Hothotレビュー
高価なのは確かだが、Meta Quest Proだけでしか味わえない体験がある
2022年12月7日 06:21
Metaは新たなスタンドアローンVRヘッドセット「Meta Quest Pro」を10月11日に発表、10月25日より販売開始した。今回は「Oculus Go」、「Oculus Quest」、「Meta Quest 2」などとの比較を交えながら、Meta Quest ProでどのようなVR/MR体験が可能なのかレビューしていこう。
フルカラーによる複合現実を体験可能なVRヘッドセット
Meta Quest Proは「Project Cambria」というコードネームで開発されてきたMeta最新のスタンドアローンVRヘッドセットだ。Meta Quest 2の4倍となるピクセル数のフルカラーカメラが外部に5つ配置されており、フルカラーによる複合現実を実現している。
また内部には120度の視野に対応する5つの赤外線アイトラッキング&フェイストラッキングセンサーを搭載。VR内でアバターに表情や視線を反映させることが可能だ。
ディスプレイの光学系も大きく進化。Meta Quest 2のフレネルレンズを薄型パンケーキレンズに置き換えることで光学モジュールの奥行きを40%削減。「ローカルディミング技術」と「量子ドット技術」を採用したと謳う液晶ディスプレイは、1インチあたりのピクセル数が37%、1度あたりのピクセル数が10%増加した。
また500個を超えるLEDブロックを個別に制御することで、コントラスト比が75%向上し、階調豊かで鮮やかな発色を実現している。さらに全視野の鮮明さは中央領域で25%、周辺領域で50%高まり、色域は1.3倍に広くなっている。
ヘッドセットのボディ構成も大きく変化しており、前部にメイン基板や光学系が収められ、後部に流線型モバイルバッテリが内蔵された。額と後頭部が当たる箇所には軟らかなクッションが用意されている。重量はMeta Quest 2の約1.4倍となる722gに増えているが、前後バランスが改善されたことで装着感は向上している。
調節機構としては、瞳孔間距離(IPD)は55~75mmと設定範囲が広くなり、「アイレリーフ調整ダイヤル」によりレンズと目の距離を調整可能となった。また標準では側面、下方が開けたデザインになっており、必要に応じて同梱の「マグネット式遮光ブロッカー」、オプションの「Meta Quest Proフル遮光ブロッカー」(6,820円)を装着する仕様となっている。
ちょっと驚かされたのがコントローラの仕様だ。同梱される「Meta Quest Touch Proコントローラー」はSoCにSnapdragon 662を搭載し、3つのセンサーを内蔵。ヘッドセットとは独立して3D空間の位置を追跡可能となり、360度のフル可動域を実現している。またその副産物として、ヘッドセットから検出するために従来コントローラに設けられていた「輪っか」のパーツがなくなりコンパクトになった。
さらに「TruTouchハプティクス」により触覚フィードバックの体験が向上し、バッテリを内蔵する充電式となった。ちなみにこの「Meta Quest Touch Proコントローラー」はMeta Quest 2でも利用可能で、3万7,180円で単体購入できる。
最後にコンピュータとしてのスペックについて触れておくと、ヘッドセットにはSoCにSnapdragon XR2+を採用。メモリは12GB、ストレージは256GBを搭載し、無線通信はWi-Fi 6EとBluetooth 5.2をサポートしている。
Meta Quest 2とは上位互換性が確保されており、すでに膨大に発売されているゲーム、アプリをそのまま利用できる。バッテリ容量は公表されていないが、バッテリ駆動時間は約1~2時間と謳われている。これら以外の細かなスペックについて下記表を参照してほしい。
Meta Quest Pro | Oculus Quest 2 | Oculus Quest | Oculus Go | |
---|---|---|---|---|
発表日 | 2022年10月12日 | 2020年9月17日 | 2019年3月21日 | 2018年5月1日 |
発売日 | 2022年10月25日 | 2020年10月13日 | 2019年5月21日 | 2018年5月1日 |
カテゴリ | オールインワン型VRゲーム | オールインワン型VRゲーム | オールインワン型VRゲーム | オールインワン型VR視聴 |
