大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

名古屋でMacが売れはじめた理由

~ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店での取り組みを追う

Apple Shopでは専用の什器を使用して展示

 ビックカメラが、2017年4月7日に、名古屋市名駅のJRゲートタワー内に「ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店」をオープンしてから、ちょうど1年を経過した。

 じつは、同店は、東海地区におけるMacの販売において、リーダー的存在となっているほか、ビックカメラを中心に展開しているMacアップグレードプログラムの利用率においては、国内最高の水準を維持し続けているMac有力店でもあるのだ。

 ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店を訪れ、同店の滝田昌克店長に、Mac販売への取り組みについて聞いた。

ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店が入るJRゲートタワー
ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店の滝田昌克店長

女性層を取り込む新たな仕掛けで成果

 JRゲートタワーは、名古屋駅に直結した高さ約220mを誇る、新たなランドマークだ。ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店は、そのJRゲートタワーの9階および10階の2フロアを使用。約11,000平方mの売り場面積を誇る。

 ビックカメラでは、JR名古屋駅を挟んだ太閤通口側に、ビックカメラ名古屋駅西店を、2003年にオープンしており、名古屋JRゲートタワー店の開店によって、名古屋駅前で2店舗体制を敷くことになった。

 だが、この2つの店舗では、かなり客層が異なる。

 もともと名古屋駅西店は、ビックカメラが主力とする家電を中心とした店舗構成としており、家電などを購入するのに最適化した店づくりとしている。地上1階から地上5階までをビックカメラの店舗とし、家電やPC、携帯電話などを前面に打ち出した展示とし、店内には、Apple製品修理サービスコーナーも設置している。

 一方で、名古屋JRゲートタワー店は、地上46階、地下6階の超高層複合ビルのなかにあり、商業施設やレストラン、オフィス、ホテル、バスターミナル、駐車場などが入る。

 ビックカメラが入る9階、10階のフロアの上のフロアとなる11階にはユニクロとジーユー、12、13階はレストラン街。さらに、8階から下は、ゲートタワーモールとして、レディスファッションをはじめとするさまざまな店舗が出店。各フロアとも、JR名古屋タカシマヤと連絡通路でつながる構造となっており、女性層やカップル、家族連れなどが数多く訪れているのが特徴だ。

ジーユーの袋を持った家族連れで来店する姿も

 ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店でも、こうした来客層をターゲットとした店づくりに挑み、これまでの家電量販店にはない売り場づくりへと、発想を大きく変えている点が見逃せない。

 たとえば、ビックカメラの事実上の入口となる9階フロアには、生活家電売り場以外に、化粧品やドラッグ、お酒、玩具、スポーツ用品の売り場を設置。家電を買うために訪れるのではなく、生活用品を購入する売り場づくりを通じて、もっと気軽に来店してもらう店舗を目指しているのだ。

 ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店の滝田昌克店長は、「女性の来店客にとっては、家電を購入するために家電量販店を訪れるというのはハードルが高く、年に1度、来店すればいい店舗でしかない。

 しかし、化粧品やドラッグなど、日常的に使用する商品を、購入しやすい場所に展示することで、ビックカメラのことを、より身近で、親しみやすい店舗だと感じてもらえるようになる。家電を購入するという理由がないと来店しない店舗から、もっと気軽に来店してもらえる店舗づくりを目指した」とする。

 スポーツ用品に関しても女性向けの商品を数多く展示することで、女性層の集客を高めているほか、通路も幅広く取っており、ベビーカーを押しても邪魔にならずにゆったりとした買い物ができるような工夫が凝らされている。

 また、男性客にとっても、お酒が気軽に購入できること、あるいはゴルフ用品の品揃えを強化し、多くの品揃えから選べることは、来店の動機を増やす要因になっている。同ビルの上層階には、オフィスフロアがあり、ビジネスマンも主要なターゲット。男性層の来店のハードルを低くすることにもつながっていると言えよう。

Mac以外にもアップル製品を一堂に展示している

 じつは、女性層などを意識した売り場づくりは、2016年9月にオープンした広島駅前店で、すでに成果を収めている。その成功ノウハウを、名古屋JRゲートタワー店にも展開しているとも言える。実際、名古屋JRゲートタワー店には女性客や家族連れが多く来店しており、広島駅前店同様の成果を生んでいるとも言える。

