福田昭のセミコン業界最前線
未来のストレージは「フラッシュ」だけではない。今年のFMSでどんな新技術が見られる?
2024年7月16日 12:05
メモリとストレージの総合イベントとなっていたFMS
半導体の産業界で「FMS」と言えば、「フラッシュメモリサミット(Flash Memory Summit)」を想起する関係者は少なくない。毎年8月に米国にシリコンバレーで開催される、フラッシュメモリとその応用製品に関する世界最大のイベント(講演会と展示会で構成)として知られる。
その「フラッシュメモリサミット」が、今年(2024年)からは「フューチャーメモリアンドストレージ(Future Memory and Storage)」と名称を変更して開催される。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な流行によってフラッシュメモリは2021年に開催を断念した。復活したのは翌2022年で、続く2023年もリアルイベントとして開催された。
ところが2022年と2023年の開催内容は、「フラッシュメモリ」の名称では収まりきらないほどに発表の範囲が拡大していた。そもそも2010年代後半にはフラッシュメモリの主用途であるSSDと、SSDを含めたストレージシステムとしての発表が主要な地位をしめるようになっていた。「フラッシュメモリ」というよりも「フラッシュストレージ」のイベントというのが現状を反映していた。
さらに2022年以降は、メモリでは「CXLメモリ」や「DRAMおよびDRAMモジュール」などのフラッシュ以外のメモリが発表されるようになる。そしてストレージでは「用途別に仕様を変える」、「アーカイブ用途を目指す」、「DNA技術によるストレージの開発」といった多様化が目立つようになった。
そこで運営会社であるConference ConCeptsは2024年1月25日に、同年のフラッシュメモリサミットは名称を変更して実施すると公式にアナウンスした。内容の変化に合わせて名称を更新したと言えよう。なお、略称である「FMS」は変わらない。開催日程や開催会場などもそのままだ。
前日イベントの技術講座にはHDD技術の講演を新たに設置
今年のFMS(FMS 2024)は8月5日~8日(現地時間)に、米国カリフォルニア州シリコンバレーにある会議場「サンタクララコンベンションセンター(SCCC: Santa Clara Convention Center)」で開催される。メインイベントである講演会と展示会は6日(火曜日)~8日(木曜日)を予定する。前日の5日(月曜日)には、別料金の前日イベントとして「技術講座(「プロフェッショナル開発シリーズ」と呼称)」が開催される。
メインイベントの説明に移る前に、まずは前日イベントの技術講座をご紹介しよう。技術講座では5日午後の前半に4件、後半に4件の講演(並列に進行)を予定した。講演テーマは量子コンピューティング、CXL、DRAM、HDDの4つである。HDDの技術講座を新たに設けたことが興味深い。
FMSには25ドルから参加登録できる
FMS 2024の参加登録料は最安が25ドル(8月3日以前)、最高が1,895ドル(8月3日以前)と恐ろしく幅広い。最安値チケットの「Access Plus」(25ドル)は展示会と、プログラムに「OPEN」と記された講演セッション(基調講演も「OPEN」に含まれる)に入れる。基調講演と展示会が目的なら、このチケットがもっともお得だろう。
なお、FMSの興行収入は展示会の出展料とスポンサーシップに大きく依存しているので、「Access Plus」のようなチケット(展示会の来場者を増やすことが目的のチケット)が成立すると思われる。
最高値チケットの「All Access」(1,895ドル)は、前日イベントの講演2件のほか、プログラムに「PRO」と記された講演セッションを含む、すべての講演を聴講できる。また3日分の昼食引き換え券(ランチチケット)が付属する。
3日間の講演セッションすべてを聴講できるのが「3Day Conference」で、料金は1,595ドルである。こちらも3日間のランチチケットが付属する。前日イベントの聴講はできない。1日間(曜日は指定)の講演セッションすべてを聴講できる「One Day Technical Program」も用意しており、料金は695ドルである。こちらはランチチケット1枚が付属する。前日イベントの聴講はできない。
