井上繁樹の最新通信機器事情

バッファロー「WZR-HP-AG300H/U」
~5GHz帯対応と高速化を実現した無線LANルーター



WZR-HP-AG300H

発売中
価格:17,800円



 バッファローが8月に発売した無線LANルーター「WZR-HP-AG300H」とUSB無線LAN子機「WLI-UC-AG300N」の同梱パッケージ「WZR-HP-AG300H/U」を、借りる機会があったので「WZR-HP-AG300H」を中心に紹介する。

●5GHz帯対応のフル機能無線LANルーター

 バッファロー「WZR-HP-AG300H」はIEEE 802.11a/b/g/nに対応した無線LANルーターだ。無線LANは倍速モードが利用可能で、2.4GHz帯に加え5GHz帯の同時利用に対応している。接続設定はAOSSとWPSの両対応。有線LANは1Gbps対応で4ポート。さらにUSB端子を1ポート搭載しており、接続したストレージをNAS化、DLNAサーバー化できる。今時の家庭向け無線LANルーターとしてはフル機能の最上位モデルと言える。

同梱物一覧。WZR-HP-AG300H本体、縦置き兼横置き用スタンド、スタンド固定用のネジ×2、ACアダプタ、WLI-UC-AG300N本体、USBケーブル、LANケーブル、マニュアル、CD-ROMWZR-HP-AG300H本体天面。アンテナを開くと排気口がある。下に見えるのはスタンドアンテナの可動範囲は縦方向に90度、横方向に270度
本体正面から見て左面。ロゴがある本体正面。上がAOSSボタン、下がMOVIE ENGINEスイッチ。MOVIE ENGINEを使うとブロードバンド放送のコマ落ちを低減できる本体正面から見て右面。横置き時には下になる。中央の上下の細長い穴にスタンドをセットする
本体背面。上からROUTERスイッチ、USBイジェクトボタン、USBランプ、USBポート、1Gbps有線LANポート×4、WANポート、DCコネクタ本体底面。中央にあるのがRESETボタン。RESETボタンは縦置き時にスタンドを装着しても隠れないようになっているスタンド表面。中央にある小さな穴がRESETボタンが隠れないようにするための穴。小さな凸に前後を囲まれた小さな穴が固定用のネジを通すためのもの
スタンド裏面。安定度を増すためかより従来モデルより複雑な構造になっているWLI-UC-AG300Nの表面。2.4GHz帯に加え5GHz帯にも対応したUSB無線LAN子機。倍速モードにも対応しているWLI-UC-AG300N裏面。対応している規格やMACアドレスが印刷されたシールが貼られている

 セキュリティ機能は、ファイアウォール、IPフィルターに加え、「i-フィルター」と呼ばれるWebサイトを対象としたコンテンツフィルタが利用できる。無線LAN用のセキュリティとしては、MACアドレスによる接続制限と、LAN内の機器にはアクセスできないよう隔離する機能がある。

 また、新たに省電力機能を搭載しており、時間設定で使わない機能をオフにしたり電力消費の少ないモードにできる。時間設定は30分単位の週間スケジュール。

「管理設定」にある「エコ」。省電力設定ができる

 バッファローのルーター製品のお約束的機能である「バッファローNAS」と「PPTPサーバー」は本機も搭載している。デフォルトではオフになっているが、あらかじめセットアップしておけば、インターネット経由で出先からNASにアクセスしたり、セキュアなVPN経由で自宅LANに接続できるようになる。

バッファローNAS。ブラウザを使ってインターネット経由でファイルの読み書きができるPPTPサーバー機能を使ってVPN経由でリモートデスクトップを使っている様子

●5GHz帯対応だけじゃない変更点

 WZR-HP-AG300Hと前世代のモデル(WZR-HP-G300H)の最大の変更点は5GHz帯に対応したことだが、変更点はそれだけではない。以降の項目でも紹介しているが、無線有線とも速くなっている。テスト条件によっても評価は変わってくるのではっきりしたことは言いにくいが、トップシェアのメーカーの定番モデルらしい、貫禄のスペックであることは確かだ。

