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Intelより快適なところもあるが“罠”もある。Snapdragon搭載ノートを約1年使って見えた互換性の現在地

Snapdragon Xを搭載するZenbook SORA

 ArmアーキテクチャのQualcomm Snapdragon Xシリーズを搭載したCopilot+ PCは、Arm版のWindows 11が搭載されており、Arm版Windows 11向けアプリを使用することが基本だ。そして、IntelやAMD CPUを搭載したx64/x86版Windows向けのアプリの多くがエミュレーション機能(Prism)で問題なく動作するというふれこみで登場した。

 しかし2025年初頭の段階では、Arm版Windows 11向けのネイティブアプリの数が十分でなく、x64/x86版のアプリの中にはエミュレーションで動作しないものもあった。また、プリンタなどの周辺機器の対応が遅れているなど、手放しでおすすめできるものではなかった。

 それから約1年経った今、Arm版Windows搭載Copilot+ PCをとりまく環境は変わったのか、2025年早々にASUSのArm版Windows搭載Copilot+ PC「Zenbook SORA」を購入して、1年近く実際に使ってきたライターがアプリや周辺機器の対応状況なども含めて、2025年12月中旬時点でのArm版Windows搭載Copilot+ PCのリアルな使い勝手をレポートする

Snapdragon搭載のZenbook SORAは完成度が高い

 筆者が使用しているZenbook SORAは、PCの基板(マザーボード)ではトップシェアを誇る台湾メーカーのASUSが、電車などの公共交通機関で長時間移動することが多い日本人向けに、カバンに入れて持ち運んでも苦にならない軽さと薄さ、バッテリ性能を重視して開発したモバイルノートだ。

 QualcommのSnapdragon X Elite X1E-78-100を搭載した上位モデルと同Snapdragon X-X1-26-100を搭載した下位モデルがあり、前者の重さが約980g、後者が899gと両者とも1kg以下を達成している。また、軽いだけでなく、独自開発の「セラルミナム」という合金をボディ全体に採用することで米軍用規格(MIL-STD 810)に準拠する耐衝撃性なども確保していることが特徴となる。

筆者が使用しているのはSnapdragon X Elite X1E-78-100を搭載した上位モデルのZenbook SORA UX3407RA-HA32570GRで色はアイスランドグレーだ
ボディ全体にセラミックとアルミニウムを融合させた独自開発の「セラルミナム」という合金を採用することで軽いだけでなく、高い耐衝撃性と耐摩耗性を実現している

 最厚部で15.9mmという薄さもASUS Zenbook SORAの魅力だ。薄いながらも、40GbpsのUSB4端子を2つ装備、さらに10GbpsのUSB Type-A端子を装備するなどインターフェイスは十分。そのほか、打ちやすいキーボードや高品質な14型(1,920×1,200ドット)有機ELディスプレイを装備するなど使い勝手がよく考慮された作りとなっている。

一番厚い部分でも15.9mmしかなく薄い点も本機の魅力。最大40Gbpsのデータ転送、USB PD、ディスプレイ出力に対応したUSB4端子を2つ装備するなどインターフェイスは十分。USB Type-A端子は最大10Gbpsのデータ転送に対応している
14型(1,920×1,080ドット)の有機ELディスプレイは縦横比が16:10なので縦に長くオフィスアプリの作業やWeb閲覧に適している。写真では分かりづらいが、色域が広く、色の再現性もよい。人肌や猫の毛並みもきちんと描写する

 バッテリ性能も優秀で、たとえば午前中から、2件ほど取材して、午後から夜まで、休憩をとりながら原稿を書くというような使い方をしても、バッテリ残量は30%前後残っており、ほぼ1日問題なく使える感じだ。

 具体的にどれくらいバッテリが持つのか、バッテリが切れるまでMicrosoftのOfficeアプリを連続稼働してバッテリ駆動時間を計測するPCMark 10-Battery Life for Microsoft Officeを実行してみたところ、結果は15時間16分であった。この結果からみても朝から晩までフルに使っても間違いなく1日はバッテリだけで作業ができることは間違いない。なお、テストは電源モードを標準のバランスに設定して実行した。

Word、ExcelなどのMicrosoftのオフィスアプリをバッテリが切れるまで連続して動かしてバッテリの駆動時間を計測するPCMark 10-Battery Life for Microsoft Officeの結果は15時間16分だった

