福田昭のセミコン業界最前線

Zen 5やXeon 6などの高性能プロセッサが目白押しの祭典「Hot Chips」

「Hot Chips 2024」の会場となる「Memorial Auditorium」の内部。2013年8月の「Hot Chips(Hot Chips 25)」に筆者が参加したときに撮影したもの

会場が元に戻った今年のHot Chips

 高性能プロセッサの最新技術を披露する国際学会「Hot Chips」が前年(2023年)に続き、リアル開催とバーチャル開催のハイブリッドイベントとして開催される。開催時期は2024年8月25日(日曜日)~27日(火曜日)の3日間、開催場所は米国カリフォルニア州パロアルトのスタンフォード大学である。リアル開催が復活した前年の会場は「Dinkelspiel Auditorium」だったが、今年は「Memorial Auditorium」に変更された。

 「Memorial Auditorium」はコロナ禍以前の2019年まで、使われていた会場だ。コロナ禍によってHot Chipsは2020年~2022年にバーチャルだけの開催となっていた。2023年にリアル開催(ハイブリッド開催)が復活したものの、リアル開催の会場は収容人数が少ない「Dinkelspiel Auditorium」(公式の収容人数は710名)に変更されていた。実際のリアル参加登録枠は500名だったが、すべて売り切れた。言い換えると、完売になったためにバーチャル参加を強いられた登録者が出てしまった。

 そこで会場を「Memorial Auditorium」に戻したようだ。「Memorial Auditorium」はスタンフォード大学では最も大きな屋内会議場であり、公式の収容人数は1,705名と多い。筆者は過去のHot Chipsで何度かこの会場に足を運んだことがあるが、この会場であればリアル参加の希望者をすべて収容することは容易だろう。

3日間の初日がチュートリアル、中日と最終日がカンファレンス

 現地開催の基本的なスケジュールは前年と変わらない。初日(25日)がチュートリアル(技術講座)、中日(26日)と最終日(27日)は技術講演と基調講演である。

「Hot Chips 2024」の基本的な日程と開催情報。ポスター発表の日付は筆者の推定によるもの。Hot Chipsの公式Webサイトから筆者がまとめた。なお現時点(7月29日)では時刻がプログラムに記載されていない

 前年と同様にハイブリッド開催のHot Chipsは、参加登録料金がリアルとバーチャルでかなり違う。リアル開催の参加料は高く、バーチャル開催の参加料は安い。リアル開催の参加者には講演の聴講以外にも、ランチやレセプションなどのサービスが受けられる。また参加者同士の交流という重要な機会がある。

「Hot Chips 2024」のリアル開催参加料金。カンファレンスだけの参加と、チュートリアルとカンファレンスの両方に参加するメニューから選べる。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの
「Hot Chips 2024」のバーチャル開催参加料金。こちらはチュートリアルとカンファレンスのセットだけとなる。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの

チュートリアルでは「AIの応用」と「放熱/冷却」の技術講座を開催

 8月25日に予定するチュートリアルは、午前と午後に分かれる。午前と午後で異なる2つのテーマに関する技術講座を開催する。Hot Chipsのチュートリアルは伝統的に、時機を得たテーマを扱う。今回のテーマもタイムリーだ。

 午前のテーマは半導体の設計に人工知能(AI)を利用することだ。正式名称は「AI Assisted Hardware Design - Will AI Elevate or Replace Hardware Engineers? (AIが支援するハードウェア設計-AIはハードウェア技術者の能力を高めるのか、あるいは置き換えるのか)」である。5件の講演と、1件のパネル討論を予定する

チュートリアル1となる25日午前の講演一覧。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの

 午後のテーマは半導体チップの放熱と冷却である。正式名称は「The Cooling of Hot Chips: How thermal technology is keeping up with the AI revolution(熱いチップを冷やす:AI革命を維持するための放熱技術)」だ。AIやデータセンターなどに向けて半導体チップやモジュールなどの性能を著しく向上させたことで、消費電力密度が急激に高まりつつある。言い換えると、動作時に半導体チップの温度が急激に上昇する。このチュートリアルでは放熱と冷却の課題と解決策に関する5件の講演を予定する。

