大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

世界最軽量ノートパソコンを生産する工場はまだまだ進化を続ける

~30周年の節目を迎えた「島根富士通」のこれまでと未来を追う

島根富士通では、30年間の歴史を振り返ることができる

 島根富士通が、2020年10月に操業から30周年の節目を迎えた。1990年10月に富士通製デスクトップパソコンの生産拠点として操業。現在では、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のノートパソコンの生産拠点として、世界最軽量のLIFEBOOK UHシリーズなどを生産。2019年5月には累計生産台数が4,000万台を達成するなど、国内最大の累計生産台数を誇るパソコン生産拠点となっている。島根富士通の神門明社長に、島根富士通のこれまでの30年と、これからの30年を聞いた。

世界最軽量のノートパソコンを匠の技で生産

島根県出雲市にある島根富士通
島根富士通 神門明社長

 島根富士通は、1989年12月に設立。1990年10月から操業を開始し、この10月にちょうど30周年の節目を迎えた。

 当初は、デスクトップパソコンの生産拠点としてスタート。かつてマルチメディアパソコンとして大きな話題を集めたFM TOWNSも、島根富士通で生産されていた。

 1995年からは、ノートパソコンの生産に特化。2011年には、島根富士通が立地していた旧・斐川町が出雲市に編入されたことにあわせて、同工場で生産されたパソコンを「出雲モデル」と命名。出雲市の出雲ブランド商品として認定されたほか、同市のふるさと納税返礼品としても採用された経緯がある。2019年5月には累計生産台数が4,000万台を達成しており、日本でもっとも多くのパソコンを生産した工場だといえる。

 そして、世界最軽量をFCCLが自ら更新した634gの13.3型ノートパソコン「LIFEBOOK UH-X/E3」も、島根富士通で生産している。

 神門社長は、「世界最軽量のノートパソコンを実現するために、島根富士通の匠の技術が生かされている」と前置きし、「液晶パネルも、そのまま生産工程に投入すればすぐに割れてしまうほどの薄さのものを使用している。これも匠の技術を持つ島根富士通だからこそ、量産化できたものだ」と自信をみせる。

 UH-X/E3は、世界最軽量を達成した従来モデル同様、軽量化とキーボードの打ちやすさを両立するために、約70本のネジを裏面から固定するという構造を採用。島根富士通では、そのために導入した専用ネジ締め機を今回の製品でも活用している。

 「世界最軽量のノートパソコンを量産するために開発部門との連携をさらに強化した。設計の工夫によって解決する部分、島根富士通の匠の技で解決する部分を、ぎりぎりまで攻めぎあいをしながら、量産時の品質向上や生産性向上につなげている」という。

 国内開発、国内生産体制だからこその努力が進められており、その結果が世界最軽量の維持につながっている。

 実際、世界最軽量をはじめて実現した2017年1月発売の「LIFEBOOK UH75/B1」は777gであり、今回のUH-X/E3は、そこから143gも軽量化している。量産品質を維持するには大きなハードルがあるが、「むしろ、世代を追うごとに作りやすくなっている。さらなる軽量化を進める一方で、量産品質を高め、さらに初代モデルに比べると、2~3割も短い時間で作れるようになっている」とする。

 世界最軽量にこだわる設計部門の強みと、島根富士通の匠の技の組みあわせが、634gという軽量ノートパソコンの製品化を実現しているというわけだ。

2019年5月に累計生産4,000万台を達成。八雲塗を施した記念モデル
UHシリーズのために導入されているネジ締め専用機

コロナ禍でも安定した稼働を実現

 島根富士通の神門明社長は、「30年間を振り返ると、いくつものトピックスがあるなかで、トヨタ生産方式を導入したことは、いまの島根富士通を形づくる上で大きなポイントになっている」と振り返る。

 富士通グループ全体では、2004年から主要生産拠点においてトヨタ生産方式を採用。島根富士通では、2005年から、トヨタ自動車の生産部門のOBをコンサルタントとして招き、トヨタ生産方式を導入し、指導を受けながらの生産革新活動が2018年度まで続いた。

 「それまでの生産革新は、頭で学んだ生産革新だったが、トヨタ生産方式を導入してから、ものごとを現地、現物、現実の三現主義で考えるようになり、ジャストインタイム、自働化、平準化といったトヨタの教えに沿った生産革新が、現場で愚直に行なわれるようになった。文化を変えるのに約3年はかかったが、長年の取り組みの結果、現場の変化にあわせて、生産革新を続けることができるようになっている。また、そのDNAを持った人材が、いまでは幹部や中堅社員になっている。モノづくりが、基礎が定着したことが島根富士通のいまの進化につながっている」とする。

