福田昭のセミコン業界最前線

中国の半導体産業、低い自給率と巨大な貿易赤字の緩和が課題

~SEMICON CHINA 2018講演会レポート

講演会「Win-Win: Build China's IC Ecosystem」の会場。展示会場に隣接したホテル「Kerry Hotel Pudong Shanghai(上海浦东嘉里大酒店)」の宴会場が、「SEMICON CHINA 2018」の講演会に使われた

 半導体の製造技術と材料技術に関する世界最大規模の展示会「SEMICON CHINA 2018」(2018年3月14日~16日、中国・上海)は、「フォーラム(Forum)」と呼ぶ講演会を併催している。

 3月15日には「Win-Win: Build China's IC Ecosystem」と題する、“中国の半導体産業と周辺産業をいかに育成していくか”をテーマにした講演会と、「SIIP China: Tech Innovation and Investment Forum - China 2018」と題する“中国半導体の技術革新と投資”に関する講演会が開催された。

 本稿では、2つの講演会で発表された内容を通し、中国の半導体産業の「現在」をご報告する。

世界最大の半導体消費国となった中国

 まず、半導体の需要国として中国を見よう。中国は現在、世界最大の半導体消費国である。

 中国で最大のシリコンファウンダリ(半導体前工程の請け負いサービス企業)である、SMIC (Semiconductor Manufacturing International Corp.)のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるJason Li氏の講演によると、2017年に中国は世界の半導体消費(金額ベース)の44%を占めたと推定される。金額は1,764億ドルである。

 約10年前の2006年には中国のシェアは26%、さらに6年前の2000年には、中国のシェアは7%に過ぎなかった。この20年近くに間に、急激にシェアを伸ばしてきたことが分かる。

 そして3年後の2021年も中国のトップシェアは揺るがない。世界の半導体需要の45%を中国が占め、金額は2,093億ドルに達すると予測されている。

世界の国・地域別半導体市場の推移。赤色は中国、水色は米国、黒色は日本、灰色はその他の地域。円グラフ中央の数字は中国の半導体市場規模(金額単位は億米ドル) 出典: SMICのJason Li氏による講演スライドから

 半導体需要が巨大化した大きな理由は、中国が電子機器における世界最大の生産国となったことだ。

 生産の数量ベースで見ると、スマートフォンの75%、メディアタブレットの80%、ノートPCの90%、デジタルTVの50%、ディスプレイの90%、セットトップボックスの60%を中国が占める。

 そしてシェアの動きとしては、スマートフォンとメディアタブレット、ノートPCはさらに上昇し、デジタルTVとディスプレイは横ばい。セットトップボックスだけが減少傾向となっている。

主要な電子機器の生産数量と中国のシェア。電子機器は左から、スマートフォン、メディアタブレット、ノートPC、デジタルTV、ディスプレイ、セットトップボックス。グラフの左縦軸(生産台数)の単位は100万台、棒グラフの黒色の部分が中国、灰色の部分がその他。右縦軸(中国のシェア)の単位は% 出典: SMICのJason Li氏による講演スライドから

IC消費に占める中国ブランド企業の割り合いはおよそ半分

 2008年と2016年の中国におけるIC(集積回路)消費金額を比較した数字もある。2008年に中国のIC消費金額は792億ドルだったのが、2016年に1,530億ドルと2倍近くに拡大した。

 IC消費の内訳は、中国ブランドの企業と外国ブランドの企業に分けられる。中国ブランドの企業(電子機器メーカー)によるIC消費金額は、2008年が270億ドルで全体の34%を占めた。2016年には、中国ブランド企業による消費は710億ドルとなり、2008年の2.6倍に増えて、全体の46%を占めるようになった。中国ブランド企業の割り合いが増加している。

中国IC市場の概要(2008年と2016年の比較)。下が2008年、上が2016年。棒グラフは下から、IC消費金額、中国ブランド企業による消費金額、中国半導体設計企業の売上高、中国シリコンファウンダリの売上高。金額単位は10億米ドル 出典: SMICのJason Li氏による講演スライドから
中国エレクトロニクス企業の相関図。上段はシリコンファウンダリ企業、中段は半導体設計企業、下段は電子機器メーカー 出典: SMICのJason Li氏による講演スライドから

自給率(生産/需要)は15%以下にとどまる

 前述の統計によると、IC消費金額に占める中国半導体企業の割り合いはまだ小さい。中国の半導体設計企業全体の売上高は、2008年に42億ドル、2016年に180億ドルである。IC消費額全体に占める比率は、それぞれ5.3%、11.8%に過ぎない。

