は、Snapdragon 820に比べて44%も性能が向上している。このテストの場合はストレージの差なども勘案されるため、必ずしもCPU性能の向上だけではないが、Snapdragon 835を搭載したデバイスが、こうした生産性に使うアプリケーションでの性能を示す指標で高い性能を示していることは、PCユーザーにとっては期待できる結果と言えるだろう。

【グラフ3】3DMark Ice Storm Unlimited
【表6】3DMark Ice Storm Unlimited詳細
Xperia Z1(Snapdragon 800)Galaxy Note Edge(Snapdragon 805)Nexus 5X(Snapdragon 808)iPhone 7(A10 Fusion)Xperia X Performance(Snapdragon 820)Snapdragon 835 QRD
Score141772430713101366502918638878
Graphics Test182.9133.184.9321.35159335.9
Graphics Test260.1104.359.7235.89126.8197.5
Physics Test3257.725.147.4968.558.2
Graphics Score160312690116125625753245457202
Physics Score10093181737910149592158118328
【グラフ4】3DMark SlingShot Unlimited
【表7】3DMark SlingShot Unlimited詳細
Galaxy Note Edge(Snapdragon 805)iPhone 7(A10 Fusion)Xperia X Performance(Snapdragon 820)Snapdragon 835 QRD
Score1420262622004089
Graphics Test18.923.8221.128.3
Graphics Test25.111.089.814.8
Physics Section132.735.7626.456.9
Physics Section213.313.9412.134.5
Physics Section35.47.165.617
Graphics Score1501347730724473
Physics Score1196141311263145

 3DMarkの2つのテスト(IceStormとSlingShot)の結果でも、Snapdragon 835は大きな性能強化を実現していることがわかる。Snapdragon 835に搭載されているAdreno 540は、Snapdragon 820に搭載されているAdreno 530に比べて25%の性能強化を謳っているが、この結果はそれを裏付けており、特により負荷が高いSlingShotでの上がり幅が大きいことは注目して良い。さらに、AppleのA10 Fusionと比較しても、上回っていることがわかる。

【グラフ5】GFXbench v4

 OpenGLの性能を計測するGFXbench v4の結果でも、Snapdragon 835はSnapdragon 820はもちろんのこと、A10 Fusionも上回っている。

現時点ではモバイルプロセッサで最高峰

 以上のように、Snapdragon 835の持つ性能は、そのベンチマーク結果から明らかだ。Snapdragon 835以前に、最強のモバイルプロセッサの座にあったA10 Fusionを抜き、CPUもGPUも最強のモバイルプロセッサと呼ぶにふさわしい結果だと言っていいだろう。もちろん現時点では、リファレンスデザインでの結果であり、具体的な製品でどうなるかは今後登場するXperia XZ Premiumなどの実製品を待つ必要があるだろう。

 特にPCMarkの結果からもわかるように、Snapdragon 835は生産性向上用途でも高い性能を発揮しそうで、ARM版のフルWindows 10が登場すれば、PCユーザーにとっての新しい選択肢としてかなり期待できるのではないだろうか。もちろん、現時点ではARM版フルWindows 10に実装されるというx86アプリケーションの実行環境の性能がどの程度なのかはわからないし、その実用度を見てからでないと評価はできないので、そこは今後のMicrosoftからの発表などを楽しみにしたいところだ。

 ただ、いずれにせよ、Snapdragon 835を搭載した製品が実際に登場すれば、AppleのA10 Fusionを抜いて性能面ではトップの座に躍り出る可能性は高く、いち早くその製品が市場に登場することを期待したいところだ。