大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2016年はモバイルワーカーに焦点をあわせるパナソニック

~ITプロダクツ事業部・坂元寛明事業部長に訊く

会見でCF-20シリーズを持つ坂元事業部長

 パナソニック株式会社が、日本国内において、「タフブック(TOUGHBOOK)」の本格展開を開始する。2016年3月から出荷を開始する「CF-20」シリーズは、頑丈ノートPCでありながら、約1.76kgの軽さを実現し、日本のユーザーが導入しやすい仕様となっている。パナソニック AVCネットワークス社常務ビジネスモバイル事業担当ITプロダクツ事業部の坂元寛明事業部長は、「日本におけるタフブックの販売実績は年間5万台。今後、年平均20%の成長を見込み、2018年度以降には年間10万台規模を目指す」と語る。2016年度には、タフブックの国内出荷比率を10%以上に高めたい考えだ。一方、2016年は、「モバイルワーカーへの業務革新への貢献」をキーワードに、レッツノートおよびタフブック、タフパッドの事業拡大を目指す。坂元事業部長に、新たなタフブックの狙いと、同社の事業戦略について訊いた。

タフブックCF-20シリーズ
パナソニック AVCネットワークス社常務ビジネスモバイル事業担当ITプロダクツ事業部事業部長 坂元寛明氏

日本におけるタフブックの販売を倍増へ

――頑丈フィールドモバイル「タフブック」の新製品として、CF-20シリーズを、2016年3月下旬から発売すると発表されました。この製品の狙いはなんですか。

坂元氏:タフブックは、海外市場で高い評価を得ている製品です。これまでに累計400万台を出荷しましたが、そのうち、米国市場が63%。欧州が25%で、日本はわずか7%に留まっています。その背景には、日本の市場では、なかなかタフブックが導入されにくいという環境がありました。最大の理由は、欧米は車社会ですが、日本では電車通勤の人が多く、タフブックの堅牢性が欲しいと思っても、2kgを超える重量では、重たくて導入するのを躊躇していたケースが多い点が挙げられます。日本のサービスマンなどが、フィールドにレッツノートを持ち運んでお使いいただいている例もありますが、我々からすれば、ここのシーンでは、是非タフブックをお使いいただきたいというケースもあります。今回のCF-20シリーズは、頑丈ノートPCとして世界で初めて、デタッチャブル(着脱式)とコンバーチブルに対応したフィールドモバイルで、タブレットモード、ノートPCモード、コンバーチブルPCモードの3通りの形態で使用できます。さらに約1.76kgの軽量化を実現し、タブレット部だけならば約0.95kgの軽さを実現しています。それでいて、90cmからの落下試験クリアや、IP65準拠の防塵防滴性能の頑丈設計とするなど、フィールドで求められる堅牢性をしっかりと実現しています。軽量化と堅牢性を両立した頑丈フィールドモバイルが完成したことで、日本のユーザーにも積極的に導入していただける製品が投入できたと思っています。

――これは日本市場向けの製品ということですか。

坂元氏:いえ、そういうわけではありません。ただ、欧米でも軽量化に対する需要は高く、それを突き詰めていった結果、日本のユーザーの要求にも合致する製品が完成したと言えます。同シリーズはすでに欧州で先行して発表しており、これまでタフブックを導入していただいたユーザーのリプレース商談などが始まっています。一方日本では、2014年に投入した5型のタフパッドが高い人気を博していますが、それによって堅牢タブレットに注目し始めたお客様から、もう少し画面が大きなものはないか、あるいはキーボードでの入力ができるものがないかという要望が出てきており、こうした動きもCF-20シリーズが日本において関心を集める理由の1つになりそうです。そうした意味で、CF-20シリーズは、日本市場向けの専用製品というわけではありませんが、日本のユーザーが求める仕様になっていると言えます。これまで7%だった日本におけるタフブックの出荷構成比を、2016年度には10%以上に高めたいと思っていますし、将来的には20%程度にまで高めたいと考えています。現在、タフブックおよびタフパッドの国内出荷台数は、年間5万台規模なのに対して、レッツノートは約30万台を出荷しており、まだまだレッツノートの需要が大きいのですが、今回の製品投入を皮切りに、タフブックおよびタフパッドの国内向け出荷台数を年平均20%で成長させ、2018年度以降、10万台規模にまで拡大する計画です。

――年率20%の成長を維持するための施策はなんですか。

坂元氏:日本においては、2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて、建設需要が増加しますし、小売、流通、サービス産業などでも、堅牢性を実現したPCやタブレットの導入が見込まれます。つまり、堅牢デバイスが求められるシーンが自ずと広がっていくのが、これからの日本の市場です。そうした旺盛な需要に対して、他社との明確な差別点を打ち出した製品をタイムリーに投入できれば、高い成長を維持できると考えています。パナソニックは、堅牢ノートPC市場において、国内外ともに約7割のシェアを獲得しており、リーダーとしてこの市場をしっかりと牽引していきたいと考えています。

1台でさまざまな使用用途に対応
地域別出荷台数
国内販売台数目標
記者会見では、パナソニックのラグビーチーム「パナソニック ワイルドナイツ」によるタフブックへのタックルも披露された

