笠原一輝のユビキタス情報局

生成AIをローカルで動かす。それはThreadripperか、Xeon 600か。生成AI需要でワークステーションが今熱い

Dellが展示したXeon 600シリーズを搭載したワークステーション「Dell Precision 9 T2」

 高性能なCPU/GPUを搭載したワークステーションの成長が著しい。それには2つの理由がある。

 1つは従来からある3D CADやCAMといった物理演算などのローカルでの実行ニーズは依然として強いこと、そしてもう1つは最新のAIモデルをローカルで実行したいというニーズの増加だ。

ワークステーションが3D CAD用に活用

SOLIDWORKS 2026が動作するHPのワークステーション(HP Z2 Tower G1i、Intel Core Ultra 9 285H+NVIDIA RTX PRO 6000)

 ワークステーションとは、一般的なものよりも性能が高いCPU/GPUが採用された、プロフェッショナル向けのPCのことだ。

 たとえば通常のビジネス向けノートPCでは、CPUやGPUが1チップのSoC(System on a Chip)になっており、消費電力も熱設計的にノートPCの筐体に収まる範囲に抑えられている。

 それに対してHEDT(High-End DeskTop)やワークステーションでは、筐体はデスクトップのタワー、ノートPCでも大型になっており、熱設計の枠や供給電力に余裕があるため、単体のCPUやGPUが使われており、それゆえ高性能になっている。高性能なCPU/GPUであれば、処理時間を短縮でき、生産性は向上する。

 AMDが昨年の6月にRyzen Threadripper 9000シリーズを発表したとき、IDCによるワークステーションの成長予測を示した。それによれば、2023年には600万台強だったワークステーションは、2029年には900万台超になるという。

 PCの需要が景気動向によって増えたり減ったりすることを考えると、ワークステーションが年々増えていくという予想は、需要が年々増え続けていることを意味している。

 そして冒頭からの続きだが、その成長の理由は2つある。

 1つは、従来からあるプロフェッショナル向けの3D CADやCAMといったツールの需要が依然として強いことだ。

 具体的には、自動車メーカーや航空機メーカーでは、自動車や航空機を仮想空間で設計する「デジタルツイン」と呼ばれる設計方法が取り入れられており、そうした製造業がワークステーションを購入しているのだ。

3D CADもAIによる支援機能の実装がはじまる

ダッソー・システムズのGeneral Sessionで講演するNVIDIAのジェンスン・フアン氏

 3D CADのソフトウェアベンダー最大手となるダッソー・システムズは、2月1日~2月4日に年次イベント「3DEXPERIENCE World 2026」を開催し、同社の戦略などに関して説明した。

 その中で目玉となったのは3日目に行なわれたGeneral Session(基調講演に相当)に、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが登壇し、NVIDIAがダッソー・システムズとの提携関係を強化するという発表を行なったことだ。

 ダッソー・システムズは、3D CAD業界におけるMicrosoftやAdobeといったポジションに相当するトップシェアの企業だ。同社のCATIAやSOLIDWORKSは、3D CAD界のWordやPhotoshopといえるだろう。

 実際、日本では永続ライセンスとして販売されている3D CADアプリケーションのシェアの半分がSOLIDWORKSになっており、現状もっとも使われている3D CADアプリケーションだ。

 CATIAは自動車や航空機・ロケットなどの設計に、SOLIDWORKSは産業機械、PCやスマートフォン、医療機器、工場の製造装置の設計に利用されており、デジタル上で設計されたあと、試作機に落とし込まれて、製品化されるというのが現在の製品デザインのプロセスになる。今使われているスマートフォンやノートPCも、そうした3D CADアプリケーションで設計され、そのデータを元にして実機が作成されているのだ。