価格 | 256GB:22万6,800円 | 64GB:3万7,180円 →販売終了 128GB:未発売 →5万9,400円 256GB:4万9,280円 →7万4,400円 | 64GB:4万9,800円 128GB:6万2,800円 | 32GB:2万3,800円 →1万9,300円 64GB:2万9,800円 →2万5,700円 |
ハードウェア | PC不要、PCと接続可能 | PC不要、PCと接続可能 | PC不要、PCと接続可能 | PC不要 |
トラッキング | 6DoF、表情トラッキング、アイトラッキング | 6DoF | 6DoF | 3DoF |
パススルー | 対応 (Quest 2の4倍の高解像度で体験できるフルカラーのMR) | 対応 (モノクロ) | 対応 (モノクロ) | 非対応 |
SoC | Snapdragon XR2+ | Snapdragon XR2 (処理性能はSnapdragon 865相当) | Snapdragon 835 | Snapdragon 821 |
GPU | 不明 | 不明 | Adreno 540 | Adreno 530 |
RAM | 12GB | 6GB | 4GB | 3GB |
ストレージ | 256GB | 64GB/128GB/256GB | 64GB/128GB | 32GB/64GB |
ディスプレイ | LCDディスプレイ (片目あたり1,800×1,920ドット、リフレッシュレート72Hz/90Hz、視野角水平106度/垂直96度、アイレリーフ調整ダイヤル) | 高速スイッチLCDディスプレイ (片目あたり1,832×1,920ドット、リフレッシュレート60Hz/72Hz/90Hz/120Hz(テスト機能)) | OLEDディスプレイ (片目あたり1,440×1,600ドット、リフレッシュレート72Hz) | 高速スイッチLCDディスプレイ (片目あたり1,280×1,440ドット、リフレッシュレート60Hz) |
IPD | 55~75mm | 58/63/68mmで調整 | 59~71mm | 固定 |
オーディオ | ステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャック | ステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャック | ステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャック | ステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャック |
無線通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0 | Wi-Fi 5、Bluetooth 5.0 | Wi-Fi 5、Bluetooth 4.1 |
端子 | USB Type-C | USB Type-C | USB Type-C | Micro USB |
コントローラ | 2本 (サイズ:130×70×62mm、重量:153g、電源:充電式バッテリ、バッテリ駆動時間:最大8時間、1本のコントローラにSnapdragon 662を搭載) | 2本 (サイズ:90×120mm、重量:126g、電源:単3形乾電池×2) | 2本 (電源:単3形乾電池×2) | 1本 (電源:単3形乾電池×2) |
サイズ | 265×127×196mm | ストラップ折りたたみ時:191.5×102×142.5mm ストラップ展開時:191.5×102×295.5mm | 193×105×222mm | 190×115×105mm |
重量 | 722g | 503g | 571g | 468g |
バッテリ駆動時間 | 約1~2時間 | ゲーム:約2時間 動画視聴:約3時間 | ゲーム:約2時間 動画視聴:約3時間 | 約2時間 |
充電時間 | 約2時間 | 約2.5時間 | 約2時間 | 不明 |
ストア | Oculus Questストア | Oculus Questストア | Oculus Questストア | Oculus Goストア |
画質は着実に向上しているもののVRゲームなどでは体感しにくい
それではMeta Quest Proを実際に使ったみた感想をお伝えしよう。一番顕著に感じたのは解像感の高さ。それは文字を見ると明らかで、Meta Quest Proのほうがくっきりとよく見える。特に周辺領域の解像感が大きく向上しており、バーチャルディスプレイ環境などで視線を動かすだけで多くの情報が確認可能だ。
