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【カントリーマネージャーへインタビュー】ウエスタンデジタルとサンディスクはなぜ再び分かれたのか
- 提供:
- ウエスタンデジタルマーケティング合同会社
2025年4月21日 06:30
HDDメーカーとして知られるウエスタンデジタルは、2016年にフラッシュメモリ製品を手がけるサンディスクを買収した。その後、WD BlueやWD_BLACKといった製品ブランドでHDD、SSDともヒットモデルが数多く誕生したのはご存じの通り。その両社が2025年2月に分社化した。
なぜ両社は分社したのか?そして、定着したHDD、SSDの各モデルが今後どうなっていくのか気になる人もいるだろう。ウエスタンデジタルのジャパンセールスカントリーマネージャーである西尾公彦氏に話を聞いた。
分社化の理由
――なぜHDDのウエスタンデジタルとフラッシュメモリのサンディスクへと分社化することになったのでしょうか。
西尾氏(以下敬称略) まず分社化前の話をしますと、ウエスタンデジタルとサンディスクは2016年に一緒になりました。当時はHDDの最大容量が10TBでしたが、これ以上の大容量が難しい状況にありました。その一方で、SSDは3次元フラッシュメモリのBiCSなどが出てきて、このままだと容量面でもSSDがHDD市場を飲み込んでしまう危機感があったんですね。一方でサンディスクは、BiCSへの投資などで資金が苦しくなっていた。そういう利害の一致があって一緒になったんです。
それから5年、6年経過し、HDDはヘリウム充填技術による大容量化が進んだことに加えて、クラウドサービスの利用拡大や生成AIの進化など、データセンターで扱うデータが飛躍的に大きくなったことで大容量HDDの重要性が増してきました。サンディスクも資金を得られたことで、BiCS技術も順調に進歩しました。
では、なぜ分かれたのか?株主からの要望ですね。HDD市場は競合もそれほど多くなく、需要も安定したマーケットであり、株式市場から見たら“安定株”なんですね。一方のフラッシュメモリは“成長株”です。投資家は安定株と成長株に分けて投資するため、2つが一体になっている我々は魅力が薄れてしまった。つまり、株価があまり上がらないという状態だったんです。
そのため、2社に分かれた方がお互いの株価が上がるという株主の要望を受け、社内でも検討した結果、その方がいいだろうと決断したわけです。HDDは大容量化が実現し、今後もHAMRなどの技術でさらに成長できます。フラッシュメモリもBiCS 8まで出荷しており、この勢いでどんどん成長できる見込みがあります。分社化した方がお互いの価値を高められると判断しました。
また、合併したときは、生産効率を高められると見込んでいたのですが、HDDとフラッシュの製造は全く違うので、効率化のメリットがあまりなかったのも分社化決定の理由です。
――ほかのストレージメーカーと比べてウエスタンデジタルの強みとは何でしょうか。
西尾 神奈川県藤沢に開発拠点があることですね。ウエスタンデジタルテクノロジーズというグループ会社なんですが、ヘリウム充填技術もそこで開発されました。HAMR技術(※)などの開発も行なわれています。
ウエスタンデジタルは海外の会社と思われているかもしれませんが、研究開発は日本なんです。そのため品質基準も非常に厳しく、それが一番の強みですね。藤沢で開発されていることをもっとアピールしていきたいと思っています。
※ 熱アシスト磁気記録技術。HDDプラッタは、記録密度があるレベル以上にまで高くなると、「超常磁性」として知られる現象により熱的に不安定になる可能性がある。そこで、記録媒体は熱せられると書き込みやすくなる特性を生かし、データが記録される場所にレーザー光線を当て、記録媒体を熱することで記録密度を高める
カラーブランド戦略も強みです。WD BlueはPC向け、WD_BLACKはゲーム向け、WD RedはNAS向けとしていますが、他社さんに比べてブランドと位置付けが分かりやすいとよく褒められます。
加えて言うと、分社前は会社の規模が大きすぎて、お客様の意向が少し上層部に伝わりづらかった反省点がありますが、ウエスタンデジタルの新CEOとなったアーヴィング・タンはカスタマーフォーカスを掲げており、お客様や販売現場の意見をしっかり聞いてくれるようになりました。風通しも良くなっています。分社からまだあまりたっていませんが、さらによくなっていく兆しを感じています。