 また、中国の大手シリコンファウンダリHLMC(Shanghai Huali Microelectronics Corp.)でマーケティング部門代表を務めるJames Yang氏は、米国の市場調査会社のデータを引用しながら、中国のIC需要金額に占める中国のIC生産金額の割り合い(自給率)は、2017年に13.3%とかなり低い水準にとどまっていると述べていた。自給率は3年後の2021年でも16.7%と予測されており、自給率のさらなる向上が課題となっている。

中国のIC需要金額と中国のIC生産金額の推移。金額単位は10億米ドル。自給率(生産/需要)は2012年に10.8%だったのが、2017年には13.3%に増加した。2021年には16.7%に上昇すると予測する 出典: HLMCのJames Yang氏による講演スライドから

IC分野で1,000億ドルを超える巨額の貿易赤字がなおも拡大中

 巨大な半導体需要を満たせる生産がないということは、半導体需要の大半を輸入に頼っていることを意味する。中国では、ICの輸入金額が輸出金額をはるかに上回る状態が続いている。

 中国は、国全体では巨額の貿易黒字を生み出している。しかし、2つの分野で巨額の貿易赤字を計上している。

 その1つがIC(集積回路)であり、もう1つが石油である。IC貿易の赤字額は、2015年の時点で1,614億ドル(約17兆7,000億円)に達しており、しかも増加傾向にある。2017年には、年間の貿易赤字が2,000億ドル近くに達している模様だ。

 ちなみに、2015年のIC輸入額は2,307億ドル、IC輸出額は693億ドルである。参考までに、2015年の石油の輸入額は1,612億ドル、輸出額は224億ドルとなっている(石油の数値は国連貿易開発会議のデータで、石油製品を含む)。

中国のIC輸入額(青い棒)とIC輸出額(赤い棒)、貿易赤字(緑の折れ線)の推移。金額単位は10億ドル 出典: HLMCのJames Yang氏による講演スライドから

20%近い成長を続ける中国の半導体企業

 自給率は低く、貿易赤字は巨大である。ただし、中国の半導体企業による売り上げや生産などは、20%を超える年間成長率で伸びている。

 中国の半導体需要がかなりの勢いで成長しているために、中国内の半導体企業が生産を増やしても、需要の拡大をあまり追い越せない。このように見える。

 たとえば、2017年から2021年までの年平均成長率は、IC需要が8%であるのに対し、IC生産は13%だと予測されている。そして自給率は2017年の13.3%から、2021年には16.7%に増加する。つまり今後少なくとも3年の間は、自給率は大幅に増えないことが分かる。

 中国の半導体企業は、設計企業(自社ブランドあるいは相手先ブランドの半導体を設計する企業)、シリコンファウンダリ企業(製造の前工程、シリコンウェハへの回路の作り込みを請け負う企業)、OSAT企業(Outsourced Semiconductor Assembly and Test/製造の後工程、パッケージの組み立てとテストを請け負う企業)に分けて考えられることが多い。

 言い換えると、設計と製造の両方を備えた垂直統合型の企業が、中国にはあまり存在しない(中国の設計拠点や生産拠点などの外国企業の中国法人、中国企業であってもまだ売り上げの極めて少ない企業は除く)。

 そこで中国の政府や業界団体などの統計では、半導体産業を「設計」、「ファウンダリ」、「OSAT」に分け、これらの売り上げの単純合計を中国半導体産業の売り上げあるいは規模と見なすことが多い。

 この数値には、外国資本の現地法人や、外国資本との合弁企業の売り上げが含まれる。また単純合計なので、付加価値の差し引きがない。

 たとえば設計企業の売り上げには、ファウンダリ企業に支払った経費が含まれており、ファウンダリ企業の売り上げと単純合計すると、付加価値の二重計上になる。このため、数字がどうしても大きくなってしまう。

 このような問題があることを承知の上で、中国の半導体産業の規模(売り上げ金額)を見ていく。

 中国の半導体研究開発ではトップクラスの大学である清華大学(Tsinghua University)で教授を務めるWei Shaojun氏は講演で、中国の半導体産業の販売額は、2004年から2017年までの14年間に年平均成長率(CAGR)19.31%で拡大し、2010年から2017年の7年間に限ると、年平均成長率20.82%で拡大したと述べた。

