大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
NEC PCが米国市場に再参入。ベネット社長が語る日本産の強み
~ゲーミングPCの満を持しての投入も宣言
2020年1月15日 06:00
NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)は、米国市場向けに、NECブランドのPC「LAVIE」シリーズを発売する。それにあわせて、米ラスベガスで開催されたCES 2020の会場において、同社のデビット・ベネット代表取締役執行役員社長が、日本のメディアを対象にした会見を行なった。
ベネット社長は、「2020年3月から、NECブランドのPCを発売し、米国市場に再参入する。まずはパイロットとして用意した台数を売り切ることを目指す。その成果を踏まえて米国市場での本格展開を考えたい」と意気込みを語った。
NEC PCが米国市場で発売するのは、約837gの軽量化と、15.5mmの薄型化を図った「LAVIE Pro Mobile」、Crystal Sound Displayを搭載し、高音質なサウンドをディスプレイから発生させ、没入感のあるシアター体験を提供する「LAVIE Home All-in-one」、ガラス素材を採用したデザインと高い性能を実現し、オフィスおよび家庭でのニーズに応えることができるノートPCの「LAVIE VEGA」の3台である。
なお、今回のCES 2020において、「LAVIE Pro Mobile」が「Best of CES 2020 Best Laptop」などを受賞。「LAVIE VEGA」が「Best of CES 2020 Best Design」を受賞した。
ベネット社長は、「NEC PCはもう一度、米国で新たなものを出したい。日本でナンバーワンの国内PCメーカーとして、米国市場にチャレンジしたいと考えた」と、米国市場への展開に意欲を見せ、「CES会場での反応は予想以上にいい」と、手応えの良さを強調した。
米国市場でもモバイルノートに軽さが求められる傾向に
今回のNECブランドのPCによる米国市場への参入については、ベネット社長自らの体験が大きく影響している。
「社長に就任して以来、LAVIE Pro Mobileを、海外出張に何度も持っていった。すると、どこの国に行っても、そのPCはなにかと聞かれる。そして手渡すとその軽さにびっくりする。
これまで米国では、重くてもいいから薄くしてほしいという要望があった。これに対して、日本では軽さが最重視される。しかし、米国市場でも変化が生まれている。最近では、日本も米国もニーズの傾向が統一され、米国でも軽さが求められるようになった。
米国市場の関係者の間から、『LAVIE Pro Mobileは、米国でも売れる』という言葉が出てくるようになった。米国市場への再参入は私の経験と、こうした言葉がきっかけになっている。まずはパイロット版としての投入であるが、自信を持って米国で売ってみるつもりだ」と語る。
3機種とも、英語版キーボードや英語版Windowsを採用し、米国市場向けに限定台数で生産。米Lenovoの直販サイト「lenovo.com」を通じて販売する。
「まずは、用意した台数を、半年か、3四半期ぐらいで売り切りたい。好調であれば追加も考えている。現時点でのバイヤーからの反応がいい。予想以上の手応えである。米国市場では、LGやハイアールの薄型軽量ノートPCが人気であり、これを越える次のものとして、LAVIE Pro Mobileに注目が集まっている。lenovo.com以外の取り扱いについては、米Lenovoのチームと相談をしていくことになる」などと語った。
今回の布石となった13.3型1kg切りノート「LaVie Z」の存在
NEC PCは、2015年に開催されたCES 2015のLenovoブースに、LaVie Zを展示。会場では大きな話題を集め、「Best of CES Awards 2015」のベストPC賞を受賞し、数量を限定して米国内で販売したことがある。このときもパイロット販売として、用意した台数は売り切っている。
だが、軽量化よりも堅牢性が重視される米国においては、より頑丈な仕様にしてほしいといった声や、デザインを良くしてほしいという声があがり、本格展開には至らなかった。また、見た目がチープで、価格に見合っていないという声もあったという。
5年ぶりにCESに展示をするとともに、2020年春から3機種を発売するということは、いわば5年前の米国市場からの要望に対して、NEC PCとしての回答とも言える製品を用意したことと言い換えることもできよう。
さらに、米国市場で薄型化や軽量化に対するニーズが高まってきたこと、そして、ユーザーニーズの細分化に伴い、Lenovoグループとしても北米市場に向けて幅広いラインナップをそろえたいという狙いとも合致したことで、今回の米国市場参入につながっていると言えそうだ。
そして、LaVie Zのときは、商品企画部門からのボトムアップでの仕掛けであり、あくまでも部門独自の取り組みであったが、今回は、ベネット社長肝入りのトップダウンのかたちでプロジェクトがはじまっており、NEC PC全体としての挑戦であることも見逃せない。
