■槻ノ木隆のPC実験室■
iPadの発売前後から、急速に流行し始めたのが「手元の書籍を裁断、スキャンしての取り込み」。「自炊」なる言葉も広く使われるようになり(なんで自炊なのかは筆者もよく知らない)、そろそろこうした形での取り組みを考慮する人も多いだろう。実のところ筆者も、ScanSnap!の初期の製品をレビューした頃から、紙の資料は片端からスキャンして取り込んでおり、もうかれこれ7年以上こんな事をやっていることになる。このマーケットで一番使われているのは間違いなく富士通(旧PFU)の「ScanSnap!」シリーズであり、「S1500」と「S1300」の2製品が広く利用されているのはご存知の通りだ。
このマーケットに向けてエプソンが6月3日に発表されたのが「ES-D200」である。性能的には最大600dpiの読み取り性能で、読み込み速度は最大25枚/分(ScanSnap! S1500は公称20枚/分)、大きさもほぼ同等でる。価格についてはどちらもオープンプライスであるが、ScanSnap! S1500がPFUダイレクトで49,800円、対するES-D200はやはりEPSON Direct SHOPで44,980円であり、さらに会員になると10%分のポイント還元。加えて先着100台限りでハーゲンダッツアイスクリームミニカップギフト券が付いてくるという、良く判らないキャンペーンまで行なわれている。明らかに先行するScanSnap! S1500を狙い撃ちする意図がありありとわかる製品である。そんな訳で今回はまだ発売前であるが、製品を試用する機会に恵まれたので、早速レポートしてみたいと思う。
なお、今回の製品は発売前の試作機で、実際の製品とは異なる部分もあるので、あらかじめご了承いただきたい。
パッケージはS1500より一回り大きく(400×295×325mm、幅×奥行き×高さ、実測値)、重さも6kgを超えていた。もちろん取っ手はついているが、女性が店頭で購入し、持ち帰るにはきつい重さである。内容物は本体のほかACアダプタとケーブル、説明書とキャリアシートといった、基本的なものである(写真1)。
本体寸法は303×202×213mm(同)、重量は実測で5,079gである。設置面積そのもので言えば、ScanSnap! S1500が292×159mm(幅×奥行き)なので、若干奥行きがある程度だが、絶対的な高さが5cm以上違う上にデザイン上の違いもあり、ScanSnap! S1500よりも一回り大きな印象を受ける(写真2)。ちなみに上蓋が給紙トレイになっている点は、ScanSnap! S1500と同じである(写真3)。側面はこんな形で(写真4)、角度をつけてはいるものの、絶対的な高さがかなりあることがわかる。排紙トレイは本体下部から引き出す方式である(写真5)。一方背面はこんな具合で、必要最小限のもののみが用意されている(写真6)。
総じて「ごつい」という印象は免れないのだが、これは思うに上位機種であるES-D400と筐体やフレームを共用したからではないか、と思う。こちらは読み取り速度も倍で、という事は当然紙送りモーターもそれなりのパワーがあるものが搭載されるから、このクラスの筐体になるのは致し方ないところであろう。
スキャンメカニズムも概ね同等である。600dpiのラインCCDが2つ装備され、この間を紙送りすることで、両面を同時に読み取る仕組みである(写真7)。分離パッドはやはり消耗品ということで、簡単に取り外しできるようになっている(写真8)ほか、紙送りローラーもワンタッチで交換できる(写真9)。
●使い勝手はやや独特
さて、ES-D200を使ってスキャンを行なう場合、方法は2種類ある。1つは「EPSON Scan」を使う方法、もう1つはES-D200のフロントパネルのボタンを使って操作する方法だ。後述のように、ES-D200に関してはEPSON Scanを使ってスキャンを行なうほうが便利であり、そこでまずこちらから説明したい。
EPSON SCANを立ち上げると、こんな画面が出現する(写真10)。スキャンにまつわる諸々の設定は、ほぼこの画面から全て行なえる(写真11~23)。
もう1つは、ES-D200のフロントパネルのボタン(写真24)を押す方法であるが、こちらは「EPSON Event Manager」(写真25)と連動する形である。このEPSON Event Managerはタスクトレイに常駐し(写真26)、アイコンの右クリックでEPSON Event Managerの設定を呼び出すこともできる(写真27)。
