西川和久の不定期コラム
誕生25周年を記念した特別モデル、「ThinkPad 25」レビュー
2017年10月17日 12:00
レノボは10月5日、ThinkPad誕生から25周年を記念して、7列キーボードが復活した「ThinkPad 25」を発表した。国内1,000台の限定販売だが、幸運にもレビュー用に編集部から送られて来たので、試用レポートをお届けしたい。
「ThinkPad T470」をベースにしたThinkPad誕生から25周年のアニバーサリーモデル!
筆者とThinkPadの付き合いは、DOS/V登場近くまで遡るのでかなり古い(初搭載機は1990年10月 PS/55 5535-S)。もう四半世紀前の話なので、はっきり覚えていないため、Wikipediaを眺めているが、記憶に残っている範囲で所有したことのあるのは、「ThinkPad 701c」(バタフライ)、「s30」、「235」、「240」、「535」、「600」、「T42/43」、「X31」、「X201i」。最後の3台はまだ手元にある(X201iに限っては、Windows 10/8GB/SSD化して現在でもサブ用途で現役)。どちらかと言えばB5サイズなど小型モデルが多かった。
いずれにしても“もしDOS/V”がなかったら、(Windowsが主流になるまでは)USモデルとほぼタイムラグなしで、多くのThinkPadが国内で売られることはなかっただろう。
そのThinkPadが、1992年10月に発売された初代ThinkPad「ThinkPad 700C」から数えて25周年が経過! そんなに経ったか……っと思ったが、当時は30歳だった。なるほど、一致している(笑)。
そして今回25周年を記念してアニバーサリーモデル「ThinkPad 25」が発表された。おもな仕様は以下のとおり。
レノボ「ThinkPad 25」の仕様 | |
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プロセッサ | Core i7-7500U(2コア/4スレッド、クロック 2.7GHz/3.5GHz、cache 4MB、TDP 15W) |
メモリ | 16GB/PC4-17000 DDR4 SODIMM 2,133MHz(最大32GB) |
ストレージ | 512GB NVMe SSD |
OS | Windows 10 Pro(64bit) |
ディスプレイ | 非光沢IPS式14型フルHD(1,920×1,080ドット)、10点タッチ対応 |
グラフィックス | Intel HD Graphics 620、GeForce 940MX(2GB、Optimus対応)/HDMI |
ネットワーク | Gigabit Ethernet、IEEE 802.11ac対応、Bluetooth 4.1 |
インターフェイス | USB Type-C/Thunderbolt 3、USB 3.0×3、720p HDカメラ(Windows Hello対応)、メディアリーダ、音声入出力、NFC、指紋認証センサー |
バッテリ/駆動時間 | 3セル+3セル リチウムイオンバッテリー (1基交換式)/約6.5時間 |
サイズ/重量 | 約336.6×232.5×19.95mm(幅×奥行き×高さ)/約1.69kg |
税別価格 | 179,500円(1,000台限定/キーボードは日本語配列のみ) |
プロセッサはKaby Lake世代のCore i7-7500U。2コア4スレッド、クロックは2.7GHzから最大3.5GHz。キャッシュは4MBでTDPは15Wだ。メモリはPC4-17000 DDR4 SODIMMで16GB。最大32GB。ストレージはNVMe SSDの512GB。OSは64bit版のWindows 10 Proを採用している。
グラフィックスは、プロセッサ内蔵Intel HD Graphics 620に加え、ディスクリートGPUとしてGeForce 940MX(2GB GDDR5)も内蔵。外部出力用にHDMIを装備している。ディスプレイは非光沢の14型IPS式で解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)。最近このクラスではあまり見かけなくなった10点タッチにも対応する。
ネットワークは、有線LANにGigabit Ethernet、無線LANにIEEE 802.11ac対応、Bluetooth 4.1。
