大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

法人向けPCの販売機能の移管で、NECはPC事業から完全撤退?PC-8001の発売から45年目の行方

NECブランドの法人向けノートPC「Versa Proシリーズ」

 NECは、法人向けNECブランドPCの販売機能を、レノボグループ傘下のNECパーソナルコンピュータ(NEC PC)に移管すると発表した。これにより2025年4月以降、NECブランドの個人向けPCおよび法人向けPCの設計、開発、生産、マーケティング、販売を、NEC PCに統合することになる。

 1979年5月の「PC-8001」の発売から約45年を経過し、NECはいよいよPC事業から完全撤退することになるのか。

NECブランドのPCはどうなる?

 まずは、現時点でのNECブランドのPCを取り巻く状況を確認しておこう。

 NECは、2011年7月にPC事業をジョンイントベンチャーの体制へと移行。レノボグループが51%、NECが49%の出資比率で、Lenovo NEC Holdings B.V.を設立。その傘下に、NECパーソナルコンピュータと、レノボ・ジャパンを置き、国内でのPC事業を展開してきた。

 2016年7月には、NECの出資比率が33.4%となり、レノボグループが66.6%を出資する構成へと移行。2026年6月30日までは、契約を自動更新し、この体制を維持することが決まっており、NEC PCも、日本国内におけるNECブランドでのPC事業の展開が可能になっている。

 この契約が、今後どうなるかはこれからの焦点の1つともいえるが、関係者の声を聞くと、当面は、NECブランドを継続する方向には変わりがなさそうだ。

 NECおよびレノボグループによる契約では、ジョイントベンチャーを開始した当初から、NECブランドの個人向けPCであるLAVIEシリーズは、NEC PCが設計、開発、生産、販売、サポートを行なう一方、法人向けのVersa ProやMateは、NEC PCが設計、開発、生産を行なうものの、販売はNECの法人部門が担当。NECのシステム商談を行なう直販部門や、全国の販売店に流通する販売部門を通じて、企業や自治体、政府などの公共分野に流通している。GIGAスクール構想向けのPCも、法人向けPCのカテゴリに含まれており、NECによる販売ルートが活用されてきた。また、法人向けPCのサポートについては、NEC傘下のNECフィールディングも担当することになっている。

 今回の発表は、2025年4月1日以降、NECブランドの法人向けPCの販売機能を、従来のNECからNEC PCに移管するというものだ。この中には、Windows PCだけでなく、教育分野向けに展開しているChromebookも含まれる。

 つまり、今回のNECからの法人向けPCの販売機能の移管によって、NEC PCは個人向けと法人向けで展開するすべてのNECブランドPCの開発、設計、生産、マーケティング、販売を担うことになる。PCに関する機能として、NECに唯一残っていた販売機能が移管されることで、PCを取り扱うための組織はNECからなくなることになる。

 NECとNEC PCでは、「両社が保有する経営資源を一体化することで、お客様のニーズに応えた従来よりも競争力のある製品を開発していく。また、NEC PCのPC専任の販売チームが販売パートナーと連携し、より迅速なカスタマーケアの提供が可能になるなど、トータルバリューを高めていくことができる。さらに、お客様の課題解決を最優先に考え、継続的なイノベーションを通じて、お客様の成功をサポートしていく」と述べている。

 NEC PCの檜山太郎社長も、「開発から販売まで一気通貫の体制を構築することで、さらなるお客様の成功に貢献できると確信している」とのコメントを発表している。

 ニュースリリースの中では触れられていないが、2025年4月を目標に、NECで法人向けPCを担当していた約100人が、NEC PCに出向。法人向けPCの販売を担当することになる。NEC PCの中には、法人向けPCの販売を行なうための組織が新設されることになる。また、NECと取引していた販売店は、NEC PCと新たに販売契約を結び、引き続き、NECブランドの法人向けPCを取り扱うことができる。

