西川和久の不定期コラム

実質5万円弱で買った12型2in1「HP Chromebook x360 12b」をレビュー

HP Chromebook x360 12b

 11月に2015年から使っているChromebookの後釜としてHPの「Chromebook x360 12b」を購入した。筆者は量販店で購入したが、HPのWebサイトでの税別直販価格は58,000円(※キャンペーン価格)だ。今年(2019年)10月末発売の新型モデルで、Chrome OS、Androidアプリ、そしてLinuxが動作するちょっとおもしろい環境ということもあり、使用記をお届けしたい。

今Chromebookを買った理由

 筆者はもともと2015年に発表されたASUSのChromebook「Flip C100PA」を所有し、Chrome OSのチェックやiPadが充電中で使えないとき、TweetDeck中心のときなど、ライトな用途で使用していた。

 仕様的には10.1型1,280×800ドット、Rockchip Quad-Core RK3288C、メモリ2GB、ストレージeMMC 16GBの2in1だ。Atom世代のタブレットと似たりよったりで、速度的にはGoogle Octane 2.0が8千未満と、少しストレスを感じるががまんできないほどでもないと言ったところ。後にChrome OSでAndroidアプリも動くようになったため、より便利に遊んでいた。

 以前からイレギュラーな方法はいくつかあったのだが、最近になり、Chrome OSが正式にLinuxに対応した。対応機種は以下のとおりで、

  • Google Pixelbook
  • Samsung Chromebook Plus(1st generation)
  • HP Chromebook X2
  • ASUS Chromebook Flip C101
  • 2018 generation Chromeboxes
  • Acer Chromebook Tab 10

などと(詳細はこちら)、2019年発売モデルが対象。残念ながらChromebook Flip C100PAはリストに入っていなかった。

 試してみたいこともあり、とりあえずなんでもいいので対応しているものを探していたが、一番安直なのは手持ちの次モデル(2017年8月発表)に相当するChromebook Flip C101PAだった。筐体やディスプレイ、ストレージは同じだが、CPUが6コア化、メモリが4GBに増え、少しパワーアップしている。

 重い用途には使わないので、これでも良かったのだが、見た目がまったく同じなので、趣味半分としては少しおもしろみに欠ける。いろいろ検索したところ見つけたのが、今回購入したHP「Chromebook x360 12b」となる。2019年10月末発売なので、Linux動作の条件も満たしている。

 この機種を選んだ理由は、ディスプレイのアスペクト比が3:2で縦が広くなっていること、キーボードが日本語配列でバックライト付いているからだ。日本語キーボードだとスペースキーの両隣に[無変換]と[変換]キーがあり、筆者はここにIMEを割り当てることで一発で切り替えができるようにしている。

 スペック的には、プロセッサがPentium Silver N5000、メモリ4GB、ストレージはeMMC 64GB。少なくともASUSのChromebook Flip C101PAよりかなり速そうだ。デザインもHPらしく見た目は悪くない。

 ただ問題は価格だ。税別64,800円はローエンドのWindowsノートPCが買えてしまう金額だ。筆者が購入したときはキャンペーンにより、税別58,000円で提供されていた。それでもChromebookとしては高いと思う。ただ、Chromebook x360 12bは一部の量販店でも販売されており、そのときは税込54,700円で10%ポイント還元が使え、実質5万円を切る価格で購入可能だった。これならお買い得ということで購入を決定した。

 Chromebook x360 12bのおもな仕様は以下のとおり。

【表】HP「Chromebook x360 12b」の仕様
プロセッサPentium Silver N5000(4コア/4スレッド、1.1~2.7GHz、キャッシュ 4MB、TDP 6W)
メモリLPDDR4-2400 4GB
ストレージeMMC 64GB
OSChrome OS
ディスプレイ12型IPS式1,366×912ドット(3:2)、光沢、タッチ、USI(Universal Stylus Initiative)ペン対応(別売)
グラフィックスIntel UHD Graphics 605
ネットワークIEEE 802.11ac無線LAN、Bluetooth 5.0
インターフェイスUSB 3.0 Type-C×2(DisplayPort Alternate Mod対応)、USB 3.0 Type-A、SDカードスロット、約92万画素Webカメラ、音声入出力
バッテリ駆動時間最大11時間
その他キーボードバックライト、B&O Playデュアルスピーカー、内蔵デュアルマイク
サイズ約272×216×17.3mm(幅×奥行き×高さ)
重量約1.35kg
税別直販価格64,800円(12月5現在キャンペーン中で税別58,000円)