さてそのEPSON Event Managerであるが、微妙に設定がEPSON Scanと異なっているのがちょっと気になる。大雑把にはほぼ同等の設定ができるのだが(写真28~34)、細かいところで差があるのが気になるのだ。特に用紙設定で自動が使えないのが非常に痛い。例えばこのままだとレターサイズのものは無条件で端が切れることになってしまうわけだ。
ちなみに動作設定では任意のアプリケーションを起動できるようにする事もできるが、そのためにはこんな形でパラメータを設定する必要がある(写真35)。せめて同梱されるAcrobat Standardくらいは一発で起動できるようになっていればいいのに、と思わなくも無い(ちなみに初期状態では「保存のみ(なにもしない)/フォルダを開く/Eメール」の3つのみが用意される。
設定が終わると、本体のLCDにもこれが反映されたことが示される(写真36)が、この反映作業はEPSON Event Managerを閉じた際に行なわれる。つまり設定画面が開いたままでは反映されないので注意が必要だ。
で、実際の操作であるが、EPSON Scanを立ち上げている場合には「スキャン」ボタンを押してもいいし、本体のスキャンボタンを押してもよい。どちらでも同じようにスキャンが可能である。問題はEPSON Scanを立ち上げていない場合で、この場合は本体のスキャンボタンを押すことでスキャンが出来るのだが、毎回ボタンを押すごとにスキャンナビ画面が立ち上がり(写真37)、ここでEPSON Event Managerを選ばないとスキャンが始まらないという不思議な設定となっている。本体のボタンを押すだけでスキャンが始まって欲しいのだが、実際にはマウス操作が必要になるわけだ。
ちなみにEPSON ScanとEPSON Event Managerであるが、相性が悪いというか連携が取れていないというか、不思議な事になりやすい。例えばEPSON Scanの画面を開いた状態で写真27の方法でEPSON Event Managerを開こうとすると、こういうエラーになる(写真38)。ここで「いいえ」を押して起動すると、設定画面はこんな具合になる(写真39)。もちろんEPSON Scanを閉じてから起動しなおせばちゃんと開くから実害は無いといえば無いのだが、根本的なところで作り方に疑問を感じなくも無い。
もう1つ使い勝手で問題なのは、進行状況のダイアログである(写真40)。このダイアログ、1ページごとに現れては消え、現れては消えるために、非常にうるさい。しかも、解像度が高い(概ね300dpi程度)だと、まだ現れている時間の方が長いので現在何ページ目をスキャン中か読み取れるのだが、解像度が低い(~100dpi)場合は殆ど読み取ることが不可能である。このあたりは、ソフトウェアのアップデートで多少なりとも改善されることを強く期待したいところだ。
●読み取り性能比較
では、実際に読み取り速度と取り込んだ画質比較をしてみたい。取り込みに使ったハードウェアは、以前のScanSnap! S1300の時と同じく
・CPU:Core i5-750
・メモリ:DDR3-1333 2GB×2
・マザーボード:ASUSTeK P7P55D
・ビデオカード:ATI Radeon HD 3850
・HDD:HGST Deskstar P7K500(HDP725050GLA360)
・OS:Windows 7 Ultimate日本語版 64bit
である。OSはまぁ64bitがちゃんと動けば32bitは省いてもよかろう、ということで64bit版のみを確認している。テスト項目も同じで
(1) インプレスジャパン「DOS/V POWER REPORT」2008年1月号の特集1(カラー両面60ページ)
(2) 「Intel 64 and IA-32 Intel Architecture Software Developer's Manual Volume 3A:System Programming Guide、 Part 1」のChapter 3の50ページ分(レーザープリンタ打ち出しで、片面50ページ。ただし1枚白紙ありで実質49ページ)
(3) 300dpiモノクロで印刷したビビちゃんとワーズさん
