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中国・兆芯製x86「KX-U6780A」が“Core i5級の性能”かどうか検証してみた

 今日のIntel以外のx86互換プロセッサといえばAMDを思い浮かぶ読者が多いと思うが、実はもう1つある。中国・上海兆芯集成電路有限公司(以下、兆芯)だ。

 兆芯は、台湾VIA Technologiesと上海市政府が共同出資した半導体メーカーとなり、台湾VIA Technologies傘下だったCentaur Technologyが手掛けたIPの提供を受け開発されている。

 「だった」というのは、Centaur Technologyは2021年にIntelが人員を買収しており、台湾VIA TechnologiesにはIPだけが残る状況となっている。そのため「C3」、「C7」、「Nano」、「Eden」といったx86互換プロセッサの流れは兆芯が受け継いだと言っても過言ではないだろう。

 兆芯では、「ZX-C」、「ZX-C+」、「KX-5000」、そして今回紹介する「KX-6000」がリリースされている。「KX-6000」そのものは2019年に発売されており執筆時点で2年以上経過していることになるが、次世代の「KX-7000」はまだ見えてきていない。

 「KX-5000」から「KX-6000」はTSMC 28nmプロセスから16nmプロセスでシュリンクされた程度だったが、次世代の「KX-7000」は大幅に変更が入る予定だ。

 なお、「KX-6000」は同社によれば第7世代Core i5と同等のシステム性能をターゲットにしているという。

KX-5000シリーズ発表時のロードマップ(2017年)

 また、同社のx86互換プロセッサのコードネームは上海地下鉄の駅名となっており、最新の「KX-6000」はLuJiaZui(陸家嘴)となっている。

上海にある陸家嘴駅
上海の有名なフォトスポットだが、ここで写っているエリアがだいたいLuJiaZui(陸家嘴)だ

KaiXian KX-U6780A搭載マザーボードがやってきた

 「KX-6000」はCPUがマザーボードに直付けされているBGAパッケージとなっている。そのためCPUとマザーボードはセットで揃える必要がある。

 今回、筆者が入手したマザーボードは上海东海智通信息技术有限公司の「XSD30」と呼ばれるいわゆる普通のデスクトップPCのマザーボードとCPUだけを抜いた物のようだ。

 形状としてはmicroATXサイズとなっており、CPUの電源が4ピンということとRGB、シリアルポート(RS-232C)が搭載されていること以外は今どきのマザーボードという印象だ。

 マザーボードにあるヒートシンクの下にはサウスブリッジとしてZX-200が搭載されていると思われる。

KaiXian KX-U6780Aを搭載したマザーボードXSD30
思いのほか充実しているI/Oポート

 CPUに関しては、「KX-6000」シリーズの中で2番目の性能を持つ「KaiXian KX-U6780A」を搭載したモデルとなっている。8コア8スレッドとなっており兆芯のCPUの性能を試すには最適なモデルと言えるだろう。本来であれば最上位モデルの「KaiXian KX-U6880A」を入手したかったが流通しているところを筆者はまだ見たことがない。

KaiXian KX-U6780Aのダイ。ヒートスプレッダはなく、どことなくAthlon XPを思い出す

UEFIを確認

 UEFIはByosoft ByoCore BIOSが採用されている。

 オシャレなGUIなどはなく、昔ながらのBIOS風だ。

兆芯のCPUが表示されている
シリアルナンバーがTBDとなっている……
DRAMについてXMPの設定はもちろんない。DRAMクロックについてはSPD、1,200Mhz(DDRで2,400Mhz)、1,333Mhz(DDRで2,666Mhz)で選択できるが、筆者の環境ではSPDでしか起動しなかった
Bootの設定画面。EDK IIのシェルが内蔵されている