 発表を見ただけでは、NECに置かれていた最後のPC販売の機能が、NEC PCに移管され、1979年5月のPC-8001の発売から約45年間を経過したNECのPC事業が、いよいよNEC本体の事業として見た場合、完全な撤退になると捉えることもできる。確かにそれは1つの事実ではある。

関係者としては「完全撤退ではない」

 だが、関係者には、あまりそうした意識がない。

 それにはいくつかの理由がある。

 1つ目には、NECにとってPC事業は、2011年7月の時点で、レノボグループに移管したとの認識が強い点だ。実際、NECブランドのPCの開発や生産などは、レノボグループの意向の中で推進され、その後、NECの出資比率が減少したことで、その方針はさらに加速している。NEC PCとレノボ・ジャパンの本社が同一の場所にあり、経営トップを始めとして、2つの組織を兼務する社員が多いことからもそれは裏づけられる。

 もちろん、NECの法人向けPCの販売部門からは、NEC PCの開発チームに対して、仕様に対する要求が上がるといった動きがあったのは確かだが、ジョイントベンチャー後は、個人向けPCをベースにして、法人向けPCが開発、生産されてきたことを考えると、その影響度はあまり大きくはなかったといえる。

 また、今回のニュースリリースで用いられた言葉が、販売「事業」の移管ではなく、販売「機能」の移管としている点にも注目しておきたい。つまり、NECにとっては、法人向けPCの販売は「事業」というレベルではなく、あくまでも「機能」であり、積極的なビジネスにはなっていなかった。

 NECの立場から見れば、決して粗利が高いビジネスではなく、PCそのものでは付加価値を創出しにくい状況にあったことも事実である。顧客にとっても、NECが間に入ることで、余計なマージンが上乗せされる状況にあったことは否めない。新たな仕組みでは、こうした課題が解決できるメリットがある。

NECブランドの法人向けデスクトップPCの「Mateシリーズ」

 2つ目には、今回の措置によって、法人向けPCの販売機能をNEC PCに移管しても、NECを通じた販売はゼロにはならないという点だ。

 2025年4月以降も、NECの直販部門によるシステム商談では、NECブランドのPCを取り扱うことができるようになっている。NECのシステム商談では、法人顧客の要望に応じて、NECブランドの法人向けPCを提供。ここでは、日本HPやレノボなどのPCも並行して販売の対象となる。

 NECが継続的にNECブランドの法人向けPCを取り扱うことは、ニュースリリースの中でも示されており、NECのCorporate EVPである木村哲彦氏は、その中で、「NECの価値創造モデルであるBluStellarとPCを組み合わせ、お客様のワークスタイル変革やDX推進を支援していく」とコメント。PCを含むシステム商談に関しては、NECとNECPCが緊密に連携して対応する姿勢を明らかにしている。

 NECが2024年5月からスタートしたBluStellarは、新たな価値創造モデルと位置づけているもので、顧客のDX実現構想を示し、これを成功ストーリーと事例によって適用する「BluStellar Agenda」、顧客に提供するオファリングやNECが持つ技術および商材などによる「BluStellar Technology」、BluStellarを支える社内外の取り組みである「BluStellar Programs」で構成。さらに、顧客が抱える課題を解決するための価値創造シナリオである「Scenario」により、コンサルティング、製品、サービス、オファリング、インテグレーション、運用、保守を組み合わせて顧客価値を創造することになる。

 NECブランドの法人向けPCは、「BluStellar Technology」を実現する上での重要な商材の1つになり、BluStellar を軸としたNECのシステム商談の中でも欠かせないものになる。

 さらに、法人向けPCのサポートに関しても、NEC PCによるサポートだけでなく、NECフィールディングによるサポートが継続的に行なわれる。

 こうしてみると、規模は小さくなるが、NECが、NECブランドのPCを取り扱う仕組みは残ることになる。その点では、PC事業から完全に撤退するという言い方は当てはまらない。

 ただ、繰り返しになるが、NECにとっては、法人向けPCの販売は、すでに「機能」という捉え方に留まっており、「事業」の移管は、2011年7月の段階で決着済みというのが、NEC関係者に共通した認識だといっていい。

発表されたばかりのChromebook Y4はどうなる?

