Hothotレビュー

高価なのは確かだが、Meta Quest Proだけでしか味わえない体験がある

Meta「Meta Quest Pro」。価格は22万6,800円

 Metaは新たなスタンドアローンVRヘッドセット「Meta Quest Pro」を10月11日に発表、10月25日より販売開始した。今回は「Oculus Go」、「Oculus Quest」、「Meta Quest 2」などとの比較を交えながら、Meta Quest ProでどのようなVR/MR体験が可能なのかレビューしていこう。

フルカラーによる複合現実を体験可能なVRヘッドセット

 Meta Quest Proは「Project Cambria」というコードネームで開発されてきたMeta最新のスタンドアローンVRヘッドセットだ。Meta Quest 2の4倍となるピクセル数のフルカラーカメラが外部に5つ配置されており、フルカラーによる複合現実を実現している。

 また内部には120度の視野に対応する5つの赤外線アイトラッキング&フェイストラッキングセンサーを搭載。VR内でアバターに表情や視線を反映させることが可能だ。

 ディスプレイの光学系も大きく進化。Meta Quest 2のフレネルレンズを薄型パンケーキレンズに置き換えることで光学モジュールの奥行きを40%削減。「ローカルディミング技術」と「量子ドット技術」を採用したと謳う液晶ディスプレイは、1インチあたりのピクセル数が37%、1度あたりのピクセル数が10%増加した。

 また500個を超えるLEDブロックを個別に制御することで、コントラスト比が75%向上し、階調豊かで鮮やかな発色を実現している。さらに全視野の鮮明さは中央領域で25%、周辺領域で50%高まり、色域は1.3倍に広くなっている。

本体前面にはカメラが3基搭載されている
本体背面。流線型モバイルバッテリが内蔵されている。ユーザーによるバッテリ交換には非対応
製品パッケージ。サイズは実測390×140×230mm。ストレージ容量が右上に「256GB」と大きく記載されているということは今後もっと大容量のモデルがリリースされるのかもしれない
パッケージにはMeta Quest Proヘッドセット、Meta Quest Touch Proコントローラー×2、手首ストラップ×2、スタイラスペン先×2、充電ドック、コントローラー充電ケーブル、充電ケーブル、電源アダプタ、保護カバー、遮光ブロッカー(左/右)×2、説明書(Meta Quest Proへようこそ、安全および保証ガイド)、クリーニングクロスが同梱されている

 ヘッドセットのボディ構成も大きく変化しており、前部にメイン基板や光学系が収められ、後部に流線型モバイルバッテリが内蔵された。額と後頭部が当たる箇所には軟らかなクッションが用意されている。重量はMeta Quest 2の約1.4倍となる722gに増えているが、前後バランスが改善されたことで装着感は向上している。

 調節機構としては、瞳孔間距離(IPD)は55~75mmと設定範囲が広くなり、「アイレリーフ調整ダイヤル」によりレンズと目の距離を調整可能となった。また標準では側面、下方が開けたデザインになっており、必要に応じて同梱の「マグネット式遮光ブロッカー」、オプションの「Meta Quest Proフル遮光ブロッカー」(6,820円)を装着する仕様となっている。

本体上部。前側には「アイレリーフ調整ダイヤル」、後ろ側には「フィット調整ダイヤル」が設けられている
本体下部。左側には3.5mmオーディオジャックとボリュームボタン、右側には3.5mmオーディオジャックと電源ボタンを用意。前側下部にあるのは充電ドックと接続するための金属接点だ
左側面にはUSB Type-C端子とカメラを装備
右側面にはカメラを用意。前面中央、前面左右、左右側面のカメラは外観が異なっている。イメージセンサーはともかくレンズの仕様は異なっている可能性が高い

 ちょっと驚かされたのがコントローラの仕様だ。同梱される「Meta Quest Touch Proコントローラー」はSoCにSnapdragon 662を搭載し、3つのセンサーを内蔵。ヘッドセットとは独立して3D空間の位置を追跡可能となり、360度のフル可動域を実現している。またその副産物として、ヘッドセットから検出するために従来コントローラに設けられていた「輪っか」のパーツがなくなりコンパクトになった。

 さらに「TruTouchハプティクス」により触覚フィードバックの体験が向上し、バッテリを内蔵する充電式となった。ちなみにこの「Meta Quest Touch Proコントローラー」はMeta Quest 2でも利用可能で、3万7,180円で単体購入できる。