Windows 10を導入

 KaiXian KX-U6780AはWindows 11がサポートしていないため導入することができない。そのため今回はWindows 10を導入した。

TPM 2.0をなんとかしただけでは解決できそうにない

 CPU-Zでの表示はこのようになる。

CPU-Zでの表示。L3キャッシュやAVX2がないところは気になる。

 グラフィックスドライバ以外はOS標準ドライバで問題なく動作する。今回は物が物だけにドライバディスクは付属していなかったが、兆芯のサイト上でダウンロードすることができた。

 ただ、インストーラはなくデバイスマネージャーから手動で標準ディスプレイドライバを入れ替える必要がある。KaiXian KX-U6780Aに内蔵されているグラフィックスはZX 960 GPUと呼ばれるものだが、ドライバのファイル名規則を見る限りではS3 GraphicsのIPをベースしているように思えた。

テスト環境

 兆芯曰く、第7世代Core i5と同等システムがターゲットとのことなので、比較用のマシンはできるだけ近い第8世代Core i3の環境を準備した。

 OSについてはKaiXian KX-U6780AがWindows 11のサポートリスト未掲載のCPUとなり導入ができなかったため、今回はWindows 10を使用している。

 また、一部のベンチマークはKaiXian KX-U6780Aの内蔵GPUであるZX 960 GPUでは動作しないこともあったため、その場合はGeForce RTX 2070 Superを使いテストを実施している。

 マザーボード以外のパーツについてはパーツそのものがボトルネックにならないようなものを選定している。しかしながらメモリについてはXSD30がXMP2.0をサポートしていなかったため今回はSPDのDDR4-2133で動作させている。

テスト機材一覧
CPU兆芯KaiXian KX-U6780A 2.7GHz(8コア8スレッド)Intel Core i3-8100 3.60GHz(4コア4スレッド)
マザーボードXSD30ASUS PRIME H370M-PLUS
メモリDDR4-2133 32GB×2(Corsair CMK64GX4M2E3200C16/SPD動作)
SSDCFD販売 CSSD-M2M1TPG4VNZ 1TB (NVMe SSD)
GPU1ZX 960 GPUUHD グラフィックス 630
グラフィックスドライバKX-6000 Win10 64bit Universal Driver (10.17.19.0034-37.00.34)Intel UHD Graphics 630 Driver (30.0.101.1404)
GPU2NVIDIA GeForce RTX 2070 Super
グラフィックスドライバGame Ready Driver 511.79
電源Thermaltake Toughpower iRGB PLUS 1050W PLATINUM (1,050W/80PLUS Platinum)
OSWindows 10 Pro 64bit 21H2

CINEBENCH R23

 CPUで3DCGレンダリングのベンチマークを行なうCINEBENCH。その最新版となるR23でテストを実施した。

 シングルコアテストでKaiXian KX-U6780AはCore i3-8100の約33%の性能となる。一方マルチコアについては単純にコアおよびスレッド数がKaiXian KX-U6780Aの方が2倍多いため約67%まで縮まっている。

 余談だが、CINEBENCH R23実行時のシステム全体の消費電力はKaiXian KX-U6780Aが88WでCore i3-8100は66Wとなった。

3DMark -CPU PROFILE TEST-

 3DMarkの「CPU PROFILE TEST」でテストを実施した。使用するCPUスレッドごとにベンチマークを実施する内容だ。

 なお、本ベンチマークを起動するにはKaiXian KX-U6780AのZX 960 GPUでは起動できないため2環境ともにGeForce RTX 2070 Superを取り付けた上で測定をしている。

 1~4スレッドまでのベンチマークについてKaiXian KX-U6780AはCore i3-8100の約14%の性能となるが、それ以上の8~16スレッドについては約27%まで差が縮まった。

3DMark

 3DMarkのDirectX 12ベンチマークとなる「Time Spy」、DirectX 11ベンチマーク「Fire Strike」でテストを実施した。

 こちらもKaiXian KX-U6780AのZX 960 GPUで起動することができないため、2環境ともにGeForce RTX 2070 Superを取り付けた上で測定をしている。