生成3DモデルAIエージェント「LEO」が、PDFの2Dデータを3Dモデルに自動で変換するデモ

 今回、ダッソー・システムズはCATIAやSOLIDWORKS向けの「生成3DモデルAI」とでも言うべきAIモデル/エージェントの構想を発表し、そのデモを行なった。簡単に言うと、PDFのファイル形式になっている2Dの設計図などから、生成AIが3Dモデルを作成し、数値もAIが入れてくれる。

 クリエイターの世界でたとえれば、以前は人間が長い時間をかけて手作業しないといけなかったPhotoshopでの被写体の切り抜き作業が、AIの登場で一気に作業時間を省けるようになった。これと同じことが、今後は3D CADの世界でも起こるわけだ。

大規模な生成AIモデルをローカルで実行するためのワークステーション

3DEXPERIENCE World 2026での、HP、Lenovo、Dellブース

 ワークステーションが今注目されている理由の2つ目だ。

 今回ダッソー・システムズが発表した「生成3DモデルAI」はクラウド側で作業しているが、すでに公開されているオープンソースのAIモデルをローカルのハードウェアでやりたいというニーズが最近激増しているのだ。

 それに伴って高性能なCPUやGPUを搭載したワークステーションの価値が見直されている。たとえば画像生成を高速化・高品質化して、それをプロがコンテンツ作成に利用するといった具合だ。

 現在のAIモデルはそれが可能になりつつあるので、オープンソースのAIモデルを利用して、すでにそうしたことはじめている先進的なユーザーも存在している。

 とはいえ、パッケージソフトとしてAIモデルを含むものの登場が待たれている状況でもある。SOLIDWORKSの今回の発表はそうした道への第一歩といえる。

Dellのワークステーション
HPのワークステーション
Lenovoのワークステーション、Lenovoは複数のワークステーションを1つのラックに入れるソリューションも展示

 実際こうした状況を受けて、PCメーカーもワークステーションのラインナップ充実させはじめている。すでにワークステーションを展開しているDell、HP、Lenovoのようなトップ3メーカーがそうだ。

 今回3社は3DEXPERIENCE World 2026の展示会場(Playground)に出展し、同時にイベントのスポンサーになり、SOLIDWORKSやCATIAのユーザーという「潜在顧客」に対して盛んにアピールしていた。

RazerがCESで展示していたAI用ワークステーションと、それを3台を1台にするラックソリューション(CES26で撮影)

 また、これまでワークステーションとは無縁の存在だったRazerも、1月に開催されたCES 2026でデスクトップタイプのワークステーションを発表し、それらを3台一組にするラックなども発表している。

 このように、伝統的なPCベンダーだけでなく、Razerのようなどちらかといえば新興のメーカーもワークステーションに取り組んでいるところがトレンドの象徴といえる。

将来はデータセンター向けGPUもワークステーションに展開される可能性も

Xeon 600の概要(出典: UnleashedHeavy-Duty Computing、Intel)

 PCメーカーだけでなく、CPUやGPUを供給する半導体ベンダー側もワークステーション向けラインナップの拡充を図っている。

Ryzen Threadripper 9000シリーズ(2025年のCOMPUTEXで撮影)

 すでに述べた通り、AMDは昨年の6月にワークステーション向けのRyzen Threadripper 9000シリーズ(開発コードネーム: Shimada Peak)を発表している。

 Intelは3DEXPERIENCE World 2026の実質的な初日となる2日目(2月2日)に、新しいワークステーション向けCPUとなるXeon 600シリーズプロセッサを発表した。開発コードネームはGranite Rapids-Wで、ざっくり言うとサーバー向けのXeon 6(Granite Rapids)のワークステーション版という位置づけだ。

 なお、Granite Rapidsには、Granite Rapids-AP(CPUソケットがLGA7529)のXeon 6900シリーズと、Granite Rapids-SP(同LGA4170)のXeon 6700/6500シリーズのCPUソケットの違いで2製品があるが、Granite Rapids-Wは基本的にはGranite Rapids-SPのワークステーション版だ。

