福田昭のセミコン業界最前線
AIハードウェアの進化を担うデバイスやプロセス技術が続出。IEDM 2024開催
2024年12月9日 12:00
IEDMのヒルトン、ISSCCのマリオットが労働争議の真最中
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting、通常の呼称は「アイイーディーエム」、日本語の通称は「国際電子デバイス会議」)」が、米国カリフォルニア州サンフランシスコで今年(2024年)も始まった。
開催期間(米国時間)は2024年12月7日~11日、会場は前年と同じくヒルトン・サンフランシスコ・ユニオンスクエアホテルである。なおオンデマンドによる発表講演録画の配信も用意されている。録画配信の開始は12月16日を予定する。なお、パネル討論会など一部のイベントは動画配信に含まれない。
今年のIEDM(以降はIEDM 2024)は12月7日~8日がプレイベントのチュートリアル(7日午後)とショートコース(8日の朝から夕方まで)、9日~11日がメインイベントの技術講演会(テクニカルカンファレンス)となる。土曜日から日曜日がプレイベント、月曜日から水曜日がメインイベントというスケジュールは近年、変わっていない。
ちなみに会場のヒルトンホテルは労働争議によって正面玄関へ通じる空間の大半が封鎖されていた。過去にもヒルトンの労働争議には遭遇したことがあるが、正面玄関はそのままだったと記憶している。
今回はピケのために入口がよく分からず、少しまごついてしまった。さらに偶然なのか、来年(2025年)2月に開催を予定するISSCCの会場ホテルであるマリオットでも、労働争議によるピケが正面玄関で発生していた。こちらはISSCC開催までには、争議が集結することを期待したい。
技術講座(ショートコース)は「AI」が共通のテーマ
話題をIEDM 2024の概要に戻そう。すでに述べたように、IEDM 2024の基本スケジュールは前年と変わらない。始めの2日間(12月7日~8日)は、プレイベントである。7日は「チュートリアル」と呼ぶ1件ずつのテーマ別講演、8日(日曜日)は「ショートコース」と呼ぶ共通テーマに基づく複数の講演を予定する。
「チュートリアル」は2件の技術講座を並列に実施する。時間枠(タイムスロット)は3つあり、合計で6件の講座を実施する。参加者が聴講できるのは当然ながら、最大で3件だ。
「ショートコース」は2つの共通テーマによるそれぞれ6件の講演で構成される。今年のテーマの1つ(SC1)が「Technology Innovations Shaping the Roadmap in the Era of AI(AI時代のロードマップを形成する技術革新)」、もう1つ(SC2)が「AI Systems and the Next Leap Forward(AIシステムと次なる未来への跳躍)」である。いずれも「AI」を共通テーマの核に据えている。
半導体産業、AIハードウェア、SiCの将来をプレナリー講演で展望
プレイベントに続く3日間が、メインイベントの技術講演会となる。技術講演会の初日(12月9日)午前は、開会挨拶と基調講演を予定する。初日の午後からは、一般講演セッションとなる。3日目の午後までに270件を超える発表を予定する。なお前年は225件を超えると事前にリリースされていたので、単純計算(270/225)だと発表件数は20%増しとなった。
基調講演は3件で、件数は前年と変わらない。始めにTSMCのYuh-Jier Mii氏が、「Semiconductor Industry Outlook and New Technology Frontiers(半導体産業の展望と新技術のフロンティア)」と題して講演する。次にAMDのMark Fuselier氏が「Advancing AI with Energy-Efficient Architectures: Innovations in Fab Process, Packaging, and System Integration(先進AIが備える効率的なアーキテクチャ:製造プロセス、パッケージング、システム集積の革新)」と題してAIハードウェアのアーキテクチャと要素技術を概観する。最後にWolfspeedのElif Balkas氏が「Revolutionizing Power Electronics with Silicon Carbide to Pioneer Sustainable Solutions(シリコンカーバイド(SiC)がもたらすパワーエレクトロニクス革命と永続的な社会の開拓)」のタイトルで講演する。
39個の一般講演セッションを2日半で消化する過密スケジュール
12月9日の午後からは技術講演会(テクニカルカンファレンス)が始まる。講演セッションの数は42スロットに達する。その中で「セッション1」はプレナリーセッション、「セッション29」はパネル討論会なので残る40スロットが一般講演セッションとなる。前々回は35スロット、前回は39スロットだったので、2日半のタイムスロット数としては限界に近い。
同時並行で進行するセッション数の最大数は9セッションに達する。前年(前回)も9セッションが同時進行というスロットはあったものの、初日の午後だけだった。今年は初日の午後、2日目の午前、2日目の午後と3つのタイムスロット(時間枠)で9つのセッションが同時進行する。参加者にとっては前回と比べ、さらに過酷なスケジュールとなってしまった。
2nm世代のCMOSロジック技術をTSMCが発表
ここからは次世代CMOSロジック技術と次世代メモリ技術の注目講演を紹介したい。CMOSロジック技術では、トランジスタ技術の発表が目立つ。TSMCが2nm世代のCMOSロジック向けプラットフォームを公表するほか、モノリシック製造したCFET(相補型FET)でインバータを試作した結果を報告する。Intelはゲート長が6nmと短いナノシートFETによるCMOSロジック技術を発表する。imecは、CFETの下側pチャンネルFETと裏面コンタクトおよび裏面素子分離を組み合わせた次世代CMOS技術を報告する。
次世代メモリ技術では、キオクシアとSK hynixが64Gbitと大容量のMRAM技術を共同で発表する。1個のセレクタと1個の磁気トンネル接合(MTJ)でメモリセルを構成するクロスポイント構造を採用した。
Samsung Electronicsは、車載グレード1に対応した埋め込みMRAM技術の開発成果を披露する。キオクシアは酸化物チャンネルによるセル面積が4F2(「F2」とは設計ルール「F」(最小加工寸法に相当)の2乗を意味する)と小さなDRAMセルを開発し、275Mbitのセルアレイを試作した。TSMCはセル面積が0.009平方μmと小さなFeFET技術(強誘電体不揮発性メモリ技術)を報告する。動作サイクル寿命は10の12乗と長い。
このほかにも強く興味を惹かれる研究発表が少なくない。現地からの続報にご期待いただきたい。