前日イベントだけの参加チケットもある。料金は2件の講演を聴講できる「Pre-Conference Seminars Only 2-Selections」が595ドル、1件だけを聴講できる「Pre-Conference Seminars Only 1-Selections」が395ドル(いずれも8月3日以前の料金)である。
基調講演にはフラッシュメモリ大手が出そろう
FMS 2024のハイライトである基調講演には、久々にフラッシュメモリ大手が出そろった。最近ではMicron Technology(以下Micron)とSamsung Electronics(以下Samsung)が基調講演を取りやめており、やや寂しい状態が続いていた。前年の2023年にはSamsungが基調講演に戻った。今年はMicronが基調講演に帰ってきた。
フラッシュメモリ大手では前年と同様にキオクシアとWestern Digital(以下WD)、SK hynixも参加する。そのほかにはNEO Semiconductor、FADU、Microchip Technology、Silicon Motion、Phison、KOVEが基調講演を予定する。
初日はAI、UALink、ハイパースケールなどの講演を予定
ここからは、一般講演セッションを初日の6日から紹介していく。初日は午前に2つ、午後に1つの時間枠に一般講演のセッションがある。各セッションでは、テーマ別に8本の講演セッションが同時並行で進む。
最初の一般講演セッションは午前8時30分に始まる。完了予定時刻は午前9時35分となっている。セッションのテーマは、「AI向けストレージ(技術)」、「市場アナリストによるパネル討論」、「DRAMの微細化限界」、「FDPとZNS」、「ストレージベンチャーによる招待講演」、「CXLによるメモリ容量拡大とメモリ性能向上」、「AI向けフラッシュおよびメモリのコントローラ技術」、「UCIeソリューション技術」を予定する。
次の一般講演セッションは10分間の休憩を挟んで午前9時45分に始まる。完了予定時刻は午前10時50分となっている。セッションのテーマは、「AI向けストレージ(応用)」、「メモリ市場の動向」、「データ分析向けのオブジェクト計算ストレージ」、「CXLファブリックの管理」、「ハイパースケールアプリケーション(パート1)」、「SNIA(スニア): 実装の手間を短縮するデータとストレージの標準化団体」、「コンピューティング応用に向けたSSD技術」、「UCIe技術がもたらす事業機会と付加価値」、である。
この後はすぐに全体講演セッションとなる。開会挨拶や基調講演(昼食休憩を挟む)などが実施される。午後3時40分に午後の一般講演セッションが始まる。完了予定時刻は午後4時45分である。セッションのテーマは「AIアクセラレータ間の通信規格(UALink)」、「航空宇宙および宇宙空間におけるデータ」、「最高マーケティング責任者(CMO)によるパネル討論」、「ハイパースケールアプリケーション(パート2)」、「メモリ技術におけるAIの影響」、「CXLコンソーシアム」、「SSDの寿命を延ばし、信頼性を高める技術」、「UCIeとチップレットのパネル討論」を予定する。
7日はNVMeデバイス、CXLメモリの講演が続出
7日の一般講演セッションは、午前の前半と後半は前日と同様の時間枠で開かれる。いずれも8本のセッションが同時並行に進行する。
最初の一般講演セッションは午前8時30分に始まり、午前9時35分(予定時刻)に完了する。セッションのテーマは「アジアのメモリ市場とストレージ市場(パート1)」、「クラウドのアーキテクチャ」、「計算ストレージの利用事例」、「CXLのフォームファクタ」、「エンタープライズ・ストレージ(パート1)」、「FlashSystem開発者による招待講演」、「次世代メモリ」、「NVMe 2.1の仕様、CXLサポートとWindowsの革新」である。
続く一般講演セッションは午前9時45分に始まる。完了時刻は午前10時50分(予定時刻)である。セッションのテーマは「アジアのメモリ市場とストレージ市場(パート2)」、「クラウドのソフトウェア」、「計算ストレージの未来」、「キャリア戦略(パート1)」、「CXLのメモリプーリング」、「人工知能(AI)向けメモリのソリューション」、「SNIA: データ技術とストレージ技術の未来」、「持続可能なデータセンターとエネルギー効率」である。