 細かな変更点としては、フロントのランプが変更になったこと、スタンドの安定性が増したこと、スタンドが横置き時にも使えるようになったこと、などが挙げられる。他にも、背面のUSBランプが青色から緑色に変更になった。

無線LANの動作状態を表示するランプが2つ(真ん中の2つ)になった。上が2.4GHz帯、下が5GHz帯奥がWZR-HP-AG300H、手前が旧モデルのWZR-HP-G300NH。アンテナが旧モデルより太くなっている
USBランプ(上)は青から緑に変わったスタンドが横置き時にも装着できるようになった
SSIDは初期設定だと末尾に「_A」と「_G」が付く2つがPCから見える

 それから、5GHz対応になったことでSSIDの初期設定が変わっている。あらかじめ用意されているSSIDは、末尾が「_G」のものと「_A」のものの2つ。前者が2.4GHz帯専用のもの、後者が5GHz帯専用のものだ。購入直後はPCからその2つのSSIDが見える。


●無線も有線も高速化

 CrystalDiskMark 3.0を使用したベンチマーク測定結果は以下の通り。以前紹介した1世代前のモデルである「WZR-HP-G300NH」と比較すると、ただ単に5GHz帯に対応しただけでなく、速度面でも向上しているのがわかる。ボディに地味ながら手が入ったように、内部にも手が入っているようだ。

【表1】アクセス速度測定結果
対Vista SP2(NTFS)ドライブ測定結果

速度(Mbps)

読み込み書き込み
接続規格2.4GHz5GHz2.4GHz5GHz
11n59.5670.2577.7696.72
11n×2105.7882.69113.33114.92
1Gbps(参考)285.72119.03
参考:対Ubuntu 10.04(Ext4)ドライブ測定結果

速度(Mbps)

読み込み書き込み
接続規格2.4GHz5GHz2.4GHz5GHz
11n48.3957.5574.9591.44
11n×276.0372.6124.49125.72
11n×2(vsftpd)83.1489.18103.11154.52
1Gbps433.36899.26

【表2】悪条件下での対Vista SP2(NTFS)ドライブ測定結果

速度(Mbps)

読み込み書き込み
接続規格2.4GHz5GHz2.4GHz5GHz
11n32.9825.2235.4731.12
11n×241.7845.4143.2541.71

 なお、ベンチマーク測定の際は、WZR-HP-AG300HはルーターモードにてPPPoEクライアント機能を使ってインターネットにつないだ状態で使用した。セキュリティ機能はいずれもWPA2-PSK(AES)を使用した。

 接続元はWindows 7のPC、接続先はWindows Vista(SP2)のPC。前者は同梱のUSB無線LANアダプタ「WLI-UC-AG300N」経由でWZR-HP-AG300Hに接続した。後者は1Gbps対応スイッチングハブを経由でWZR-HP-AG300Hに接続した。

 テスト環境は近隣にIEEE 802.11b/g/nユーザーの多いワンルームマンションの一室。テスト時はバッファローの「無線LAN診断」で見る限り2.4GHz帯ユーザーは5軒以上確認できた。電波状態はバッファローの「クライアントマネージャV」の表示で90%。悪条件下の測定は電波状態が30%の場所で行なった。

●NAS機能も高速化

 WZR-HP-AG300Hは背面のUSB端子に接続したUSBストレージをNAS化する機能を搭載している。ホットプラグに対応しているので、電源を落とすことなくストレージをつなぎ変えて使える。ただし、取り外しの際はPC同様USBの停止操作が必要だ。

 対応しているファイルシステムはFATとXFSでフォーマットもできる。ただし、32GB以上のストレージをFAT形式でフォーマットできないので、その時はPCで対応ソフトを別途用意してフォーマットする必要がある。

接続したUSBストレージはWZR-HP-AG300H本体だけでフォーマットできる共有フォルダは「disk1_pt1」のように表示される。もちろん、ネットワークドライブとして登録することができる
XFS形式はLinuxを使うと読み書きできる

 XFSはLinuxで利用可能なファイルシステムだが、最近では家電でもよく使われている。XFSはFATよりもディスクの使用効率と速度に優れ、断片化による速度低下もほとんど無い。難点はWindowsやMacで読み書きできないこと。Linuxであれば読み書きできるので、必要な時はLive CDやLive USBで手元のPCを一時的にLinuxに変身させて対処するのがお勧めだ。