 また、2011年3月の東日本大震災が発生したさいに、デスクトップパソコンを生産していた福島県伊達市の富士通アイソテックが被災。急遽、デスクトップパソコンの代替生産を行なったことも、大きな出来事の1つだった。

 「富士通や富士通総研とともに、BCM(Business Continuity Management)プランを机上では立案していた。それが東日本大震災によって、実際に稼働させることになった。準備してきたことが役に立ったという点では、モノづくりを担う立場として、大きな自信につながった」とする。その後も半年に1回のペースで、代替生産に向けて試験稼働を継続してきたという。

組み立てラインの様子
コロナ禍では新たなルールを取り入れている。昼食時は横並びで座ることにしている

 そして、コロナ禍においても、島根富士通は生産ラインを止めることなく、テレワーク需要の拡大やGIGAスクール構想による旺盛なパソコン需要に対応した。

 社員の健康や安全を第一に考えて生産ラインを稼働。新たなルールに基づいて構内の消毒や換気を行なったり、工場内で生成したアルカリ電解水を使用して、設備やドアノブなどの人が触れやすい部分のこまめな清浄なども実施してきたという。

 またFCCLでは、島根富士通の延べ約1,200人を対象に約100枚ずつのマスクを提供。これも安心して稼働できる状況の実現につながった。

 「組み立てラインは16人で稼働させているが、もともとの設計で、作業者同士が1.5m以上離れている。そのままの体制で稼働させることができた」とする。

 そして、「社員の間によるカイゼン活動が島根富士通の特徴だが、新型コロナ対策でも社員のアイデアを生かしながら、継続的な稼働につなげた」という。

 現在でも、島根富士通における新型コロナウイルスへの感染者はゼロである。

現場力、技術力、創造力を兼ね備える

記念式典では、今後30年の方向性を示してみせた
1台ごとに異なる仕様のパソコンやタブレットを生産できる

 島根富士通の特徴は、1台単位の混流生産が可能な「柔軟性」、最短で中2日間の製造リードタイムを実現する「迅速性」、人と機械の協調生産による「継続性」、人材定着によるスキルとノウハウを蓄積する「スペシャリスト育成」の4点にある。

 そして、「これらによって、現場力、技術力、創造力という3つの力を養うことができた」と、神門社長は振り返る。

 現場力は、ものづくりを支える「匠」の力と、たゆまぬ「カイゼン」を指し、技術力とは、自動化による人と機械の協調生産を示し、創造力は、国内一貫生産によるきめ細かいサービスの実現を意味する。

 「富士通のモノづくり力の源泉は、この3つの力にある。これによって、Made In Japanの信頼と誇りを実現することができる」とする。

これからの30年はどこを目指すのか

 30周年を迎えた島根富士通は、新たなビジョンとして、「お客様のご要望に、素早く、柔軟にお応えすること」と、「市場に最適なスマートファクトリーへの進化」を掲げた。

 「お客様が望む、豊かで夢のある未来のために、島根富士通が担う役割は、30年間培ってきた匠の技と、人と人をつなぐ絆によって、このビジョンを実現することである」とする。

 では、このビジョンに基づいて、島根富士通の今後の30年はどうなるのだろうか。

 神門社長は、「飛躍的な技術革新によって、デジタル社会が到来することを前提とした場合、島根富士通はどういう工場でありたいのか。それを考えたときに、目指すべきモノづくりは、デジタル社会をリードするスマートファクトリーであると考えた」とする。

 前提としているのは、今後パソコンの生産台数が大きく成長することはないという点だ。これまで以上に変化への対応力を備える必要がある。たとえば、そのひとつが生産品目の拡大だ。

 FCCLでは、Computing for Tomorrow(CFT)と呼ばれる新規事業創出プロジェクトを行ない、教育分野に最適化したエッジコンピュータのMIB(Men in Box)を製品化しているが、島根富士通は、こうしたパソコンの領域に留まらない製品の生産にも対応できるようにしていくことになるという。実際これまでにも、富士通研究所のメディエーターロボット「RoboPin(ロボピン)」など、パソコン以外のモノづくりに挑んだ経験もある。