 階下のレディスファッションやカフェといった店舗を訪れた女性が、ビックカメラを訪れているケースが多く、売り場を見回しても、女性客の比率がほかのビックカメラの店舗と比べて、明らかに多いことがわかる。これまで多くの店で経験を持つ滝田店長もその点を認める。

 さらに、ビックカメラの上のフロアにあるユニクロやジーユーと連動したキャンペーンも随時実施しており、これもビックカメラ名古屋JRゲートタワー店に新たな客層を呼び込むことにつながっている。

 ここでは、東京・新宿で展開しているビックカメラとユニクロの融合店舗である「ビックロ」の運営ノウハウを活用しているとも言えるだろう。

 名古屋JRゲートタワー店でも、売り場にユニクロの服を展示したり、ユニクロの売り場に家電を展示したりといった連動提案を行なっているほか、両店舗で商品を購入するとガラポン抽選会に参加できる共同キャンペーンなども実施している。

 これも、ビックメカラへの女性客や家族連れなどの集客を増やすことにつながっている。

Macの販売比率が高いビックカメラ名古屋JRゲートタワー店

 このように、家電量販店として新たな挑戦を開始し、1年を経過したビックカメラ名古屋JRゲートタワー店だが、じつは、Macの販売においても、先進的な取り組みが注目を集めている。

 ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店では、10階のPC売り場を設置しているが、エスカレータからあがってきて、もっとも目がつきやすい場所に、アップル専門のショップ・イン・ショップ型店舗のApple Shopを配置している。

 専用の什器を使用し、MacやiPad、Apple Watchなどの製品群を一堂に展示。さらに、隣接する形でiPadのケースをはじめとするアクセサリ群を数多く展示しており、これらを組み合わせて購入する来店客の姿も多く見られる。

Apple Shopに隣接する形で豊富なアクセサリを展示

 さらに、隣接する場所には、国内初となる日本マイクロソフトのSurface専用コーナーを配置しており、「MacとSurfaceという2つの人気製品を比較しながら購入できるようにしている」という。

 現在、同店におけるMacの販売比率は、20%を突破している模様だ。時期によっては、4台に1台といった構成比を突破することもあるという。

 BCNの調べによると、名古屋圏におけるMacの販売比率は、2018年第1四半期(2018年1月~3月)実績で6.6%となっており、ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店におけるMacの販売比率が極端に高いことがわかる。

 では、なぜこれだけ、Macの販売比率が高いのだろうか。

隣には、Surfaceの販売コーナーも設置

女性スタッフを中心とした売り場構成に

 1つは先にふれたように、アップル専門のApple Shopを展開し、数多くの品揃えを行なっている点だ。

 東海地区において、Macを積極的に取り扱っている店舗は、首都圏や大阪圏に比べて少ないと言える。そのため、三重県や岐阜県などの近県からもMacを購入するために、名古屋を訪れるというケースが見られるという。

 栄には、アップル直営店のApple名古屋栄があるが、さまざまな方面からの乗り入れがある名古屋駅に直結しているビックカメラ名古屋JRゲートタワー店は、近県からも訪れやすい場所にあると言える。

 2つ目には、JRゲートタワーの特性を生かして、女性客や家族連れ、シニア層などが訪れやすい売り場づくりをしている点だ。

シニア層の来店も多い。すかさず女性スタッフが対応

 レディスファッションやカフェなどの多くのテナントが入るJRゲートタワーは女性層の来店が多いばかりでなく、ユニクロやジーユーを訪れる若年層や家族連れ、タカシマヤに来店するシニア層など幅広い。ここが、同じ名古屋駅前にある名古屋駅西店と比べても、客層が大きく異なっている理由となる。名古屋駅西店でも、Apple Shopを設置しているが、こちらでは、クリエイターや法人ユーザーなど、Macに詳しい顧客層が多いのが特徴だ。

 名古屋JRゲートタワー店を取材をしたのは平日昼だったが、シニア層が、発売されたばかりの第6世代iPadに搭載されたApple Pencilの機能について熱心に質問をしていたり、ジーユーのビニール袋を持った家族連れが、iPhoneを操作していたりといった様子が見られ、まさに老若男女が訪れる売り場となっていた。

 このように女性層をはじめとした幅広い来店客に対応するため、ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店のApple Shopでは、これまでにない取り組みを行なっている。

 それは、Apple Shopのスタッフの4人のうち、3人を女性にしたことだ。これは全国のApple Shopを見ても、例がない取り組みだ。

Apple Shopの様子。老若男女が来店している

 女性スタッフを中心にしたことで、女性の来店客が気軽に相談できる環境を整えたほか、これは結果として、シニア層や家族連れ、あるいは初めてMacを利用する初級者層が、売り場で相談しやすい環境を実現することにもつながっている。