ただゲームなどのVRコンテンツで高精細化の恩恵を受けられるかというと微妙だ。少なくともQuest用VRコンテンツをMeta Quest ProとMeta Quest 2で交互にプレイしても、解像感だけでなく、コントラストや発色にも大きな違いは筆者には体感できなかった。
唯一の例外がPC用VR「Kayak VR: Mirage」で、高画質設定に切り替えると情景の臨場感がワンランク向上する。しかし、それでもゲーム体験が変わるほどのものではない。目的がVRゲームなのであれば、Meta Quest 2がベストな選択肢だと思う。
Meta Quest Proのフルカラーによるパススルー映像は、多くのメディアやSNSですでに指摘されている通り、確かにあまり綺麗ではない。まず解像度が低く、明暗差に大きいと明るいほうが白飛びしてしまう。また、カメラとカメラの映像のつなぎ合わせが大きく歪むのも気になるところだ。解像感と発色に限って言えばPicoの「PICO4」のほうが明らかに上だ。
しかし、複合現実対応アプリを実際に体験してみたら、パススルー映像に対する不満は吹き飛んでしまった。「META QUEST PROのおすすめタイトル」で公開されているアプリを一通り試してみたが、複合現実モードでアプリを操作していると、意識のほとんどはコンピュータグラフィックスのほうに向かっていく。そうなるとパススルー映像のアラはほとんど気にならなくなるのだ。
もちろんソフトウェアアップデートで画質が向上するならぜひ実施してほしいし、ハードウェア的な制限なのであれば次期モデルで改善してほしい。しかし、全方位に広がる複合現実は体験する価値が大いにあるというのが率直な感想だ。
下記に前述の「META QUEST PROのおすすめタイトル」に掲載されているアプリのショートレビューを掲載した。基本的にすべてMeta Quest 2でも利用できるようなので、無料アプリだけでもぜひ体験してみてほしい。
カタログスペックにおいて、Meta Quest Proはバッテリ駆動時間が減っていたのでどのくらい動作するのか心配だったが、「Marvel's Iron Man VR」をディスプレイ輝度100%、ボリューム100%で1時間プレイしてみたところ、バッテリ残量は63%となっていた。
ということは、「Marvel's Iron Man VR」と同程度の負荷のゲームであれば、単純計算でバッテリ残量0%まで2時間42分動作することになる。Meta Quest Proの「約1~2時間」というバッテリ駆動時間はもっと厳しい条件を想定したスペックである可能性がある。
フェイストラッキングとアイトラッキングは非常に楽しい機能だ。また、「Meta Quest Touch Proコントローラー」が360度のフル可動域を実現したことにより、手をうしろに回せるなどポーズの自由度が高まった。VR空間内でのコミュニケーションの幅が広がるし、アイトラッキングは視線操作などで実用面での活用も期待される。
ただし、ちょっと気になったのがフェイストラッキングの精度。正確にフェイストラッキングするためにはヘッドセットの位置がシビアなのかもしれないが、目を見開いても半開きの微妙な表情となってしまった。もっと微妙な表情の変化であっても大きく反映するように、表情の強度を調整できるようになると個人的にはうれしい。
高価なのは確かだが本製品だけでしか味わえない体験がある
Meta Quest Proは同社の最新VRヘッドセットだが、Meta Quest 2の後継機ではない。主に開発者や法人ユーザーをターゲットにした製品であり、価格も22万6,800円と非常に高価だ。Metaのブログにも「将来的には、Meta Quest Proの使用例が、エントリーレベルのヘッドセットにも追加される機能やコンテンツに反映されることになります」と記載されており、明確にMeta Quest 2の後継機の存在が示唆されている。
しかしフルカラーカメラのパススルー映像によりMR体験が可能となり、フェイストラッキング、アイトラッキングに対応するなど、現時点で購入可能なスタンドアローンVRヘッドセットとしては最も先進的なVR/MRを体験できる。高価なのは確かだが、本製品だけでしか味わえない体験があることを考えると、未来を先取りできるという意味でPCやスマホを買うのを1~2年遅らせたとしても、今手に入れる価値はあると思う。