大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
次のステップに入るマウスの新たな法人ビジネスとは?
~MousePro発売から5周年を迎えたマウスコンピューター
(2016/2/29 06:00)
マウスコンピューターが、2011年2月に、法人向けPC「MousePro」を発売してから5年を経過した。この5年間、MouseProシリーズおよび液晶ディスプレイを中心とした同社の法人ビジネスは着実に拡大し、現在では全社売上高の約35%と、3分の1以上を占める主要事業へと成長した。「MouseProは、法人ビジネスをどう伸ばしていくかという戦略的製品。今後は、法人ビジネスを、次のステップへと進めていくことになる」と、マウスコンピューターの小松永門社長は語る。これまでの5年間の法人ビジネスへの取り組みと、今後の方向性について聞いた。
5年間の評価は90点、それとも70点?
2011年2月に、マウスコンピューターがMouseProを投入した背景には、それまでの同社製品のラインアップが、法人市場向けに適していなかった点が見逃せない。
「最先端技術をいち早く搭載した製品を投入するのが、当社の特徴であったが、それが法人市場にはそぐわない部分があった。法人市場では長期間に渡って同一仕様の製品を調達したいと考えており、頻繁なモデルチェンジや仕様変更は、むしろ導入検討がしにくいと言われていた。
こうした課題に対応したのがMouseProであり、国内生産、国内サポートによる高い品質を実現するとともに、法人市場に最適化した製品仕様を前面に打ち出してみせた。細かく仕様を選択したり、小型PCやワークステーションへの展開など、幅広い選択肢を提案したほか、ビジネスユースに対応する堅牢性、メンテナンス性の高さといった点にもこだわってきた。
「MouseProは、当社の法人ビジネスをいかに伸ばしていくかという観点から生まれた製品。この5年間を振り返ると、法人ビジネスの成長という点では、90点の評価を与えることができる」と、マウスコンピューターの小松永門社長は語る。
2011年度に比べて、法人向けビジネスの売り上げ規模は、2.5倍に拡大。全社売上高に占める割合も、21%から約35%へと拡大した。既に法人向けビジネスが3分の1以上を占めていることになる。
「法人市場に対しては、もともとは液晶ディスプレイを中心としたビジネスだけだったが、MouseProの投入以降によって、PCの販売が増加。中でも、MouseProでは、法人ユーザーのリピート率が高まっているのが大きな特徴だ」(金子部長)とする。
最初は少ない台数で導入したユーザーが、製品品質の高さやサポート品質の高さ、高性能の製品を低コストで導入できることなどを理由にして、追加導入するといった例も相次いでいる。
音楽・動画・書籍の総合配信サービス「music.jp」や、女性のための健康情報サービス「ルナルナ」を提供するエムティーアイでは、コンテンツ制作のためのツールとしてMouseProを導入。映像コンテンツ制作などを手掛けるディー・エル・イーでも、コンテンツ制作などに活用しているという。MouseProブランドのワークステーションを4K映像編集に活用したり、デジタルサイネージ向けの用途で小型PCを導入するといったユーザー事例もあるという。また、中古車オークション企業にも小型PCが一括導入されており、こうしたMouseProならではの高性能ぶりや、現場に最適化した仕様が市場から評価されている。
「情報システム部門の担当者が、個人でマウス製品を利用しており、それをきっかけに、会社でもMouseProを検討してみようという動きも出ている。また、リピートユーザーが初年度比で2桁増加している点では、法人ビジネスの基本が整いつつあるとも言える。法人市場において、MouseProの存在感は着実に高まっている」と、金子部長は自信をみせる。
だが、その一方で、「まだまだやらなくてはならないことも多い。MouseProだけのビジネスを捉えれば、自己採点は70点」という手厳しい判断も下す。
市場調査を行なうと、MouseProの認知度はなかなか上昇していないという点もその背景にはあるようだ。
「社内では、何かしらの違和感を持った時点で、迅速に解決を図るということを徹底してきた。それによって、お客様の声を製品やサポートに反映し、改善を図ってきた。半歩でも、一歩でも、お客様の期待を超えるように、良くしていくことに取り組んでいる」と金子部長は語る。
同社では、2016年1月21日から、ロゴの変更とともに、新たなコーポレートメッセージとして、「期待を超えるコンピューター。」を掲げている。MouseProにおいてもこの姿勢は変わらないというわけだ。
5つの日本品質を強みに信頼性を向上
MouseProは、「日本品質」が、最大の特徴だとする。
同社が語る「日本品質」とは、製品そのものの品質を指す「製品品質」、パートナーを含んだきめ細かい営業体制による「営業品質」、コールセンターにおいて丁寧で迅速な対応を行なう「応対品質」、利用現場が求める製品や機能を提供する「機能品質」、そして、サービスを行なう「修理品質」で構成される。
小松社長は、「これらの全てが揃って、初めて法人ユーザーから評価されることになる。毎年、毎年、それぞれ項目において、目標指標を高めている。この指標にはゴールがなく、永遠のテーマと言えるもの。お客様に安心して使っていただき、パートナーに安心して取り扱ってもらうため、常に改善に取り組んでいくことになる」と語る。
サービスメニューの豊富さもMouseProの特徴の1つだ。
同社に届けて修理を行なうセンドバック方式や、ダイレクトショップに持ち込むキャリーイン方式に加えて、技術担当者が直接出向いて修理を行なうオンサイト方式も別途用意。2016年2月4日からは、オンサイト修理時に壊れたHDDを返却しなくてもいい新たなメニューを追加し、情報漏えいなどを懸念する法人ユーザーのニーズにも応えることにした。
