イベントレポート
VLSI回路シンポジウム前日レポート、次世代のコンピューティングを支える回路技術
2018年6月19日 20:51
VLSIシンポジウムを構成する国際学会の1つ、「VLSI回路シンポジウム(Symposium on VLSI Circuits)」が6月18日にはじまった。VLSIシンポジウムを構成するもう1つの国際学会「VLSI技術シンポジウム(Symposium on VLSI Technology)」とともに(VLSI技術シンポジウム前日レポート、CPUとメモリ階層の行方を議論へ参考)、半導体の研究開発に関する最先端の成果を披露する。
VLSI回路シンポジウムは6月18日~22日の日程で開催される。会場は、米国ハワイ州ホノルルのリゾートホテル「Hilton Hawaiian Village」である。日程と会場は、VLSI技術シンポジウムと同じだ。参加登録者は、両方の国際学会を自由に聴講できる。
バイオメディカルとクラウドコンピューティングの技術講座を実施
VLSI回路シンポジウムもVLSI技術シンポジウムと同様に、最初の1日が「ショートコース」と呼ばれる技術講座、続く3日間がメインイベントの「テクニカルカンファレンス(技術講演会)」となっている。したがって6月18日にはじまったのは、技術講座である。
VLSI回路シンポジウムでは、2つのテーマに沿った技術講座を用意した。1つはバイオメディカル技術に関する講座、もう1つはクラウドコンピューティング技術に関する講座である。また技術講演会の翌日の22日はポストイベントとして「金曜フォーラム」と呼ぶ、テーマを絞った講演会が予定されている。
362件の投稿論文から104件の優れた論文を採択
翌日の6月19日から、メインイベントの技術講演会がはじまる。会期は21日までの3日間である。
技術講演会での発表を目指して投稿された論文(投稿論文)の数は362件、発表論文に選ばれた数(採択論文数)は104件である。採択率は29%で、前回のハワイ開催年(2016年)における26%に比べると3ポイントほど上昇したものの、絶対値としてはまだ、かなり低い。
プロセッサ分野とディジタル回路分野の投稿論文が大幅に増加
投稿論文を分野別に見ると「プロセッサ・アーキテクチャ分野」と「ディジタル回路分野」の割合が前年に比べて増加している。プロセッサ・アーキテクチャ分野の投稿件数は46件で、分野別の投稿件数ではもっとも多い。ディジタル回路分野の投稿件数は40件であり、前年の23件から大幅に増えた。そのほかの分野では「パワーコンバータ分野」と「センサー分野」が、いずれも42件と多い。
国別の発表件数では米国が変わらず強さを見せる
発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数を国別に見ていこう。米国が今年(2018年)もトップで、半導体回路の研究開発では変わらない強さを見せている。採択件数は44件である。全体に占める割合は42%で、前年の37%から拡大した。
国別の上位を挙げると、2位は韓国で13件、3位は中国(香港とマカオを含めている)で11件、4位は日本で10件となっている。
採択論文数の機関別トップは6年連続で米国ミシガン大学
採択論文の数を発表機関別に見ていくと、トップは今年もミシガン大学(University of Michigan)だった。件数は8件。6年連続の首位である。
2位はIntelが7件で、2年ぶりに上位に返り咲いた。3位は韓国KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)で、採択件数は6件である。以下はXilinxが5件、IBMが4件と続いた。
なおVLSI回路シンポジウム委員会が作成した表では、2018年に「カリフォルニア大学」が「8件」となっている。カリフォルニア大学は複数の地域校で構成される。
筆者の調べではバークレー校(University of California, Berkeley)が5件、ロサンゼルス校(UCLA: University of California, Los Angeles)が2件、サンディエゴ校(UCSD: University of California, San Diego)が1件である。合計すると8件となり、トップと並ぶ。
ただし前年以前のランキングではこれらの地域校を別々にカウントしており、研究開発コミュニティの慣例としてもこれらをまとめるのは違和感がある。このため、今年のランキングからは「カリフォルニア大学」を外すことにした。
採択論文の7割が大学、3割が企業
投稿論文に戻って大学と企業の件数を比較すると、投稿数では大学が約250件と全体(362件)の3分の2強を占めている。件数そのものは前年とほぼ同じである。企業の投稿件数は約100件で、前年の64件から大幅に増えた。一昨年以前には企業の投稿件数は100件前後を維持していたので、本来の件数に戻ったとも言える。
大学と企業の採択件数は、大学が71件、企業が33件である。採択件数でも大学が多数を占める。採択率は企業がわずかに高いようだ。
分野別の採択件数はセンサーとプロセッサが多い
続いて、分野別の採択論文数と日本の採択論文数を見ていこう。分野別の採択件数では「センサー・バイオ・ヘルスケア分野」が19件でもっとも多い。以降は「プロセッサ・アーキテクチャ分野」が15件、「有線通信分野」が13件、「データコンバータ分野」が11件となっている。
日本の採択論文は「センサー・バイオ・ヘルス分野」と「無線通信分野」、「データコンバータ分野」でそれぞれ2件ずつである。そのほか「クロック・周波数生成分野」と「有線通信分野」、「メモリ分野」、「パワーマネジメント分野」で1件ずつの発表を予定している。
機械学習のハードウェアから応用までがわかる「金曜フォーラム」
技術講演会の初日である19日の夜には、パネル討論会(パネルディスカッション)が開催される。テーマは「What’s the next big thing after smartphones?(スマーフォトの次に来るビッグビジネスはなにか)」である。スマートフォンの次に半導体市場の成長を牽引すると期待される、応用分野を議論する。
技術講演会の翌日である22日(金曜日)に開催予定の「金曜フォーラム」では、機械学習をメインテーマに8件の招待講演が実施される。テーマの名称は「Machine Learning Today and Tomorrow: Technology, Circuits and System View(機械学習の現在と明日:技術と回路、システムを展望)」である。
以前にプレビューレポート(6月開催予定のVLSIシンポジウム、次世代のトランジスタ技術とMRAM技術に注目)でお伝えしたように、VLSI回路シンポジウムの技術講演会(19日~21日)では、興味深い研究成果が相次いで発表される。具体的な内容は順次、現地レポートでお伝えするので、ご期待されたい。