イベントレポート

半導体設備投資額で台湾・米国を抜き2位に躍り出る中国

~世界最大の半導体製造展示会「SEMICON CHINA 2018」レポート

SEMICON CHINA 2018の概要。公表資料を基に筆者がまとめた

 半導体の製造技術と材料技術に関する世界最大の展示会「SEMICON CHINA 2018」が中国の上海ではじまった。会期は2018年3月14日~16日、会場は上海新国際展示場である。

 主催者発表の速報値によると、来場登録者の数は約7万人で、前年の約69,000人を早くも突破した(いずれも併催の展示会を含む)。初日である14日の開場直後には、セキュリティゲートの前に数多くの人が待機列を作るとともに、セキュリティゲートを通過した直後にある来場者登録所は大混雑となった。

SEMICON CHINA 2018に入場するためにセキュリティゲートの順番を待つ来場者。正面の建物が入り口。あまりの人混みで前に進みづらい。2018年3月14日の午前9時30分ころに筆者が撮影
SEMICON CHINA 2018の来場者登録所。手前が登録票に記入所。奥が登録受け付け所。あまりの混雑に、床がほとんど見えない。2018年3月14日の午前10時ころに筆者が撮影
会場の建物。上海新国際展示場は、北棟(N)、東棟(E)、西棟(W)の建物群が正三角形を構成するように配置されている。SEMICON CHINA 2018は北棟のすべての建物(N1~N5)と、東棟の一部(E7)を使って開催した。2018年3月14日の午前10時過ぎに筆者が撮影
北1号棟(N1棟)付近から上海新国際展示場の中庭を望む。左手奥が東棟、右手端が西棟。風によって砂ぼこりが舞い上がっている。2018年3月14日の午前10時過ぎに筆者が撮影

中国の半導体産業に注目が集まる理由

 エレクトロニクス産業における中国の勢いは凄まじい。コンシューマ製品では世界最大の生産国であり、その反映として、世界最大の半導体消費国となっている。半導体市場の統計で最も信頼性が高いとされるWSTS(世界半導体市場統計)の公表データによると、昨年(2017年)に金額ベースで中国の半導体需要は世界全体の31.5%を占めた。もちろん単一市場では群を抜いてトップに付ける。金額は1,297億ドル、成長率は23%である(参考記事「2018年も半導体は面白い(後編)」)。

 しかし世界最大の半導体消費国であるにも関わらず、中国のローカル企業は世界の半導体市場であまり大きな地位を占めていない。それどころか、中国は半導体需要の大半を、輸入で満たしている。輸出はごくわずかで、極端な輸入超過の状態にある。

 そこで最近になって中国の中央政府や地方政府などは、半導体産業に積極的に資金を投入することにより、半導体の生産力と技術力の向上を支援している。たとえば最近では、世界の国・地域別の半導体設備投資額で、中国は台湾や米国などを抜いて第2位に躍り出た。トップの韓国に迫る勢いである。

 設備投資額が急増したことで、中国では20件を超える生産ライン(ファブと呼ばれる前工程のライン)が今後3年間で新規に立ち上がると言われている。そのほとんどは300mmウェハを扱う大規模なファブである。世界の半導体メーカーの中で、追加投資ではなく、新規の投資によって工場をゼロから建設している地域は、ほぼ中国だけだと言われれている。

中国の半導体産業が注目される理由

中国資本のファウンダリ企業とOSAT企業が出展

 設備投資の効果が実際の半導体生産となって現れるのは、3年後くらいだ。将来の話である。それでは中国の半導体製造は「今」、「現在」、どのようになっているのか。SEMICON CHINA 2018の展示会場には、その一端が明らかにされていた。中国資本のシリコンファウンダリ(半導体の前工程を請け負うサービス)企業と、中国資本のパッケージング請け負い企業(「OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業」とも呼ぶ)が、出展していたのだ。以下はこれらのローカル企業による出展概要をご紹介していく。

 最初は中国資本のシリコンファウンダリ企業である。最大手企業のSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corp.)、大手企業のHLMC(Shanghai Huali Microelectronics Corp.)、中堅企業のHHGrace(Shanghai Hua Hong Grace Semiconductor Ltd.)などが展示ブースを構えていた。

