Hothotレビュー

高性能16型ノートをリーズナブルに。ダイヤルパッド付きのクリエイター向け「Vivobook Pro 16X OLED」

Vivobook Pro 16X OLED(K6604)

 ここ最近、クリエイター向けのノートブックシリーズを拡充してきているASUS。今回紹介する「Vivobook Pro 16X OLED(K6604)」(以降、Vivobook Pro 16X OLED)もその1つだ。

 スペックとしてはハイエンドに近いが、価格はミドルレンジに抑えられた導入しやすいモデルとなる。据え置きメインとなるだろうこの16型ノートPCがどんなポテンシャルをもっているのか、レビューしたい。

【表】Vivobook Pro 16X OLED(K6604)の主なスペック
OSWindows 11 Home
CPUCore i9-13980HX
(24コア/32スレッド、最大5.6GHz、Processor Base Power 55W)
GPUUHD Graphics
GeForce RTX 4070 Laptop GPU(GDDR6 8GB)
メモリ32GB(DDR5)
ストレージ1TB(NVMe/M.2 SSD、PCIe 4.0 x4)
ディスプレイ16型光沢有機ELディスプレイ(3,200×2,000ドット、120Hz)
インターフェイスThunderbolt 4×2、USB 3.0×2、HDMI出力、SDXCカードスロット、ヘッドセット端子
通信機能Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.1、Gigabit Ethernet
WAN-
カメラ約207万画素
セキュリティ指紋認証センサー(Windows Hello対応)
サウンドステレオスピーカー(1.5W×2)
キーボード102キー日本語キーボード
同梱品ACアダプタ(最大240W)
サイズ約355×249×22.35~23.3mm
重量約2.18kg
カラー0°ブラック
価格32万9,800円(直販上位モデル)

高コストパフォーマンスを狙いながら、中も外もハイスペック

 ASUSのクリエイター向けノートPCには、同じ16型でも「ProArt Studiobook」や「Zenbook Pro」というシリーズもある。クリエイティブアプリケーションの動作保証(ProArt Studiobookのみ)、筐体の素材へのこだわり、キーボードやタッチパッド周りのユニークなギミック、スタイラスペン対応のタッチパネルなど付加価値を高めたモデルで、価格帯としては50~60万円とお高めだ。

 一方「Vivobook Pro 16X OLED」は、マシンの処理スペックはそれらに匹敵するレベルでありながら、ギミックなどを最小限に止めることで、クリエイター向けノートPCとしては高いコストパフォーマンスを狙った製品、という位置付けになるだろう。ASUS Storeにおける価格は下位の直販モデルが24万5,999円、今回レビューする上位の同モデルが32万9,800円と、かなり抑えられている。

Vivobook Pro 16X OLED

 試用機は、Core i9-13980HX(24コア/32スレッド、最大5.6GHz)と、ディスクリートGPUのGeForce RTX 4070 Laptop GPU(GDDR6 8GB)が組み合わされている。最新世代ではないがCPU内蔵のUHD Graphicsも利用でき、PCの処理状況に応じてディスクリートGPUと切り替えて処理する「MUXスイッチ」(Advanced Optimus)に対応する。メモリは32GB DDR5、ストレージは1TB(NVMe/M.2 SSD、PCIe 4.0 x4接続)だ。

Core i9とGeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載
「CPU-Z」および「GPU-Z」の実行結果
「MUXスイッチ」の設定は独自ユーティリティ「MyASUS」で行なえる

 クリエイター向けということで、特徴的なのがディスプレイ。3,200×2,000ドット、120Hzという高精細・ハイリフレッシュレートな光沢有機ELディスプレイで、DCI-P3の色空間を100%カバーする。PANTONE認証を取得しているほか、輝度600cd/平方mでHDRにも対応。色校正も可能となっており、映像を扱うクリエイターにとっても十二分な性能だろう。

 画面占有率が88%に達する狭額縁設計で、16型と言えども使用中の感覚としてはそれより1段小さい15型クラスあたりの印象を受ける。

16型の有機ELディスプレイは3,200×2,000ドット、120Hz、しかもDCI-P3を100%カバーする

 筐体には全体的にプラスチック素材が用いられているようだが、だからといってチープというわけではない。マット塗装の表面は手触りがよく、「ASUS Antimicrobial Guard」というウイルス/細菌抑制効果のある表面処理が施されている安心感もある。米国防総省の装備品に求められる「MIL-STD-810H」規格、いわゆるMILスペック対応となっており、耐久性の高さもお墨付きだ。

ボディカラーはダークグレーに近いブラック、1色展開

 キーピッチ約19mmのテンキー付きフルキーボードは静音タイプ。ただ、ものすごく細かいことを言えば、なぜか左Shiftキーのみ「カシャ」という音が目立つのと、冷却ファンをフル稼働させてゲームをキーボードでプレイしているときに、キーを押下している指先に共振と思われるわずかな振動を周期的に感じることがあった。困るというほどではないけれど、このあたりはプラスチック筐体によるものかもしれない。

