大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
親子で録(撮)り続ける日本の自然の音と景色。「自然音配達人」の仕事とは?
~その素材がマウスコンピューターのスクリーンセーバーとして提供
2018年2月1日 11:00
マウスコンピューターが、同社オリジナルのスクリーンセーバーの提供を開始する。その第1弾となるのが、2018年2月1日から、マウスコンピューターの製造拠点である長野県飯山市で録音および撮影した、自然の音と映像で構成する「飯山の自然」だ。
「自然音配達人」を職業とする桐原冬夜(きりはら・とうや)氏が、飯山の豊かな自然のなかで、約1年間に渡って、自ら録音したコンテンツを、四季にあわせて、シリーズ化して提供することになる。「都会のなかでストレスを感じている人に、飯山の自然を通じて、少しでも癒しを感じてもらいたい。そして、それをきっかけに、自然に触れあう機会を作ってもらえればありがたい」と、桐原冬夜氏は語る。
マウスコンピューターが、オリジナルで制作した公式スクリーンセーバーを提供するのは、今回が初めてのことだ。
「マウスコンピューターのPCをご利用いただいているユーザーに、購入後にも楽しんでいただけるコンテンツの1つとして、オリジナル性のあるスクリーンセーバーを用意した。PCを使っていて、ひと休みしたときなどに、このオリジナルスクリーンセーバーを見てほしい」と、同社では提供の狙いを説明する。
マウスコンピューターのPCは、長野県飯山市の同社工場で開発、生産する「飯山TRUST」が特徴だ。飯山市は、自然があふれる場所であり、今回制作したスクリーンセーバーは、飯山市の山々で録音した自然の音や、撮影した野鳥や動物などの自然の風景がふんだんに使われている。まさに、マウスコンピューターのふるさとが体験できるスクリーンセーバーとなっている。
そして、このコンテンツを制作したのが、桐原冬夜氏である。
桐原氏は、FM軽井沢で放送中の「夕暮れの軽井沢ブレンド」のパーソナリティとして人気を博す一方、ナレーターや声優といった声の仕事で活躍している。その桐原氏のもう1つの顔が、自ら名乗る、日本唯一の「自然音配達人」である。
毎日のように山のなかに入り、自然の音を録音。次男である柊冴(しゅうご)氏が撮影する写真を組み合わせて作り上げたのが、今回のスクリーンセーバーだ。
桐原氏が、「自然音配達人」を名乗るようになった経緯を紹介するには、いまから約20年前にまで遡らなくてはならない。
東京生まれ、東京育ちの桐原氏は、都会での仕事や生活に疲れるたびに、山や川、海を訪れて、心身をリフレッシュする週末を繰り返していたという。だが、あるとき、自然のなかに移住することを決意。長野県での生活を始めた。
「最初は新たな環境への戸惑いもあったが、ある日、気がついたのは家族全員にイライラがなくなっているということ。毎日、自然と触れあうことで、心身ともに健康な生活を送ることができるようになっていた」と振り返る。
移住した桐原氏は、地元FM局であるFM軽井沢の勧めで、2000年代後半から、同局でパーソナリティを務めることになり、番組内で、自らが収録した自然の音を紹介する「生録・軽井沢」を開始。2015年1月からは、360度パノラマ録音による本格的な生録を開始することになった。
「ツキノワグマやイノシシに遭遇するなど危険な体験もあり、それらの音も録音されている。横たわっていたカモシカが目の前で立ち上がり、バキバキという草木が折れた音のあとに、走り去る音が入るといった、まさに、自然ならではの臨場感がある音が録れたこともあった。貴重な絶滅危惧種、日本固有種などにも数多く巡り会えた」(桐原氏)。
2015年4月からは、「せめて音だけでもいい。自然が持つ癒しの効果を、少しでも多くの人に送りたい」という思いから、軽井沢の自然の音を、CDとして販売を開始。2017年3月まで、毎月新盤をリリースし、24枚を世の中に送り出した。「軽井沢の森に入ると、聞こえてくる音は毎月異なる。そうした自然の違いも感じてもらいたかった」とする。
だが、CDでは制限を感じる部分があった。その1つが、CDでは入れ替え作業が必要であることだった。
「自然の音はずっと流れている。それと同じ状態で聞いていたいのに、CDの入れ替え作業を行なわなくてはならず、ヒーリング効果が限定的になってしまったり、入れ替えが面倒で結果として聴かなくなってしまったりということが想定された。病院の受付やリラクゼーションサロンなどでは、落ち着いた雰囲気を作るために、自然の音をずっと流したいという要望もあった。そこで、CDを新規に制作することをやめ、ネットストリーミングへの配信に移行した」という。