性能はIntel Core Ultra 7に勝る

 Arm系CPUというと性能が気になる人も多いだろう。以前、MicrosoftがQualcommと共同開発したArm系CPU「Microsoft SQ1」と「Microsoft SQ3」を搭載したWindowsノートを発売したことがあったが、当時はArmネイティブのアプリがほとんどない上、x86/x64アプリのエミュレーション機能が貧弱で、何かやろうとするとワンテンポ待たされる感じがして非常にストレスを感じた。読者の中にもそのころの記憶が鮮明に残っている人もいるのではないだろうか。

 しかし、Copilot+ PCに対応した最新のSnapdragon Xシリーズは、そのころのCPUとは段違いに性能が向上している。たとえば、下に掲載しているテスト結果の通り、Snapdragon X Elite X1E-78-100は、ネイティブアプリを動かした場合、マルチコア性能ではCore Ultra 7 258Vを大きく凌駕する。QualcommのArm系CPUは従来、シングルコア性能が弱点といわれていたが、その点も大きく改良されており、Core Ultra 7に迫る性能となっている。

 今回は買い替え需要も考えて、3年前に発売されたVAIO SX12 ALL BLACK EDITION搭載の第12世代Core i7-1280Pとも性能を比較してみたが、マルチコア性能は段違いの性能で、シングルコア性能も勝ることが確認できた。

Armネイティブアプリを動かした場合、Snapdragon X Elite X1E-78-100のマルチコア性能はCore Ultra 7 258Vよりも大幅に高い。3年前の第12世代Core i7-1280Pとはまさに格段の差だ。Snapdragon系CPUの弱点とされていたシングルコア性能も大きく改善されていることが見て取れる

 多くの人が気になるのはx64/x86アプリをエミュレーションで動かした場合、性能にどれくらい影響が出るかだろう。今回はx64/x86版しかないCinebench R23でSnapdragon X Elite X1E-78-100の性能を計測してみた。

 結果は下のグラフの通り。ArmネイティブアプリのCinebench 2024のテスト結果と異なり、マルチコア性能でもCore Ultra 7 258Vに逆転される。しかし、第12世代のCore i7-1280Pと比較すると大きく勝っており、エミュレーション動作でも十分に実用レベルである。実際、ASUS SORAでx64/x86アプリを使用していて、何か反応が悪い、処理が遅いとはっきりと体感することはない。

エミュレーション動作ではCore Ultra 7 258Vに逆転されるが、その差はそれほど大きくない。マルチコア性能は第12世代Core i7-1280Pよりも勝っている

筆者の愛用アプリで動作しないものはなかったが……

 アプリの互換性だが、筆者が日常的に愛用しているもので動作を確認しているものを下にまとめた。ほとんどのアプリは問題なく使えているが、DTP(デスクトップパブリッシング)で利用しているAdobeのInDesignがまだベータ版しかなく、最新のInDesign 2026で作成したデータが変換しないと読み込めない、データを使える形式に変換すると画像などのリンクなどがすべて外れる上、動作も不安定で業務用としては使い物にならなかった。また、Illustratorもベータ版しかなく不安定であった。

【表1】筆者が動作を確認しているアプリ
ジャンルアプリArm対応
オフィス系アプリWord、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams、CubePDF Utilityネイティブ
Adobe Acrobat Reader、秀丸エディタエミュレーション
WebブラウザーEdge、Chrome、Firefox、Brave Browserネイティブ
メーラーMozilla Thunderbird、Beckey Internet Mailエミュレーション
ftpクライアントFFFTPエミュレーション
写真編集Photoshop、Lightroom、GIMPネイティブ
Photoshop Express、Canvaエミュレーション
イラスト作成Illustrator(ベータ版)※ネイティブ
DTPInDesign(ベータ版)※※ネイティブ
クラウドドライブOneDrive、Google Drive、Dropboxネイティブ
iCloudエミュレーション
ミーティングTeams、Zoom、Google meet、Slackネイティブ
ソーシャルアプリFacebook、X、Instagram、Tiktokネイティブ
LINEエミュレーション
動画再生VLCメディアプレイヤーネイティブ
GOM Playerエミュレーション
動画編集Blackmagic Design Davinci Resolve、Blender、CapCutネイティブ
Premiere Proエミュレーション
動画・音楽配信サービスPrime Video、Spotify、NetFlixネイティブ
iTunesエミュレーション
会計アプリやよいの青色申告 26エミュレーション

※動作が不安定 ※※機能が一部制限される

 なお、筆者の利用している会計アプリ「やよいの青色申告」は最新のバージョン26ではエミュレーションで問題なく動くことが確認されているが、バージョン25では所得税確定申告モジュールの一部機能において正しく動作しない現象が発生していた。調べたところ、会計アプリにはまだ非対応なものが多いので要注意だ。