 最後にコンピュータとしてのスペックについて触れておくと、ヘッドセットにはSoCにSnapdragon XR2+を採用。メモリは12GB、ストレージは256GBを搭載し、無線通信はWi-Fi 6EとBluetooth 5.2をサポートしている。

Meta Quest Touch Proコントローラー。Snapdragon 662を搭載し、3つのセンサーを内蔵。ヘッドセットと独立して3D空間の位置を追跡可能。なおストラップは押しながら1/4回転させることで抜ける。無理に引っ張らないように注意
充電ドック、コントローラー充電ケーブル、充電ケーブル、電源アダプタ。コントローラー充電ケーブルは1本しか付属していないので、充電ドックなしにはMeta Quest Touch Proコントローラーを2本まとめて充電できない
保護カバーと遮光ブロッカー(左/右)。どちらもシリコン素材で軟らかい
説明書(Meta Quest Proへようこそ、安全および保証ガイド)、クリーニングクロス。説明書は必要最低限の簡素なものだが、セットアップ方法はヘッドセット内で表示されるので特に困ることはない
Meta Quest Proヘッドセットの重量は実測719g
Meta Quest Touch Proコントローラー(手首ストラップ含む)の重量は164.9g

 Meta Quest 2とは上位互換性が確保されており、すでに膨大に発売されているゲーム、アプリをそのまま利用できる。バッテリ容量は公表されていないが、バッテリ駆動時間は約1~2時間と謳われている。これら以外の細かなスペックについて下記表を参照してほしい。

【表】MetaおよびOculusのVRヘッドセットのスペック比較
Meta Quest ProOculus Quest 2Oculus QuestOculus Go
発表日2022年10月12日2020年9月17日2019年3月21日2018年5月1日
発売日2022年10月25日2020年10月13日2019年5月21日2018年5月1日
カテゴリオールインワン型VRゲームオールインワン型VRゲームオールインワン型VRゲームオールインワン型VR視聴
価格256GB:22万6,800円64GB:3万7,180円
→販売終了
128GB:未発売
→5万9,400円
256GB:4万9,280円
→7万4,400円
64GB:4万9,800円
128GB:6万2,800円
32GB:2万3,800円
→1万9,300円
64GB:2万9,800円
→2万5,700円
ハードウェアPC不要、PCと接続可能PC不要、PCと接続可能PC不要、PCと接続可能PC不要
トラッキング6DoF、表情トラッキング、アイトラッキング6DoF6DoF3DoF
パススルー対応
(Quest 2の4倍の高解像度で体験できるフルカラーのMR)
対応
(モノクロ)
対応
(モノクロ)
非対応
SoCSnapdragon XR2+Snapdragon XR2
(処理性能はSnapdragon 865相当)
Snapdragon 835Snapdragon 821
GPU不明不明Adreno 540Adreno 530
RAM12GB6GB4GB3GB
ストレージ256GB64GB/128GB/256GB64GB/128GB32GB/64GB
ディスプレイLCDディスプレイ
(片目あたり1,800×1,920ドット、リフレッシュレート72Hz/90Hz、視野角水平106度/垂直96度、アイレリーフ調整ダイヤル)
高速スイッチLCDディスプレイ
(片目あたり1,832×1,920ドット、リフレッシュレート60Hz/72Hz/90Hz/120Hz(テスト機能))
OLEDディスプレイ
(片目あたり1,440×1,600ドット、リフレッシュレート72Hz)
高速スイッチLCDディスプレイ
(片目あたり1,280×1,440ドット、リフレッシュレート60Hz)
IPD55~75mm58/63/68mmで調整59~71mm固定
オーディオステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャックステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャックステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャックステレオスピーカー、マイク、3.5mmオーディオジャック
無線通信Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0Wi-Fi 5、Bluetooth 5.0Wi-Fi 5、Bluetooth 4.1
端子USB Type-CUSB Type-CUSB Type-CMicro USB
コントローラ2本
(サイズ:130×70×62mm、重量:153g、電源:充電式バッテリ、バッテリ駆動時間:最大8時間、1本のコントローラにSnapdragon 662を搭載)
2本
(サイズ:90×120mm、重量:126g、電源:単3形乾電池×2)
2本
(電源:単3形乾電池×2)
1本
(電源:単3形乾電池×2)
サイズ265×127×196mmストラップ折りたたみ時:191.5×102×142.5mm
ストラップ展開時:191.5×102×295.5mm
193×105×222mm190×115×105mm
重量722g503g571g468g
バッテリ駆動時間約1~2時間ゲーム:約2時間
動画視聴:約3時間
ゲーム:約2時間
動画視聴:約3時間
約2時間
充電時間約2時間約2.5時間約2時間不明
ストアOculus QuestストアOculus QuestストアOculus QuestストアOculus Goストア

