特集
ハリウッドで圧倒的シェアを持つ映像編集ソフト「DaVinci Resolve」とはどんなソフトなのか
~10年前はシステムで数億円だったものが、ソフト単体は無償でも利用可能に
2018年6月11日 11:00
ビデオ関連製品を手がけるBlackmagic Designは、4月に動画編集ソフト「DaVinci Resolve 15」を発表。現在、パブリックベータ版が提供されている。DaVinci Resolveは、もともとはカラーコレクション(グレーディング)という一般にはやや聞き慣れない機能に特化したソフトで、映画製作などプロの現場で使われるものだ。しかし、いまでは編集ツール、音声ツール、合成ツールが融合された映像編集のトータルソリューションに進化している。無償版も用意されており、一般ユーザーも気軽に利用できる。
一方、PCメーカーのマウスコンピューターは、2018年1月より、Blackmagic Designと協業し、DaVinci Resolve推奨マシンを開発、販売している。
今回、両社にそれぞれのソフト、ハードの特徴や狙いについて、ブラックマジックデザイン株式会社テクニカルサポート部エンジニアの矢島史也氏、テクニカルサポートマネージャーの岡野太郎氏、株式会社マウスコンピューターコンシューマ営業統括部 コンシューママーケティング室の森裕貴氏に話をうかがった。
カラーコレクションとは
DaVinci Resolve(以降、Resolve)は、もともとは米DaVinci Systemsが開発していたソフトだが、2009年にBlackmagic Design(以降、Blackmagic)がDaVinci Systemsの全資産を買収し、Blackmagicのポートフォリオに取り込んだ。
それまでResolveは、ソフトウェアと制御用のハードウェアとセットのシステム一式で販売されており、1台で1億円、編集ルームに複数台揃えると、3~5億円もするという、非常に高価なものだった。
Blackmagicが買収後にまず行なったのが、価格面での改革。アプリケーションを改良するとともに、ソフト単体での販売を開始し、ハードウェアのコントロールパネルの価格も大幅に引き下げた。ソフトについては、無償版も提供開始。これにより、ユーザーの拡大を図った。
それまでもResolveはカラーコレクション市場で定評があったが、2014年に行なった世界のプロカラリストを対象としたアンケート調査では、64%が有償版のResolve(有償版の現在の名称はDaVinci Resolve Studio)、24%が無償版のResolve Lite(無償版の現在の名称はDaVinci Resolve)を使用していると回答するほど、圧倒的なシェアを築き上げた。実際、ハリウッド映画では、8割前後の作品がなにかしらのかたちでResolveを利用しているという。
カラーコレクションとは、色彩の補正作業のことだ。被写体が正しい色で写っているかを確認・修正したり、違うカットで撮影されたシーン同士の色味を揃えたり、実際の撮影時とは異なる色合いに変更したりといったことを行なう。
そういった作業を行なう人をカラリストと呼ぶ。カラリストはあまり表舞台には出てこないが、作品の雰囲気や、各シーンの持つ意味合い、緊張感などを表現する上で、カラーコレクションは非常に重要な役割をはたしている。
一般のデジタルカメラやスマートフォンで撮影した写真が、肉眼で見たのとはちょっと違う色調になっているというのは、多くの人が経験したことがあるだろう。それは、カメラが自動的にカラーコレクションを行なっているからだ。
とくに最近はスマートフォンでAI(人工知能)を活用したシーン検知と色補正を売り文句にしている製品が増えている。ちょっとしたスナップなら、機械任せでもじゅうぶんだが、映画のように大規模で複雑な素材を扱うとなると、色のプロが、意図を持って補正するのである。
そう聞くと、カラーコレクションは一般ユーザーには関係ないと思われるかもしれないが、最近はLogやRAW、4Kで動画を撮影できるカメラ・スマートフォンも出てきた。
下記でも説明するとおり、Resoloveは非常に高機能なソフトで、用途は多岐にわたるが、無償版を使って、Log素材やRAW素材のカラーコレクションを行ない、1ランク上の動画作成を目指してみるのもいいだろう。
また最近は手軽な動画編集ソリューションとしてもユーザーが増えているそうなので、カラーコレクションはまだまだという方も、無償の動画編集ツールとしてぜひ気軽に試してみてほしい。
編集、オーディオミキシング、VFX機能まで加わったバージョン15
先述のとおり、Resolveはもともとはカラーコレクションが中心の機能だったが、バージョンアップを重ねるにつれ、大きく機能を拡張している。
バージョン12.5ではノンリニア編集機能を実装。14では、オーディオ編集機能を統合し、効果音やナレーションをミキシングしたりできるようになった。そして、直近の15では、VFX(合成)機能までもが搭載され、映像素材の取り込みから最終出力までの大方の作業をResolveで完結できるようになった。