そのほかのインターフェイスは、USB Type-C/Thunderbolt 3、USB 3.0×3、720p HDカメラ、メディアリーダ、音声入出力、NFC、指紋認証センサー。3つあるUSB 3.0のうち、1つは常時給電対応となる。カメラはWindows Hello対応だ。
バッテリは、固定式の3セルと、着脱可能な3セルの2ユニットを搭載。駆動時間は約6.5時間。サイズは約336.6×232.5×19.95mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.69kg。税別価格は179,500円。日本国内1,000台限定販売で、キーボードは日本語配列のみとなっている。
アニバーサリーモデルのベースは「ThinkPad T470」と言われているが、これは国内販売されていない。ただ今年の2月にその姉妹モデル(?)に相当する「ThinkPad T470s」の記事を掲載しているので興味のある人は参考にして欲しい。プロセッサがじゃっかん上だったり、バッテリが2つとも固定だったり、細部は異なるものの、大枠は同じだ。
届いてまず驚いたのがパッケージ。ご覧のようにアニバーサリーモデルらしく、黒と赤でデザインされとてもThinkPadっぽい雰囲気にまとめられている。
筐体は言うまでもなく「The ThinkPad!」的な雰囲気だ。天板のThinkPadロゴの“Pad”の部分がトリコロール(赤、緑、青)となっており、iの上の点が赤いLEDとなっている。昔、IBMのロゴがトリコロールだったが、さすがにそれはできなかったのだろう。そして、天板を開くと7列のキーボードが見える。タイムマシンに乗った気分が味わえる。
重量は実測で1,689gだ。2月に掲載した470sは実測で1,399gだったので、結構重いことが分かる。
前面は、パネル中央上に720p HDカメラ、その左右にマイク、左側にIRカメラ。左側面は、電源コネクタ、USB 3.0、 USB Type-C/Thunderbolt 3。右側面は、ロックポート、メディアリーダ、Ethernet、USB 3.0(Powered)、HDMI、USB 3.0、音声入出力を配置。
裏は約中央少し奥にドッキングコネクタ。手前ゴム足の横にあるスリットにスピーカーが埋め込まれている。付属のACアダプタはサイズ約105×44×30mm、重量209g。着脱可能な3セルバッテリの重量は134g。
14型のディスプレイは、明るさ、コントラスト、発色、視野角全て十分。非光沢なので、映り込みも少なく非常に見やすい。発色は少し色温度が高め(青っぽい)だが、光沢タイプよりは地味な感じだ。落ち着いた雰囲気で好印象。10点タッチもスムーズに反応する。
ただ(デザイン的に)少し気になるのはパネルの下側が間延びしていること。これは7列キーボードのため、奥行きを確保する必要があり仕方ないところか。であればアスペクト比3:2や4:3のパネルを使っても良かったような気もする。
アニバーサリーモデル最大の特徴は、やはり往年の7列が復活したキーボードだろう。インタビュー(記事:ThinkPadデザインの父、デビッド・ヒル氏が語るThinkPad 25周年モデルの誕生秘話参照)によれば、すでに使える金型もなく採算度外視で一から作ったとのこと。単に7列になっただけでなく、矢印キー手前の湾曲、電源ボタンのLED、音量ボタン、Enterキーの色など、細部にわたって再現されている。打鍵感も非常によい。加えて、フト・リム、クラシック・ドーム、ソフト・ドームと呼ばれる3種類のTrackPointキャップも付属する。
参考までにT470sとT43のキーボード部分の写真を掲載するので比較して欲しい。これだけでも、小型USB/Bluetoothキーボードで単品販売してほしいところだ。
筆者は長年ThinkPadを使っていたわりに、個人的にはこの7列キーボードに思い入れはなく、現在の6列でも普通に使える(が、アイソレーションタイプは好みではない)。しかし、こうして並べて見ると使いやすさとは無関係な部分で、非常にカッコいいと思う。
現在16:9のパネルが主流で、キーボードの奥行きが確保できず、さらにに薄くする必要があり、キーの高さは控えめ……といった事情から7列は廃止されたが、逆に最近のノートPCは、似たり寄ったりで個性がないモデルが多く、ThinkPadのような強烈なイメージを持つラインナップはそうそう出てこない。各部品がかなり小さい現在、多少厚みや奥行きを犠牲にして復活させるというのはアリだろう。