チュートリアル2となる25日午後の講演一覧。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの

カンファレンス初日午前:Qualcomm、Intel、IBMの高性能プロセッサ

 カンファレンス初日の26日は、4つの講演セッションと1件の基調講演を予定する。午前からプログラムを紹介していこう。始めは「高性能プロセッサ:その1」のセッションである。まずQualcommが、クライアントPC向けSoC「Snapdragon X Elite」の設計とアーキテクチャの概要を解説する。OryonアーキテクチャのCPUコアを12個搭載するArmアーキテクチャの64bitプロセッサである。続いてIntelが次世代のAI PC向けCPU「Lunar Lake」を報告する。それからIBMが、次世代のZプロセッサとAI推論アクセラレータのチップセットを説明する。

カンファレンス初日前半の講演一覧。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの

 休憩を挟んで「特定用途向けプロセッサ」のセッションに入る。始めにSK hynixがAIコンピューティングに特化したメモリソリューションの開発成果を披露する。包括的な大規模言語モデル(LLM)による推論システムに向けた。開発成果にはAiM(Accelerator in Memory)デバイスやAiM-xPUサブシステムなどがある。次にIntelが、エッジ向けの次世代Xeon 6 SoCを報告する。

カンファレンス初日午後:NVIDIAとAMDがそれぞれ生成AIアクセラレータを紹介

 昼食休憩の後は、基調講演で午後のセッションが始まる。Open AIのTrevor Cai氏が「Predictable Scaling and Infrastructure(予測可能なスケーリングとインフラストラクチャ)」のタイトルで講演する。

 基調講演に続けて「AIプロセッサ:その1」のセッションが始まる。このセッションでは2件の講演を予定する。始めにNVIDIAが、生成AIとアクセラレイテッドコンピューティングに向けたGPU「Blackwell」の技術概要を述べる。次にSambaNovaが、1兆を超えるパラメータのAIコンピューティングを実現可能なプロセッサ「SN40L RDU(Reconfigurable Dataflow Unit)」を説明する。

カンファレンス初日後半の講演一覧。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの$$

 休憩を挟んで次のセッション「AIプロセッサ:その2」が始まる。最初にIntelが、AI学習・推論向けアクセラレータ「Gaudi 3」の技術概要を説明する。次にAMDが、生成AIアクセラレータ「Instinct MI300X」とそのプラットフォームアーキテクチャを述べる。それからBroadcomが、光アタッチによって次世代へのスケールアップが可能なAIコンピューティング向けASICについて解説する。最後にFurorisaが、持続可能なAIコンピューティング(特に大規模言語モデル)に向けたプロセッサ「RNGD」を紹介する。

カンファレンス2日目午後:AMDの次世代CPU「Zen 5」

 昼食休憩の後は、前日と同様に基調講演のセッションとなる。AMDのVictor Peng氏が、「The Journey to Life with AI Pervasiveness(AIの普及とともに人生を旅する)」と題して講演する。

 基調講演の後は「高性能プロセッサ:その2」のセッションが始まる。最初にMarvellが、「ニアメモリコンピュートとメモリ拡張に向けたシリコン」と題して講演する。それからChinese Academy of Sciencesが、工業グレード準拠の高性能RISC-Vプロセッサを開発するオープンソースプロジェクト「香山(XiangShan)」を説明する。

カンファレンス第2日後半の講演一覧。Hot Chipsの公式Webサイトから抜粋したもの

 それから休憩を挟んで最後の講演セッションとなる。セッション名は「高性能プロセッサ:その3」である。始めにAmpere ComputingがAIおよびクラウドネイティブな処理向けの持続可能なCPU「AmpereOne」を紹介する。次にMicrosoftが、Azureのハードウェアに適したAIアクセラレータ「MAIA 100」の内容を説明する。それからAMDが次世代CPUコア「Zen 5」の技術概要を述べる。最後に日本のPreferred Networksが、AIおよび汎用HPCに向けたMN-Coreアーキテクチャの第2世代プロセッサコア「MN-Core 2」を解説する。

 残念ながら筆者は、バーチャル参加となる。現地レポートとはならないものの、聴講レポートを執筆する予定だ。ご期待されたい。