 島根富士通の進化は、それだけではない。

 「自然災害やコロナ禍のようなパンデミック、人口減少や超高齢化、Society5.0による超スマート社会への進展、5GやAIなどのテクノロジーの変化など、生産現場も、激変するビジネス環境への対応、技術革新への追従が求められている。これまでのように生産台数の増加だけに対応していくのではなく、生産そのものや工場としての役割において、付加価値を高めていくことが大切になる」とする。

 これまでの島根富士通の延長線上となる「プロダクト」という観点では、データを活用したスマートなモノづくりを目指すことを掲げ、「個人のニーズや需要変動に対応し、ダイナミックで、フレキシブルに、かたちを変える工場を目指す」。

 一方、今後の成長が期待できる領域となる「サービス」では、カスタマイズへの対応力強化を掲げ、「データを活用した新たな価値創出を目指し、市場のトレンドから、顧客が望むコトをいち早くサービスとして提供する付加価値を強みにしたい」とする。

 そして、「人、モノ、設備とつながるだけでなく、世界とつながること、他の工場とつながること、顧客とつながることも、今後の島根富士通にとって重要な要素になる」と語る。

島根富士通に変動力と逆境力を加える

 神門社長が打ち出した島根富士通の新たな姿を実現するには、新たな力を加える必要があるという。

 「これまで培ってきた現場力、技術力、創造力に加えて、環境の変化に追随する変動力、逆境を乗り越えて糧にする逆境力を島根富士通の新たな強みとし、変化に強い、しなやかな工場への進化を目指す」と神門社長は宣言する。

 では、変動力と逆境力とはなにか。それによって、なにが実現されるのか。

 変動力では、これまでの「多品種少量生産」から、それをさらに一歩進めた「変種変量生産」へのシフトを図ることになる。

 「2019年度は、消費増税やWindows 7のサポート終了による需要の増加があった一方、2020年度は、コロナ禍による部品調達の遅れなどがあり、環境の変動か大きい。そこに追随する力を磨き上げていかなくてはいけない」としながら、「オーダーに応じて、人や設備、レイアウトが自在に可変するフレキシブルでコンパクトな製造ラインの構築を目指す」とする。

 すでに、多くの種類の生産品目を、1~数万台規模にまで変量させて生産する体制を構築しているが、これをさらに進化。いままでは四半期単位でライン構成を大幅に変更できる体質を持ってはいたが、これをより柔軟に構成を変更できるように進化させることになるという。

 さらにここでは、AIを活用した未来予測を活用。FCCLとの連携強化により、過去のトレンドから未来のオーダーを予測することで、在庫最適化とジャストインタイムを実現。市場の変動にダイナミックに追随できる環境を整えるという。ここでは2030年までに、1人当たりの生産性を2倍に高める方針も示す。

 逆境力では、あらゆる壁を乗り越えるしなやかな力強さを備えることを目指すことになる。

 「人が常に高いモチベーションを持ち、能力を発揮し続けるとともに、ジョブ型やワークシェアリング、テレワークなどのニューノーマルな働き方改革を実践。人や組織、企業がレジリエンスを向上できる力を持ち、自然災害などの想定外の出来事でも、確実に対応できる新たなBCM、BCPの策定や、工場インフラの強化に取り組み、持続可能な筋肉質な企業への変革を目指す」とした。

工場全体の自動化率をさらに高める

 そして、これまでの強みだった現場力、技術力、創造力も強化していく姿勢をみせる。

 現場力では、スマートモノづくりに向けたデジタル革新を目指す。

 「モノづくりにおけるすべてのデータを収集、分析し、現場をデジタル化することで、データに基づくカイゼンや品質管理を実現することになる。それと同時に、熟練者のノウハウをデータ化し、蓄積することで、人材育成における匠の技術伝承に活用することにも取り組んでいく。『匠×デジタル』による次世代の生産革新を図る」とする。

 現在、プリント基板の生産ラインでは自動化率が90%に達し、24時間の稼働体制を実現している。組み立てラインでは協働ロボットの適用や検査工程の自動化などにより、2019年度には30%台だった自動化率は、この1年で55%にまで引き上げられることになる。

プリント基板生産ラインの様子
自動外観検査機のAVIS。毎年進化を続けている
組み立てライン上に導入されていたVSTは今後AVISに統合されることになる

 たとえば、組み立てラインでは、自動外観検査機であるAVISの取り組みがある。

 AVISは2018年度に最初の1台を導入した時点では、パソコン上面および下面のロゴ印字やラベル貼付の有無を検査することからはじまったが、2019年度には側面の検査もできるようになり、カバーの色違いや貼付したラベルの傾き、カバー形状の違いなども認識。導入台数も5台に増加した。