の3つである。ES-D200は最大25枚/分の読み取り性能を持っている、ということでこれが実証できるか、を確認してみたいところだ。ただこの25枚/分というのは、測定条件のページでは「2枚目の給紙から最終ページの排出まで」という、純粋にスキャンの時間である。一方筆者がこれまで使ってきたのは、「スキャンボタンを押す(or アプリケーションで起動を掛ける)」→「取り込んだ画像がPDFとしてAcrobat Readerに表示される」までの時間であり、なので筆者の測定する数値の方が長くなる要素を含んでいることにご注意いただきたい。
(1) カラー原稿30枚(60P)
まずはA4のカラー印刷の取り込みである。ここではEPSON Event Managerを使った関係で
・スキャン設定:雑誌
とした上で、
・イメージタイプ:カラー
・用紙サイズ:A4
・画質調整:文字くっきりのみチェック
・テキスト検索可能なPDFを作成する:なし
・書類原稿を最適な方向に回転する:あり
といったオプションを選んだ。ちなみにEPSON Event Managerでは白紙ページの自動削除とか傾き補正を実行することができないのも、ちょっと残念である。
さて、結果は表1の通りだ。ちなみに高圧縮は600dpiではサポートされないので、600dpiのみ標準画質のみである。
【写真41】これは、後で出てくる雑誌まるごと取り込みのケースでの処理中のもの |
ここで取り込み時間1と2があるのは何か? という話だが、上の条件でテストを行なうと、まず写真40のようなダイアログを出しながら全ページのスキャンを行なった後、今度は写真41のようなダイアログが出て、これが消えて初めてAcrobat ReaderにPDFが表示される。そこで、
・取り込み時間1:スキャン開始~PDF表示までの時間
・取り込み時間2:スキャン開始~写真40の「進行状況」ダイアログが消えるまでの時間
としてそれぞれ測定したものだ。実際、解像度が低いと両者の時間差はあまりない。ところが、600dpiともなると取り込みが7分なのに、その後の保存に6分というしゃれにならない時間が掛かっており、これは何か変だ、ということになる。
結論から言うと、この時間差は「書類原稿を最適な方向に回転する」オプションに起因する。つまりES-D200はいったん全ページを読み込んだ後、改めてページを先頭から確認して回転処理を行なっているらしい。この処理が馬鹿にならない時間だったという話だ。実際このオプションを外すと、600dpiの場合でも時間差は1分未満に短縮された。しかも向きの誤認識ページは表でわかるとおりかなり多い。正直、もう少し精度が上がるまではこの回転機能は外し、後で必要に応じてAcrobatの中で回転させるほうが良いだろう。
それはそれとして、取り込み性能である。とりあえず回転処理を抜いた、取り込み時間2の数値で見ていただければわかるが、200dpiの場合で概ね12枚/分弱といったあたり。カタログ性能の25枚/分の半分といったところだが、実質的にはこのあたりだろう。実際、筆者の測定法だと枚数が少ないほど不利になる。事実、次のテストでは200dpiで24枚/分の読み取り性能を示しており、オーバーヘッドの分を加味しない純粋な読み取り性能だけで言えば25枚/分にかなり近い結果になっている。大量の読み取りでなければピーク値は出ない、という事を念頭に置いておくのが良いということだろう。
ちなみに「快適に読み取れる」限界は300dpi。400dpiとか600dpiでは「かなり遅い」という印象は免れない。これは読み取り時間からも明らかである。まぁこれはScanSnap! S1500も同じで、スーパーファイン(300dpi)が常用できる限界だから、ほぼ同等といったところだ。
次は取り込み画質である。ファイルサイズを見ると、高圧縮では標準圧縮の半分~1/3のサイズに収まっているのがわかるが、画質を見ればこれも納得できる。75dpiとか100dpiはまぁ仕方ないとしても、200dpiとか240dpでも、文字はともかく画像は壊滅といったところ。特にエッジが溶けているとでもいうべき現象が300dpiでも目立つ(写真の上辺右側に注目)のだから、いくらなんでもこれは辛い。もっとも標準圧縮でも200dpi以下は、文字はともかく写真には辛いところ。どうにか見られるのは240dpiだが、出来れば300dpi程度は欲しいところだ。