 とくに、すでにiPhoneを利用しており、アップル製品の使いやすさを体験したユーザーが、Macの購入を初めて検討するといった来店客が多い売り場でもあり、こうした場合にも、女性スタッフが活躍しているという。

 「女性スタッフのほうが、ちょっとしたことでも声をかけやすいという傾向がある。それでいて、技術スキルや接客スキルも高いため、来店客が安心して会話ができる」というわけだ。

 同店では、百貨店勤務の経験などがある女性スタッフをApple Shopに配置しているという。女性スタッフの活用は、Apple Shopの新たな姿をかたちづくることができたと言えるだろう。

 また、iPadのケースなどのアクセサリを、隣接する売り場に数多く展示しているのも、女性客に配慮したものだ。女性が気に入ったアクセサリを同時に購入できる売り場づくりにこだわっている。

利用率が高い「Macアップグレードプログラム」

Macアップグレードプログラムの利用率は全国トップクラス

 もう1つ、ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店で特筆できるのが、「Macアップグレードプログラム」の利用率が高いという点である。

 Macアップグレードプログラムは、Macを購入するさい、2年後の推定買取額として、本体価格の約35%をあらかじめ差し引き、その金額で、24回の分割払いを設定できるというものだ。いわゆる残価設定型プランと呼ばれるものであり、自動車業界ではかなり一般化している仕組みだ。

 分割払いが終了する2年後には、ビックカメラおよびソフマップの下取りサービスを利用して、最新のMacにアップグレードするか、据置金額を支払って、そのまま使い続けるか、あるいは下取りを使って、返却して終了するといったいずれかを選択できる。

 もともとは、ビックカメラが先行して導入したプログラムであるが、現在では、ビックカメラ以外にも、この仕組みを採用している店舗がある。

 滝田店長は、「ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店はオープン以来、Macアップグレードプログラムの利用率がもっとも高い店舗の1つであり、つねにトップを争っている」と語る。

 初めてMacを購入するユーザーが多い店舗であるという背景のほか、この仕組みを提案できるスキルを持ったスタッフが常駐していること、そして、自動車業界ではじまった残価設定型プランの仕組みを、トヨタ自動車のお膝元という地域的背景から、購入者自身が理解しやすいという環境が整っている点も影響していそうだ。実際、名古屋JRゲートタワー店では、短時間に、Macアップグレードプログラムの仕組みを理解する来店客が多いという。

 これも、同店で、Macの販売が好調な理由の1つになっているという。

初心者向けのサポートの契約者も増加

AppleCare+の加入率が高いのも特徴

 さらに、Appleが提供するMacの保証プラン「AppleCare+ for Mac」への加入者数が多いのも、同店の特徴の1つだという。

 AppleCare+は、Mac本体や付属品を3年間保証し、使い方や設定などのサポートを3年間無料で提供。画面割れなど、過失や事故による損傷にも対応するものだ。

 また、ビックカメラでは、初めてMacを利用するユーザーでも安心して利用できるように、「安心サポート for Mac」を用意。初期設定やApple ID設定、アプリのインストール、データ移行などを行なってくれる。

 これも、初めてMacを購入するケースが多い名古屋JRゲートタワー店ならではの特徴と言えるかもしれない。

名古屋でのMac販売に弾みがつくか?

 量販店店頭におけるMacの販売シェアは、首都圏では、すでに20%に達する勢いになっているが、全国平均では10%以下にとどまっている。とくに大阪や名古屋では、まだシェア拡大の余地があると言える。

 そうしたなか、ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店のこの1年間の成果は、その可能性を裏付けたものだと言える。女性スタッフの活用や、Macアップグレードプログラムの活用によって、新たな顧客層を取り込むことに成功しているからだ。

 滝田店長は、「今後、女性スタッフをさらに増員したり、展示するスペースを拡張したりといったことも考えていきたい」とする。

 さらに、名古屋では、名古屋大学で、新入生向けのPCにMacが採用されたり、地元量販店であるエディオンが、名古屋本店をはじめとする主要店舗にApple Shopを配置し、既存店舗でもMacの展示を強化したりといった動きが出ているという。

 ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店の取り組みによって、勢いがついた名古屋におけるMac販売に、今後は、どんなかたちで弾みがつくのかに注目しておきたい。