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VLSI技術シンポジウム前日レポート、CPUとメモリ階層の行方を議論へ

VLSIシンポジウムの会場ホテル「Hilton Hawaiian Village」。講演会場であるTapa Conference Centerのある「Tapa Tower」の概観(現地時間の2018年6月17日午後5時過ぎに筆者が撮影)

 半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム」が今年(2018年)もはじまった。「VLSIシンポジウム」は、半導体技術に関する2つの国際学会が対となって開催されることを特徴とする。

 1つはデバイス・プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)である。もう1つは半導体回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)。両者は同じ会場と同じ日程で開催される。

 「VLSIシンポジウム」は最近は、西暦の奇数年に日本の京都、西暦の偶数年に米国のハワイで開催されてきた。今年は西暦の偶数年であり、米国ハワイ州ホノルルのリゾートホテル「Hilton Hawaiian Village」で開催される。ハワイ開催の会場はここ最近は「Hilton Hawaiian Village」であり、過去のハワイ開催に参加したことのある研究者にとっては、なじみのある場所だ。

 会期は6月18日(月曜日)から6月22日(金曜日)まで。メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)は6月19日(火曜日)~21日(木曜日)に開催される。18日(月曜日)は前日イベントとして「ショートコース」と呼ぶ技術講座を実施する。22日はポストイベントとして「金曜フォーラム」と呼ぶ、テーマを絞った講演会が予定されている。

186件の投稿から75件の論文を採択

 すでに述べたように、VLSIシンポジウムは2つの国際会議で構成される。そこで今回(本レポート)では「デバイス・プロセス技術」に関する国際学会「VLSI技術シンポジウム(Symposium on VLSI Technology)」の概要を説明し、続報となるレポートで「半導体回路技術」に関する国際学会「VLSI回路シンポジウム(Symposium on VLSI Circuits)」の概要をご報告する。

 VLSI技術シンポジウムでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は186件である。ハワイ開催だけで比較すると前回(2016年)が214件、前々回(2014年)が225件だったので、今年はやや少ない。次回のハワイ開催(あるいは米国開催)がどうなるのかが、注目される。

 発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数は、75件である。採択率は40%であり、過去10年でほとんど変わっていない。競争率2.5倍の狭き門をくぐり抜けた最新の研究成果が披露される。

VLSI技術シンポジウムの投稿論文数と採択論文数、採択率の推移。投稿数はハワイ開催年が多く、日本開催年が少ない。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

投稿論文の件数はトップが米国、2位が日本

 投稿論文の件数を国・地域別に見ると米国がもっとも多く、48件を数える。この投稿数は、前回のハワイ開催における米国の投稿数と同じである。米国に次いで多いのは日本で、26件である。前回のハワイ開催における日本の投稿数は25件なのであまり変わらない。

 日本以外のアジアでは韓国と台湾からの投稿件数がいずれも22件とかなり多い。そのほかでは欧州が37件、中国が12件、シンガポールが10件などとなっている。

投稿論文数の国・地域別推移(累積棒グラフ表示)。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会
投稿論文数の国・地域別推移(折れ線グラフ表示)。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

採択件数の上位は米国、日本、ベルギー

 採択論文を国・地域別に見ると、これも米国がもっとも多く、20件に達する。前回のハワイ開催では24件の採択論文があったので、やや減った。米国の次は、地域別では欧州が16件、国別では日本が13件で続く。欧州ではベルギーが10件と多く、国別でも日本に次いで3位につけている。日本以外のアジアでは、台湾が9件、韓国が8件と多い。シンガポールが5件でこれに続く。中国は投稿件数は12件とかなり多いものの、採択件数は3件とまだ少ない。

採択論文数の国・地域別推移。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

大学が存在感を示すアジア地域

 大学と企業の論文件数を比較すると、投稿論文数では大学が多く、採択論文数では企業(および研究機関)が多い。この傾向は近年と同じである。大学の投稿件数は94件、採択件数は31件で採択率は33%とあまり高くない。企業(および研究機関)の投稿件数は92件、採択件数は44件、採択率は48%である。

