西川和久の不定期コラム

美しい印字のA3インクジェットプリンタ「PIXUS iX7000」



 インクジェットプリンタ三連発。最後はキヤノンのA3ノビ対応機だ。新技術「PgR」を搭載したこのインクジェットプリンタ、「普通紙でカラーレーザー並みのクオリティを実現」とある。実際どうなのか非常に興味のあるところ。その実力をチェックしてみたい。

Text byKazuhisa Nishikawa

●iX7000の特徴

 これまで同社のA4複合機MP990、そしてHPのA3機OfficeJet 7000と順にご紹介したが、まず、このPIXUS iX7000は桁違いに大きく重い。647×519×260mm(幅×奥行き×高さ)/約19.8kgもある。箱から取り出す時「うっ、これは重い……。」と感じたほどだ。同じA3機でもOfficeJet 7000は574×402×181mm(同)/質量7kg。写真を見ていただくと分かると思うが、いつも乗せているテーブルが小さく見えるほど。重さと価格は比例しそうだったので、5万円前後するのかなと資料を見ると販売予定価格は39,980円。予想外に安い。発表資料通りの性能なら、置き場所さえ確保できればかなりお買い得のプリンタと言える。

 まずiX7000最大の特徴はインクの構成にある。PGI-2 PBK/C/M/Y+PGI-1 BK+PGI-2 Clear = 顔料5色+クリアとなっている。顔料インクは染料インクと比較して速乾性や保存性が高く、それだけでも十分普通紙に対応できるのに、加えてクリアインクと呼ばれる新しいインクが追加された。

 このクリアインクは「印刷前に用紙へ塗布」するもので、その後、5色の顔料インクを使って印刷。カラーレーザー並みの高品位プリントを実現する。これを称して同社は「PgR技術」と呼んでいる。実際の印刷結果がどんな感じなのか、セットアップの段階から興味深々だ。

 特徴的な仕様をまとめると以下の通り。

・顔料5色+クリア(PGI-2 PBK/C/M/Y+PGI-1 BK+PGI-2 Clear)
・「PgR」技術でカラーレーザー並みの高品位普通紙プリント
・最大A3サイズ対応、前面給紙カセット(普通紙)
・普通紙A3サイズまで対応の自動両面プリント
・最小2pl、最高解像度4,800×1,200dpiで高品位普通紙プリント&高画質写真プリント
・A4普通紙カラー文章で約7.1円(税込み)と低ランニングコスト
・250枚積載の大容量カセット、後トレイ、手差し給紙に対応
・A4普通紙文書でカラー約8.1ipm、モノクロ約10.2ipm、L判写真用紙で約38秒の高速プリント
・A3ノビサイズの写真用紙に対応
A5、B5、Letter、A4、LGL、B4、A3、LDR
名刺、L判、KG、2L判、六切、Letter、A4、四切、A3、A3ノビ
・有線LANにより複数のPCで共有可能
・647×519×260mm(幅×奥行き×高さ)/約19.8kg

 A3ノビ対応機だけあって、印刷できる用紙の種類はご覧のように多種に渡る。普通紙専用の大容量前面給紙カセットと、硬い紙用の後ろトレイの二段構えはMP990と同じだ。印刷速度はA4普通紙のカラーで約8.1ipm、モノクロ約10.2ipm、L判写真画質で約38秒。HPのOfficeJet 7000はA4普通紙のカラーで最高32ppmとあるが、これはエコノミー印刷モードでの速度であり、通常印刷となるとこれほどの速度にはならない。また黒のみ顔料と、全て顔料+クリアインクではその仕上がりにも違いが出る。従って単純に数字だけの比較だけで判断することはできない。

 印刷コストも改善し、A4カラー文章で約7.1円(インクコストのみ)、L判フチなし写真プリントで15.9円(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド GL-101使用時)となっている。前回のHP OfficeJet 7000ではA4カラー印刷約7.6円とあったので、数値的にはさらに50銭安いことになる。ただこの件は印刷条件などもあると思われるのでほぼ同等と見られる。

前面にはUSBなどポート関連は一切無いUSB、Ethernet、電源と全て左側に集中している普通紙が250枚セットできる大容量カセット
引き出すパネルも強度が高くペラペラ感は無い写真専用紙など硬めの紙をセットする。これはMP990と同様だEthernetとUSBポート各1つずつとあっさりしている
独立した5色インク。全て顔料インクだクリアインク。高さは分からないが約6×7cmと大きい

 作りは本体重量が約19.8kgもあるので非常に「ガッチリ」、そして「しっかり」している。強度的に不安そうな部分は見当たらない。また普通紙で250枚積載できる大容量の前面給紙カセットの出し入れもスムーズだ。排紙トレイもペラペラせずしっかり紙をキープする。

 電源は、ACアダプタでは無く本体に直接電源ケーブルを挿すタイプ。ACアダプタが床に転がり邪魔になることは無い。USBとEthernetのコネクタは背面に1つずつ。前面にデジタルカメラを直接接続できるUSBポートなどは付いていない。このあたりはビジネスに割り切った仕様と言えよう。