もう1つ、MouseProの特徴として挙げることができるのが、製品数の多さだ。
マウスコンピューター コーポレート営業部・有藤俊氏は、「デスクトップ製品では、ミニタワー型、スリム型、超小型PCのほか、ワークステーション、小型サーバーを加えた5つのラインアップがあるが、それぞれに12モデル程度を用意。さらに、ノートPCでは、13.3型、15.6型、ワークステーションの3つのラインアップに対して、それぞれ8モデル程度を用意している。タブレットを含めて、約100モデルの選択肢がある」と語る。
さらに、「それぞれの製品がはっきりとした用途を示すことができる製品となっており、法人ユーザーが選択しやすい環境を整えている」と、MouseProシリーズの製品ラインアップの強みを訴えてみせる。
パートナーとの連携強化がビジネス拡大に寄与
同社の法人ビジネスにおいて、もう1つ見逃せないのが、パートナーとの連携強化である。
ダイワボウ情報システム、ソフトバンク コマース&サービス、大塚商会、シネックスインフォテックといった主要ディストリビュータを通じて、全国の販売店を通じた取り扱いを強化しており、これも、法人ビジネス拡大に向けた重要なエンジンとなっている。
「主要ディストリビュータ、地域販売店が開催するイベント、販売店向け弊社製品トレーニングなど年間90回以上出展、あるいは開催しています。これは、MouseProの投入前にはなかったこと。全国規模にMouseProを広げるという点で大きな成果に繋がっている」(金子部長)とする。
また、一部パートナーとの連携で、自営保守体制を構築。地域に密着したパートナーによる手厚いサービスが提供できるようになったという。
さらに、ディストリビュータとの連携強化としては、2015年2月から、ダイワボウ情報システムがパートナー向けに提供している見積もり、発注システム「iDATEN(韋駄天)」において、MouseProおよび同社製品のラインアップを、見積もり発注できるようにした点も大きなポイントだ。BTOにより、全ての細かい仕様に対応できる形で発注できるようにした。これにより、全国の販売店が、24時間365日体制で、MouseProの見積もり発注が行なえるようになり、販売にも大きな弾みがつき始めているという。
ゲーミングPCのG-Tuneなど専門性のあるブランドも法人ビジネスに展開する新たな取り組み
発売から5年目を迎えたMouseProを中軸としたマウスコンピューターの法人ビジネスは、今後、どう進化していくのだろうか。
小松社長は、「法人ビジネスそのものを次のステップへと進めたい」と前置きし、「これまでのMouseProや液晶ディスプレイを中心とした製品主体の提案形態から、ソリューションを軸とした提案に転換したい」と語る。
これまでの同社法人ビジネスは、MouseProという法人向け製品を軸にした提案であったが、ソリューションという観点から見れば、これに捉われない動き方も必要だと考えている。
例えば、ネットカフェ向けの一括導入では、MouseProによる提案よりも、ゲーミングPCとして高い評価を得ている「G-Tune」による提案の方が受け入れられやすいというケースもある。
さらに、同社では、2016年2月18日、「DAIV(ダイブ)」と呼ぶ新たなブランドをスタート。クリエイター向けの新たなPCブランド製品を投入してみせたが、これも、より高性能なグラフィック機能などを求めるクリエイター層など、MouseProシリーズでは取り込めなかったようなユーザーを獲得するための製品として、法人ビジネスに活用していくことになる。
これまでのように、MouseProシリーズを軸とした提案は変わらないものの、ユーザーターゲットが明確な領域に対しては、より強いブランド力を持つ製品で提案していくというのが、同社における今後の法人ビジネスの基本的な考え方になる。
こうした考え方は、Windows 10 Mobile搭載のMADOSMA、スティック型PC「m-Stick」でも同様だ。スマートフォンの法人向け提案や、デジタルサイネージ用途でのスティック型PCの提案なども加速することが見込まれる。
一方で、MouseProについても積極的なラインアップの拡大に取り組む姿勢をみせる。タブレットでは、より法人ニーズに適した耐性仕様の製品ラインアップ強化なども計画しているようだ。
マウスコンピューターの金子部長は、今後5年間を見据えて、「2021年には、法人ビジネスの構成比を全社売上高の50%にまで引き上げたい」と語る。そして、「今後は、企業でMouseProを使っていたユーザーが、家でもmouseを使いたいと思ってもらえるような、これまでとは逆の動きが出てくることを目指したい」と続ける。
これを補足するように、小松社長も、「今後は新規顧客の獲得とともに、どれだけリピーターの数を増やしていくことができるかが鍵になる。そのためには、5つの日本品質をさらに高め、お客様に満足していただくかが重要。これができれば、数字は自然とついてくる」と語る。
先に触れたように、同社では、今年1月から、新たなロゴの採用とともに、新たなコーポートメッセージを発信。同時に、長野県飯山市の自社工場での生産体制により実現している国産ならではの信頼感を表現するために、「飯山 TRUST」という言葉を使い始めた。MouseProの発売以降、飯山工場における製造品質を高める役割を果たしてきたのが同製品。当然のことながら、MouseProシリーズの外箱にも、今後は「飯山 TRUST」の文字が表示されることになる。
「法人ユーザーに安心して購入してもらうためには、会社そのものを信頼してもらうことが大切。国内生産、国内サポートの信頼感を、改めて認識してもらいたいと考えている」と小松社長。新たなロゴやコーポレートメッセージは、法人ビジネスにとっても、重要な意味を持つことになる。
これまでの5年間と同様、今後の5年についても、「信頼」を軸にした法人ビジネス展開にはブレがないと言えそうだ。