GIGAスクール構想向けの新製品「NEC Chromebook Y4」

 ちなみに、NECでは、10月3日に、GIGAスクール構想第2期に向けた学習者用端末の新製品として、「NEC Chromebook Y4」を発表している。

 前述したように、GIGAスクール構想向けのPCも、法人向けPCのカテゴリに含まれる。そのため、その製品発表から約2週間後に、法人向けPCのNEC PCへの販売機能の移管は、違和感を持たざるを得ない。

 だが、GIGAスクール構想の商談はすでにスタート。同製品も、2025年1月から受注を開始し、2月から出荷を予定している。まずは、NECのスマートデバイス統括部が中心となって商談を担当することになる。つまり、2025年4月にNEC PCに販売機能を移管するまでの期間に、営業活動の空白を作らないためにも、NECでの販売活動は先行してスタートするというわけだ。

 その結果、NEC Chromebook Y4に関しては、2025年3月末までの商談はNECが行ない、4月以降は、NEC PCが行なうというのが基本路線となりそうだ。

 もう1つのポイントとして見ておきたいのが、2025年10月に、Windows 10の延長サポート終了を控えたタイミングでの販売機能の移管という点である。

 すでに、企業や政府、自治体でのWindows 11への移行が進みはじめ、国内PC市場における出荷台数は増加傾向にあるが、この特需は、これからが本番だ。

 NEC PCに法人向けPCの販売機能を一本化することで、NECを介さない仕組みが構築でき、シンプルな販売体制へと移行。これにより、PC販売におけるコスト競争力や納期という面でもメリットが生まれそうだ。

NECの出資体勢は維持

 そして、NECにとって、PC事業からの完全撤退とは言えない最大の理由は、レノボグループとのジョイントベンチャーであるLenovo NEC Holdings B.V.に、引き続き、33.4%を出資したままの状態が維持されているということだ。PCの事業会社へ出資しているという事実に変更がないという点では、NECがPC事業から完全撤退したとはいえない。

 今回の取り組みについて、2011年のレノボグループとのジョイントベンチャーの契約にも携わったNECの森田隆之社長兼CEOは単独取材に応じ、次のように語った。

NECの森田隆之社長兼CEO

 「2011年にレノボグループとのジョイントベンチャーをスタートする際に、日本でNECブランドの価値を最大化するためには、NECが持つ日本の生産拠点で生産し、品質を維持することや、法人向けPCはNECが責任を持って売る仕組みをNECから提案した。その結果、山形県米沢の生産拠点は、レノボの全世界の生産拠点の中で、最も利益をあげる拠点となり、NECにとっても、スケールによるメリットを享受できた」とし、「今回の販売機能の移管は、レノボとのジョイントベンチャーを維持し、33.4%を出資しながら、お客様に対して責任を持ち、市場にPCを投入していく姿勢は変わらないということが前提となる。だが、オペレーションとしては、個人向けと法人向けを別にしておく必要がないと判断した。いまでは、お客様から見たときに、NEC本体から提供されているPCと、NEC PCから提供されているPCに対して、これは違う製品であるという話にはならないという実績ができてきた。オペレーションを統合することで、コストが削減でき、サービスを一貫して提供でき、競争力が高まる」と狙いを示した。

 また、今後のジョイントベンチャーの維持については、「両者の話し合いによって継続することになる。変更することでお客様にバリューがあれば、それを検討することもあるだろうが、いまは変更する必要がないと考えている」と語った。

 NECブランドのPCは、新たな販売体制によって、より競争力を持った製品へと進化することになるのか。これからの成果が注目される。