 そして、今年度に取り組んでいるのが、マイクを用いて、画質やスピーカーの正常動作の確認などを行なうVST(Visual Sound Tester)機能の統合だ。VSTは、これまでは生産ライン上に、黒い箱型の装置を用意していたが、これをAVISに統合することで、省スペース化や効率化などのメリットが生まれる。

 「これまで人の作業で行なっていた検査も移行することができ、最新のAVISでは、12部品26カ所の検査が可能になる」という。画像検査には、富士通のAI-Pro画像検査プラットフォームを活用。導入までのリードタイムの削減と、ラインごとに異なる周囲の環境変化にも追随できるロバスト性の実現などにおいてメリットを生むという。

 また、昨年度までのAVISでは、組み立てラインでの作業者が振り返って、検査する生産品をセットするという仕組みだったが、今年度からはインライン化する予定だ。エリアスキャン機能によって、同じ生産ライン上に並んでいても、稼働領域に柵を設けずに、人とロボットが協調する形で作業し、MCT(マシン・サイクル・タイム)も向上させられるようになるという。

 さらに、2021年度以降はAIをより積極的に採用。AIが学習することにより、検査精度を向上できるほか、マルチハンド型ロボットの導入により、他の作業の取り込みなども行なうことができる。ここでは約20台のAVISを導入。本体のキズの確認やLED光量の検査、キートップのストローク量の確認などもできるようにするという。

 神門社長は、「AIとロボットの活用により、組み立て工程において、人の判断に頼らない品質保証ができようになる」とし、「今後も研究開発部門との連携により、検査や試験の自動化を推進していく」と述べた。

 検査工程は重要な工程だが、その一方で付加価値を生む作業ではないともいえる。この部分は、ロボットやAIの活用によって品質を高めることで、人はより付加価値を生む業務へと関わることができるようになる。

 さらに、生産したプリント基板を組み立てラインに投入するさいの、シリアル番号の読み込みなどのハンドリングをロボットで対応したり、ロボットによるネジ締めを増やしたりといったことも自動化率の向上につながっているという。

エレベータも活用した自動搬送の実現へ

構内を循環するAGVも進化を遂げている

 そして、構内物流における自動化率は、2019年度には自動化率が1桁台であったが、構内を巡回するAGV(自動搬送車)の導入や棚アドレスの最適化などによって、2020年度は一気に30%にまで高める計画だ。

 従来は、梱包材料や緩衝材、小物部品の配送を、A棟とB棟を往復するかたちで自動搬送していたが、2019年度からは、構内を1周する循環型とし、添付品やアクセサリ、半完成品を搬送。AGVも13台に大幅に増加している。さらに、2020年度はA棟において、エレベータとも連携することで、1階と2階を結んだ多階循環を実現。プリント基板や完成品の回収などにも活用し、自動回収への進化も果たすことになるという。

 2021年度以降には、AIによる自律制御やGPSによるガイドレス走行、ピッキングエリアにおける協働ロボットとの連携などを視野に入れるかたちで進化。島根富士通の構内全体を結んで、重量があるものや大型部材などの自動搬送も行なうことになるという。

 「協働ロボットや五感センシング、デジタルツール、AIなどの活用によって、人とロボットがともに成長し、協働することになる。最短距離を走行して荷物を運んだり、AGV自らが前後の遅れなどを捉え、速度や循環時間を微調整しながら走行したりといったことも想定している」という。

サービス強化が成長の鍵に

 技術力では、人とロボットがシームレスに共存する工場を目指す。これは、島根富士通が目指してきた人とロボットの協調生産の取り組みをさらに進化させた取り組みとなる。

 「単純作業はロボット化する一方、人はロボットのソフトウェア開発や、新しいコトの創造といったようなクリエイティブな部分に集中して仕事ができるようになる。人とロボットが協調で作業する一方で、徹底的な棲み分けを行なうといったことも課題になってくる。また、人が成長するように、ロボットもAIにより学習をして進化させ、活用領域を増やして、人との協働を拡大。人とロボットが相互補完し、これを生産ラインのなかに組み込みながら、全体最適化ができるようになる」とする。自動化率は、2030年には現在の4倍に高めることになるという。