テンキー付きのフルキーボード
一部のキーのみ異なる配色で、少しおしゃれ感がある

超薄型ファンの冷却システムで高速・安定動作

 16型というサイズのおかげか、インターフェイスは充実している。Thunderbolt 4が2つ、USB 3.0ポートも2つ装備されており、Thunderbolt 4はDisplayPort Alternate ModeとUSB PDに対応する。

 加えてHDMI映像出力やヘッドセット端子、SDXC対応カードスロットがあり、特にSDカードスロットは、ノートPC内蔵にしてはめずらしくUHS-II対応し、最大約300MB/sの高速アクセスが可能だ。電源キーは指紋認証センサーを内蔵し、Windows Helloの指紋認証に対応する。

本体右側面にThunderbolt 4×2、USB 3.0、HDMI、ヘッドセット端子
左側面にDC電源、有線LAN、USB 3.0、SDXCカードスロット
電源ボタン内蔵タイプの指紋認証センサー

 ネットワークはWi-Fi 6EのほかにGigabit Ethernetが用意されているため、Web会議やゲームなど安定性が求められるシーンでも心強い。

 Webカメラは207万画素、フルHD(1,920×1,080ドット、30fps)の標準的な画質で、下記キャプチャを見ると分かるように視野角、精細度、明るさいずれも文句のないクオリティだ。顔認証は非対応となる。

 内蔵ステレオスピーカー(1.5W×2)はharman/kardon監修のもので、Dolby ATMOSにも対応し、筐体の横幅があるおかげかサウンドの広がりがしっかりと感じられる。

カメラレンズはシャッター付き。オフ時はオレンジ色になるため分かりやすい
Webカメラの映像はクリアな画質で視野角も広い
GeForce RTX搭載のため「NVIDIA Broadcast」による背景ぼかしやマイクノイズ低減などの機能が利用できる

 冷却システムには独自の「ASUS IceCool Proサーマルテクノロジー」を採用する。最大5本のヒートパイプと、ブレード1枚あたりの薄さが0.15mmという超薄型ファンなどによって、CPUとGPUの熱を効果的に逃がす仕組みだ。筐体底面から吸気し、両側面と背面の3方向から排熱する構造で、フル稼働時にはかなりのファンノイズが発生するものの、安定動作につながっているようだ。使用中はキーボード面も少しだけ温まるが、長時間の使用を妨げるものではない。

底面から吸気し、両側面と背面の3方向から排熱する

 16型かつディスクリートGPU内蔵ではあるものの、先述の通り狭額縁、薄さを追求した冷却システムなどにより、筐体の縦横サイズや厚みは抑えられている。

 ただし、重量は約2.18kg(実測2.08kg)でずっしり感があり、バッテリ動作時間は後ほど紹介するベンチマークで4時間16分、この原稿の執筆やWebブラウジングなどの実使用でも3時間7分となり、無給電での長時間使用には向かない。やはりメインは据え置きとなるだろう。

薄型の冷却システムにより、本体の厚みは22.35~23.3mmと薄型化に貢献
本体重量はスペックシート上で約2.18kg、実測は2.08kgだった
ACアダプタは最大240W出力のものが付属する。PC本体はUSB PDによる給電に対応するが、フル稼働時はACアダプタが必須

クリエイティブ作業を楽にするダイヤルパッドなど独自機能多数

 近年のASUSのクリエイター向けノートPCにほとんど標準装備のようになってきているダイヤルパッドも利用可能だ。タッチパッド内の左上に設けられており、タッチパッド右上から左下方向にスワイプすると、通常のマウス操作のみのモードとダイヤルパッドを操作可能なモードとを切り替えられる。円形のダイヤルパッドをなぞることでスクロールや音量調整、そのほかのアプリケーションの操作を省力化するものだ。

タッチパッド左上のエリアにダイヤルパッドが設けられている

 ダイヤルパッドの動作は、プリインストールされている独自ユーティリティ「ProArt Creator Hub」でカスタマイズできる。画像編集ソフトにおける画像の拡大/縮小やレイヤーの切り替え、動画編集ソフトのコマ送りやタイムラインの拡大/縮小といった、クリエイティブアプリケーション上の操作をダイヤルパッドに割り当てられ、ユーザーのカスタマイズ次第で生産性を高められる。

「ProArt Creator Hub」
ダイヤルパッドのカスタマイズ画面
クリエイティブアプリケーションの拡大/縮小などの操作をダイヤルで容易に行なえるように

 また、「ProArt Creator Hub」ではほかにも操作を簡略化したり、パフォーマンスを最適化したりする機能が用意されている。

 1つは「WorkSmart」というもの。あらかじめ複数のアプリケーションを割り当てた「タスクグループ」を作成することで、それらアプリケーションを一度にまとめて起動できるようになる。デスクトップ上に作成された専用のショートカットをダブルクリックするだけで、たとえば写真/動画編集に必要なアプリケーション群をまとめて起動する、といったことが可能だ。