画質は着実に向上しているもののVRゲームなどでは体感しにくい

 それではMeta Quest Proを実際に使ったみた感想をお伝えしよう。一番顕著に感じたのは解像感の高さ。それは文字を見ると明らかで、Meta Quest Proのほうがくっきりとよく見える。特に周辺領域の解像感が大きく向上しており、バーチャルディスプレイ環境などで視線を動かすだけで多くの情報が確認可能だ。

 ただゲームなどのVRコンテンツで高精細化の恩恵を受けられるかというと微妙だ。少なくともQuest用VRコンテンツをMeta Quest ProとMeta Quest 2で交互にプレイしても、解像感だけでなく、コントラストや発色にも大きな違いは筆者には体感できなかった。

 唯一の例外がPC用VR「Kayak VR: Mirage」で、高画質設定に切り替えると情景の臨場感がワンランク向上する。しかし、それでもゲーム体験が変わるほどのものではない。目的がVRゲームなのであれば、Meta Quest 2がベストな選択肢だと思う。

PC用VR「Kayak VR: Mirage」ではMeta Quest Proの高画質を実感できる。今後多くのPC用VRのグラフィックスクオリティが向上することに期待したい

 Meta Quest Proのフルカラーによるパススルー映像は、多くのメディアやSNSですでに指摘されている通り、確かにあまり綺麗ではない。まず解像度が低く、明暗差に大きいと明るいほうが白飛びしてしまう。また、カメラとカメラの映像のつなぎ合わせが大きく歪むのも気になるところだ。解像感と発色に限って言えばPicoの「PICO4」のほうが明らかに上だ。

リアルタイムのスティッチ(つなぎ合わせ)で歪むのは仕方がないが、画面全体に漂うノイズ、解像度の低さには、期待していただけに落胆を禁じ得なかった

 しかし、複合現実対応アプリを実際に体験してみたら、パススルー映像に対する不満は吹き飛んでしまった。「META QUEST PROのおすすめタイトル」で公開されているアプリを一通り試してみたが、複合現実モードでアプリを操作していると、意識のほとんどはコンピュータグラフィックスのほうに向かっていく。そうなるとパススルー映像のアラはほとんど気にならなくなるのだ。

 もちろんソフトウェアアップデートで画質が向上するならぜひ実施してほしいし、ハードウェア的な制限なのであれば次期モデルで改善してほしい。しかし、全方位に広がる複合現実は体験する価値が大いにあるというのが率直な感想だ。

 下記に前述の「META QUEST PROのおすすめタイトル」に掲載されているアプリのショートレビューを掲載した。基本的にすべてMeta Quest 2でも利用できるようなので、無料アプリだけでもぜひ体験してみてほしい。