中国半導体産業の販売額推移(2004年~2017年)。金額単位は億元。2017年には前年比24.8%増と大きく成長して、5,411億元(1元=0.15ドル換算で812億ドル)に達した 出典: 清華大学のWei Shaojun教授による講演スライドから

事業規模は「設計」、成長率は「ファウンダリ」が大きい

 中国の半導体産業を「設計」、「ファウンダリ」、「OSAT」に分けると、売り上げでは「設計」が大きく、次いで「OSAT」、それから「ファウンダリ」となる。

 2017年における「設計」分野の売上高は、前年比26.1%増の2,073.5億元(約311億ドル)。「OSAT」分野の売上高は、同20.8%増の1,889.7億元(約283億ドル)、「ファウンダリ」分野の売上高は、同28.5%増の1,448.1億元(約217億ドル)となっている。成長率では「ファウンダリ」分野が高い。

中国半導体産業の分野別売り上げ(2016年~2017年)。棒グラフは左から右へ「設計」、「OSAT」、「ファウンダリ」の順。左右2本の棒グラフで左の橙色は2016年、右の水色は2017年。金額単位は億元。折れ線グラフは2017年の成長率 出典: 清華大学のWei Shaojun教授による講演スライドから

 過去からの売り上げ推移と現在の企業所在地を分野別に説明すると、設計分野の売り上げが著しく伸びていることが分かる。1999年から2017年までの年平均成長率は43.8%に達する。しかも、ほぼ1本調子で急激に伸びてきた。

 中国系設計企業の所在地は、4つの地域に集中している。深セン(および厦門、泉州など)地域、上海(および南京、合肥、杭州など)地域、北京(および大連、天津など)地域、中西部(武漢や成都、西安など)である。

 売上高でみると深セン地域がトップで、上海地域が並ぶ。中西部はまだこれからという段階にある。

中国半導体設計企業の売上高推移(左、1994年~2017年)と設計企業が集中している地域(右)。売上高推移の金額単位は億元。折れ線グラフは成長率の推移。設計企業が集中している地域の数字は、地域別の売上高(単位は10億元)。深セン地域の売上高が最も多く、次いで上海地域となっている 出典: 清華大学のWei Shaojun教授による講演スライドから

 つづいてOSAT分野である。OSAT分野の売上高は、2008年~2017年の年平均成長率が13.5%と、かなり順調に伸びてきた。中国の半導体産業は、初期にはOSATに代表されるパッケージ組み立て分野で事業規模が拡大してきたという経緯がある。

 中国系OSAT企業の所在地は上海地域に集中している。そのほか、深セン地域と中西部(西安など)にOSAT企業が存在する。

中国半導体OSAT企業の売上高推移(左、2008年~2017年)とOSAT企業(外国系を除く)の所在地(右)。売上高推移の金額単位は億元。折れ線グラフは成長率の推移。OSAT企業の所在地は、始めが地域名、次が企業名。上海地域に数多くの中国系OSAT企業が存在していることが分かる 出典: 清華大学のWei Shaojun教授による講演スライドから

 最後にファウンダリ分野である。ファウンダリ分野の売上高は、2010年代に入ってから急激に増加してきた。2008年~2017年の年平均成長率は15.6%である。中国系ファウンダリ企業と前工程の工場は、上海地域と北京地域に集中している。

中国半導体ファウンダリ企業の売上高推移(左、2008年~2017年)と前工程工場(外国系を除く)の所在地(右)。売上高推移の金額単位は億元。折れ線グラフは成長率の推移。前工程工場の所在地は、始めが地域名、次が企業名。上海地域と北京地域に前工程の工場が集中している。清華大学のWei Shaojun教授による講演スライドから
中国で半導体企業が集中している4つの地域。上海地域(緑色の地域、上海および南京、合肥、杭州など)、北京地域(赤色の地域、北京および大連、天津など)、深セン地域(青色の地域、深センおよび厦門、泉州など)、中西部(橙色の地域、武漢や成都、西安など)である 出典: Shanghai S&T Investment Co., Ltd.のゼネラルマネージャーとShanghai Integrated Circuit Industry Investment Fundの取締役会チェアマンを兼務するShen Weiguo氏の講演スライドから

 中国の半導体産業には現在、中央政府や地方政府、民間投資ファンドなどから多額の資金が流入している。また税制優遇措置が最近では延長された。

 中国の半導体産業がどのように変化つつあるのかについては、本コラムで改めて述べたい。