大学と企業(および研究機関)の投稿論文数と採択論文数。円グラフの左側(紫色)が大学、右側(水色)が企業。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

 大学と企業の採択件数を地域別に見ていくと、アジア地域における大学が存在感を示している。米国では大学の採択件数が6件、企業の採択件数が14件、欧州は大学の採択件数が1件、企業の採択件数が15件であり、いずれも企業の採択件数が圧倒的に多い。

 これに対してアジアでは、大学の採択件数が24件、企業の採択件数が15件となっている。大学の採択件数が企業よりも多い。大学の採択件数が企業よりもとくに多いのは、台湾と中国、シンガポールである。それぞれ7件、4件、4件となっている。対する企業の採択件数は2件、0件、1件と少ない。

地域別に見た大学と企業の採択件数。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

機関別の採択件数トップは今年もベルギーimecが堅持

 発表機関別の採択件数は、ベルギーの研究機関imecが10件で今年もトップを守った。近年は採択件数のトップをimecがずっと維持している。

 採択件数の2位は韓国のSamsung Electronicsで、件数は6件である。これに米国のGLOBALFOUNDRIESと台湾の国立交通大学(National Chiao Tung University)が5件で続く。

 日本の採択件数は、東京大学とパナソニックがそれぞれ3件ずつでもっとも多い。これらに東芝が2件で続く。

発表機関別の採択論文数の推移。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

パネル討論会でCPUとストレージクラスメモリの行方を議論

 VLSI技術シンポジウムでは6月18日の夜に1件、それから19日の夜にも1件のパネル討論会を予定している。18日(月曜日)夜のパネル討論会は、VLSI技術シンポジウムとVLSI回路シンポジウムが合同で開催する討論会(ジョイントパネルディスカッション)である。テーマは「Is the CPU Dying or Dead ? Are Accelerators the Future of Computing ?(CPUは死にかけているか、あるいは死んでいるのか。そして未来はアクセラレータのものになるのか」といういささかエキセントリックなものだ。

6月18日夜の合同パネル討論会(ジョイントパネルディスカッション)の概要。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

 19日(火曜日)夜のパネル討論会はVLSI技術シンポジウム単独の開催である。テーマは「Storage Class Memories: Who cares ? DRAM is scaling fine, NAND is stacking great (ストレージクラスメモリをほしがるのは誰なのか。DRAMの微細化は順調であり、NANDの積層化はすばらしく進んでいる)」であり、これもかなり皮肉が効いている。

6月19日夜のパネル討論会の概要。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

サブ5nmトランジスタと次世代コンピューティングの技術講座

 VLSI技術シンポジウム全体の初日である6月18日には、「ショートコース」と呼ぶ技術講座が開催される。「ショートコース」のテーマは「Device and Integration Technologies for Sub-5nm CMOS and Next Wave of Computing(サブ5nmのCMOSと次世代コンピューティングに向けたデバイス技術と集積化技術)」である。

 午前から午後にかけて、合計で8本の講義が昼食休憩をはさんで実施される。講義のテーマは「サブ5nm世代のCMOS用トランジスタ技術」、「インターコネクト技術の課題」、「FinFETとナノワイヤFETの設計に必要な原子レベルの材料解析」、「CMOSイメージセンサーの3次元集積化技術」、「深層学習向けメモリ技術」などである。

技術講座「ショートコース」の概要。8件の講義が実施される。出典 : VLSI技術シンポジウム委員会

 VLSI技術シンポジウムのメインイベントである技術講演会(19日~21日)では、プレビューレポート(6月開催予定のVLSIシンポジウム、次世代のトランジスタ技術とMRAM技術に注目)でお伝えしたように、興味深い研究成果が相次いで発表される。具体的な内容は順次、現地レポートでお伝えするので、ご期待されたい。