ネットストリーミングは、「Vラジオ生録ノスタルジックネイチャー」の名称で展開。無償で24時間聴くことができるチャンネルも用意している。
「だれでも、いつでも、何時間でも、そして、どこからでも、簡単に、自然の音に触れることができる環境が提供できた」というわけだ。
こうした活動こそが、まさに「自然音配達人」だ。
「私の願いは、多くの人に自然の音に触れてもらい、それによって癒されたり、ストレスが軽減されたり、明日の活力にしてもらうこと。そして、自然を大切にし、未来の自然に関心をもってもらい、心の中に新たな木を植えてもらいたい。そのために、軽井沢の自然の音を録音し、それを多くの人に配達する。配達したあとの使い方は人それぞれで構わない。届けるまでが私の役割」とする。
2017年12月には、NPO日本自然観察ネットワークを設立して、これまで以上に、多くの人に、気軽に、自然の音を楽しんでもらう取り組みを開始した。「自然の音を聴くことで、高齢者の認知症の回復や、自然欠乏症候群と呼ばれる子供の身体的、精神的な問題の改善につなげるなど、介護やヘルスケアの観点からも活用してもらえる環境を提供する」ということも視野に入れる。
すでに、都内の医院では、軽井沢の音と映像に接した認知症患者が、急に子供の頃の思い出を、饒舌に話しはじめた例も出ているという。うした人をケアするきっかけづくりも、自然音配達人の役割だとする。
なお、同NPO設立にともない、Vラジオ生録ノスタルジックネイチャー公式サイトをより簡単で安価で利用できるよう、現在、一部メンテナンス中となっている。
そして、桐原氏は、「自然音配達人」としてのベースを整えたことで、次のステップに入った。それが2017年4月のことだ。
平日月曜日から金曜日まで、1時間の生放送で担当していた「夕暮れの軽井沢ブレンド」を、水曜日から金曜日までの3日間に縮小し、その分、自然音の録音と配信のために時間を割き、新たなシリーズとして、長野県飯山市での録音を開始したのだ。
2018年3月までの1年間に渡って、自宅のある上田市、週3日間生放送を続ける軽井沢、そして、新たに録音を開始した飯山市を結んだ生活が始まったのだ。
「飯山市は新潟県と接し、そこから連なる2つの県にまたがる山脈は、1年間のうち約半分が雪に閉ざされている。軽井沢とは違った自然の素晴らしさがあり、飯山市ならではの絶滅危惧種や日本固有種が生息している。あっという間に、飯山の魅力にとりつかれた」。
マウスコンピューターが、このほど提供を開始した公式スクリーンセーバーには、このときに録音した音や、撮影した写真が使用されている。「サシバ」をはじめとする絶滅危惧種の姿もこのなかに収録されているという。
桐原氏が録音した自然音が、マウスコンピューターのスクリーンセーバーに採用されるきっかけは、同社の小松永門社長が、「夕暮れの軽井沢ブレンド」のリスナーであったこと。それを桐原氏が人づてに聞き、その流れで会う機会を得たことであった。
「軽井沢は小さな街。そうした話は、意外と伝わる」と桐原氏は笑う。
ちょうど使用していたPCの性能に不満を抱いていた桐原氏は、小松社長に相談したところ、「弊社のDAIVが、桐原さんの仕事にはぴったりだ」との提案を受けたという。
音の編集作業や写真、動画の編集作業には、高性能なPCが必要だ。DAIVは、2016年2月にマウスコンピューターが投入したクリエイターおよびエンジニア向けPCブランドであり、画像編集や動画制作、3DのCG、イラスト、RAW現像などのシーンで好評を得ている。
「それまで使用していたPCは、ビジネス向けだったこともあり、余計なソフトウェアが搭載されていたり、レンダリングに多くの時間がかかったりという問題があった。だが、DAIVを導入すると、それまで1日かかっても終わらなかったレンダリング作業が、コーヒーを淹れて、それを飲み終わる前に作業が終了してしまう。作業が一気に効率化した」。
また、「ディスプレイの発色や、内蔵スピーカーの音質の良さも気に入っている。DAIVを持ち歩いて、講演などにも利用している」と語る。
桐原氏は、毎週土曜日の午後8時30分から、30分間、軽井沢プリンスホテル イーストのゲストラウンジにおいて、宿泊者を対象に、軽井沢の自然の魅力を紹介する場を持っている。