映画のような作品になると、とうぜんこれらの作業をすべて1人で行なうということはない。カラーコレクションだけであっても、複数人が関わることも少なくない。
Resolveは、バージョン14でサーバーおよび共有ストレージを使ったコラボレーション機能にも対応した。作業によって使うソフトが違うと、連携ミスが発生しがちだが、Resolveであれば、そういうった心配なくシームレスに同時並行作業が可能だという。
たとえば、熟練のカラリストがすべての作業を行なうと、時間もコストもかかってしまうが、まずアシスタントがマスクを作ったり、キーイングしたりという下作業を行なっておき、必要な時間に必要な部分だけ、熟練のプロが仕上げを行なうといったかたちで作業効率を上げることができる。
また、リアルタイムのコラボレーション環境がなくとも、素材データを共有しておき、編集内容が記されたプロジェクトファイルを受け渡すことでも、ほかの人・チームと協業が楽にできる。
主要機能のデモ
前述のとおり、Resolveは非常に多機能なソフトだが、カラーコレクションと新機能に限定して、いくつか実際の機能をデモしてもらったので、動画で紹介しよう。
このようにResolveは、プロ御用達のハイエンドなソフトだが、1ライセンスは33,980円と、機能から観るとかなり安価に抑えられている。無償版はというと、そのうちの約95%の機能が利用できる。
無償版ではコラボレーション機能のほか、一部のResolveFX(映像エフェクト)、8K/16Kや120fpsへの対応、HDR機能、XAVCへの書き出し、マルチGPUサポートなどが削られているが、4K編集はサポートしている。また、無償版であっても、無期限で使え、商用にも利用できるなど、無償版もかなり間口が広い。
有償版については、以前よりも価格が引き下げられているが、バージョンアップも無償となっている。
4K液晶とGPU搭載で、ノートでも軽快な処理が可能なマウスの推奨ノート
上記の動画のデモを観てもらってわかるとおり、フルHD程度の素材なら、リアルタイムでカラーコレクションできるくらい、動作は軽快だ。しかし、顔のトラッキングをはじめ、ノイズリダクションや手ぶれ補正などはある程度重く、軽快な処理には外部GPUが必要となってくる。また、4Kとなるととたんに重くなる。
いまどきは、スマートフォンでも4K動画が撮影できるが、編集となると、ハイスペックなPCが求められる。そういったニーズに応えるべくマウスコンピューターが投入したのが、Resolve推奨PCだ。
ラインナップとしては、デスクトップの「DAIV-DGZ520H1-SH2-RAW」とノート型の「DAIV-NG7500S2-SH5」の2製品。ノート型でも、クアッドコアのCore i7-7700HQと、GeForce GTX 1070(8GB)、4K液晶、Thunderbolt 3などを備え、プロフェッショナルな用途に耐えるスペックとなっている。
マウスコンピューターは、ビジネス向けPCやワークステーションとして「MousePro」を展開していたが、2年前にクリエイター向けに「DAIV」ブランドのPCを発売した。前述のように、一般にも4Kでの撮影が広まってきたことなどを受け、マウスコンピューターからBlackmagicに話を持ちかけ、推奨PCを発売するに至った。
当然、Blackmagicでの検証を通過しており、同社によると、このノート型でも、フルHD素材なら多重にエフェクトをかけてもスムーズに動作。パネル解像度が4Kなので、素材をドットバイドットで表示しながらの編集作業も可能で、まずはフルHD素材を編集したいというユーザーのおすすめだという。4Kについても、コーデックにもよるが、対応可能だ。
このほか、UHS-IIカードリーダーによるデータの高速読み出し、Thunderbolt 3F搭載による外部機器接続性なども特徴としており、これにより通常の映像信号ライン以外のブラマジ製デバイス接続などにも対応する。
有償版ではマルチGPUをサポートしていることが示しているとおり、ResolveはGPUも効果的に活用している。そのため、同社はCPUとGPUのスペックのバランスを取ることを推奨しており、その点でもこのノート型のDAIV-NG7500S2-SH5はいいバランスに仕上がっているという。
一方、デスクトップ型のDAIV-DGZ520H1-SH2-RAWは、ノート型のDAIV-NG7500S2-SH5よりもさらにスペックが高く、より高い性能を発揮できる。
H.264やProResといった汎用コーデックでの4K60pのリアルタイム再生が確認されており、負荷のかかるRAWでも4K30pまでならリアルタイムで動作する。
一般的には4K60pに対応する編集マシンは構築するのに非常に高価になってしまうことが多いことを考えると、DAIV-DGZ520H1-SH2-RAWは4K60p対応マシンとして破格の値段設定と言える。
現状、推奨が取れているのはバージョン14となっている。これについては、バージョン15の正式版が完成次第、本格的な検証を行ない、バージョン15でも推奨PCを展開していきたいとしている。また、製品ラインナップもユーザーのニーズやフィードバックを踏まえ、広げていくかまえだ。