Hothotレビュー

ワコムの4K液タブ「Cintiq Pro 24」をプロ漫画家のざら先生に使わせてみる

Cintiq Pro 24ペンモデルとわがままDIY 3巻

わがままDIY 3巻、おかげさまで好評発売中です!

ざら
現在、「わがままDIY」(インプレス DOS/V POWER REPORT)、「ふたりでひとりぐらし、」(芳文社 まんがタイムきらら)を連載中の漫画家。SEから脱サラして漫画家になったという経歴を持つ、デジタルガジェット好きの自作PCユーザー。緻密に時事ネタやパロディを盛り込む作風に定評があり、少ないページ数でもサービス精神を発揮するが、担当編集がそのネタに気がついていないことがある

 こんにちわ、僚誌DOS/V POWER REPORT編集部の編集Mです。今回、3月29日発売のワコムの液晶ペンタブレット(液タブ)「Cintiq Pro 24」のリアルなレビューができる人をPC Watch編集部が探しているということで、まわりまわって私のところまで話がやってきました。

 つまり、パワレポ(とAKIBA PC Hotline!)で「わがままDIY」でおなじみの漫画家“ざら先生”にCintiq Pro 24を使ってみてもらってはどうかと。ついでに先日発売になった「わがままDIY 3巻」の宣伝もしていいよと、そういうことですね!?

 ざら先生に連絡すると、ちょうど仕事用の新しい自作PCを組んだので、新しいタブレット環境もぜひ一緒に試してみたいとのこと。じゃあ物を送りますね~と、トントンと話が進んだ……のはいいのですが、この手のインターフェイスにはこだわりがあって、コロコロ変えないのがプロ、というイメージ。なんでも最新のものがベストというわけではないでしょうから、新製品レビューとして適任なのか少々不安が。

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23.6型のハイスペック液タブ

 今回レビューにお借りしたのは、4K解像度対応の23.6型IPS液晶を搭載した「Cintiq Pro 24ペンモデル」(DTK-2420/K0:直販価格257,040円、マルチタッチ機能なし)。

 「Cintiq Pro」シリーズにはこれまでにも異なるサイズの製品が販売されており、その16型は本製品と同じ4K解像度に対応していますが、そちらに比べると読取可能範囲は約2.3倍とゆとりがあります。

Cintiq Pro 24ペンモデル(直販価格257,040円)

 重量は7.2kgとそれなりですが、用途を考えればある程度どっしりとした安定性も必要。それでもすでに販売終了となっている同サイズの「Cintiq 24HD」(約28.6kg/スタンドなしの本体部は約13.6kg)と比較すると大幅に軽量と言えます。色域も液タブとしては最高クラスのAdobe RGB 99%をカバーし、ペンの筆圧も8,192レベルに対応と、さまざま面が強化されています。

 このモデルには液タブの背面に装着して一体化できるオプションのPCユニット「Cintiq Pro Engine」も用意されているのでそちらも気になるところですが(ワコム、ワークステーションを内蔵できる24型4K液晶ペンタブ「Cintiq Pro 24」参照)、今回は先生の自作PCに接続しての試用になります。

【表1】Cintiq Pro 24ペンモデル(DTK-2420/K0)のおもなスペック
Cintiq Pro 24ペンモデル
液晶パネル
表示サイズ/アスペクト比23.6型/16:9
最大表示解像度3,840×2,160ドット
液晶方式IPS方式
最大表示色10bit(10億7,374万色)
応答速度12ms
最大輝度425cd/平方m
視野角水平176度/垂直176度
色域Adobe RGB 99%カバー
ペン入力性能
読取方式電磁誘導方式
読取可能範囲522×294㎜
読取分解能最高0.005㎜
読取可能高さ5㎜
傾き検出レベル±60レベル
筆圧レベル8,192レベル
その他
外形寸法(幅×奥行き×高さ)677×394×47mm
重量7.2kg
消費電力最大100W(スリープモード時2.0W)
直販価格257,040円
Cintiq Pro Engineとのドッキングベイも兼ねた本体裏面のカバー内には、USB Type-Cポート(ディスプレイ入力対応)、HDMI 2.0ポート、Mini Displayポートのほか、ExpressKey Remoteのワイヤレスレシーバ用のUSB Type-Aポートなどを備えています
本体右側面にはUSB 3.0ポート×2とSDメモリーカードスロットを装備。内蔵の折りたたみスタンドは、5度、20度の2段階に対応しています
左側面にもUSB 3.0ポート×2とヘッドフォン端子を備える。マイクも内蔵されており、Cintiq Pro Engineと合体すれば大型のWindowsタブレットに(ただしバッテリは内蔵していません)
8,192レベルの筆圧感知に対応したペン「Wacom Pro Pen 2」(替え芯も付属)と専用スタンドに加え、ショートカットデバイスの「ExpressKey Remote」が付属。ExpressKey Remote単体は直販価格13,824円
電源にはやや大型のACアダプタを使用。そのほか付属品として、PCと接続するためのHDMIケーブル、DisplayPortケーブル、USB Type-Cケーブルといった各種ケーブルも付属しています

ざら先生の仕事場探訪!