「WorkSmart」で「タスクグループ」を作成
デスクトップに作成されたショートカットをダブルクリックすれば、複数の登録済みアプリケーションを一度にまとめて起動できる

 もう1つ面白いのは「アプリ電力プライオリティ」という機能。パフォーマンスを重視したいアプリケーションを登録しておくと、そのアプリケーションを別途起動したときに、自動でそのアプリケーションのCPU優先度を高く設定したうえで、不要なメモリの解放をない、冷却ファンを「パフォーマンスモード」に切り替えてくれる。いちいち手動で冷却ファンのモードを切り替えたりする手間なしに、いつでも最適なパフォーマンスを発揮できるわけだ。

「アプリ電力プライオリティ」機能
「AIノイズキャンセリングマイク」のようなWeb会議で活用できる機能ももちろん用意されている

スペック通りの実力を発揮、実務アプリはもちろんゲームも快適にこなせる

 気になるパフォーマンスも見ていこう。グラフィックスドライバは標準で選択される「Studioドライバ」としている。

 またPCのパフォーマンス関連の設定については、「ProArt Creator Hub」で冷却ファンモードを「フルスピードモード」に設定、「MyASUS」ではMUXスイッチを「ディスクリートGPU」のみ使う設定とした。なおバッテリテストのみ、ディスプレイ輝度50%、CPU内蔵GPUとディスクリートGPUを自動で切り替える「MSHybrid」とし、冷却ファンは「スタンダードモード」に設定している。

「Cinebench R23」の結果
「PCMark 10 Extended」の結果
「PCMark 10 Applications」の結果
「3DMark」の結果

 「Cinebench」は、さすがトップクラスの性能を持つ第13世代Core i9のおかげで、シングルコア、マルチコアともに高いスコアを記録した。「PCMark 10」はGeForce RTX 4070 Laptop GPUのパワーもあり、実務系だけでなくマルチメディア系やゲーム系のテスト項目でも高いパフォーマンスだ。「3DMark」の各ベンチマーク結果でも、グラフィックス性能の高さをいかんなく発揮している。

「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」の結果
「サイバーパンク2077」のベンチマークモードの結果
「ホグワーツ・レガシー」のベンチマーク結果(ホグズミードを南北に歩いて往復したときの平均fps)

 ゲームについては、解像度が3,200×2,000ドットと高いにも関わらず、「ファイナルファンタジーXIV」のベンチマークでは「最高画質」でも快適にプレイできるという結果に。「サイバーパンク2077」は画質設定を変えながら、GeForce RTX 40シリーズが持つDLSS 3の「フレーム生成」機能をオン/オフして計測(解像度スケーリングは「自動」)したが、フレーム生成オンであれば画質「高」や「ウルトラ」であっても高解像度のまま楽しめるようだ。

 「ホグワーツ・レガシー」ではフレーム生成をオンにした場合、特に画質を高めたときに計測途中でゲームが強制終了するため、フレーム生成オフの結果のみ掲載している。この現象は計測用ツール(CapFrameX)を使わない状態や、「Game Readyドライバ」に変えた状態でも発生した。PC個体の問題か、ドライバの不具合か、あるいは「ホグワーツ・レガシー」の現時点での固有の問題のどれかだと思われる。

「BLUE PROTOCOL ベンチマーク」の結果

 今回参考までに、新しいベンチマークソフト「BLUE PROTOCOL ベンチマーク」も実行してみた。3,200×2,000ドットのグラフィックスは目を見張るような美しさで、それでもスコアは「9,407」かつ「とても快適」と判定された。画面は16:9のアスペクト比固定のため上下は黒帯となる。

 なお、ディスプレイの最大解像度で実行したい場合は、Windowsのディスプレイ設定で「拡大/縮小」(フォントのスケール)を「100%」にする必要がある(Vivobook Pro 16X OLEDのデフォルトは200%となっている)。

「CrystalDiskMark」の結果(内蔵SSD)
「CrystalDiskMark」の結果(SDカード)

 「CrystalDiskMark」は内蔵SSDと、SDカード(UHS-II対応、リード最大300MB/sのメディア)を対象に実行した。内蔵SSDはPCIe 4.0 x4接続としては標準的な速度だが、SDカードは本来のスペックには届かないもののそれに近いリード性能を叩き出しており、写真を大量に取り込むユーザーにとってはうれしい点だろう。

スタンダードな使い勝手のハイスペッククリエイターノートが欲しい人に

 ダイヤルパッドを除けば、取り立てて変わったギミックのないモデルではある。けれど、スタンダードな使い勝手でハイエンドクリエイター向けモデルに匹敵する高いスペックを誇り、しかも値段が抑えられている、というのが「Vivobook Pro 16X OLED」のウリだ。

 上位モデルは直販価格で30万円を少し超える程度、下位モデルは20万円中盤というお買い得感のあるプライスで、いずれも一般的なビジネスノートをはるかに上回る性能を持つ。個人クリエイターはもとより、30万円以下なら一括損金算入できるという意味で、企業での導入もしやすいのではないだろうか。