軽井沢の自然の様子を捉えた動画や静止画をスクリーンに投影。軽井沢の自然の音とともに、その場で桐原氏が解説を加えて、宿泊している場所のすぐそこで豊かな自然や野生の動物に巡り合えることを紹介している。スクリーンには、ニホンカモシカやムササビ、ヤマドリ、ニホンリスなど、桐原氏と柊冴氏が撮影した日本固有種や絶滅危惧種の動物たちが投影される。
「軽井沢は、年間700万人が訪れる観光地だが、動物を生かす環境が維持されており、別荘地でも勝手に木を伐採することを禁止している。自然と共存する街であることが最大の特徴だ」と訴える。
この場にも、桐原氏はDAIVを持ち込み、自ら録音した自然の音を、DAIVのスピーカーを使って、宿泊者に届けている。音と映像は、毎月変更し、その季節にあわせた音と映像を紹介しているという。
大柄なDAIVの筐体は、現場への持ち運びには適していないように見えるが、「自ら伝えたいことを伝えるためのツールがDAIV。重さはまったく気にならない」と、桐原氏は笑ってみせる。
2017年3月にDAIVを導入した桐原氏は、写真を担当する柊冴氏にもDAIVを与えたが、こちらのDAIVは、マウスコンピューターの飯山工場で、柊冴氏自らが組み立てたものだ。現在、2台のDAIVが、コンテンツ制作に貢献している。
軽井沢プリンスホテル イーストでは、2017年7月のリニューアルにあわせて、2階から4階までのエレベーターホールで、桐原氏による軽井沢の自然の音と映像を愉しむことができるようにした。
ここでは、液晶テレビに、マウスコンピューターのスティック型PC「m-Stick」を接続。1時間のコンテンツを数本用意して、それを24時間いつでも視聴できる。
「m-Stickの存在もマウスコンピューターの小松社長に教えてもらった。これをHDMI端子に接続しておけば、CDのように手を煩わすことなく、24時間、流すことができる。軽井沢プリンスホテルにm-Stickを提案したところ、これがPCであることに驚くとともに、すぐに導入し、エレベーターホールに設置してくれた」という。
マウスコンピューターが、2018年1月25日から提供する、同社オリジナルのスクリーンセーバー「飯山の自然」は、こうした活動を続ける桐原氏が、飯山の自然のなかに入り込み、1年間に渡って録音したものだ。
「マウスコンピューターの小松社長に、飯山の自然の美しさを聞いたことが、飯山で自然の音を録音してみようと思うきっかけになった。自らが立木や岩になりきって、録音機材を持ったまま、ひとつの場所に6時間立っているようなこともある。飯山市の足立正則市長には、山の中で録音機材を持って、ずっと立っている人を見かけても怪しい人ではないと通達してほしいと要請した」とジョークを飛ばす。
録音機材は、数秒で録音が開始できたり、危険な動物が出てきた時にもすぐに移動できるように身軽にしているという。それでいて360度パノラマ録音を可能にしているというから驚きだ。ここには、桐原氏ならではの自然界における録音ノウハウが生かされている。
また、スクリーンセーバーで使われる映像は、写真を担当する柊冴氏が、同じく飯山の自然のなかを歩き回り撮影したものだ。中学生、高校生の頃からカメラを持ち歩き、自然の生き物や風景を撮り続けてきた柊冴氏は、いま19歳。若い感性で捉えた映像は、飯山の自然を見事に伝えている。
2人の作業は別々に行なわれているというが、音と映像が組み合わった時の違和感はない。親子ならではの共通の感性といえるものだろう。桐原氏は、「多くの人に自然を体験してもらいたい。そして、自然に直接触れるきっかけにつながってほしいという同じ思いを2人が持っているからだろう」とする。
そして、マウスコンピューターのユーザーに向けて桐原氏は、「飯山の自然に触れて、癒された、といってもらえればありがたい。また、自然に触れてみたいと思ったり、自然を大切にしたいと思ってもらえたら、とてもうれしいことだ」とする。
1月25日から提供を開始するのは、飯山の春の様子を収録した「春版」といえるもので、自然、動物など48種類の画像が登場。自然の音と音楽が収録されている。
さらには今後、「夏版」、「秋版」、「冬版」と、四季に応じたスクリーンセーバーのリリースが計画されている。
スクリーンセーバーは、マウスコンピューターのPCを利用しているユーザーだけが利用できるもので、同社製PCユーザーはMicrosoft Storeアプリ経由で入手できる。
また、マウスコンピューターでは、「飯山の自然」以外にも、オリジナルスクリーンセーバーの提供を検討しているという。
マウスコンピューターが、新たに提供を開始するスクリーンセーバーは、同社の新たなファンを作るユーザーサービスの1つともいえそうだ。