 さて、せっかくだからCintiq Pro 24を使って、実際になにか描いてレビューしてくださいね、とお願いして数日後……先生のリアル仕事場に突撃だ!!

 Cintiq Pro 24のような大型液タブを使う上で重要となってくるのが、そもそも快適に使えるスペースがあるのかということ。しかも、ざら先生が現在使っているタブレットは「液タブ」ではなく、同じワコムの板型タブレット(板タブ)の「Intuos4 Medium」(PTK-640/K0)。もう7~8年は使ってるらしく、さすがに年季が入ってます。

 当時はまさか出るとは思っていなかった「わがままDIY」の第1巻が出たのが6年前なので、それより前から使っていると考えると、相当長持ちしていると言えるのではないでしょうか。ちなみに同じサイズで後継モデルのIntuos Proを予備に買い置きしてあるそうですが……それは高性能なほうを使って、Intuos4を予備にしたほうがいいのでは。

 使用しているディスプレイはNECの24.1型液晶「MultiSync LCD-P242W」で、解像度は1,920×1,200ドット。最近はより高解像度のディスプレイも増えてますけど?

ざら「うちの環境ではこの解像度が使いやすいんです。非光沢液晶のなかでもNECのディスプレイがギラつきが少なくて好みですね」。

と、こだわりがある模様。今回のCintiq Pro 24は4Kの高解像度液晶なんですけど大丈夫……?

 加えて衝撃の御言葉。

ざら「自分の場合、下を向いて手元を見て作業するより、まっすぐ正面のディスプレイを見るほうが首が疲れないんですよね」。

 おい、誰だこの人に液タブのレビュー任せたの!? ちなみに、紙の原稿用紙に漫画を描くなら、液タブと同じく手元を見て作業することになりますが、ざら先生は当初からデジタル原稿の人なので考え方が逆。仕事中の体の姿勢はよさそうです。

ざら先生の作業場初公開! L字型の机に、24型液晶ディスプレイと19型の液晶TVを並べたカウンター配置。椅子に座ると部屋全体が見渡せます。ちなみにゲーム用PCとディスプレイは別に置いてありました。えらい(?)
普段は小型のワイヤレスキーボードの手前にIntuos4 Mediumを設置するスタイル。机の手前からディスプレイまでの直線距離は40㎝弱。一般的なPC机でもこれくらいではないでしょうか?
Cintiq Pro 24とIntuos4 Mediumのサイズ比較。ペンの読取可能範囲はなんと約5倍の差。ちなみに、Intuos4も発売当時から「紙とペンのような描き心地」が謳われており、筆圧レベルこそ4倍の差があれど、板タブとしては今も十分な性能(ざら先生談)
【表2】ざら先生愛用 Intuos4 Medium(PTK-640/K0)のおもなスペック
Intuos4 Medium
読取方式電磁誘導方式
読取可能範囲223.5×139.7㎜
読取分解能最高0.005㎜
読取可能高さ10㎜
傾き検出レベル±60レベル
筆圧レベル2,048レベル

大型液タブで環境激変!

 ひとまず従来の仕事環境を見せてもらったところで、同じ机にCintiq Pro 24を設置してもらいました。この製品の奥行きは39.7㎜。内蔵スタンドで最大の20度に立てても大きくは変わりません。結果は見てのとおり、ディスプレイの前のスペースが完全に液タブで埋まった上に、手前は机からややハミ出てます。やっぱり大きい!