振動やノイズは気にならないレベルだ。発熱は負荷がかかる処理を行なうと、おもに左側が温かくなり、左側面から熱を持った空気が出る。搭載している内容を考えると妥当なところか。サウンドはスピーカーの位置的に机などに音が反射するタイプだ。幅があるのでステレオ感はあるものの、レンジはカマボコでクラス相当。出力ももう少し欲しい感じがする。
このように「ThinkPad 25」最大の特徴は細部まで復元した7列のキーボードだ。ここが響くかどうかで評価が分かれると思われる。
シンプルな構成でハイパフォーマンス
OSは64bit版のWindows 10 Pro。Core i7、メモリ16GB、SSDということもあり、起動も含め非常に快適に作動する。初期起動時のスタート画面(タブレットモード)は1画面。Windows 10標準に加え、LenovoグループにLenovo CompanionとLenovo Settingsが加えられている。デスクトップは黒ベースでリチャード・ザッパー氏の有名なコメント入りの壁紙に変更され、ごみ箱のみで非常にシンプル。25周年のアニバーサリー感が漂っている。
ストレージは512GB NVMe SSDの「LENSE20512GMSP」。C:ドライブのみの1パーティションで約475GBが割り当てられ空き447GB。GbE、Wi-Fi、BluetoothはIntel製だ。NVIDIAコントロールパネルを見ると、GeForce 940MX、GDDR5/2GB、CUDAコア384なのが分かる。
プリインストールのソフトウェアは、同社お馴染みの「Lenovo Companion」と「Lenovo Settings」。ほかはIntelやNVIDIAのシステム系で非常にシンプル。SSDに余裕はあるが、このモデルの購入層を考えると、いろいろ入っていない方が望ましいと思われる。
ベンチマークテストは「winsat formal」コマンドと、PCMark 8 バージョン2/Home accelerated、3DMarkとCrystalDiskMarkの結果も見たい。バッテリ駆動時間テストはBBench。またCrystalMarkの結果も掲載した(今回は2コア4スレッドと条件的に問題ない)。
winsat formalの結果は、総合 5.7。プロセッサ 7.6、メモリ 7、6ラフィックス 5.7、ゲーム用グラフィックス n/a、プライマリハードディスク 8.85。メモリのバンド幅は16441.07910MB/s。
PCMark 8 バージョ2/Home acceleratedは3647。3DMarkは、Ice Storm 46718、Cloud Gate 8889、Sky Diver 7521、Fire Strike 2179。
CrystalDiskMarkは、Seq Q32T1 Read 1755/Write 1337、4K Q32T1 Read 438.7/Write 404.0、Seq Read 1361/Write 812.8、4K Read 40.69/Write 109.7(MB/s)。CrystalMarkは、ALU 55529、FPU 56188、MEM 42584、HDD 56191、GDI 16373、D2D 4972、OGL 40147。
Core i7-7500U、NVMe SSD、GeForce 940MX搭載機としては一般的な性能。逆に14型としては重い分、トータルな評価は不利となるかもしれない。
BBenchは、バッテリー節約機能ON、キーボードバックライトオフ、バックライト最小、キーストローク出力/オン、Web巡回/オン、Wi-Fi/オン、Bluetooth/オンでの結果だ。バッテリの残5%で45,447秒/12.6時間。仕様上の約6.5時間を軽く超えてしまった。ただバックライト最小だと暗いので、実際はもう少し短くなると思われる。
また着脱可能な3セルバッテリの重量は134g。これはなくても内蔵側の3セルで起動するので、数時間レベルの外出であれば、バッテリを外し気持ち軽くして(1,555g)持ち運び可能だ。
以上のようにレノボ「ThinkPad 25」は、14型/Core i7-7500U/NVMe SSD 512GB/16GB/GeForce 940MXを搭載したノートPCだ。ハードウェアや性能だけ見ると今どきのノートPCであるが、パッケージを開け、天板を開くと、そこは往年のThinkPadの世界。とてもレトロな雰囲気が味わえ、ThinkPadファンなら涙ものかもしれない。
ハードウェアの構成だけ考えると税別179,500円は少し高い気がするものの、採算度返しで新たに作った7列キーボードにメーカーの意気込みを感じるユーザーこそぜひ手にしてほしい逸品だと言える。