大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

なぜ、パナソニックはタフパッドをやめて、タフブックに統一したのか

パナソニック モバイルコミュニケーションズの武藤正樹社長

 パナソニック モバイルコミュニケーションズは、頑丈ハンドヘルド端末「タフブック FZ-T1」を発表。2018年10月から出荷を開始する。従来モデルに比べて、軽量化や低価格化を図ることで、新たな市場へのアプローチを進める。

 さらに、今回の新製品発表にあわせて、タフパッドブランドをタフブックに統合。今後、発売する製品は、すべてタフブックシリーズとして発売する考えも示した。パナソニック モバイルコミュニケーションズの武藤正樹社長に、2018年度の同社の事業戦略や、ブランド統一の狙い、そして、新製品のFZ-T1について聞いた。

頑丈ハンドヘルド端末「タフブック FZ-T1」

社内の事業統合

 パナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)は、パナソニックの社内カンパニーであるコネクティッドソリューションズ社で、レッツノートやタフブックなどのモバイルソリューション事業をになうモバイルソリューション事業部が統括するパナソニックの子会社だ。

 2017年4月に、パナソニックシステムネットワークスのターミナルシステム事業を統合。従来からの移動体通信事業に加えて、新たに決済端末事業を担当するとともに、移動体通信と決済端末を融合した製品の開発にも取り組んでいる。

 PMCの武藤正樹社長は、「2017年4月に、移動体通信事業と決算端末事業をPMCに統合したことで、ハードウェア、ソフトウェアの開発体制を一本化。開発効率を高めることができた」とする。

 スマートフォンやハンドヘルド端末、決済端末で活用するハードウェア技術、ソフトウェア技術、ネットワーク技術が近くなり、これらの開発リソースを共有化することで、開発効率を高めることができるようになったというわけだ。

 「とくにこの1年でソフトウェアに関する品質を大幅に高めることができた。これは業績にもプラス効果となっている」という。

 PMCにとって、2017年度は、決済端末事業を加えたことで、開発体制を強化できたことが大きな変化であったことを、武藤社長は強調して見せた。

 さらに、モバイルソリューション事業部における販売体制を刷新。これによって、ワンパナソニックとして、レッツノート/タフブックシリーズと、移動体通信、決済端末を組み合わせた提案活動を加速できたことも、同社製品の販売に弾みをつけているという。

ハンドヘルド製品の強化

 こうした実績をもとに、2018年度は、より積極的な製品展開を乗り出すことになる。

 1つは、ハンドヘルド製品の強化である。

 今回発表したFZ-T1の投入を皮切りに、既存のFZ-X1やFZ-N1についても、最新のAndroidへと対応を図る一方、顧客の要望に応じたカスタマイズ対応を拡大し、顧客密着型の製品提案を加速する姿勢を見せる。

 「全世界のハンドヘルド市場の成長率は3%強。これを超える成長率を達成したい」と武藤社長は意気込む。

 その背景にあるのが、2018年4月18日に延長サポートを迎えたWindows Embedded CE 6.0をはじめとするWindows CE搭載ハンドヘルド端末からの置き換え需要だ。

 「サポート終了に伴って、Android環境へと移行を図る企業が多い。そうしたニーズに対して、今回発表したFZ-T1を中心にリプレース需要を取り込みたい」とする。

 ハンドヘルド市場にとっては特需が見込まれるともいえ、そこに最適化した製品の投入は不可避だ。2018年度は、これが重要なポイントになる。

 実際、同社では、FZ-T1で、今後3年間に30万台の出荷を目指しているが、そのうち少なくとも約半分を、既存市場からのリプレース需要になると見込んでいる。もちろん、倉庫や小売店において、依然として、現場での処理に紙を利用しているユーザーに対して、ハンドヘルド端末を用いたデジタル化の提案も積極化する考えだ。

 「FZ-T1の導入は、まずは企業における検証からスタートすることになる。出荷開始が10月であるため、2018年度の実績は、数万台規模になるだろう。だが、2019年度以降、加速度的に出荷が増えると考えている」とする。

 FZ-T1は、2018年度を助走期間と位置づけ、2019年度以降に販売拡大を目指すことになる。

決済端末も強化

 2018年度における2つ目の重点ポイントは、決済端末の強化だ。

 宅配便をはじめとする物流領域における人材不足や、小売店における新たな決済手法の導入など、決済端末を取り巻く市場は追い風となっている。そして、2020年の東京オリンピック/パラリンピックの開催に向けて、小売店での決済端末のリプレース需要も見込まれているところだ。

決済端末は、国内シェア70%を超える実績を持つ

 「スマートフォンを活用したモバイル決済の広がりや、クレジットカードによる新たな決済方法の導入、QRコードの活用などといったように、決済方法が多岐にわたり、それに対応した決済端末への需要拡大が見込まれている。また、自動販売機やATMなどへの組み込み型製品に対する需要も拡大している。こうした新たなニーズにあわせた新規商品も投入をしていく」とする。