 プロセッサはGemini LakeのPentium Silver N5000。4コア/4スレッドでクロックは1.1GHzから最大2.7GHz。キャッシュは4MB、TDPは6W。Pentium Silverとしては最下位のSKUとなる。メモリはオンボードでLPDDR4 4GB。ストレージはeMMC 64GB。昨今のWindowsマシンとしても最低レベルの構成と言える。

 グラフィックス機能は、プロセッサ内蔵のUHD Graphics 605。外部出力用としてUSB Type-C(DisplayPort Alternate Mode)を備えている。ディスプレイは光沢ありの12型IPS式1,366×912ドットで、アスペクト比3:2。タッチ操作とUSI(Universal Stylus Initiative)ペン対応だ。

 この聴き慣れないUSIペンはIntel、Googleなどが中心に策定されているペン規格だが、現在まだ単品で購入できる製品は出ていない。詳細は別記事(Intel、4,096段階筆圧/傾き検知の静電容量方式ペンをデモ)に書かれているのでそちらをご覧いただきたい。

 ネットワーク機能は有線LANがなく、Wi-Fi(IEEE 802.11ac対応)とBluetooth 5.0。インターフェイスは、USB 3.0が1基、USB Type-C 3.0が2基、SDカードスロット、92万画素Webカメラ、音声入出力。充電は付属のType-C接続のACアダプタを使うが、USB PD(Power Delivery)対応なので別のものでも充電可能だ。

 そのほか、キーボードバックライト、B&O Playデュアルスピーカー、内蔵デュアルマイクを搭載。この価格帯のわりにはリッチな内容となっている。

 本体サイズは約272×216×17.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.35kg。フットプリントは問題ないが、重量は少し残念なところ。1kg切りとまでは言わないまでも、せめて1.1kg前後にしてほしかった。バッテリ駆動時間は最大11時間。

 正規の税別価格はともかくとして、この内容で10%ポイント還元を含め5万円を切るならコストパフォーマンスは悪くない。

パネル中央上にWebカメラ。左右はそれなりに狭額縁だが上下が広い
マットホワイトの天板にHPのロゴ。360度回転するヒンジ。バッテリは内蔵式で着脱できない
左側面には、音声入出力、Type-C、SDカードスロット、電源ボタン
右側面には、USB Type-A、USB Type-C、ロックポート、音量±ボタン
キーボードは日本語配列。テンキーなしのアイソレーションタイプ。タッチパッドは1枚プレート型。上部のスリットにスピーカー
キーピッチは実測で約19mm
キーボードバックライトはオフ+5段階に調整可能
タブレットモード
テントモード
スタンドモード
底面は前後に1本バーのゴム足
3.5mmジャックの大きさからそれなりにスリムなのがわかる
ACアダプタのサイズは約90×40×25mm(幅×奥行き×高さ)、重量169g、出力は5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A
重量は実測で1,224g。仕様よりは若干軽い

 天板はマットホワイト、ほかはシルバー。質感も価格を考えると良いほうだ。チープ感はまったくない。重量は実測で1,224g。仕様よりは若干軽いものの、せめてあと100~200g削ってほしかった。見た目がコンパクトなぶん、持ち上げると重く感じる。ここが唯一の弱点と言える。

 前面はパネル中央上にWebカメラ。左側面に音声入出力、USB Type-C、SDカードスロット、電源ボタン。右側面にUSB Type-A、Type-C、ロックポート、音量±ボタンを配置。底面は前後に1本バーのゴム足。なお、底面は強い磁石になっているので、カバンに入れるときなど、ほかの磁気カード系と一緒にならないように注意が必要だ。

 ヒンジは360度回転し、タブレットモード、テントモード、スタンドモードに変形できる。作りもしっかりしており、ディスプレイ面が思った位置にピシッと止まる。

 付属のACアダプタは、サイズが約90×40×25mm(幅×奥行き×高さ)、重量169g、出力は5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3AでUSB PDをサポートしており、Type-Cポートの両方が対応となる。