この後は基調講演(昼食休憩あり)となる。一般講演が始まるのは午後3時である。完了時刻は午後4時5分を予定する。セッションのテーマは「生成AI」、「キャリア戦略(パート2)」、「CXLのメモリティアリング」、「性能向上を目指す異種構成のソリューション」、「NVMeシステムのライブマイグレーション(移行)と高可用性、イベント通知」、「SSDの性能最適化とモデル化技術」、「循環経済とストレージ」、「NVMeデバイスのテスト手法」である。
最終日午前:ランサムウェアと闘うAI/ML技術
最終日の8月8日は基調講演がない。このため、一般講演セッションの時間枠が5つに増える。最初の一般講演セッションは前日と同様に午前8時45分に始まり、午前9時35分(予定時刻)に完了する。
セッションのテーマは、「AIとストレージ」、「アーカイブ市場の動向と応用、技術(パート1)」、「CXLの使用事例」、「ランサムウェアを攻めるAI/ML」、「AIにおけるネットワーク接続されたフラッシュストレージ」、「リナックス・メインラインプロジェクトの状況」、「UCIエキスプレス」、「メモリデバイスのテスト手法」、である。
次の一般講演セッションは午前9時45分に始まり、午前10時50分(予定時刻)に完了する。セッションのテーマは「最高技術責任者(CTO)によるパネル討論」、「アーカイブ市場の動向と応用、技術(パート2)」、「CXLがAIに与える影響」、「暗号鍵/量子暗号」、「NVNeオーバーファブリックの普遍化」、「データベース」、「AIとLPDDR6におけるJEDECの標準化活動」、「汎用のテスト手法」、である。
続いて全体イベントとして、AI向けのストレージ技術とメモリ技術に関するパネル討論を午前11時から正午まで実施する。モデレータはNVIDIAである。パネリストにはキオクシア、Samsung、Supermicro、Vast Dataを予定する。
ここで注意しなければならないのが、最終日のスケジュールには「昼食休憩がない」ことだ。パネル討論が完了した後は、10分間の休憩を挟んで午後0時10分に次の一般講演セッションが始まる。さらに次の一般講演セッションも、10分間の休憩を挟んで午後1時25分に始まる。空腹が苦手な参加者は、ランチの時間を独自に確保しておくことをお勧めする。
最終日午後: SSDの最新フォームファクタと最新インターフェイス
すでに述べたように、午後の一般講演セッションは午後0時10分に始まり、午後1時15分に完了する予定である。セッションのテーマは、「AI技術とマシンラーニング技術」、「ソフトウェア定義車両」、「データインセンティブな顧客ソリューション」、「クラウドソリューション/技術革新」、「デバイスの露出に対処する」、「CXLとPCIeのメモリファブリック」、「メモリ管理のエコシステム」、「SSDの電源最適化とテレメトリ機能」、である。
実質的な最後の一般講演セッションは午後1時25分に始まる。完了予定時刻は午後2時30分である。セッションのテーマは「アカデミック(大学による発表)」、「AIチップと生成AI最適化に向けた次世代技術」、「すべてのモノが移動体化する」、「エンタープライズ・ストレージ(パート2)」、「ベンチャー企業のCEOによる招待講演」、「AIのオープンエコシステム」、「QLCとPLC(ニアラインHDDの置き換え)」、「SSDの最新フォームファクタと最新のインターフェイス」を予定する。
そして午後2時40分からはFMSのまとめとなるセッションが始まる。「AI向けのメモリ集約ストレージソリューション: 限界を延ばせ!!! 」と題する60分間のセッションである。例年ここでは、今回のFMSを総括するショート講演や、記憶しておくべき事柄を10本前後の箇条書きにまとめたショート講演などが実施されてきた。時間的な余裕のある方には、聴講をお勧めする。
FMSは学会ではなく、民間企業が運営するイベント(展示会と講演会)である。このため、詳細が開催直前まで決まらなかったり、開催当日になってセッションそのものがキャンセルになったりすることが珍しくない。運営会社の不手際によるトラブルに遭遇することもある。フタを開けてみないと分からないのが、FMSの醍醐味だとも言える。筆者にも予測できない内容の現地レポートにご期待されたい。