大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
42年目で国内個人向けPC市場で初のトップシェア!大隈社長に聞く、FMVが仕掛ける4つの柱と次の一手
2024年9月6日 06:18
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、2023年度(2023年4月~2024年3月)の国内個人向けPC市場において、年間トップシェアを獲得した。これは、1981年に富士通がPC事業に参入して以来、42年目にして初めてのことだ。その勢いは2024年度も継続している。
そして、同社は2024年度の重点戦略として、「4つの柱」に取り組んでいる。FCCLの大隈健史社長は、「世界最軽量ノートPCの座は譲らない」というこれまでの姿勢を継続する考えを示したほか、「2024年度も、国内個人向けPC市場のトップシェアは譲らない」と力強く宣言した。大隈社長(以下、敬称略)に、2024年度前半の振り返りとともに、下期に向けた取り組みについて聞いた。
日本No.1の地位を固めるFMV
――富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のPC事業が好調のようですね。
大隈 FMVブランドのPCは、法人向け、個人向けのどちらもFCCLが開発、生産していますが、法人向けPCの販売は富士通、個人向けPCの販売はFCCLがそれぞれ担当しています。FCCLが販売を担当している個人向けPCでは、2023年度において、国内トップシェアを獲得しました。2024年度に入ってからもこの勢いは持続しており、2024年8月までの5カ月間でもトップシェアとなっています。
1度トップを獲った以上、その座は譲りません。2024年度も、国内個人向けPC市場におけるトップシェアを獲ります。日本No.1のクライアントコンピューティングブランドとしての地位を固めていくつもりです。
――2024年度はどんな点に力を注いでいますか。
大隈 2024年度は、重点戦略として、「4つの柱」を掲げていますが、これは、2023年度の方針をそのまま継続したものとなっています。FCCLは、2023年度に良い業績を上げることができ、市場よりも速い成長を遂げ、さらに、お客様満足度や、従業員エンゲージメントなどの指標もよい方向に向かい、戦略がうまく行っていることに手応えを感じています。ですから、2024年度も、これをそのまま継承することに決めました。
1つ目の柱は、「提供価値を磨きこむ」という点です。プロダクトの価値を磨き上げ、FMVが提供する価値は何かということをしっかりと訴求し、それを理解してもらう活動に注力しました。モノづくり力やサポート力に加えて、営業力やマーケティング力を組み合わせたFCCLの総合力によって、提供価値を磨き上げています。FMVでは、「人に寄り添う」というコンセプトを打ち出しています。それを実現しながら、プロダクトにおいて、明確な差別化を打ち出すことができ、それがFMVの強みになっています。
私はPC売り場を回るのが趣味なので(笑)、立場を明かさずに、「どんなPCが売れているの?」と店頭で聞いたりしているのですが、そうすると、「FMVはとにかく軽い」ということを言ってくれます。そして、「持ってみてください」と言われるのです。
ご存じのように、FCCLでは世界最軽量ノートPCを発売し、この座をずっと維持し続けています。こうしたFMVならではの提供価値が浸透してきたことが、国内個人向けPC市場でのトップシェアにつながっていると思っています。
実際には、世界最軽量モデルそのものが販売数量で大きく貢献しているわけではありません。しかし、世界最軽量モデルへの取り組みによって、その成果をほかのモデルにも展開できていますし、お客様にも提供価値が訴求しやすくなっています。「FMV=軽い」というイメージはかなり定着しています。ですから、これからも世界最軽量モデルの座は譲りませんよ。
また、ソフトウェアでも、AIアシスタントの「ふくまろ」や、AIメイクアップアプリ「Umore(ユーモア)」を搭載し、これもFMVが持つ差別化要素となっています。このように、お客様に、FMVを選んでいただくための価値をしっかりと磨き上げ、それをお伝えすることが大切だと考えています。
富士通がPC事業を開始してから42年を経過しますが、国内個人向けPC市場で年間トップシェアを獲得したのは初めてのことです。これまで10年間を振り返ると、多少の凸凹はありますが、右肩上がりでシェアは拡大しつづけており、当社の調べでは、10年前は15%だったシェアが、2023年度は25%近くにまで拡大しています。