 12型のディスプレイは、発色、コントラスト、明るさ、視野角すべて良好。価格を考慮すると十分。通常だと輝度50%でちょうどいい。光沢式なので写り込みはあるものの、色味は自然だ。

 アスペクト比が3:2なので、縦が長くWebサイトなどで見やすい。また標準解像度は1,366×912ドットだが、設定で911×608ドット(150%)から1,518×1,013ドット(90%)まで9段階の解像度を選べる。AndroidアプリなどはChromeブラウザと違ってズームができないため、この機能は使いようがあるだろう。

 また、画面のタッチ機能はAndroidアプリを操作するときに有用。いまだにタッチ操作でないとうまく動かないアプリがあるため、Androidアプリも使うなら必須だ。

 キーボードは日本語配列でバックライト付きテンキーなしのアイソレーションタイプ。キーピッチは主要部分で約19mm確保されている。[Enter]キーの周囲だけ少しせまいが、目くじら立てるほどでもない。打鍵感は少し深めでクリック感もあり好みだ。初期のApple Magic Keyboardに似てるだろうか。

 バックライトは[↑]/[↓]+[Fn]+[Alt]キーで調整できる。バックライトは白でキートップも白なので、明るい場所だと逆に見にくくなるため、オンにするのは低照度な場所だけにするのが無難だ。

 タッチパッドは物理的なボタンのない1枚プレート型。2本指でスクロール、2本指でタップすると右ボタン相当など、基本的にWindowsやMacの操作と同じ。パームレストも含めて広めなので扱いやすい。

 動作中の振動やノイズは皆無。発熱も使用している範囲では十分冷たい。音はキーボードの上にあるスリットから出るため、耳に直接届く。本体下部にスピーカーがあり、反射する素材で音質が変わるようなこともなく安定している。パワーは十分あるもの「B&O Playデュアルスピーカー」と謳うほどの音質ではない。

ChromeやAndroidアプリと同時にLinuxを実行可能

 OSはChrome OSだが、Linuxを使うためにBetaチャネルに切り替えている。バージョンは79系だ。Googleアカウントでログインすると、以下のようなデスクトップが現われる。左下にメニューボタン、下にタスクバー、右側にコントロール/通知パネルなど、ほぼWindowsと同じなので、はじめてでも違和感はないだろう。また複数のGoogleアカウントを切り替えて使うことも可能。Guestユーザーモードもある。

Chrome OSのデスクトップ
アプリメニュー

 既存のGoogleアカウントでChrome OSの環境を持っている場合、その環境が別のマシンにもすべて引き継がれる。

 アプリメニューにはいろいろGoogle系のものが入っている。一部「ファイル」や「電卓」などは別ウィンドウになるもの、基本はWebサイトへのブックマークだ。クリックするとChromeが指定のWebサイトを開く。

 Google Playストアが使えるので、Androidアプリをインストール可能だ。設定/端末情報を見ると、Androidのバージョンは9となっている。ほとんどのアプリが動くが、ものによってはスマートフォンUIのみでタブレットUI未対応、全画面表示のみ、ウィンドウサイズのリサイズ可/不可も含め、動きが異なる。

 ChromeとAndroidアプリが混在するデスクトップは、WindowsやmacOSにはないおもしろい環境となる。普段Chrome使いでスマートフォンはAndroid搭載機だと、こちらのほうが親和性は高いかもしれない。

Android/設定
Androidのバージョンは9
Google Playストアが使える
Androidアプリ(VLC、Spotify)とChromeが同時動作

 設定のほとんどがChromeそのもので、それに加えてハードウェア関連としてBluetooth、タッチパッド、キーボード、タッチペン、ディスプレイ、ストレージ管理、電源。ディスプレイがある。なお、マルチディスプレイ対応だ。Android用にGoogle Playストア、そしてLinux用にLinux(ベータ版)の項目も追加されている。

Chrome/設定
Chrome/設定/タッチパッド
Chrome/設定/キーボード
Chrome/設定/タッチペン
Chrome/設定/ディスプレイ(Type-C/DisplayPortケーブルで外部ディスプレイ接続)
Chrome/設定/ストレージ管理
Chrome/設定/電源
Linux(ベータ版)
Chrome/設定/Google Playストア
Chrome OSについて