日本ブランド=高品質のイメージを武器に
「2015年のときには、LenovoのLaVie Zとして販売した。今回は、NEC PCのLaVieとして売ることになる。日本のPCブランドとして売るという点が異なる。
米国市場では、こちらからはなにも言わなくても、日本のブランドは品質がいいというイメージがある。このバリューを活かしたい。日本の製品の良さは品質にこだわり、最新のテクノロジを搭載し、いい素材を使っている点である。
とくに、米国ではいまでもNECのディスプレイに対する評価が高く、NECのPCであれば、搭載されているディスプレイの品質が高いという期待感がある。
さらに、これまでは日本の製品は価格が高いと言われてきたが、海外市場でも品質が重視され、高価格帯のものが求められている。社内でも、LAVIE VEGAの価格設定について議論したさいに、『それは高すぎる』と言われると思っていたが、『その価格設定であればいける』と言われた。これも自信になっている。
市場の変化とともに、日本の製品の品質に対する期待が高いことが裏づけられる。パイロット版を出して、フィードバックを得て、日本でナンバーワンの国内PCメーカーとしてチャレンジをしたい」と意欲を見せる。
ちなみに、LAVIE VEGAは、2,099.99ドルという価格設定になっている。
外資系メーカーにはない発想が強みとなる「LAVIE Pro Mobile」
ベネット社長は、今回投入する3機種について、「いずれも日本発のPCとして、尖っている製品を選んだ。外資系メーカーにはないPCだと考えている」とする。
LAVIE Pro Mobileは、15.5mmの薄さのスリム筐体を実現し、本体重量が約837g。キーボード部分がリフトアップする構造で、約15時間のバッテリ駆動時間により、ユーザーが、いつでもどこでも仕事ができる環境を提供する。
天板にはレーシングカーに使用されるグレードの東レ製カーボン素材、底面には軽量なマグネシウムリチウム合金、キーボード面はマグネシウム合金を採用して、軽量化を図っている。
「これは世界最軽量のPCを目指したものではない。軽さばかりを追求すると、どこかを妥協してしまったり、安っぽくなってしまったり、壊れやすくなったりする。目指したのは、世界で一番堅牢性が高いノートPCとして、最軽量のものである」(NECパーソナルコンピュータ商品企画本部商品企画部の永井健司マネージャー)とする。
また、「トータルの満足度を高めるために、薄型化、軽量化だけでなく、デザイン性やバッテリライフを追求したり、ユーザービリティを追求したりといった取り組みを行なっている。いまのなかでは、ベストとも言える新たなヒンジ構造を採用し、キーホードはリフトアップして使いやすいものとし、コーティングを変えて、耐久性を2倍に高め、手触り感が心地いいものを採用した。購入後にも満足度を高めることができる」と自信を見せる。
ベネット社長は、「米国で売られている薄型ノートPCを見ると、薄型を追求するために、USB Type-Cしか搭載していない製品が多い。だが、米国市場のさまざまな人の声を聞くと、米国でもHDMIやUSB Type-Aなどのニーズがある。
これは日本のユーザーの使い勝手を追求するために搭載したものだが、この仕様は海外でも受け入れられる。もともと海外で出すということを前提としていたら、USB Type-Cだけにするなど、違う仕様になっていただろう。日本市場向けに開発したからこそ、外資系PCメーカーとは違う提案ができる」などとした。
ディスプレイから直接出る高品質なサウンドが魅力の「LAVIE Home All-in-one」
LAVIE Home All-in-oneは、1枚のディスプレイに見える、新たなデザインを採用したオールインワン(一体型)PCだ。
高音質なサウンドを、ディスプレイから発生させるCrystal Sound Displayを搭載し、液晶を振動させることで直接画面から音を発生。没入感のあるシアター体験を提供することで、ハイクオリティなエンターテイメントコンテンツを、家族や友人と一緒に楽しみたいというユーザーには最適だ。
Crystal Sound Displayは、LG Displayの技術を採用。YAMAHAによるサウンドチューニングを施したことで、高品質なサウンドを実現させている。
ベネット社長は、「開発チームが、ディスプレイ1枚だけのPCを作りたいという挑戦からはじまったプロダクト。それを実現するために、LG Displayの技術を使い、外側にスピーカーをつけずに済んだ。最初にこの音を聞いたときにはとても感動した。コストがかかるが、やろうと決めた。
だが、1年後に何度かデモを聞いたときには少しがっかりした。最初のような感動が得られなかったからだ。製品化に向けて、どこかに妥協したところがあったようだ。ところが、最後の最後に、LAVIE Home All-in-oneができたときには、最初の感動と同じ感動を得ることができた。これならば気に入ってもらえると思った。