ざら「でも、ちょうどいい重量感で、額縁も広いし、すごく安定しているんです。タッチ非対応のこのモデルなら、上に突っ伏して寝られる。問題はキーボードをどこに置くかで……スタンドがもう少し立てられれば、手前にスペースが空くと思うんですけど」。

 ちゃんと横になって寝ろよ! 確かにこの状態だとキーボードは左右に置くしかなくなります。OS上のソフトウェアキーボードを使うという手段もありますが、常用するには慣れが必要でしょう。また、セカンダリディスプレイを使うにしても、正面奥に置くという選択肢はなさそうです。

板タブとキーボードを外して、Cintiq Pro 24を設置。液晶部分こそ23.6型ですが、全体のサイズは27~28型くらいのサイズ感があります。キーボードの置き場所は悩むところ
別売の専用スタンド「Ergo Stand」(5月発売予定)。角度、高さ調節に加えて、回転にも対応。しっかりと面を立てられるのでフットプリントは小さくなりますが、作業ポジションも大きく変わります

高解像度大画面ならではの描き心地

ざら「じつは板タブだとあまり全体を使うことがなくて、ほとんど一部分しか使ってないんですよ。だから、こんなに大きいタブレットなんていらないだろうと思っていたんですが、実際に使ってみるとそもそも根本的に考えが間違っていたみたいです。板タブだと目線はディスプレイのブラインドタッチ状態なので、結構頻繁に線を描き直していますが、液タブだとペン先を見ながらダイレクトに描くので、明らかにそういった描き直しが減ります」。

 なるほど。そもそも目の視点が違うんですね。

ざら「それにこれの描き心地は間違いなくサイコーですよ。板タブは長年慣れているので、普段あまり意識して使っているわけじゃないんですが、8,192レベルの筆圧対応だからなのか、単純に線を引くのが楽しいです。追従性もいいですけど、高解像度で広い作業エリアがあるから、絵を拡大縮小することなく、柔らかいタッチのおもしろい線を一気に引ける。これは板タブや小さな液タブではできない表現です」。

 ちょっと興奮気味に語ってくれるざら先生。最初の首の疲れが云々の話はなんだったのか。そのあたりはもっと長期間使い込んでようやくわかってくることなのでしょう。

ざら「あと、しばらく使っててすごいと気がついたのは、こんな大きい液晶ディスプレイの上で作業しているのに、ほとんど手に熱を感じないことです。昔さわったことのある液タブだとそれなりに熱かったおぼえがあるんですが……」。

 オプションのCintiq Pro EngineもPCスペックとしてはさほどハイエンドというものではないようですが、それも発熱を考慮しての設計とのこと。そういう点では、あえて分離型で使うのは正解と言えます。なお、2モデル用意されているCintiq Pro Engineは、いずれもCintiq Pro 24本体がもう1台余裕で買えるお値段。なかなか一般ユーザーが手にする機会はなさそうです。

Cintiq Pro 24では小さい板タブと違い、腕を動かす範囲は間違いなく広くなりますが、それに代わる十分なメリットがあるようです。これだけの大きさながら発熱も抑えられています
こちらは従来の使い方。使い込まれた板タブを見ると、普段使用しているエリアはほぼ右側の中央部分だけであることがわかります。これは板タブがカーソル位置を中心とした相対的な操作となるため

古いアプリケーションは注意が必要?

 ざら先生が漫画作成にメインで使っているアプリケーションは、「SAI Ver.2」と「Photoshop CS5」。……CS5かよ!と思うなかれ(※CS5は現在販売されていない旧バージョン)、長らく使っているアプリケーションで機能的に困ることもなければ更新する必要もないという、リアルユーザーのあるある事情ですね。

 しかし今回、そのCS5に問題が発覚。CS5ではツールアイコンのサイズ変更ができないため、4K解像度で使用するとアイコンが低解像度のまま米粒状態で表示されてしまうのです。ショートカットの設定をうまく使うという手もありますが、このクラスの解像度で使うなら、サイズ調整が可能なCreative Cloud(CC)版を導入したほうが無難のようです。似たような問題が起きる古いソフトはほかにもありそうです。

ざら「自分が試したなかではCS5だけが引っかかりましたが、普通にアイコンサイズや配置をうまく調整できれば、マルチタッチ機能付きモデル(DTH-2420)ならもっと新鮮な使い方ができそうです。右手でペン持ったまま、左手でタッチして筆サイズを切り換えたり、絵を回転させながら線を引いたり」。

 できたらいずれそちらも。あと、付属のExpressKey Remoteはどうですか? 先生は昔「Smart Scroll」(昔販売されていたワコムのトラックボール付き左手専用デバイス)を使ってたじゃないですか。ExpressKey Remoteって、あれの後継みたいな存在ですよね。

ざら「Smart Scrollは当時何個も買いましたけど、もうWindows XPのころのやつですからねえ。最近は板タブについているショートカットボタンがあれば十分という感じになってしまいました(苦笑)。