 そして今回筆者にとって目玉となるLinux環境だが、設定/Linux(ベータ版)で[オンにする]と、「ターミナル」のアイコンが追加され、起動すると以下の画像ようなコマンドラインが表示される。Linuxのバージョンを次のようにで確認したところ、

$ cat /etc/debian_version
9.11

Debian/Stretchだった。パスワードなしのsuやapt-getも普通に使える。ターミナルでのIMEはChrome OSのGoogle日本語入力がそのまま使えてクリップボードも共通。結構シームレスな環境となっている(ただし日本語入力はLinuxアプリ内では使えない。別途設定が必要)。

 早速、日本語フォントとVisual Studio Codeをインストール。拡張機能でSSH FSを加え、サーバー側のコードを開いているのが以下の画面キャプチャとなる。

 加えて最近のChrome OS(78系以降)は仮想デスクトップにも対応しているため、その様子の画面キャプチャも掲載した。ある意味、今回のハイライト的な内容だ。2つの仮想デスクトップがあり、1つはChromeとAndroidアプリ、もう1つにはLinuxのコマンドラインとVisual Studio Codeが動作中。ちょっとワクワクする環境となった(笑)。

LinuxのコマンドラインとVisual Studio Code
2つの仮想デスクトップに、Androidアプリ、Linux、Chromeが同時に動作

 ベンチマークテストは簡易式だがGoogle Octane 2.0を実行。バッテリ駆動時間は、キーボードバックライトオフ、明るさ/音量50%として、Wi-Fi経由でフルHDの動画を連続再生した(アプリはAndroid版VLC)。結果は以下のとおり。

Google Octane 2.0「16,674」
VLC for Androidを使いWi-Fi経由で動画を再生(明るさ/音量50%)。60%で残り6時間52分駆動となっているが、実際は約8時間だった

 Google Octane 2.0のスコアは16,674。Core i3/i5ほどではないもの、普通に使えるスコアと言えよう。一般的にChrome OSは低スペックのマシンでも使えると言われているが、これは半分正解で半分間違い。古いマシンだとWebのレンダリングが遅く、2GB程度のメモリで多くのタブを開くとメモリ不足になる。そのため、本機くらいのプロセッサとメモリ容量は最低限ほしいところ。

 バッテリ駆動時間は約8時間だった。ただし、輝度50%は十分明るく、また音量50%はかなりうるさい。したがって、普通にChrome中心の操作であれば、もう少し長く動くと思われる。スリープは1週間程度(iPad Pro 11と同じくらい)は持つため、使用頻度が低ければ、頻繁に充電する必要もない。

 今回、ASUS「Chromebook Flip C100PA」からHP「Chromebook x360 12b」に変えたわけだが、Chromeを全画面表示するとInstagramの写真が切れない、TweetDeckのタイムラインが見やすい、タブレットモード+縦位置でバランスの良いサイト表示ができて3:2で広い画面、AndroidアプリでChromeではできない機能補完、Visual Studio Code+SSH FSでちょっとしたサーバー側の修正……などができるようになり、当初の期待どおりに使えている。

 性能もこのマシンでビルドしないなら十分だ。前は使いにくかった夜での操作も、キーボードバックライトがあるため入力しやすい。メールに添付されたPDFやOffice関連も問題なく表示できる。日頃使うもので足らないとすれば、RAW現像を含めたPhotoshop的なものと、秀丸のような高機能なエディタだろうか。個人的な満足度は結構高い。

 唯一不満があるとすれば前述した重量で、1.2kgを下回っていれば完璧だっただけに残念だ。


 以上のようにHP「Chromebook x360 12b」は、12型3:2のIPS式パネル、Pentium Silver N5000、メモリ4GB、ストレージにeMMC 64GBを搭載したChromebookだ。2in1でいろいろなモードに変形でき、USIペンにも対応している。同時にChrome、Androidアプリ、そしてLinuxが動くのも興味深い。

 正規の税別価格だとローエンドのWindowsノートPCが購入できるため、今一つ魅力に欠けるが、筆者が店舗で購入したようにポイントで実質5万円を切ることもあるため、そうなると一気に印象は変わる。WindowsやmacOSもいいけど、たまには違う環境を使用したいと思っているユーザーにおすすめしたい1台だ。