――分社化することでサポートに変更はないのでしょうか。ちなみに、個人的にHDDの故障交換を依頼したことがありますが、とてもスムーズにできてありがたかったです。
西尾 サポート内容は変わりません。ただ、HDDはウエスタンデジタル、SSDなどのフラッシュ製品はサンディスクがサポートする形になります。そこはしっかり案内していきます。
それぞれのブランドの今後について
――現在はWD Blue、WD_BLACKなどHDD、SSDとも共通のブランドを使っていますが今後はどうなるのでしょうか。
西尾 HDDはウエスタンデジタルのブランドとしてそのまま継続していきます。ウエスタンデジタルブランドのSSD製品もまだ続きますが、いずれサンディスクへと収束されます。
――サンディスクのブランドの中でウエスタンデジタルが引き継ぐものもあるのでしょうか。
西尾 外付けストレージのハイグレードなクリエイター向け製品として「SanDisk Professional」があり、この一部製品はウエスタンデジタルに引き継がれています。
また、データセンター向けラックマウント型のプラットフォーム製品でもスピードを求める用途ではやはりSSDが求められるため、JBODなどサーバー向け製品の一部にもサンディスク製SSDが使われています。ブランドの整理や名称変更は当然検討はしていますが、いつどういう風に変わりますというのはまだ未定です。
――先にも話されていた通り、ウエスタンデジタルのHDDと言えば、WD RedならNAS向けなど用途別にカラー分けしたブランドが有名ですが、これも今後変わらないのでしょうか。
西尾 基本路線は変わりません。個人向けPCでのHDD需要は落ち気味ですが、バックアップ用途として需要はまだまだ強いのでPC向けのWD Blueは残っていくでしょう。
ちなみに、数カ月前某社さんがNASキットのクラウドファンディングを開始しましたが、その時に弊社HDDのAmazonでの販売数がぐんと上がっていて、NAS向けHDDが注目されてきていると感じています。そのため、NAS向けであるWD Redは2025年も好調に推移すると見ています。
――2015年から2016年に高信頼性ドライブとして大ヒットしたWD Red再びという感じですね。
西尾 WD Redは世界初のNAS専用HDDという謳い文句で発売したんですが、日本ではHDDがあらかじめ組み込まれたNASが中心だったので、最初はあまり売れていなかったんです。しかし、24時間365日動作を保証しますとアピールをすることで、安心感の高いHDDという認識が生じ、それがウワサで広まって人気につながりました。
秋葉原でアンケートを取ると、TVの24時間録画用でずっと動かしっぱなしなので、WD Blueに比べて数千円高いぐらいだったらWD Redの方がいいという意見もありました。当時はWD Blueとの価格差が小さかったので、手が出しやすかったようです。
――今HDDはデータセンター向けが中心だとは思いますが、個人向けの市場もまだまだ成長すると考えているのでしょうか。
西尾 成長すると思います。日本ではデータはクラウドよりもNASに置いておきたいという考えの人が多いと考えていて、NASの市場もまだまだ伸びる余地があります。
また、WD Blueの8TBモデルが2024年末から非常に売れています。Amazonで外付けケースとのバンドル販売も行なっていて、それも売れています。バックアップ用途で使われていますね。
参考までに、コンシューマではないんですけど、カラオケがどんどん進化しているようで、かなり容量の大きいHDDが採用されたりなど、日本は独自のHDDニーズがあります。
他方、アジアではセキュリティ対策を国を挙げて行なっていることもあって、監視機器向けのWD Purpleが人気です。日本では海外メーカーのセキュリティ製品がそのまま販売されることが多いため、WD Purple単体の売れ行きは他の国に比べると低くなっています。それでも少しずつ増えてはいるので、ゆっくり成長させていきたいと思っています。
――日本ではWD Blueが一番人気なのでしょうか。
西尾 そうです。WD Blueでは8TBが人気です。日本では、4TB、8TB、16TBとか、4の倍数の容量が人気です。あとユーザーさんはGB単価を非常によく見ていますね。GB単価が安くなると売れ方が一気に伸びます。大容量モデルについては、年に何回かあるAmazonなどのビックセールを狙って買ってらっしゃる感じがします。
WD Blueの好調さも貢献して、BCN AWARD 2025においておかげさまで10度目、4年連続の受賞をする事ができました。昨年(2024)度のシェア52.4%という結果は、ウエスタンデジタルのHDDが信頼されている証拠でもあるかと思っております。