自分がキー登録しているのは、やり直し、取り消し、左右反転、範囲選択解除くらいで、消しゴムや主要ペンへの切り換えも登録はしていますが、じつのところあまり使っていません。今回もExpressKey Remoteにはそれくらいの登録で使いました。タッチホイールも使いこなしたいところですが、設定が多過ぎると誤操作が怖い人間なもので……」。

Photoshop CS5以前ではツールアイコンのサイズ変更が不可。子供妖怪のわらし様でもたぶんクリックしづらいので、素直にAdobe CCへ移行しましょう
使いこなしにはExpressKey Remoteへのショートカットキー割り当てが重要ですが、数日間の試用では結論が出ないのも確か。マルチタッチ対応版でのタッチ操作によるメニュー選択なども気になるところ

このサイズだからこその没入感にハマる

ざら「正直言って、これほしいです! もっと使ってみたい。Adobe RGB 99%カバーという以前に、普通にディスプレイとして違和感がないのもいいです。以前の液タブで感じた暗さとか、眠さみたいなものがなくて、表面の反射も気になりません。なにより一度このサイズで作業した後、小さい板タブに戻ると感覚というか距離感が狂っていて戻るのがたいへんでした(笑)。

最初は大画面の操作に戸惑うかと思ったんですが、気がついたら慣れていたようです。とくに定規を使って直線を引くときなんかは、もう板タブには戻れないかもしれません。同じ液タブでも小型だとたぶんこの感覚は生まれないんだと思います。4K解像度も使う前はいらないと思っていましたが、絵描き用ギアとして従来のPCの延長上で考えるのは改める必要があるんだなと」。

 長年使ってきた板タブの感覚がわずか数日で変わるというのも不思議ですが、それだけ没入感のあるデバイスと言えるのかもしれません。年内にはさらに大きな32型の「Cintiq Pro 32」も発売されるようですよ?

まさしく紙に描くように、30cmの定規を当てて思いどおりの線が引けるのはこのサイズの液タブならでは。発色も自然で、写真編集などにも安心して使用できます

ざら「32型も興味ありますけど、お値段……の前に、置く場所がなさそうです(笑)。この24型って、ちょうど肩幅くらいのサイズですし、腕を動かす範囲的にも私にはこれくらいがよいのではないかと」。

 なんかもう買う気満々なトークになっていますが、先日公式サイトのWeb直販では、予約開始日の時点で予約完売になっているみたいです。

ざら「すごいですね……。もう以前から液タブを使っている人なら、ワコム製品でこのスペックなら飛びつくのかもしれませんね」。

 先生も早く買って作業効率上げて、早く「わがままDIY 4巻」が出るようにがんばってください。来月から毎号増ページでいいですよね。

ざら「あ、新しいPCを作ったばかりでお金が……」。

ざら先生にマンガを描き下ろしていただきました! 今後ともわがままDIYをよろしくお願いします!! (Cintiq Pro 24ペンモデル使用/アプリケーション:SAI Ver2)

おまけ ~ざら先生の仕事用新型自作PCを紹介

PCはすべてキャスター台に乗せて移動しやすくするのがざら先生流。理由は「パーツ交換がしやすいのと、PC周りの掃除がしやすいから」だそうで、几帳面さ?が伺えます
おそらくプロ漫画家で仕事用メインマシンにRyzenを使ってるというのはめずらしいのでは……。ちなみにRyzen 1700は8コアながら定格動作でTDP 65Wと低消費電力。LEDが発光する純正CPUクーラーも付属でお得です
【表3】ざら先生の自作PCのスペック
ざら機
CPURyzen 1700(3GHz、8コア16スレッド)
マザーボードASUSTeK PRIME B350-PLUS(AMD 350、Socket AM4、ATX)
メモリTeam TED416GM2400C16DC01(PC4-19200、8GB×2)
ストレージ1Samsung SSD 960 EVO M.2 250GB
ストレージ2WesternDigital WD Blue WD30EZRZ-RT(SATA 6G、5,400rpm、3TB)
ビデオカードASUSTeK PH-GTX1050TI-4G(NVIDIA GeForce GTX 1050 Ti、GDDR5 4GB)
電源CORSAIR RM650x(650W、80PLUS Gold)
ケースFractal Design Define R5

 定番で固めた意外と地味(失礼)ながら、CPUにRyzen 1700を使ってくるあたりに、自作erのチャレンジ精神が感じられます。仕事用マシンとしてのムリをせず、ケースも含めて静音マシン寄りにしたといったところでしょうか。なお、今回のCintiq Pro 24の使用では、ペンの追従性は申し分なく、隣で作業を見ていても遅延感は皆無。PCスペックに不足なしと感じたことを最後に述べておきます。