 このほか、役所関連の電子申請アプリ、大学などで使われる統計解析アプリなど専門性の高いアプリも多くが未対応の状況なので気を付けたい。筆者はゲームをしないので、詳しいことは分からないが、アンチチートプログラムを要するゲームは正常に動作しないことが多いようだ。

 現時点でのアプリ対応状況をまとめると、日常的な用途であれば大概問題なく使えるが、少し専門性が高いことをしようとすると問題が起こる可能性があるということになる。これが2025年末時点でのArm版Windows PCのリアルな状況である。

周辺機器の使用は面倒なことが多い

 マウス、キーボード、ヘッドセット、USBメモリ、USB接続のストレージなど、Windowsの標準ドライバで動作する周辺機器は問題なく動作するが、専用のドライバが必要となる周辺機器はまだきちんと動作しないものもある。

 たとえば、筆者はキヤノンのプリンタを使用しているが、2025年12月上旬時点、Arm版Windows用のドライバやアプリが配布されていない。そのため、現状Windowsの標準ドライバで動作させている。普通に文書を印刷するのには問題はないが、両面印刷などの高度な印刷機能が使えない。

 また、スキャン機能はMicrosoftストアからWindowsスキャンアプリを入手しないと使えない。使えてもPDF形式で取り込めないなど不便な点が多い。2025年12月上旬時点、大手プリンタメーカーでArm版Windows用のドライバなどを配布しているのはエプソンくらいなので要注意だ。

メーカーがArm版Windows 11用ドライバを配布していないプリンタでも、ほとんどはWindows 11の設定にあるBluetoothとデバイスメニューで当該プリンタを追加すれば標準的な印刷は可能となる。ただし、プリンタの機能をフル活用することはできない
メーカーがArm版Windows 11用ドライバを配布していない複合機のスキャナ機能を利用するには、Microsoft Storeで「Windowsスキャンアプリ」を入手する必要がある

 このほか、筆者の使用している周辺機器で問題があったのはバッファローのNAS「Link Station LS420D」とKORGのレコーディング対応USB DAC「DS-DAC 10R」だ。

 バッファローのNASは、専用の接続用アプリ「NAS Navigator」がインストール可能でネットワーク上のNASも見つかるのだが、NASのフォルダにアクセスすることができない。そのため、エクスプローラーから「ネットワークドライブの割り当て」でLink Stationのアドレスを指定してネットワークドライブとして登録しないといけなかった。これは少々知識を要するので初心者だとつまずいてしまうかもしれない。

バッファローのNAS専用アプリ「NAS Navigator」はインストールが可能で、ネットワーク内のNASも検出されるのだが、NASにアクセスすることができなかった
接続アプリが利用できない場合は、エクスプローラーを開いて左ペインにあるPCを右クリックして出現するメニューの「ネットワークドライブの割り当て」を選択。次の画面で任意のドライブ文字を指定して、NASの共有フォルダを入力する。次の画面でNAS側で設定したユーザー名・パスワードを入力すると、NASの共有フォルダがエクスプローラーにネットワークドライブとして登録される

 KORGのUSB DAC「DS-DAC 10R」はドライバをインストールするとUSB DACとして問題なく動作、ハイレゾ再生アプリの「foobar2000」などと組み合わせて使える。しかし、付属のレコーディングアプリ「Audio Gate」がDS-DAC 10Rを認識しないため、レコードプレーヤーと接続して録音できるという、この製品の目玉機能が使えなかった。

KORGのUSB DAC「DS-DAC 10R」はドライバをインストールするとUSB DACとして普通に使用できたが、専用レコーディングアプリ「Audio Gate」はDS-DAC 10Rを認識しないため使用できなかった

 なお、ワコムのペンタブレットは、Arm版Copilot+ PCが登場した2024年には非対応だったが、2025年の2月に配布が開始されたドライバからArm版Windowsに対応。現状は問題なく使用できる。

ワコムのペンタブレットは2025年2月公開のドライバ6.4.9以降でArm版Windowsに対応している。筆者が愛用している「Wacom One 14 TDTC141W0Z」も問題なく動作している

Copilot+ PCのAIアプリは役立つものが少ない

 Arm版Windows PCに限った話ではないが、Copilot+ PCは必要なのか気になっている人もいるだろう。その点についても触れておきたい。Copilot+ PCの最大の特徴は専用のAIアプリが使えることだ。現状、Copilot+ PCでのみ使える主なAIアプリと機能は下の表にまとめた。