ただ、シェアNo.1を獲ることが目標になってはいけません。それが目標になると安売りを始めたり、誰でもが作れるものを市場に投入したりといったことが始まります。これでは本末転倒です。私たちがやっていることが評価された上で、No.1を継続していくことが重要です。その結果、「日本におけるNo.1 PCブランドって何?」と聞かれた時に、「FMVだよ」と状況を、これから定着させていきたいですね。
レノボとのコラボも深める
――2つ目の柱はなんですか。
大隈 「レノボとのコラボレーションを深める」ことです。ここでは、既存の業務プロセスやITインフラから脱却し、新たなビジネススタイルに移行することも目指します。FCCLは、2018年5月からレノボグループが51%を出資していますが、それから6年を経過しても、社内には、「自分たちは富士通だ」という意識が強く残っています。それは当然のことで、富士通ブランドのPCを開発、生産、販売しているわけですし、社員の多くは富士通に入社した人たちです。
また、社内ITシステムや人事制度に関しても、富士通の仕組みをそのまま引き継いでいます。これをレノボからのサポートを受けながら、徐々に変えようとしています。富士通に間借りしていた基幹システムも、移行プロジェクトを開始しています。これによってコスト削減など、さまざまな効果を見込んでいます。
2024年5月には、レノボグループのIT部門が日本を訪れ、FCCLのIT部門やビジネス部門と話をし、詳細を詰めたところですから、この移行プロジェクトは一気に加速がつくことになります。
2026年初頭にはカットオーバーを計画していますが、状況を見ながら一部を前倒しすることも考えています。人事制度についても、報酬制度の変更や役職名の変更など、少しずつ進めていましたが、基幹システムの移行に連動しながら、さらに加速していくことになります。
――調達や開発でのコラボレーションはどれぐらい進んでいますか。
大隈 調達に関しては、かなり進んでおり、最終フェーズに来ていると考えています。ジョイントベンチャーの最大の効果はここにあると考えていますから、2018年5月以降、積極的にコラボレーションを進めてきた部分です。
CPUやメモリ、SSD、OSなどの主要コンポーネントについては、早い段階からレノボグループとの共同調達体制となっています。それ以外の部材についても、7~8割は共同調達になっています。
残りの2~3割については、FMVのユニークな提供価値にリンクする部分ですから、私たちが独自に調達するものとなり、共同調達にはなりません。世界最軽量モデルを実現するための重要な部品の調達は独自にやらなくてはなりませんからね。ですから、レノボグループとの共同調達が100%になることはありません。
一方で、開発については、かなり独立した形でやってきており、その体制は当面変わりません。レノボグループとして見た場合、日本にはFMVのほかにNECブランドのPCがあり、レノボブランドのPCもあります。開発体制をまとめてしまい、それぞれの個性が失われてしまっては意味がありません。FCCLの開発方針や開発体制は独立した形としているのは、個性を維持するためには重要なポイントとなります。
FCCLは、独立した開発体制の上で、トップシェアの獲得や、好調な業績という形で成果を上げていますから、この開発体制や開発方針は維持されることになります。
ただ、コラボレーションを進めたい部分があるのも確かです。レノボグループの将来の方針について議論する場に、FCCLもオブザーバーとして参加し、全体の流れを捉えた上で、FCCLとして何ができるのかということを検討していきます。
これまではFCCLの独立性が強かったため、レノボグループの開発方針と連動するということはなかったのですが、まずは情報共有を始めるというところから関係を強めているところです。
一方で明確しておきたいのは、グローバルやアジアのレノボグループとの情報交換はあっても、日本市場においては、NECパーソナルコンピュータやレノボ・ジャパンはライバルですから、プロダクトに関しては、一切情報共有はしません。
――もっとレノボ流を取り入れた方がいい部分や、残しておきたい富士通方式というのはありますか。
大隈 レノボグループの基本スタンスは、うまく行っているのであれば、それは変えなくてもいいというものです。私が社長に就任して以降、FCCLの業績は右肩上がりですし、レノボグループや富士通が期待している収益にも達しています。
今は、レノボ流にしたり、富士通方式を見直したりといったことは特に考えていません。しかし、レノボグループと富士通は、明らかに企業文化が違います。一般的にいえば、外資系企業と日本企業の差ということになりますが、時間軸の見方は富士通の方が長いですし、レノボグループは素早い意思決定で短期間での結果を求めます。