米国では、一体型PCが売れていない。部屋にスペースがあるから、大きなデスクトップPCが人気が高いという傾向があるのが1つの理由だろう。だが、この音を聞いてもらえれば、LAVIE Home All-in-oneの良さをわかってもらえる。
問題は、音の良さを理解してもらえるように、静かなところで聴ける場を作れるかどうかだ。これまでは米国で売れなかった一体型PCが、売れるようなきっかけを作れるイノベーティブで尖っている製品であり、売れる自信がある」などと述べた。
NEC PCの大きな挑戦の1つとして誕生した「LAVIE VEGA」
LAVIE VEGAは、天面カバーにGorilla Glass 6を採用。光沢のある深いブルーのデザインとなっている。天面のLAVIEロゴは、LEDで発光し、Windows 10のCortanaおよびモダンスタンバイに対応。音声に光で反応し、PCを閉じた状態でも遠距離マイクが音声を拾って、Cortanaを用いてアプリを起動させることができる。また、YAMAHAのサウンドマイスターと共同開発したYAMAHAサウンドシステムにより、音楽プレーヤーとしての使用でも威力を発揮する。
「LAVIE VEGAは、素材の強みを活かし、オールグラスファイバーのスタリッシュなPCを作りたいという狙いからはじまった製品。GPUが入っていない点は気になっていたが、写真を編集したり、グラフィックデザインをする場合にも、クリエイターが満足できる性能になっている。
4K有機ELディスプレイの採用も、満足度を高めるものになっている。この製品も米国市場での展開は少し難しいとは思っていたが、予想以上に反応がいい。セグメンテーションを明確にしたことがよかった」とする。
現在、NEC PCでは、ターゲットを絞った製品展開を進めている。大きくは、「ホーム」、「プロフェッショナル」、「教育」、「ゲーミング」という4つのセグメントに分類。さらに、それぞれの分野での具体的な利用ニーズを想定したモノづくりを進めている。
「これまでのPCは、なんでも使えるものを目指してきたが、いまは、ユーザーのニーズを見て、セグメント化し、その分野における課題を解決したり、セグメントされた分野で満足できるものを作りたいと考えている。米国市場での展開でも、絞った提案が受け入れられるはずだ」とする。
ベネット社長は、社内に向けて「Think Big」という言葉を使い、大きな目標に向かって取り組むことを徹底している。今回の米国市場への最参入の取り組みも、この考え方に則ったものだと言える。
「大きなものにチャレンジするには、失敗を恐れてはいけない。『Win together, lose together』の気持ちで、取り組むことになる。NEC PCは、いろいろなことにチャレンジしたいと思っており、社員も新たな挑戦をやりたがっている」とする。
NEC PCのゲーミングPCが現在開発中
ベネット社長は、米国市場での展開をベースに、海外での取り組みを加速する考えも示す。
「まずは、米国市場からのフィードバックを得て、米国で売れるものを作りたい。米Lenovoと相談しながら、世界中のカウンターパートナーと話をして、世界各国にも展開していきたい。
現在、日本で開発中の次世代の製品では、最初から海外展開を視野に入れたり、今回の製品以外にも世界展開を検討したものもあった。LAVIE Note Mobileでは、エッジ・トゥ・エッジキーボードを採用しており、これは他社では少ないため、高校生や大学生などを対象にした教育分野に需要がありそうだ。世界で売れるものを作っていきたい」と意欲を見せる。
ベネット社長は、数年後に向けて、具体的な海外売上高を社内目標として設定しているという。「簡単にクリアできる数字ではない。だが、需要に応じて生産体制の強化にも投資をしていくことも考えている。海外展開は本気でやっていく」とする。
海外PCビジネスは、NEC PCの新たな挑戦だと言える。
一方、ベネット社長は、開発中であるNECブランドのゲーミングPCについても言及した。
ベネット社長は、「ゲーミングPCでは失敗したくない」と前置きし、「デスクトップPCにGPUを搭載して、これでゲーミングPCです、ということはしたくない。ゲーマーにとっては、これがゲーマーのために作ったPCなのか、そうでないPCなのかということがすぐにわかってしまう。
ゲーマーのことを考えていないゲーミングPCを作るのであれば、むしろ作らないほうがいい。それはお金の無駄であり、時間の無駄であり、リソースの無駄である。ゲーマーに向けたわれわれのメッセージがなにか、ということが伝わらないPCであれば、出さないほうがいい」とする。
そして、「NECは、新たなブランドで、ゲーミングPCを作ろうとしている。スペシャルであり、意味がある製品を出す。そのために少し時間がかかっている。日本のPCメーカーらしい、NECブランドらしいゲーミングPCを出したい。これを見れば、これこそがNEC PCが出すゲーミングPCだとわかってもらえるものを出す。すでに、アイデアはまとまっている。楽しみにしてほしい」とする。
海外展開の行方も楽しみだが、NECブランドのゲーミングPCの登場も楽しみだ。