【表1】(上から写真42~56)ただ、ほぼScanSnap! S1500における同条件(300dpi、カラー、圧縮率3)の結果と比較すると、若干甘さは目立つが、その分ファイルサイズも小さい(S1500が1,029.1KB/Page、ED-S200が656.4KB/Page)事を考慮すると、この取り込み結果は悪くないように感じられる。
【写真57】読み取り結果がこんな風になる場合、動作音も軋り音というか、なんか変な音が結構大きめにするのですぐにわかる。ちなみに同じページを再スキャンするとあっさり出来てしまうあたり、別に紙に問題があるという訳でもないようで、今回試用した限りではどんな条件でこれが発生するのか特定し切れなかった。ただ300dpi以下では今回試した限りでは1回も発生しなかった |
ちなみに300dpiまではほとんど目立たなかったのだが、400dpiを超えると時折こんな具合に、明らかに紙送りに失敗しましたといったページが出てくる(写真57)。この観点からも、ES-D200は300dpi以下で使うのがよさそうだ。
(2) 白黒原稿50枚(49P)
次はレーザープリンタで打ち出した片面印刷の英文ドキュメント50ページ(うち1Pは白紙)である。設定は先ほどとほぼ同じで、
・スキャン設定:書類
とした上で
・イメージタイプ:モノクロ
・用紙サイズ:A4
・画質調整:文字くっきりのみチェック
・テキスト検索可能なPDFを作成する:なし
・書類原稿を最適な方向に回転する:あり
となっている。残念ながら白紙ページの自動削除オプションが無いので、素直に片面スキャンを掛けている。
結果は表2の通りで、200dpiまで24枚/分、300dpiでも20枚/分強のスキャン速度となっており、このあたりは公称性能に近い。それでも400dpi以上からは途端に5枚/分を切る速度に落ちており、やはり実用に耐えるのは300dpi以下といったところ。
次に画質だが、表2でもわかるとおり標準圧縮と高圧縮でファイルサイズの差がほとんどない。当然画質もほとんど似たようなものになっている。こうなってくると、高圧縮の存在価値が問われかねないところ。カラーでは異様に圧縮が効き、白黒はほとんど無効果というあたり、もう少し高圧縮のパラメータを調整したほうが良いように思う。
さて、取り込み画質だが100dpi以下は判別不可能、150/200dpiは一応可読ながら、よく見ると“G”の横棒が消えていたりしている。300dpiともなるとちゃんと読めるようになっており、当然400/600dpiは綺麗な取り込みであるが、相応にファイルサイズも肥大化してくる。ファイルサイズはほぼ解像度に比例しており、なのであとはどのあたりなら満足できるかという問題になる。筆者的には、240dpi以上、出来れば300dpiといったところにしたい感じだ。
【表2】(上から写真58~72)(3) 白黒画像
最後は白黒画像である。さすがに1枚だけなので、取り込み時間は測定せず、ファイルサイズのみの比較である。こちらはEPSON SCANを使い、JPEGファイルへの出力としたが、モノクロ/グレースケール/カラーの3つのパターンで解像度だけ変えて取り込んでいる。また圧縮率はデフォルト値(16)のままで行なっている。
さて、結果を見るとちょっと面白いことがわかる。つまり、
・白黒にしても全然ファイルサイズが減らない。むしろ増えている
・グレースケールとカラーのファイルサイズが殆ど同じ
ことだ。1つ目については、これはJPEGを選んだのが悪いという話である。恐らくTIFFでランレングス圧縮を掛ければもっと小さくなるだろう(実際600dpiモノクロでTIFFを選び、CCITTグループ4圧縮を掛けるとファイルサイズは1,195.9KBまで縮んだ。JPEGのままだと14,089.6KBだから、いかにJPEGがこうした2値画像で効率が悪いかがわかる)。とはいえ、ES-D200でスキャンして画像で保存という場合、普通はJPEGビューアーを使う事が多く、TIFFには非対応なのは珍しくないから、TIFFを使えというのも現実的な解ではない気もする。やはりPNGをサポートして欲しいところだ。