 創造力では、イノベーションから新しいコトを生み出す考えを示す。これは、カスタマイズの進化につなげる取り組みと言い換えることもできる。これまでのカスタマイズは、生産するパソコンのハードウェア仕様の変更やソフトウェアのインストール、添付品の変更といったことが中心だったが、ここでは海外向けのモノづくりも視野に入れたカスタマイズや、プロダクトやサービスを問わずに、島根富士通が提供できるもののすべてを1人ひとりの仕様としてカスタマイズすることを目指すという。

 そして、こうも語る。

 「島根富士通が30年間培ってきたMade In Japanのノウハウをサービス化したり、工場のシェアリングなどを通じて、業種を問わず、日本のモノづくりに貢献したい。島根富士通のすべてをサービス化することを目指したい」。

 これまでも「エキスパートサービス」として、生産革新活動で培ったノウハウを活用した改善コンサルティングサービスを提供したり、富士通の製造業向けソリューション「COLMINA(コルミナ)」シリーズとして、島根富士通で蓄積した製造ノウハウを他社に提供したりといった取り組みも行なってきたが、こうした動きをさらに加速。これにより、2030年には、付加価値額を現在の2倍に拡大することを目指す。

 「現在、修理ビジネスを含めた付加価値ビジネスの構成比は3割。これを、2023年度以降には、5割にまで引き上げたい」とする。

 島根富士通では、IT機器に関する計画や調達、導入、運用、廃却までのライフサイクル全体をワンストップでトータルにサポートする「LCM(ライフサイクルマネージメント)サービス」を提供しているが、これは島根富士通のなかに、生産からカスタマイズ、修理、保管、廃棄までを提供できる体制が整っているからこそ実現できるものだ。

 今後、企業向けパソコンにおいては、サブスクリプション型LCMの導入が注目されており、そうしたサービスが広がれば、これらをワンストップで提供することができる島根富士通の役割は、さらに重視される可能性がある。そうした新たな時代に向けた準備も進めていくことになりそうだ。

データを活用して生産拠点の価値を高める

 さらに、島根富士通では、部品情報や在庫情報、歩行動線、設備ログ、商談情報など、あらゆるデータを活用したスマートなモノづくりを目指す姿勢を示す。

 データ活用に向け、モノづくりに関するあらゆるデータを多角的に分析する基盤の構築によって、蓄積データの分析、リアルタイム解析による品質、生産性の向上につなげる考えだ。

 「これまでにも工場内には数多くのデータがあった。実際、生産ラインには、データを収集したと考えている設備だけで700台規模に達する。だが、すでに工場内の設備の7割からデータが収集できる環境を整えている。これをどう分析して、自分たちが欲しいデータにするのかということに、これから力を注いでいきたい」と前置きし、「機械学習によるデータの分類、予測、判定を行ない、生産性向上や品質向上につなげることを目指す。また、これまでは静止画を使った検査品質の向上に取り組んできたが、動画からも情報を抽出し、リアルタイム解析へと進化させ、異常をリアルタイムで検知する仕組みも構築したい」などと述べた。

 島根富士通では2018年度から、スマートものづくりセンターを設置して、データの収集、蓄積、分析によるスマートファクトリーへの取り組みを加速してきた。

 「まずは、品質向上という点からデータの活用を開始している。生産ラインでなにが起きて、なにが問題になっているのかといったことをリアルタイムに把握したり、部品品質のばらつきを掌握したりといったことから開始している。現場では、どんな情報が欲しいのかという視点でデータ活用を図りたい」とする。

 このように、島根富士通の進化は、ますます加速することになりそうだ。それが、富士通クライアントコンピューティングのパソコンの価値を高めることにつながることになる。

 神門社長は、「これからも、進化し続ける工場を目指し、品質や製造コスト、生産リードタイムのすべてにおいて他社を圧倒したい」と意欲をみせる。

 日本最大のパソコン生産実績を持つ島根富士通は、30年間に渡って、日本のパソコン生産をリードしてきた。これからも進化を続けながら、その地位を高めていくことになりそうだ。

島根富士通の30周年を記念して制作したポスター。背景は社員の顔写真でデザインされている
島根富士通の30周年に記念して作られた「福こづち」。出雲では、出雲大社の祭神「大国主大神(だいこく様)」が持つ「打ち出の小槌」にちなみ、祝い事の際には、こづちが縁起物として贈られる風習がある。「創業三十周年」、「島根富士通」の文字も刻まれている