 NAS化したUSBストレージのベンチマーク結果は以下の表の通り。従来モデルと比べると特に読み込み速度が大幅に向上している。PC並とまでいかないが、それに準ずるレベルの速度が出ている。ただ、FAT形式でフォーマットしたHDDの読み込み速度が5GHz帯の場合だけ遅いのがちょっと気になる。


【表3】USBメモリとHDDのアクセス速度測定結果
NAS(USBメモリ)の測定結果

速度(Mbps)

読み込み書き込み
接続規格2.4GHz5GHz2.4GHz5GHz
11nx2(FAT)50.7155.3938.4637.94
1Gbps(FAT)141.5235.1
NAS(USB接続HDD)の測定結果

速度(Mbps)

読み込み書き込み
接続規格2.4GHz5GHz2.4GHz5GHz
11nx2(FAT)62.4229.2339.3839.7
11n×2(XFS)66.562.5840.144.32
1Gbps(FAT)144.1235.02
1Gbps(XFS)169.3735.73

●DLNAサーバーとバッファローNASは従来通り

 WZR-HP-AG300HはDLNAサーバー(メディアサーバー)を搭載している。PCであればWMP12、ゲーム機であればPS3やXbox 360、さらにはDLNAに対応したTVなどの家電で、LANを通じてUSBストレージに保存されたメディアファイル(画像・音声・動画ファイル)を視聴できる。

 対応しているファイル形式は画像であればJPG、BMP、PNG、TIFF、音声であればMP3、AAC、動画であればMPEG-2、WMV、DivXなど。主要なファイル形式はほぼ網羅している。WZR-HP-AG300HのDLNAサーバーは、ネットワークフォルダやWMPでの表示を見る限り米Packet VideoのPVConnectサーバー同等品のようだ。だから、対応ファイル形式についても、PVConnectの紹介ページやPDFが参考になるかもしれない。

DLNAサーバーはネットワークフォルダやWMP上では「PVConnect」と表示されるDLNAサーバーをPS3から見たところ。写真を使ったアイコンで表示される

 DLNAサーバーについては前のモデルと機能的な差は無い。トランスコーディング(ファイル形式の変換)や、メタデータの自動収集を行なわない点も従来通りだ。また、「バッファローNAS」や「PPTPサーバー」についても従来通りで変更点は無い。

●まとめと感想

 バッファローは5GHz帯対応では後発になった。シェアトップのメーカーだけに、何故5GHz帯対応が遅れたのか、不思議に思ったユーザーも多いと思う。これだけ2.4GHz帯製品が普及している状況で5GHz帯に対応しても使う場面が少ないので、このまましばらく2.4GHz帯対応一本でいく判断なのかもしれないとも考えていたが、そうではなかったようだ。

 WZR-HP-AG300Hはこれまで紹介した通り、後発になったメリットを生かしてか、隙の無いモデルに仕上がっている。無線も有線も最速レベルで、NAS機能の使いやすさもトップレベル、「バッファローNAS」や「PPTPサーバー」の様に便利な機能もある。スタンドの安定度が増した点も地味にいいし、スタンドが横置きに対応したことで壁面に固定して使えるようにもなった。

問題のドライバアップデート。オプションの更新にある。公開日は新しめだがリリース日が古い

 と、ここまで書いてきた通り不満らしい不満は無いのだが、実は1件トラブルに遭遇したので参考まで書いておく。テスト中Windowsアップデートのオプションに「WLI-UC-AG300N」のドライバアップデートが公開されたのだが、アップデートを適用したら5GHz帯のSSIDが見えなくなってしまった。ドライバのバージョンを戻すことで事なきを得たのだが、これはドライバのバグなのだろうか?それとも私の環境の問題なのだろうか? バグであれば、改善を求めたいところだ。

【9月17日追記】上記のドライバアップデートについて、バッファローからの報告によると、このドライバはRalinkの手違いにより公開されたもので、正しいドライバではないそうです。バッファローのサイトからダウンロードできるドライバを使えば、この問題は発生しないとのことです。

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(2010年 9月 15日)

[Text by 井上 繁樹]