福田昭のセミコン業界最前線
中国の半導体産業、低い自給率と巨大な貿易赤字の緩和が課題
~SEMICON CHINA 2018講演会レポート
2018年3月29日 12:28
半導体の製造技術と材料技術に関する世界最大規模の展示会「SEMICON CHINA 2018」(2018年3月14日~16日、中国・上海)は、「フォーラム(Forum)」と呼ぶ講演会を併催している。
3月15日には「Win-Win: Build China's IC Ecosystem」と題する、“中国の半導体産業と周辺産業をいかに育成していくか”をテーマにした講演会と、「SIIP China: Tech Innovation and Investment Forum - China 2018」と題する“中国半導体の技術革新と投資”に関する講演会が開催された。
本稿では、2つの講演会で発表された内容を通し、中国の半導体産業の「現在」をご報告する。
世界最大の半導体消費国となった中国
まず、半導体の需要国として中国を見よう。中国は現在、世界最大の半導体消費国である。
中国で最大のシリコンファウンダリ(半導体前工程の請け負いサービス企業)である、SMIC (Semiconductor Manufacturing International Corp.)のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるJason Li氏の講演によると、2017年に中国は世界の半導体消費(金額ベース)の44%を占めたと推定される。金額は1,764億ドルである。
約10年前の2006年には中国のシェアは26%、さらに6年前の2000年には、中国のシェアは7%に過ぎなかった。この20年近くに間に、急激にシェアを伸ばしてきたことが分かる。
そして3年後の2021年も中国のトップシェアは揺るがない。世界の半導体需要の45%を中国が占め、金額は2,093億ドルに達すると予測されている。
半導体需要が巨大化した大きな理由は、中国が電子機器における世界最大の生産国となったことだ。
生産の数量ベースで見ると、スマートフォンの75%、メディアタブレットの80%、ノートPCの90%、デジタルTVの50%、ディスプレイの90%、セットトップボックスの60%を中国が占める。
そしてシェアの動きとしては、スマートフォンとメディアタブレット、ノートPCはさらに上昇し、デジタルTVとディスプレイは横ばい。セットトップボックスだけが減少傾向となっている。
IC消費に占める中国ブランド企業の割り合いはおよそ半分
2008年と2016年の中国におけるIC(集積回路)消費金額を比較した数字もある。2008年に中国のIC消費金額は792億ドルだったのが、2016年に1,530億ドルと2倍近くに拡大した。
IC消費の内訳は、中国ブランドの企業と外国ブランドの企業に分けられる。中国ブランドの企業(電子機器メーカー)によるIC消費金額は、2008年が270億ドルで全体の34%を占めた。2016年には、中国ブランド企業による消費は710億ドルとなり、2008年の2.6倍に増えて、全体の46%を占めるようになった。中国ブランド企業の割り合いが増加している。
自給率(生産/需要)は15%以下にとどまる
前述の統計によると、IC消費金額に占める中国半導体企業の割り合いはまだ小さい。中国の半導体設計企業全体の売上高は、2008年に42億ドル、2016年に180億ドルである。IC消費額全体に占める比率は、それぞれ5.3%、11.8%に過ぎない。
また、中国の大手シリコンファウンダリHLMC(Shanghai Huali Microelectronics Corp.)でマーケティング部門代表を務めるJames Yang氏は、米国の市場調査会社のデータを引用しながら、中国のIC需要金額に占める中国のIC生産金額の割り合い(自給率)は、2017年に13.3%とかなり低い水準にとどまっていると述べていた。自給率は3年後の2021年でも16.7%と予測されており、自給率のさらなる向上が課題となっている。
IC分野で1,000億ドルを超える巨額の貿易赤字がなおも拡大中
巨大な半導体需要を満たせる生産がないということは、半導体需要の大半を輸入に頼っていることを意味する。中国では、ICの輸入金額が輸出金額をはるかに上回る状態が続いている。
中国は、国全体では巨額の貿易黒字を生み出している。しかし、2つの分野で巨額の貿易赤字を計上している。
その1つがIC(集積回路)であり、もう1つが石油である。IC貿易の赤字額は、2015年の時点で1,614億ドル(約17兆7,000億円)に達しており、しかも増加傾向にある。2017年には、年間の貿易赤字が2,000億ドル近くに達している模様だ。