量産の先端プロセスは28nm、将来は14nmへ移行

 SMICは、世界のファウンダリ企業の売上高ランキングでは、2016年に第4位に付けた(市場調査会社IC Insightsの2017年1月12日発表データ)。中国のローカル企業としては、最大規模で最先端の半導体製造ラインを備える。最先端の技術世代は28nmの多結晶シリコンゲートによるCMOSプレーナプロセスである。高誘電率メタルゲート(HKMG)のプロセスはまだ、提供していない。シリコンウェハの大きさでは300mmの生産ラインと200mmの生産ラインがある。

SMICの展示ブース

 展示ブースでは、半導体メーカーでは馴染み深いシリコンウェハの実物展示のほか、技術ロードマップや提供可能な製造技術、中国内外の生産ラインなどをパネルや液晶ディスプレイなどでアピールしていた。

技術ロードマップの展示。青色が量産中、オレンジ色が開発中、白色が計画中の技術ノード。MOSロジックが最も微細で28nm技術を提供している。次が埋め込みNANDフラッシュメモリ技術で38nmとなっているのが興味深い。中心世代は55nm技術のようだ。ロジックの14nm世代は計画中となっている
生産拠点(上)と生産能力(下)。本社所在地である上海のほか、北京、天津、深セン、それから欧州のイタリア(ファウンダリ企業をSMICが買収)に拠点がある。生産能力は200mmウェハが月産229,000枚、300mmウェハが月産95,000枚
半導体製造工程とSMICおよびパートナー企業の分担関係。世界中の企業と提携していることが分かる

 続いてHLMCとHHGraceである。両社はHuahong Group(华虹集团)と呼ぶ半導体製造の企業グループに所属している。Huahong Groupのファウンダリ事業は、2016年に世界の売上高ランキングで第8位に付けた(市場調査会社IC Insightsの2017年1月12日発表データ)。

 HLMCとHHGraceは、SEMICON CHINAに共同で出展していた。展示ブースでは生産ラインの現状と将来のパネル展示、ユーザー事例の実物展示、シリコンウェハの実物展示などを見せていた。

 生産ラインは最先端ノードが28nm、シリコンウェハは200mmと300mmであり、SMICとほぼ変わらない。2018年には28nmノードから14nmノードまでをカバーする、最先端の300mmウェハ工場(第6工場)を新しく立ち上げる。そして2019年には、成熟している技術世代の300mmウェハ工場(第7工場)を新しく竣工する計画である。

生産工場の一覧とロードマップの説明パネル。左が過去、右が将来という時系列になっている。現状の生産能力は200mmウェハが月産168,000枚、300mmウェハが月産35,000枚にあと少しで届く、という段階である
シリコンウェハの実物展示例。28nmの多結晶シリコンゲートプロセスで回路を作り込んだ300mmウェハ
HHGraceが提供する技術ロードマップの説明パネル。黄緑色の丸が量産中のプロセス。かなり成熟したプロセスが主流であることが分かる
HLMCが提供するCMOSロジック技術の説明パネル。黒丸が量産中、白丸が開発中である。HHGraceに比べると微細化を指向していることが分かる
ユーザー事例の展示。金融機関向けのICカード用シリコンダイ。90nmプロセスの埋め込みEEPROM技術と埋め込みフラッシュメモリ技術を提供した

世界第3位と世界第7位の中国OSAT企業

 中国資本のパッケージング請け負い企業(OSAT企業)では、JCET(Jiangsu Changjiang Electronics Technology Co., Ltd.)と、TFME(Tongfu Microelectronics)が出展していた。

 JCETは中国で最大規模のOSAT企業であり、OSAT企業の売上高ランキングで2017年に世界第3位に付けている(市場調査会社TrendForceの2017年10月18日公表データによる)。JCETは2015年にシンガポールのOSAT大手STAS ChipPACを買収したことで、2016年に世界第3位のOSAT企業となった。

 JCETは展示ブースで、提供している主なパッケージング技術や生産拠点などをパネルで説明していた。

JCETの展示ブース。奥にパッケージング技術の説明パネルが見える
提供しているパッケージング技術の説明パネル

 そしてTFMEは中国で第3位のOSAT企業であり、売上高ランキングでは2017年に世界第7位につける(同上)。同社も展示ブースでは、提供しているパッケージング技術や企業の沿革などをパネル展示していた。

TFMEの展示ブース
TFMEの歴史を説明したパネル。TFMEは、富士通の中国法人と中国の地元資本の合弁企業として1997年に設立された