私は、レノボグループに在籍していましたから、正直なところ、もっとスピードが欲しいなという局面はありますよ。しかし、それを変えなくてはならないのかというと、その部分を口うるさく言っても結果につながらなければ意味がありません。いまは業績がいいですから、実用的な判断で、効果につながるところでの改善を図ることを優先します。
社内のつながりをより強く
――3つ目の柱は何になりますか。
大隈 全従業員にとって、最良のワークプレイスの実現を目指し、「従業員エンゲージメントを高める」ことに取り組んでいます。ここには課題があると思っています。
従業員エンゲージメント調査を行なうと、必ずしもいい結果が出ていません。「FCCL Listens」という社内調査の仕組みがあるのですが、この中に自由記述のところがあり、私はそこを重視して見ています。1,000件を超えるコメントが集まり、それをすべて読んでいます。
読んでいて感じるのは、人と人のつながりや絆が少し弱いという点です。ジョイントベンチャーをスタートして、すぐにコロナ禍となり、従業員同士のつながりが少し希薄になっていることを、みんな感じているようです。
そこで、2023年度から「KIZUNA」というプロジェクトを立ち上げ、社内エンゲージメント活動を強化しています。英語を使ったイベントの開催やクリスマスパーティーの開催のほか、クラブ活動も積極化させているところです。
私もランナーズクラブに参加しており、先日は、あいにくの雨の中(笑)、みんなと7kmぐらい走ってきました。ほかにも、阪神タイガースのファンが集まるクラブもありますよ。このように、直接の仕事以外のところでも接点をもって、従業員同士がコミュニケーションを図る場を用意しています。
FCCLは、もともと富士通という大きな企業の一部門でしたから、富士通全体で従業員エンゲージメントを意識する土壌はあっても、組織単体ではそれが根づいていません。分社化した際にも、そうした機能はもってきませんでした。プロジェクト「KIZUNA」は、FCCLが、従業員エンゲージメントを重視していくということを明確に示したものになります。
ちなみに、2024年8月には、富士通クライアントコンピューティング労働組合が発足しました。富士通労働組合から独立したもので、FCCLの従業員が自分たちで自主的に労使交渉などを行なう形になりました。
――従業員エンゲージメントの向上はどうやって測りますか。
大隈 従業員エンゲージメントの定量的な指標としては、「FCCL Listens」の中に設けているエンゲージメントスコアがあります。これが今年に入って4ポイント上昇しました。毎年このスコアを高めていくことを目指しています。
ただ、この指標が上昇していればいいとは考えてはいません。いまは、従業員と対話する時間も増やそうと考えていて、ある組織とまとまって話をする機会を設けたり、ランチを一緒に取るといったカジュアルな場を設けたりして、直接フィードバックを得るようにしています。
定量的な指標も大切ですが、もっと大切にしたいのは定性的な部分です。社内を見回して、従業員の笑顔が増えているのかどうかも重要な要素だと思っています。従業員が、ハッピーに、ウェルビーイングが高く、活躍する場が作れているのかどうかということを常に意識していきます。
Z世代にとってFMVが候補として上がっていない課題
――4つ目の柱はなんでしょうか。
大隈 最後が、「ビジネス目標の達成」となります。前年実績を上回ることはもちろん、コスト改善にも引き続き取り組み、収益性を高めていきます。2025年までは、国内PC市場全体で、プラス成長が予測されています。実際、FCCLの受注実績や需要見通しにも力強いものがあります。トレンドを捉えて、市場全体の成長を上回るビジネス目標の達成に向けて取り組んでいきます。市場環境がいい段階で、私たち自身の足腰も鍛えて、将来に渡って継続的に業界成長を上回る業績を出し続けられるようにしていきます。
――一方で、大隈社長が考えているFMVにとっての課題はなんですか。
大隈 いまのFMVに足りないのは、Z世代に対して、提供価値が届けられていないという点です。大学生や新社会人が新たな生活をスタートする際に選ぶPCとして、FMVが候補に挙がっているのかというと、そこには課題があります。
極端な言い方をすると、検討すらされていません。実際、個人向けPCではトップシェアであっても、若者世代に限定するとトップシェアではありません。若者に刺さるPCが作れていないのが実態です。
世界最軽量をはじめとしたFMVが得意とするこれまでの提供価値とは異なる視点で、Z世代に刺さるPCとは何か、ということを真剣に考えていく必要があります。ただ、2024年度上期は、これに向けた準備をかなり進めることができ、しっかりと仕込みができたという手応えがあります。
FMVにとって、大きなチャレンジあるととともに、大きな期待を持っている市場領域です。これからを楽しみにしていてください。