 決済端末では国内で約70%という圧倒的シェアを獲得しているパナソニックでは、この分野において、約20カテゴリで、100種類以上の製品をすでにラインナップしている。2018年度は、需要の変化にあわせて、新たなカテゴリの製品を投入するなど、ラインナップ拡大にも積極的に取り組む考えだ。

 ここでも、2017年度に行なった移動体通信事業と決済端末事業の統合によって実現した開発体制の強化が活かされることになる。

フィーチャーフォンは継続

 一方でフィーチャーフォンについても継続的に投入する姿勢を見せる。

 同社では、ドコモおよびソフトバンク向けに折り畳み式のフィーチャーフォンを継続的に投入しており、特定キャリアにおいては、58%という高いシェアを誇る。シニア層の利用を想定して、高い音質での会話や、わかりやすく、見やすいメール操作などを可能としており、それが人気の要因になっている。

 「パナソニックのフィーチャーフォンに対する期待は高く、今後も継続的に製品化していく」と述べた。

FZ-T1は新たな市場の開拓へ

 今回、発表したFZ-T1は、2018年度のPMCの事業戦略において、出荷台数での貢献は低いものの、新たな市場を開拓するという意味で重要な役割をになうことになる。

 「FZ-T1は、頑丈パソコンのタフブックによって培った技術を活用し、各種業界の現場で活用することができる頑丈ハンドヘルドとして開発した。とくに、深刻化する物流・倉庫、小売業界での人手不足の課題を解決し、現場の業務プロセスを改革できる端末になる」と自信を見せる。

 FZ-T1では、5型の液晶ディスプレイを搭載。水に濡れた手や、手袋を装着してもタッチ操作が可能なレインモードおよび手袋モードを搭載しているほか、バーコードリーダを搭載して利便性を向上。さまざまな環境下でも利用できるようにしている。

 「従来のFZ-X1およびFZ-N1は、公共や物流での屋外利用や、厳しい自然環境といった過酷な現場での利用を想定していたが、FZ-T1では、屋内現場での作業がメインとなる用途を想定した製品として開発した。一般的なスマートフォンよりも頑丈でありながら、従来モデルに比べて、軽量、薄型の製品がほしいという要望に対応したもので、パナソニックが得意とする頑丈性能を継承しながら、軽量でポケットに入るサイズを実現している」とする。

 具体的には、製造、物流、小売、医療など、機材落下や水、埃、振動の多い環境で利用を想定しているという。

 「日本のみならず、世界各国のユーザーの声を反映して開発した製品。海外向けには、今年(2018年)7月にも具体的な販売戦略などについて発表したい」とする。型番も同じまま、グローバルモデルとして展開することになる。

 堅牢性や利便性の実現も、現場の意見を反映したものになっている。

 FZ-T1では、本体の6方向に対し、コンクリート面への150cm落下試験を実施。これは、FZ-X1の300cm、FZ-N1の180cmに比べると低い高さだが、「FZ-X1では、海外で利用されている大型トラックの運転席から落としたり、脚立の上に乗った作業時に、その高さから落としたりといったことを想定したものである。それに対して、150cmという高さは手に持った位置から落としたことを想定している」とする。

 倉庫や小売店などの利用時を想定した場合には十分な水準というわけだ。

 また、約240gという重量は、小売店などで勤務する女性スタッフが、1日利用することを想定し、負担にならない水準を目指したという。軽量化は重要課題の1つと位置づけ、同社が蓄積したノウハウを活用している。

 そのほか、交換バッテリの採用、ウォームスワップ機能の搭載により、長時間の業務利用を可能としたり、騒音下でもクリアで快適な通話を実現。高輝度フォトライト付き8MカメラやNFC、GPSなどの機能を搭載している。

 見逃せないもう1つの特徴が、大幅な低価格化を図った点だ。

 FZ-N1では15万円の価格設定となっていたが、FZ-T1では8万円の価格設定となり、47%ものコストダウンを実現した。

 「屋内での利用を想定した堅牢性に限定していることに加えて、決済端末で利用しているチップセットを利用することでコストメリットを出すことができた。決済端末などとソフトウェアを共通利用するといったことも、コストダウンに貢献している」という。

 PMCの新たな開発体制が、FZ-T1のコストダウンにプラス効果をもたらしているというわけだ。

充実したオプション類でさまざまなニーズに対応

 また、オプション類の充実も特徴の1つだ。

 5連式充電台や、5連式バッテリチャージャーにより、大量導入したさいにも安定的な稼働を支えるオプションのほか、パナソニックブランドのオプションとして初めて用意したオートレンジバーコードリーダなど、利便性を高めるオプションもラインナップ。品揃えは、約15種類におよぶ。