【表2】Copilot+ PCで使える主なAIアプリと機能
AIアプリ機能
リコール数秒おきにデスクトップ画面をキャプチャーして検索用のインデックスを作成。そのデータをもとに過去に使ったデータを検索可能とする機能
コクリエイターペイントアプリに搭載されるAI生成機能。テキストとラフスケッチから画像を生成できる
イメージクリエイター/リスタイル※フォトアプリに追加搭載された機能。テキストから画像を生成したり、既存の画像を加工したりすることができる
ライブキャプション※パソコンの音声出力をリアルタイムに翻訳して画面上に表示する機能。現状、日本語を含む44言語を英語へ翻訳することが可能
Click to DoPCの画面に表示されているコンテンツ(画像、テキストなど)を認識し、それに関連するクイックアクションを実行できるようにする機能
フォトのスーパー解像度AIにより画像の解像度を向上させる機能。オリジナルの最大8倍までアップスケールできる
改善されたWindows検索機能従来のインデックス機能に加え、セマンティックインデックスが導入されたことにより自然言語検索が可能となった。

※通常のPCでも利用可能。Copilot+ PCではNPUを使ってローカルで高速に処理

 この中で筆者が便利と感じているのは「リコール」と「Click to Do」だ。リコールはPC画面のスナップショットを自動保存し、後からAI検索できるアプリ。たとえば、数日前に見たWeb記事をもう1回見たいけど見つからない、そういった場合は過去にキャプチャしたデータを探すことで見ることができる。キャプチャデータからそのWebページに飛ぶことも可能だ。なお、画面はユーザーが許可した範囲でのみ記録されるうえ、データはTPMで暗号化され、本人が操作しているときのみ復号されるため、セキュリティ面も心配はない。

リコール
リコールでは、キーワードで過去に使ったファイルや過去に閲覧したWebサイトなどを検索できる。たとえば、数カ月前に作成した企画書のファイルの保存場所を分からなくなった場合は、検索窓に「特集案」などと入力してEnterキーを押す。するとテキスト的に一致したものや視覚的に一致したものが一覧表示される
目的の画面を表示させ、それから目的のファイルを開くことができる
タイムラインで検索することもできる。数日前に閲覧したWebデータなどを探すときに便利だ

 Click to Doは、画面上のテキストや画像を直接選択して、即座にAIで要約、検索、編集などができる機能だが、テキストに関する機能は今ひとつ使いづらい。画像に関しては余計な要素を削除したり、背景を削除することが簡単にできるので重宝している。

Click to Do
たとえば、背景を削除したい場合は、Windowsキーを押しながら画像をクリックすると表示されるメニューで「ペイントで背景を削除」を選択すると、背景が削除された画像がペイントアプリで表示される

 そのほかの機能については、たとえばコクリエイターを使った画像生成は今一つ精度が悪いなど、あまり実用的でない。そのため、個人的にはおまけ程度の機能と考えている。Microsoftは今後、Copilot+ PCのAI機能を強化していくことなので、それに期待しているが、現状、Copilot+ PCでなければならないということはないというのが、ユーザーとしての正直な感想だ。

Arm版Windowsパソコンはまだまだ発展途上

 以上のように、Qualcomm Snapdragon Xシリーズを搭載したCopilot+ PCは、ネット閲覧、メール、オフィスアプリを使ったビジネス文章作成などの日常的用途には問題ないが、利用できないアプリや周辺機器はまだ確実にある。また、Copilot+ PCだからといってPCの使い勝手が格段に向上することはない。そのため、今のところ万人に適しているとはいえない。

 筆者は別途自作PCをメイン機として使用しており、Zenbook SORAは主に外出時の仕事用として使用している。そういうサブマシン的使い方であればほぼ問題なく使えるし、性能的に不満を感じることはない。

 Snapdragon Xシリーズを搭載したCopilot+ PCはIntelやAMDのCPUを搭載したものより価格が抑えられているので、そういった使い方を想定している人は選択肢に入れてもよいと思う。ただし、1台でいろんなことがしたい。そういう人が手を出すにはQualcomm Snapdragon Xシリーズを搭載したCopilot+ PCはまだまだ未完成といえる。

 なお、ジャストシステムのATOKが今後Arm版Windowsにネイティブ対応することが発表されているように、徐々にArmネイティブアプリは増えつつある。また、Microsoftが開発者向けに提供しているInsider Preview版のWindows 11ではx64/x86エミュレーション機能が強化されており、アプリの互換性が高まっているという。

 総合的に見て、現状Arm版のWindowsパソコンはまだまだ発展途上といえるが、Microsoftの力の入れようを見ると、将来的にはx64/x86版Windowsにとって代わる可能性はある。今後の動向が気になるところだ。