元麻布春男の週刊PCホットライン

いまだ不透明なSnow Leopard



Snow Leopardのパートを担当したバートランド・サーレット副社長

 Appleが主催する開発者向けイベントWWDCが開催中だ。キーノートを除きすべてのセッション内容はNDAであり、その情報が公開されること(NDAが解禁となること)はない。セッションやラボの中には実際のコードレベルの情報が含まれており、それが公開となることはないからだという。

 WWDCの開催は年に1回であり、ほかに大きな公開イベントはない。9月にリリースされる次期MacOS X Snow Leopardについて、おそらく事前に情報が公開される最後のチャンスとなるのが今回のキーノートだったことになる。筆者の期待もこのあたりにあった。

 しかし、実際にSnow Leopardについて公開された情報で目新しかったのは、リリース次期の発表と、価格、そして正式にPowerPCサポートがない、ということくらいだ。アーキテクチャ面から見た場合、Snow Leopardで特筆されるのは、64bit化、GCD(Grand Central Dispatch)、そしてOpenCLの3つだが、いずれについても前回WWDCからの上積み情報がほとんどない。


サーレット副社長は、すべてのIntel MacでSnow Leopardはサポートされると述べた

 キーノートでSnow Leopardのパートを担当したバートランド・サーレット副社長は、Snow LeopardがすべてのIntel Macで動作すると明言した。初期のIntel Macに使われていたCore Duoプロセッサは64bitをサポートしていないから、これらのCPUを搭載したIntel Macでは64bit OSは動かない。以上のことから考えて、Snow Leopardには32bitモードが絶対に存在する。が、果たして64bitモードは64bit対応のCore 2 Duoプロセッサが搭載されたMacであればすべて利用できるのか、それともほかに付帯する条件が加わるのか、こうした基本的な情報でさえ明らかにされなかった。

 同様のことはOpenCLにもあてはまる。OpenCLのGPUアクセラレーションが、一体どのMacで利用できるのか、あるいはMac Proならどのビデオカードなら利用できるのか、明らかではない。NVIDIAのサイトでは、GeForce 8シリーズ以降であればCUDAが利用可能となっているが、イコールOpenCLをサポートするとは限らない。

【編集部追記 10日15時】
Snow Leopardの製品情報によれば、Open CL対応ビデオカードは下記の機種となっております。ご教示いただいた読者の皆様に感謝いたします。【NVIDIA】Geforce 8600M GT、GeForce 8800 GT、GeForce 8800 GTS、Geforce 9400M、 GeForce 9600M GT、GeForce GT 120、 GeForce GT 130。【ATI/AMD】Radeon 4850、Radeon 4870。

 理屈の上では、1世代前のGeForce 8800 GTでも動きそうなものだが、5月にひっそりとディスコンになったことを考えると、確信は持てないというのが正直なところだ。本稿執筆時点でApple Storeで販売されているグラフィックスカードはRadeon HD 4870とGeForce GT 120のほかにはRadeon X1900 XTしかないが、まだ売られているからといって、このカードがOpenCLに対応するとも言い切れない。Snow Leopardが出るまでの約3カ月間、グラフィックスカードを購入するのは控えた方が賢明だと思う。


マルチコアプロセッサの能力を引き出すためのGCDだが、語られることは少ない

 もう1つ釈然としないのは、リリースまで3カ月あまりになったというのに、64bit/GCD/OpenCLの3つについて、サポートしたアプリケーションの紹介、性能向上の具体的な指標の公開、プレリリースソフトウェアを用いたデモが一切なかったことだ。ただ、Snow LeopardにはSafariをはじめとして、64bit化されたアプリケーションが付属する、という情報だけが明らかにされている。

 どんなアプリケーションでどのくらいの恩恵があるのか、自分が日常的に利用するアプリケーションに影響があるのか、こうした情報が公開されなければ、ハードウェアへの投資も難しい。今回一新された15インチのMacBook Proだが、一番下のモデルだけがチップセット内蔵グラフィックス(GeForce 9400M)、上位2モデルには外付けのGeForce 9600M GTが加わる。GeForce 9600M GTを追加することでOpenCLのパフォーマンスがどの程度変わるのか、そのアプリケーションは自分に必要なのかという情報が分からなければ、後から変更できないオプションだけに、選択が難しい。

 確かにWWDCは開発者向けのイベントであり、ユーザー向けのイベントではない。しかし、Appleがユーザー向けイベントから事実上撤退してしまった今、WWDCで公開されなかった情報はSnow Leopardが出てみるまで分からない、ということになる。


Snow Leopardでは、OS標準添付のアドレスブック、iCal、Mailが、Exchangeクライアントとなる

 Snow LeopardにExchangeクライアント機能を入れてきたことでも明らかなように、Appleは企業ユーザーを獲得したいと思っているようだ。それなら、もう少し事前に情報を開示して、企業が事前に調達計画をたてることに協力すべきだろう。行きすぎた秘密主義は、ユーザーに囲い込みの恐怖を想起させる。

 すでにWindowsの世界では、この夏の商戦について、Windows 7待ちの影響が噂されている。MacにまでSnow Leopard待ちが生じたら、PC業界にとってかなり寒い夏になることは間違いない。