今後のHDD大容量技術
――HDD高密度化についてはHAMRなどの技術も登場していますが、大容量化はどこまで進むのでしょうか。
西尾 他社ではHAMRを30TBのHDDから採用していますが、我々はHAMRの本命は40TBからだと見ています。それまではOptiNAND(※1)、UltraSMR(※2)などの技術を使って既存のHDDをベースに40TBまで持って行きます。40TBが出てくるのは2026年後半の予定で、そこに向けてHAMRの開発を進めています。
現在、生成AIのニーズは非常に高まっていますが、ストレージにはその恩恵はまだ来ていないんですね。現在恩恵が大きいのはGPUサーバーです。まずはどんどんデータを生成して、その後に保管するものが必要になるので、そこでストレージの需要が伸びると考えています。
そのタイミングは2026年の後半に来ると見込んでいて、そこに照準を合わせてHAMRを使った大容量HDDを開発をしているわけです。HAMRの生産は部材を全部変える必要があるので、まだ40TBなどのニーズが低い今生産すると、価格は高くなります。2~3年後の需要が大きくなったタイミングなら、ちょうどいい価格で出せると見込んでいます。
そして、2030年には100TBを発売し、それ以降は新しい技術での大容量化を考えています。
※1 HDDと組み込みフラッシュドライブ「iNAND」を組み合わせて容量、性能、信頼性を向上させる技術
※2 独自のエラー訂正アルゴリズムにより、1インチあたりのトラック数を増やして従来のSMRよりも大容量化を実現したもの
――ユーザーは容量単価に敏感とのことでしたが、容量単価を意識してSMR技術(※)を採用するモデルが増える予定なのでしょうか。
※ 記録トラックの一部が重なるように新しいデータを書き込んでいくことで記録密度を高める技術
西尾 クライアント向けとエンタープライズ向けで方向性は異なります。エンタープライズ、いわゆるデータセンター向けは大容量が求められているので、CMRだけではなくUltraSMRといった技術も使っていきます。
一方でクライアント向けではSMRは基本的に採用しません。WD RedでSMRモデルがありましたが、現在生産しているWD Red PlusはCMR製品になっています。というのも、通常利用では問題ないのですが、口コミでSMRは性能が低いという認識が広まってしまったためです。
当時は1プラッタが1.6TBで、これ以上の容量にするにはSMRを使うしかありませんでした。しかし、その後2TBのプラッタが登場し、CMR(※)で大容量化できるようになったのも大きかったですね。現在は、3.5インチのHDDに11枚のプラッタを入れる技術ができて、CMRで26TBを実現しています。これが可能なのは現在ウエスタンデジタルだけです。
サイズが決まっている3.5インチのHDDに詰め込むには、プラッタやそれを読み取るヘッドを薄くしたり、空気の代わりにヘリウムを充填して空気抵抗を減らしたり、振動を少なくするなど、多くの技術や工夫が盛りこまれています。SSDに比べるとはるかに精密な機械です。
プラッタとヘッドの関係でよく言われるのが、“ジャンボジェット機が地上1mm以下の高さを低空飛行しているのと同じような状況”です。それぐらいスレスレの状態で高速回転するプラッタとヘッドが触れることなく制御させられるほど高度な技術が、数万円の製品に採用されているのは驚異に感じられるほどです。
※ 一般的な磁気記録方式
――今後のウエスタンデジタルで期待してほしいことを教えてください。
西尾 ビジネスシーンを見ると、2023年から2028年の5年で生成されるデータ量は3倍増えると言われています。そのためデータセンター向けHDD市場はまだまだ伸びていきますし、大容量化もしていきます。
個人向けでも、容量が必要な動画制作をする人が増えています。現在は個人向けの売れ線は2TBとか4TBが中心になっていますが、今後はもっと大容量を求めるようになると思います。
それを見込んで個人向けの大容量モデルも発売予定となっています。冒頭でお話したようにバックアップドライブとして大容量のHDDに需要があることは分かっているので、積極的に販売していく予定です。GB単価も含めて、期待してほしいですね。
後は、NAS向けで容量を求める人にはWD Red Proに注目してほしいと思っています。高価ですが24TBの大容量モデルを用意しています。今後も大容量化を進めますので、期待してください。