ちなみに、2015年のIC輸入額は2,307億ドル、IC輸出額は693億ドルである。参考までに、2015年の石油の輸入額は1,612億ドル、輸出額は224億ドルとなっている(石油の数値は国連貿易開発会議
20%近い成長を続ける中国の半導体企業
自給率は低く、貿易赤字は巨大である。ただし、中国の半導体企業による売り上げや生産などは、20%を超える年間成長率で伸びている。
中国の半導体需要がかなりの勢いで成長しているために、中国内の半導体企業が生産を増やしても、需要の拡大をあまり追い越せない。このように見える。
たとえば、2017年から2021年までの年平均成長率は、IC需要が8%であるのに対し、IC生産は13%だと予測されている。そして自給率は2017年の13.3%から、2021年には16.7%に増加する。つまり今後少なくとも3年の間は、自給率は大幅に増えないことが分かる。
中国の半導体企業は、設計企業(自社ブランドあるいは相手先ブランドの半導体を設計する企業)、シリコンファウンダリ企業(製造の前工程、シリコンウェハへの回路の作り込みを請け負う企業)、OSAT企業(Outsourced Semiconductor Assembly and Test/製造の後工程、パッケージの組み立てとテストを請け負う企業)に分けて考えられることが多い。
言い換えると、設計と製造の両方を備えた垂直統合型の企業が、中国にはあまり存在しない(中国の設計拠点や生産拠点などの外国企業の中国法人、中国企業であってもまだ売り上げの極めて少ない企業は除く)。
そこで中国の政府や業界団体などの統計では、半導体産業を「設計」、「ファウンダリ」、「OSAT」に分け、これらの売り上げの単純合計を中国半導体産業の売り上げあるいは規模と見なすことが多い。
この数値には、外国資本の現地法人や、外国資本との合弁企業の売り上げが含まれる。また単純合計なので、付加価値の差し引きがない。
たとえば設計企業の売り上げには、ファウンダリ企業に支払った経費が含まれており、ファウンダリ企業の売り上げと単純合計すると、付加価値の二重計上になる。このため、数字がどうしても大きくなってしまう。
このような問題があることを承知の上で、中国の半導体産業の規模(売り上げ金額)を見ていく。
中国の半導体研究開発ではトップクラスの大学である清華大学(Tsinghua University)で教授を務めるWei Shaojun氏は講演で、中国の半導体産業の販売額は、2004年から2017年までの14年間に年平均成長率(CAGR)19.31%で拡大し、2010年から2017年の7年間に限ると、年平均成長率20.82%で拡大したと述べた。
事業規模は「設計」、成長率は「ファウンダリ」が大きい
中国の半導体産業を「設計」、「ファウンダリ」、「OSAT」に分けると、売り上げでは「設計」が大きく、次いで「OSAT」、それから「ファウンダリ」となる。
2017年における「設計」分野の売上高は、前年比26.1%増の2,073.5億元(約311億ドル)。「OSAT」分野の売上高は、同20.8%増の1,889.7億元(約283億ドル)、「ファウンダリ」分野の売上高は、同28.5%増の1,448.1億元(約217億ドル)となっている。成長率では「ファウンダリ」分野が高い。
過去からの売り上げ推移と現在の企業所在地を分野別に説明すると、設計分野の売り上げが著しく伸びていることが分かる。1999年から2017年までの年平均成長率は43.8%に達する。しかも、ほぼ1本調子で急激に伸びてきた。
中国系設計企業の所在地は、4つの地域に集中している。深セン(および厦門、泉州など)地域、上海(および南京、合肥、杭州など)地域、北京(および大連、天津など)地域、中西部(武漢や成都、西安など)である。
売上高でみると深セン地域がトップで、上海地域が並ぶ。中西部はまだこれからという段階にある。
つづいてOSAT分野である。OSAT分野の売上高は、2008年~2017年の年平均成長率が13.5%と、かなり順調に伸びてきた。中国の半導体産業は、初期にはOSATに代表されるパッケージ組み立て分野で事業規模が拡大してきたという経緯がある。
中国系OSAT企業の所在地は上海地域に集中している。そのほか、深セン地域と中西部(西安など)にOSAT企業が存在する。
最後にファウンダリ分野である。ファウンダリ分野の売上高は、2010年代に入ってから急激に増加してきた。2008年~2017年の年平均成長率は15.6%である。中国系ファウンダリ企業と前工程の工場は、上海地域と北京地域に集中している。
中国の半導体産業には現在、中央政府や地方政府、民間投資ファンドなどから多額の資金が流入している。また税制優遇措置が最近では延長された。
中国の半導体産業がどのように変化つつあるのかについては、本コラムで改めて述べたい。