モバイルワーカーの業務革新に貢献する

――他社との差別化という点では、どんな点に力を注ぎますか。

坂元氏:高性能、 軽量、長時間、頑丈という要素を高い次元でバランスを取ることは、パナソニックの強みだと言えますが、その一方で、いま一度、我々のターゲットはどこに置くべきか、ということを再定義し、そこに投資を集中させることにしました。これまでは、多種多様な法人需要に応えつつ、さらなる生産性向上を図ること、つまり、「お客様の生産性向上に貢献する」ことをITプロダクツ事業部のミッションに掲げていましたが、ミッションを再定義することで、お客様というのは誰なのかということをより明確にしました。それは「モバルワーカー」です。例えば、実際に持ち運んで使うユーザーにとって、小型化、軽量化は重要な要素です。モバイルワーカーが求めるものは何かといったことを追求し、そこに開発リソースを投入していきます。そして、生産性向上という言葉についても見直しを行ないました。生産性向上は、ITの世界ではちょっと古さを感じます。そこで、「業務革新」という言葉に置き換えました。パナソニックのITプロダクツ事業部がこれから目指すのは、「モバイルワーカーの業務革新に貢献する」ということであり、それに向けた投資を加速し、ここで他社との差別化を図ることになります。そうした中では、選択と集中への取り組みも必要になってくるでしょう。広がりすぎたラインアップを見直し、成長分野に投資をするといったことも行なっていきます。

――選択と集中の基準、そして対象はどうなりますか。

坂元氏:パナソニックのITプロダクツ事業部の特徴は、堅牢性や軽量化を実現するPCおよびタブレットを開発、製造する技術を有しているとともに、ターミナルシステムBUが培ってきた、決済端末における実績、そしてパナソニックモバイルコミュニケーションズ(PMC)が持つ移動体通信技術を連携させることができるという点です。この3つを兼ね備えている企業はほかにはありません。例えば、これからの決済端末の姿は、堅牢技術、小型化技術を組み合わせることで大きく変わっていくことになります。今米国の空港のカフェに行くと、それぞれの椅子の前にタブレット端末が設置されており、そこから注文したり、決済したりといったことができるようになっています。こうした使い方に対応したパナソニックならではの決済端末を投入していきたい。そこへの投資は今後増やしていきます。今年1月に米国市場向けにPOS機能を搭載した7型タブレットの「FZ-R1」を発表しましたが、これはもう少し改善の余地があると判断し、挑戦し直すつもりです。この領域においては、当社が決済端末で圧倒的なシェアを持つ日本市場において、どんな製品が求められているのかということをしっかりと把握して、製品化していくことになります。一方で、決済端末の中にはなかなか需要が伸びない製品もありますから、ここのラインアップも見直す必要があると考えています。

――レッツノートやタフブック、タフパッドもかなりラインアップが広がっています。このあたりの見直しは図りますか。

坂元氏:それは考えていません。確かにレッツノートは収益性でも厳しいものがありますが、これはモノづくりの観点から改善を図っていくつもりです。ラインアップを削減するということは考えていません。

事業の方向性

イノベーションセンターとの連携で新市場を開拓

――パナソニックのAVCネットワーク社では、4月1日付けで、イノベーションセンターを500人規模で設置しました。その内約400人がR&D部門の技術者で、ビジネスフロントでの事業を加速する体制を整えました。ITプロダクツ事業部との連携では、すでに成果が出ていますか。

坂元氏:はい、すでに成果が出ています。その1つが、タフパッドに搭載する高精度測位システムです。これにより、豪雪地帯での除排雪作業の支援や、スマート農業支援などにタフパッドを利用できます。すでに2015年12月から、北海道岩見沢市で、除排雪作業支援システムの実証実験を開始しています。これまでのITプロダクツ事業部の活動だけでは提案できなかったような市場に対して、新たなアプローチを開始しており、タフパッドの事業においてもプラスαの成果が出ています。今後も、こうした取り組みが増えていくものと期待しています。

――坂元事業部長は、海外畑が長く、10月からITプロダクツ事業部の指揮を執っています。これまでの経験はどう生きますか。また、今見えている課題とはなんでしょうか。

坂元氏:私は1990年にパナソニックに入社し、コンピュータ事業部の海外営業に配属されました。ドイツで14年、英国で2年、直近の2年間は、アジア大洋州システム販社であるPSCAPで社長を務めました。日本での経験は8年しかないんです(笑)。私が、欧州にいたときは、まだタフブックが売れていない時代で、売るためにかなり苦労をしました。タフブックが欧州で成功した背景には、営業、マーケティングでのレベルアップがありました。泥臭い話ですが、お客様のところに週何回訪問できたか、それによってどんな成果があがったのかということをしっかりと管理し、案件を醸成していくという手法を徹底しました。この成功モデルを、ITプロダクツ事業部全体に注入しています。またこれまでは、成果を大括りで見ていた部分もありましたが、機種別や地域別など、細かく収益管理を行ない、やるべきところにリソースを投入し、やめるところはやめて、そのリソースは別の領域に投入するといったことも大胆にやっていくつもりです。パナソニックには「転地」という言葉がありますが、ITプロダクツ事業においては、移動体通信技術をどう生かすのか、という観点から転地を図っていきたいと考えています。今、米国市場でのビジネスは非常に厳しい環境にあります。ITプロダクツ事業にとっても最大の市場ですから、ここをどう再建させるのかといった点は課題の1つですし、また、中国やインドといった新たな市場でどう戦っていくのかということも、ITプロダクツ事業部における課題の1つです。PCおよびタブレット、決済端末、移動体通信という3つの事業体を組み合わせることで、競争力を持った製品をきちっと市場に提供できるかどうかが、これからの成長の鍵になります。2016年もやることが多い1年になりそうです。

坂元氏の来歴

(大河原 克行)