 グラフィックカードを取り付けた上でどこまで性能を引き出せるかという点を見ていく。

 Time SpyについてKaiXian KX-U6780AはCore i3-8100の約76%、Fire Strikeについては約54%となっている。CPU主体のベンチマークと比較すると差こそ縮まっているがそれでも同列に並ぶことはなかった。

3DMark -PCI EXPRESS FEATURE TEST-

 3DMarkのPCI Expressの帯域をベンチマークするテストを実施した。

 KaiXian KX-U6780AとGeForce RTX 2070 SuperはPCI Express 3.0 x8で接続されていたため、理論上7.88GB/sの約63%の5.03GB/sとなった。

 一方Core i3-8100とGeForce RTX 2070 SuperについてはPCI Express 3.0 x16で接続されていたため、理論上15.76GB/sの約77%となる12.11GB/sとなった。

ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク

 人気ゲーム、ファイナルファンタジーXIV のベンチマークを実施した。

 こちらもKaiXian KX-U6780AのZX 960 GPUで起動することができないため、2環境ともにGeForce RTX 2070 Superを取り付けた上で測定をしている。解像度はフルHDだ。

 高品質でKaiXian KX-U6780AはCore i3-8100の約45%、標準画質で43%となりどちらも大きく差をつけられている。しかしながら「やや快適」判定のためプレイできないわけではないという具合だろう。

Vana'diel Bench 3

 さすがにKaiXian KX-U6780AのZX 960 GPUの性能が全くわからない状況はまずいと感じ、起動できるレベルまで落とした先の選択肢がファイナルファンタジーXIのVana'diel Bench 3となった。なお、本ベンチマークは2004年12月に公開されており、執筆時点ですでに16年以上経過しているベンチマークだ。当時NMを張っていた筆者の古傷が痛む。

 HIGHではKaiXian KX-U6780AはCore i3-8100の約43%、LOWでは約47%となった。HIGHといっても解像度は1,024x768ドットだが、この環境でも「つよPC」となる。

PCMark 10 Express

 続いてPCMark 10のスコアとなる。PCMark 10にはExpress、無印、Extendedの3種類ベンチマークが選べるが、KaiXian KX-U6780AのZX 960 GPU環境の場合Expressしか完走できなかったため、今回は最もテストが少ないPCMark 10 Expressでベンチマークを実施した。

CrystalDiskMark

 NVMeのSSDの速度をどれだけ引き出せるかのベンチマークとしてCrystalDiskMarkでテストを実施した。

 今回はどちらの環境もPCI Express 3.0までの対応となるが、SSDはPHISON PS5018-E18コントローラを採用したPCI Express 4.0世代のCSSD-M2M1TPG4VNZを使用している。

 シーケンシャルについてはいい勝負だが、ランダムについてはCore i3-8100に大きく差をつけられている。

VLCメディアプレイヤー

 ZX 960 GPUは動画再生支援の機能を持っている。今回はiPhone 13 miniで撮影した4K/60フレームの動画ファイル(HEVC)を再生してみたところ、CPUの使用率は上がらずコマ落ちなしで再生することができた。ここまで何も良いところがないように思えたZX 960 GPUだが、ここにきてようやく力を発揮したように思える。しかしCore i3-8100のUHD Graphics 630も再生支援機能を持っているため引き分けと言えそうだ。

KaiXian KX-U6780A
Core i3-8100(動画読み込み時に10フレームほど消失する)

最後に

 兆芯としては第7世代Core i5と同等システムがターゲットとなっていたが、ベンチマークの結果を見る限り、第8世代のCore i3に完敗というのが正直なところである。正直第7世代のCore i5でも厳しいのではないだろうか。

 次世代のKX-7000シリーズはIntelやAMDのCPUに対して逆転を期待したいところだ。

 しかしながら自宅サーバー全盛期に人気となったVIA(Centaur Technology)の流れを持つCPUが今でもリリースされているというのはPCファンにとっては嬉しい話だろう。もちろん兆芯の置かれているポジションを考えると今後も入手が厳しいことは予想できるのだが。