さて、それはそれとしてグレースケールとカラーでデータ量が殆ど同じというのがさらに解せないところ。Photoshopなどで内部を見てみると、ちゃんとカラー画像はRGBカラー、グレースケールはグレースケールとされているから、グレースケールでも内部的にはRGPでデータを持っている、という訳ではないようだ。ただ、例えばカラーで取り込んだ画像をPhotoshopでグレースケール化して同じ条件で保存すると1割弱データ量が減るあたり、中のデータの持ち方が気になるところだ。
さて肝心の画質だが、やはり白黒だと600dpiですら影はほぼベタになってしまい、どうしても荒さが目立つ。グレースケール/カラーの場合でも、75/100dpiはかなり眠い画像になっており、またブロックノイズも目立つ。どうにかみられるのは150dpiで、200dpi以上はかなり綺麗と言って良い。その一方で400dpi以上だと、今度は先の写真57のように取り込み時のスタックが横線という形で画像に入ってくる。写真95とか写真96をご覧頂くとこれはわかりやすい。400dpiは、たまたま今回切り取った部分にはこれがないが、画像全体をみると数箇所に入っており、高画質を狙ったにも関わらずむしろ画質が落ちる結果になってしまっているのは残念である。とりあえずこうした画像(恐らく漫画雑誌を取り込むなんて場合がこれに相当する)を取り込む場合、200dpi~300dpiの間で解像度を選び、カラーがグレースケールを選択するのが吉だろう。ここまでデータ量に差がないのなら、もうカラーのままでいいのでは? というのが筆者の見解である。
【表3】(上から写真73~96)●雑誌丸ごとスキャン
さて、ここまではややネガティブなことを書いてきたES-D200であるが、筆者個人としてのES-D200の評価はそう低いものではない。それは、雑誌丸ごとスキャンのケースだ。冒頭にもちょっと書いた、いわゆる「自炊」には、恐らくScanSnap! S1500よりもES-D200の方が向いているだろう。そこで、雑誌丸ごとスキャンの方法を御紹介しながら、ついでにどのあたりが向いているかを説明したいと思う。
世の中の多くの自炊手順説明記事では、まずプラスのPK-513Lやらプラタのペーパーカッターを用意せよという話が多い。まぁ、ある程度の冊数の本や雑誌を一気にスキャンするつもりならこのクラスの巨大なカッターが便利かもしれないが、筆者が使っているのはマツイのPS-2である。一応B4まで対応できるし、邪魔なアクリルのガイドだけ外しておけば、使い終わったら立てかけておけば邪魔にもならない。裁断枚数はたったの10枚でしかないが、実はこの位でやったほうが個人的には安全だと思う。定価は18,585円だったが、実売価格はもっと安いし、もっと安価な同等品(一例)でもいいだろう(単に昔ASKULで安かった、という以上の理由はない)。
さて、今回はインプレスジャパンから発売されているデジタルカメラマガジンとDOS/V POWER REPORTの最新号に犠牲になっていただくことにする。両方あわせると25mmほどの厚さであった(写真97)。
手順であるがまずは表紙を引き剥がす(写真98)。この状態で背糊がどの程度まで張り付いているかを確認するわけだが、ごらんのように結構広く背糊が張り付いている事がわかる。表紙を引き剥がしたら、後は概ね10ページ程度に分解する(写真100)。ここで無理しないように、カッターナイフを使ってきちんと分解するほうが良い場合もある。おおむね10ページ単位になったら、今度は裁断機を使って、背糊がくっ付いていない位置まで切り取ってやることになる。ただし気をつけるべき事は、結構背糊が奥まで広がっていることがある事だ。例えば今回の場合、表紙の裏の状態にあわせて5mmほど切り取ったのだが、こまかく見て行くとページによってはまだ背糊が残ったりしている(写真102)ので、もう少し切り増しするか、数が少なければその部分だけ爪などで剥がせば良い。この「背糊が残ってないか」を細かく確認できる(というか、10枚単位での切断なので、必然的に目に付く機会が多い)のが、安価な裁断機を使うメリットである。最終的には背の部分も込みで綺麗に切断が終了する(写真103、104)。筆者の場合は随分慣れてきたので、一冊の雑誌を分解する時間は概ね10分といったところ。この状態で厚みを測ると1mmほど増えているのがわかる(写真105)。