 「今後、ユーザーニーズを反映するかたちでオプションは拡大していきたい」とする。

 そして、サービス/ソリューション対応も強化している。

 たとえば、納入前に、ネットワーク環境をはじめとしたユーザー個別の環境を事前設定する一括設定ソリューションや、要求仕様にあわせてカスタマイズするキッティングサービス、業務用ホーム画面に設定するエンタープライズランチャー、セキュリティなどを目的にブラウザやカメラの使用を禁止する機能カスタマイズ、そして、法人利用を想定した長期間サポートなどを用意している。

 サービス/ソリューションの強化は、コネクティッドソリューションズ社全体で取り組んでいる重点事項。ハンドヘルド端末でも、その方向性は同じだ。

「タフブック FZ-T1」は倉庫や小売店などでの利用を想定。今後3年間で全世界30万台の出荷を見込む

 「今後、いかに、ソフトウェア、サービス、ソリューションのビジネスを強化していくかが重要になる。業務/業種アプリケーションの開発やミドルウェアの強化、各種ドライバーやファームウェアの強化も図っていくことになる。ハンドヘルドのビジネスでは、まだハードウェアの構成比が高いが、じょじょにソフトウェア、サービス、ソリューションの構成比を高めていきたい」とする。

 今回の新たな取り組みとして、もう1つ特筆できるのが、NTTドコモ向けに、同じ筐体を利用した「タフブック P-01K」を用意したことだ。

 FZ-T1に比べると、バーコードリーダを搭載していないこと、ウォームスワップ機能がないこと、インターフェイスの違いから、FZ-T1に用意されたすべてのオプションが使えないなどの制限があるが、物流、小売、工場などにおいて、堅牢性を持った連絡用スマートフォンなどの用途を中心に、法人向けに販売をする考えだ。

 あくまでも法人用途としているだけに、ドコモショップなどで展示販売されることはなさそうだが、新たな販路の1つとして、タフブックの広がりに弾みがつくことになるのは明らかだ。

ブランド統合の意味とは

すべての製品をタフブックブランドに統一

 一方、今回のFZ-T1の発表にあわせて、パナソニックでは、タフブックとタフパッドのブランドを、「タフブック」に一本化することを発表した。

 武藤社長は、「堅牢ノートPCのタフブックにはキーボードがついており、まさにタフブックというブランドを表現した製品であった。一方で、タフパッドにも、着脱式のキーボードを利用している製品が増え、それをタフパッドと呼称することが混乱を招いていた。そこで、1年以上前から、ブランド変更の検討を開始し、今回、タフブックに名称を統一することにした。タフブックは、1996年の発売以来、22年間にわたって使用してきたブランドであり、世界的に定着しているブランドになる。それを活用していくことになる」と説明した。

 現在、タフパッドとして販売されている製品は、生産終了するまでそのままタフパッドのフランドを使用。新製品の投入時点で、これをタフブックに切り替えることになる。

 だが、タフパッドも、2012年にタブレットを投入して以来使用しているブランドであり、2014年にはハンドヘルドを追加。欧州や北米で高い人気を誇るブランドだ。当然、タフブックへのブランド統一したあとの影響も考えられる。

 その点については、「むしろ、欧州のマーケティングチームからも、タフブックへのブランド統一を望む声が出ていた」と明かす。

 また、北米市場でも、「『デルのタフブック』がほしい」というように、タフブックのブランドが強く浸透していることもあり、タフパッドの名称をなくすことに、問題がないと判断したようだ。

 とはいえ、今回の堅牢ハンドヘルド端末はキーボードを持たない製品。この製品については、やはり「ブック」というには、無理があるとも言える。

 「そうした指摘があることは理解している」と武藤社長は語りながら、「今後は、『堅牢IT』の総称として、タフブックのブランドを位置づけていくことになる。とくに、ハンドヘルド市場において、パナソニックは後発であり、そこに、タフブックという高い認知度を持ったブランドを使用することが得策だと判断した。堅牢ITならばタフブックというイメージをさらに高めていきたい」と語る。

 あえて、「ブック」形状ではない、ハンドヘルドの戦略的新製品の発表と同時に、タフブックへのブランド統一を発表したところに、パナソニックの強い意思を感じることができるとも言えよう。

 頑丈PCとして世界シェア16年連続1位の実績を持つタフブックのブランドを活用することで、ハンドヘルド領域においても存在感を発揮し、堅牢ITとしてのトータル展開を加速するというわけだ。

 今回のFZ-T1の発表と、タフブックへのブランド統一は、パナソニックのモバイルソリューション事業にとって、大きな節目になったと言えそうだ。