「Arkio」(Plus版月額790円、Pro版月額4,490円)
複合現実のなかで建物、インテリア、ゲーム環境をデザインする設計ツール。最大23人で作業できる。作成した建物の中に入り、中から外界がどのように見えるかなども確認できる
「Figmin XR」(2,208円)
リアルな物理法則が存在する空間でホログラムを作成、再生できる。部屋にホログラムを飾ったり、動画を撮影したり、ゲームを作ることも可能。3Dモデルの編集機能も用意されている
「I Expect You To Die: Home Sweet Home」(無料)
Meta Quest用大ヒットゲームの複合現実版ミニミッション。シークレットエージェントであるプレイヤーは、自分の部屋に作られた密閉空間から難解なパズルや、危険な罠をクリアして脱出することを目指す
「Immersed」(無料)
Mac、Windows、Linuxに対応したバーチャルオフィス作成アプリ。どんなに狭い場所でも、複合現実に複数、かつ巨大なバーチャルディスプレイを設置した環境で作業が可能となる。スクリーン共有機能、対面式ホワイトボードなどによる共同作業にも対応している
「Meta Horizon Workrooms」(無料)
VR空間で同僚と共同作業するためのコラボレーションツール。フェイストラッキング、アイトラッキングに対応。「Meta Questリモートデスクトップ」アプリを追加すれば、現実のPCのディスプレイをVR空間に持ち込め、複合現実でも作業可能だ
「Nanome」(個人利用は無料、授業用ライセンスは年間199ドル)
一般化学から創薬にも利用されているVRを利用したコラボレーションツール。実際に分子をつかんで操作して、分子構造を設計、解析できる。Metaのアバターを使用して共同作業も可能だ
「Painting VR」(2,208円)
さまざまな画材が用意されたペイントツール。色を混ぜてブラシに浸すといったアナログ的な感覚をVR空間で実現している。またいくつかの作品を完成させたあとには、複数ユーザー間で空間内での位置情報を共有する「共有空間アンカー」と、カラーパススルー機能を利用して、自分の部屋に絵画を飾って展覧会を開くことも可能だ
「ShapesXR」(無料)
リモートチームをターゲットにしたVR空間内でのデザインツール。工業デザインのモックアップや、3D空間をチームでデザインし、完成したら関係者を招いてデモンストレーションできる。アイトラッキングやフェイストラッキングに対応しており、チーム間や関係者の生に近い反応を確認可能だ
「Tribe XR」(2,990円)
クラブでおなじみのパイオニア製DJ機材をVR空間で体験できる練習ツール。チュートリアルが用意されており「CDJ-3000デッキ」、「DJM-900NXS2ミキサー」の使い方を基礎から学べる。
「Wooorld」(1,490円)
地球上のあらゆる場所を散策できる観光体験アプリ。「Google Earth VR」のように世界各地を観光できる。「3D都市」となっている場所は限られているが、任意の場所に降り立って全天周写真を鑑賞できる。

 カタログスペックにおいて、Meta Quest Proはバッテリ駆動時間が減っていたのでどのくらい動作するのか心配だったが、「Marvel's Iron Man VR」をディスプレイ輝度100%、ボリューム100%で1時間プレイしてみたところ、バッテリ残量は63%となっていた。

 ということは、「Marvel's Iron Man VR」と同程度の負荷のゲームであれば、単純計算でバッテリ残量0%まで2時間42分動作することになる。Meta Quest Proの「約1~2時間」というバッテリ駆動時間はもっと厳しい条件を想定したスペックである可能性がある。

「Marvel's Iron Man VR」をディスプレイ輝度100%、ボリューム100%で1時間プレイしたあとのバッテリ残量は63%

 フェイストラッキングとアイトラッキングは非常に楽しい機能だ。また、「Meta Quest Touch Proコントローラー」が360度のフル可動域を実現したことにより、手をうしろに回せるなどポーズの自由度が高まった。VR空間内でのコミュニケーションの幅が広がるし、アイトラッキングは視線操作などで実用面での活用も期待される。

 ただし、ちょっと気になったのがフェイストラッキングの精度。正確にフェイストラッキングするためにはヘッドセットの位置がシビアなのかもしれないが、目を見開いても半開きの微妙な表情となってしまった。もっと微妙な表情の変化であっても大きく反映するように、表情の強度を調整できるようになると個人的にはうれしい。

思いっきり目と口を開いたつもりだが、微妙な表情である
ヘッドセットのフィット調整がシビア。レンズ間隔、ヘッドセットの上下位置、レンズと目の距離、ヘッドセットの傾きなどを細かく調整する必要がある。1つ合わせると、ほかの項目がずれてしまったりと、何度も繰り返さなければならないこともあって結構面倒だ

高価なのは確かだが本製品だけでしか味わえない体験がある

 Meta Quest Proは同社の最新VRヘッドセットだが、Meta Quest 2の後継機ではない。主に開発者や法人ユーザーをターゲットにした製品であり、価格も22万6,800円と非常に高価だ。Metaのブログにも「将来的には、Meta Quest Proの使用例が、エントリーレベルのヘッドセットにも追加される機能やコンテンツに反映されることになります」と記載されており、明確にMeta Quest 2の後継機の存在が示唆されている。

 しかしフルカラーカメラのパススルー映像によりMR体験が可能となり、フェイストラッキング、アイトラッキングに対応するなど、現時点で購入可能なスタンドアローンVRヘッドセットとしては最も先進的なVR/MRを体験できる。高価なのは確かだが、本製品だけでしか味わえない体験があることを考えると、未来を先取りできるという意味でPCやスマホを買うのを1~2年遅らせたとしても、今手に入れる価値はあると思う。