 CPUコア数は最大86コアで、メモリのチャンネル数は8チャンネル。DDR5-6400のR-DIMMや2つのランクに対応することでメモリ帯域幅を倍にするMRDIMMを利用できる。

 Xeon 600シリーズのSKUは以下の通りで、696X(64コア)、678X(48コア)、676X(32コア)、658X(24コア)、654(18コア)の製品がボックス版として提供され、それ以外はOEMメーカー向けのトレイになる。

【表】Xeon 600シリーズのSKU構成(Intel社の資料より筆者作成)
プロセッサナンバーCPUコア数ターボブースト最大クロックターボブースト(全コア)ベース周波数L3 Cache (MB)ベースTDP倍率アンロックメモリチャンネルDDR5データレートMRDIMMデータレートvPro対応PCIe 5.0 レーンボックス製品1000個ロット時価格
698X864.8GHz3GHz2GHz336MB350Wアンロック864008000対応128-7,699ドル
696X644.8GHz3.5GHz2.4GHz336MB350Wアンロック864008000対応128あり5,599ドル
678X484.9GHz3.8GHz2.4GHz192MB300Wアンロック864008000対応128あり3,749ドル
676X324.9GHz4.3GHz2.8GHz144MB275Wアンロック864008000対応128あり2,499ドル
674X284.9GHz4.3GHz3GHz144MB270Wアンロック864008000対応128-2,199ドル
658X244.8GHz4.3GHz3GHz144MB250Wアンロック86400-対応128あり1,699ドル
656204.8GHz4.5GHz2.9GHz72MB210W-86400-対応128-1,399ドル
654184.8GHz4.5GHz3.1GHz72MB200W-86400-対応128あり1,199ドル
638164.8GHz4.5GHz3.2GHz72MB180W-46400-対応80-899ドル
636124.7GHz4.5GHz3.5GHz48MB170W-46400-対応80-639ドル
634124.6GHz3.9GHz2.7GHz48MB150W-46400-対応80-499ドル

 GPUに関しては昨年の3月に開催されたGTC 25において、NVIDIAはBlackwellベースのRTXとなるRTX Proシリーズを発表している。現状のRTX/RTX Proは、基本的にゲーミング向けのGeForceをベースにして、それをワークステーション向けにリファインした製品となる。

 このため、マルチGPU構成で利用する場合には、GPUとGPUを接続するバスは、データセンター向けのBlackwellで利用されているNVLinkではなくPCI Expressになる。IntelやAMDが、それぞれのGPUで実現しているAI推論用のマルチGPUソリューションでも、現状はPCI Expressがその接続バスとして利用されている。

GIGABYTE W775-V10-LA01はGB300 Grace Blackwell Ultra Desktop Superchip(Grace CPU+B200 GPU)を搭載したワークステーション。OSはLinuxだがAI開発にはこうしたワークステーションが求められるようになっている(COMPUTEX 25で撮影)

 現状、このことはあまり大きな問題にはなっていないが、将来的にはPCI Expressがボトルネックとなる可能性がある。

 というのも、仮に複数のGPUをまとめて演算する場合、ほかのGPUにあるメモリのデータをDMA転送しなければ、CPUやGPUにかかる処理が増えて、本来の性能を引き出せない可能性があるからだ。

 GPUとGPUを接続するインターコネクトであるNVLinkではそうしたことが最初から考慮されているので、仮に将来もっとGPUを並列に接続して利用するようなソリューションを考えた場合、ワークステーションでもNVLinkを利用できるようなハードウェア設計にしていく必要があるだろう。

 すでにIntelはNVIDIAのデータセンター向け製品向けのカスタムCPUでNVLinkをサポートする計画を明らかにしている。そのため、近い将来に、そうした製品がデータセンター向けだけでなくワークステーション向けにも何らかの形で降りてくる可能性は十分にある。AIをローカルで実行したいプロフェッショナルユーザーは業界の動向に注意を払っておいた方がいいだろう。