ところで、なんで背糊を剥がすのが重要か? というと、こういう事態(写真106)を防ぐためである。要するに背糊が残った状態でスキャンを掛けると、糊がCCDセンサ表面のガラスに付着してしまいやすく、一度付着するとその後ずーっとスキャンした画像に縦線が入ってしまうというわけだ。厄介な事に、その後数十枚くらいスキャンを続けると、紙が少しずつ糊を剥がしてくれて、最終的に縦線が消えたりするのだが、それは逆に言えば糊がより多くの紙に付着したとも言えるわけで、今度は縦線の入った原稿をスキャンしなおすと改めて汚れが付着するという始末である。しかもまた糊がなかなか落ちない。筆者の場合消毒用アルコールを使ってふき取るのだが、1回ふき取った位では取れないことが多い。ふき取り→試しスキャン→まだ縦線が→また拭き取り→試しスキャン→(以下続く)のシーケンスが一段落するのに5分やそこらは簡単に掛かってしまう。裁断段階で糊を如何に除去するか、が大きなテーマになるわけだ。
さて話を戻すと、問題はここからである。ES-D200の場合、228ページ(広告込み)のDOS/V POWER REPORTを一発でセットできる(写真107)。ところがScanSnap! S1500の場合、192ページ(しかも紙が薄め)のデジタルカメラマガジンでも、頑張っても100ページは無理で、80ページ位が限界だった。ということは、3回に分けてスキャンして後で繋ぎ合わせるか、もしくはスキャンの様子を見ながら途中で原稿を追加する(これはこれで結構テクが要る)しかない。給紙のみならず排紙側でも同じ問題が出てくる。ES-D200は排紙口と排紙トレイの間の高度差が結構あるので、200ページ程度のスキャンならば問題はない(写真109)。対してScanSnap! S1500では50枚がやっとである(写真110)。要するに、ScanSnap! S1500を使ってある程度の枚数以上を纏めてスキャンするのは、かなり忙しい作業になるわけだ。対してES-D200だとお任せにしておけば済む。大型化したボディの勝利、ともいえるが、とにかく枚数が多くなるとES-D200の使い勝手の良さは捨てがたい。
ScanSnap! S1500にはもう1つ、悪い癖がある。写真113は比較的わかりやすい例だが、画像補正が強力すぎて、妙な歪み方(それも樽型の逆)をすることがしばしばあるのだ。で、歪みの補正が追いつかなくなり、どこかに赤か緑の縦線が発生してしまう。事実写真113にある緑の縦線はゴミではなく歪みによるものである。この歪みについては、何度か同じページをスキャンすれば直るので致命的な問題ではないが、とにかくこの歪みは(テキスト文章とかでは問題ないだろうが)マンガなどのスキャンではかなり気になるだろう。一方ES-D200では、今回400ページあまりをスキャンした(実際は解像度を変えて色々試したので、延べ1,200ページ強になる)範囲では、特にこうした歪みの問題は出なかった。唯一あるのは400dpi以上で出てくる、紙送りに伴うスキャンの失敗で、これは300dpi以下でスキャンしていれば避けられる問題であろう。
もちろんES-D200の使い勝手にはまだ改良の余地が多い。例えばうっかり背糊がくっ付いた状態で投入してしまい、内部でスタックした場合、こんなダイアログが出てくる(写真111)のはいいのだが、その時点でスキャンが終了してしまう。このあたりは、エラーがあるとその時点でスキャンを留保し、問題を解決した後に再開できるScanSnap! S1500に一日の長がある。また本体でも紙詰まりエラーを示してくれるのはいいのだが(写真112)、紙詰まりを直して普通にカバーを戻してもこの表示が消えない。消すためには、結構勢いよくカバーを閉める(結構おおきな「ガチャン」という音をさせる)必要があるがあるのは個体の問題なのか、設計上の問題なのかはわからないが、ちょっと不安にかられる部分だ。そういう訳で、使い勝手全般で言えばまだ明らかにScanSnap! S1500の方が優れている。しかし、大量スキャンにはES-D200の方が間違いなく向いているのも明らかだ。
ScanSnap! S1500の場合、歪みはともかくとして給排紙の問題は筐体そのものの再設計が必要になるから、一朝一夕には解決できないだろう。対してES-D200の問題は、技術的にはソフトウェアのアップデートで解決できる問題がほとんどに思える。ここはエプソンのアップデートに期待したいところだ。
【写真112】カバーをあけて戻すだけではリセットされないあたり、どうやって検出しているかちょっと謎である | 【写真113】「カラープリント投稿部門」という文字の左にある縦棒に注目されたい。上下端と中央あたりで、画面左からの距離が異なっているのがわかるはずだ |