 顔料5色インクに関しては、他のインクジェットプリンタと同様、プリントヘッド上にセットするが、クリアインクに関しては、本体左上にパネルがあり、それを開けてセットする。5色のインクも含め既にセットされた状態で届いたので高さは分からないが、上から見るとクリアインクは約6×7cmとかなり大きなタンクだ。

●使い勝手

 今回送られて来たiX7000は、インクなどが設定済みの状態だったこともあり、ハード的なセットアップの部分は省略する。MP990と同様、「プリントヘッドを付け」、「インクをセット」、「ヘッドクリーニング」、「ヘッド調整用のテストパターン印刷」……と言う流れとなるが、1番の違いは加えてクリアインクを本体左上にセットすることだ。

 ソフトウェアのインストールも同社のインクジェットプリンタであればほぼ同じ。接続先がUSBかEthernetかの違い程度となる。対応OSはWindows 2000(SP4)/XP/Vista、Mac OS X 10.3.9以降。MP990の時もそうだったが秋モデルの売りの1つ「Easy-WebPrint EX」に関してはCD-ROMに含まれず、ネットからのダウンロードとなる。

おまかせインストールを選択8つのソフトウェアをインストールUSBで接続
インストール中プリンタへUSBを接続し電源ONヘッド位置調整後完了。この時A4普通紙2枚、時間は約8分半かかる

 さて、流石に本体が大きい分、給紙の機構が変わったり、ヘッドの移動などに慣性がかかるのか、音や揺れなどは結構ある。A4機のMP990とは随分違う印象だ。HPほどではないものの、深夜自宅で作業するのは躊躇するレベル。動画でA3プリントの様子を掲載してので興味のある方は確認して欲しい。特に給紙時にガチャガチャと機械的な音がする。

 仕上がりに関してはクリアインクの効果が確実に出ている。普通紙に印刷しているにも関わらず高いクオリティだ。色再現性も高い。5色全てが顔料インクなので色付の文字も全くにじみが見られずエッジも綺麗に表現されている。どう見ても従来のインクジェット+普通紙では考えられないプリントが得られる。正直ここまでとは思っていなかったので驚いてしまった。

 HP OfficeJet 7000で印刷したプリントとの比較も掲載したのでご覧頂きたい。相対的な違いは写真からもはっきり分かるほどの差だ。言うまでもないが、どちらも左がiX7000、右がOfficeJet 7000となっている。総じてA4普通紙もL判写真もiX7000の方が色が良く、コントラストも高い。特に赤系の色が映える。もちろん用紙がウェットな感じになることも無く、印刷直後から印刷前と変わらない紙のコンディションだ。

A4普通紙印刷。この色はかなり現物に近い。普通紙でこれだけの仕上がりとは驚きだ
L判写真印刷。HPのL判光沢紙を使っているが、それでも色/コントラスト共によく出ている
HP OfficeJect 7000との比較/A4普通紙。細かいところはこの写真からは分からないと思うが、それでも随分差が出ているHP OfficeJect 7000との比較/L判光沢紙。こちらも圧倒的な差だ。鮮やかさがまるで違う
【動画】A3普通紙印刷。それなりに機械的な音がする。また、前面給紙カセットに入れる用紙がA4より大きい場合は、カセット内部のロックを外しカセットの奥行きを長くすることができる

 ソフトウェアとしては、正確にWebページが印刷できる「Easy-WebPrint EX」、エリア別に露出状態を解析し、全体の彩度を落とすことなく写真の暗い部分のみを補正する「自動写真補正II」、Digital Photo Professionalや、Photoshop、Photoshop Elementsからプラグイン印刷ができる「Easy-PhotoPrint Pro対応(モノクロ印刷未対応、ダウンロードは必要)」など、多くのファンクションは同社今年のラインナップ共通となっている。

 その中で面白いソリューションとして「iX7000専用テンプレート」があげられる。これは、POP、ポスター・イベント案内、小冊子・パンフレット、メニュー、ちらし、デザイン、パース、帳票などを、「Solution Menu」から該当Webページを表示、ユーザーの用途に合わせてデータを選択、ダウンロードするとMicrosoft Word形式のテンプレートを得ることができるものだ(実際はWindowsはZIP、Macはdmgになっているため解凍が必要)。個人や比較的規模の小さい会社など、デザインにコストがかけられないケースで重宝するのではないだろうか。早速1つ選んで印刷したのが下記の画面キャプチャ/写真となる。

Solution Menuの左上から2番目をクリックすると機種の選択となる同社のSolution Template試しに秋のおすすめメニューをダウンロードした
Microsoft Word(Viewer)で表示。実際は写真や文字などを入れ替える綺麗なメニューが印刷された

 顔料インクとクリアインクのコンビネーション「PgR技術」によって、普通紙でもレーザープリンタ並みクオリティを得られるようになったiX7000。最大A3ノビの用紙サイズ、ドキュメントも写真も高画質で高速プリントと、文句無しのビジネスインクジェットプリンタに仕上がっている。しかも販売予定価格は4万円を切る驚きの低価格。設置場所さえ確保できれば検討に値する1台だ。