●付属ソフト
最後に、付属ソフトについても確認しておきたい。といっても、「読んde!!ココ」は市販ソフトそのものなので、「Presto! BizCard 5 SE」を取り上げる。要するに名刺管理ソフトである。
使い方は簡単で、立ち上げたら(写真114)左上のスキャンボタンを押すとEPSON Scanが立ち上がる。これで名刺を読み込ませると、そのまま読み取ったデータがOCR経由でセットされるというものだ。取り込んだ画像とOCR経由で取り込んだ情報が左側に、右側には一覧表示がなされるというシンプルなもの。OCRの認識率はこの手のソフトの常でそれほど高いものではないが、表面(写真115)及び裏面(写真116)を参照しながらの修正は比較的簡単である。
一覧表示(写真117)とか一覧画面表示(写真118)も、まぁ特に機能に過不足は感じられなかった。OutlookやWindows Mailなどとの同期、CSV形式でのExportなども用意されており、まずは及第点というところであろうかと思う。
【写真117】強いて言えば検索でイチイチダイアログが出てくるのがちょっと煩いかもしれない。ツールバーに検索フォームがあって、そこでも簡単に氏名検索ができて、さらに詳細な検索はダイアログで、というほうが好ましいかも | 【写真118】画像サイズが固定なのはちょっと残念 |
●今後のサポートに期待
ということでちょっと長くなったが、ES-D200のレポートをお届けした。まだ荒削りというか、ScanSnap!シリーズが実現している「痒いところに手が届くような操作感」には遠いのが実情である。これに一気に追いつくのは難しいだろうが、逆にこれからのアップデートで改善できる余地が十分だけに、ぜひエプソンには頑張っていただきたいと思う。
買いかどうか、についてはやはり「どの位の書類をスキャンしたいか」に関係してくるだろう。筆者のように「イベント毎に貰った資料+αをコンスタントにスキャン」という使い方であれば、ScanSnap! S1500で十分だが、手持ちの本を大量にスキャンして……という目的ならば、絶対にES-D200の方が楽であろう。
これにちょっと絡むのが、「解像度どのくらいにしようか? 」という話。鑑賞に使うのがKindleとかiPadという話であれば、現状どちらもそれほど大量のストレージを確保できないから、できれば150dpi程度(A4が1,750×1,240ドット程度)に抑えたいと思われるかもしれない。ただこの解像度では正直かなりきつい。実際にスキャンしてみた結果で言うと、最低でも200dpi、出来れば300dpi欲しいところである。これがどの程度のサイズになるかであるが、今回試した結果で言えば
・デジタルカメラマガジン(表紙込みで198ページ)
200dpi:45.9MB
240dpi:64.4MB
300dpi:95.5MB
600dpi:188.7MB
・DOS/V POWER REPORT(表紙込みで228ページ)
200dpi:55.8MB
240dpi:77.4MB
300dpi:115.8MB
600dpi:229.8MB
といったところで、300dpiではKindle 2(2GB)だと20冊いかないかもしれない。ちょっとこれは容量食いすぎであろう。ただ、今はハードウェアの制約で150dpiが限界だろうが、今後ハードウェアが進化すると300dpiクラスでも楽に扱える可能性は高い。そうなると、150dpiとかでスキャンして原本を捨ててしまうと、後になって後悔しそうに思われる。
筆者的には、全て240dpiか300dpiでスキャンしておき、それをダウンコンバートしてiPadやKindleに転送する、という使い方が長期的には賢明に思える。もっと上の600dpiクラスならもっと長持ちするか? というと、もともと商用印刷が350dpi程度なので、それ以上にしてもそれほど綺麗さが向上するわけではないだろうから300dpiが手頃だろうし、その300dpiを現実的に扱えるES-D200は、長期的にはScanSnap! S1500の良いライバルになりそうに思える。このために必要な条件はただ1つ、ソフトウェアのアップデートで使い勝手が改善されることだろう。
(2010年 6月 24日)