大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

売れ筋を大胆にデザイン変更した「LAVIE Note NEXT」に懸けるNEC PCの思い

NECパーソナルコンピュータの15.6型ノートPC「LAVIE Note NEXT」

 NECパーソナルコンピュータは、15.6型ノートPCとして、デザインを一新した「LAVIE Note NEXT」を2017年10月から発売。当初計画の2倍以上の売れ行きを見せているという。

 もっとも売れ筋となるA4ノートPC領域における大幅なデザイン変更は、同社にとっても大英断であり、社内では何度も議論が繰り返された結果、市場に投入されたものだ。

 LAVIE Note NEXTは、その名が示すように、「ホームノートPCの次世代化に向けたパソコンの再定義」と位置づけられる製品であり、直線を基調としたデザインを採用。キーボード面には、ボタンやインジケータは一切ない。操作するさいに見えるのは、狭額縁ディスプレイ、シンプルなキーボード、そしてマウスパッドだけだ。ユーザーに本当に必要なものだけを残した結果のデザインと言える。なぜ、NECパーソナルコンピュータは、メインストリームとなる製品領域で、リスクを取ってまで、「NEXT(次世代)」に挑んだのか。そこには、国内トップシェアメーカーとしての危機感があった。

「この違いがわかりますか」

 2016年5月、NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部商品企画グループ・森部浩至グループマネージャーは、1枚のスライドを会議室のスクリーンに投影した。

会議室に投影された2台のノートPC。6年経過しても、外観上、大きな差はない

 そこには、2010年に発売した「PC-LL750CS6B」と、2016年に発売予定の「PC-NS750FAB」の2台のノートPCの写真が並んでいた。

 「この違いがわかりますか」。森部グループマネージャーは参加者に問いかけた。

 よく見れば、片方のマウスにはケーブルがついており、片方はワイヤレスマウスだ。デザインも若干丸みを帯びたものと、やや直線的なものという違いがわかる。画面に映し出されているLAVIEのロゴも新旧では異なっている。しかし、ザクッと見て、外観に大きな変化があるとは言えないのは確かだった。

 続いて、森部グループマネージャーは、もう1枚のスライドを映し出した。そこには、国内大手自動車メーカーの人気エコカーの写真があった。クルマの世界では、車種は同じでも、世代が変わると、デザインが大きく変化している。これを見て、会議の参加者は、ノートPCの基本デザインが長年にわたって変化していないことに改めて気がついた。

 「これでは、PCを買い換えようという気にならないのも当然だ」。

NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部商品企画グループ・森部浩至グループマネージャー

 実際、調査データからも、その状況が浮き彫りになっていた。

 内閣府の調べによると、2002年には、PCの買い換えサイクルは4.1年であったが、2017年の調査では6.8年と長期化している。しかも、買い換えの理由が、2002年には、「上位機への買い換え」が56%と半分以上だったのに対して、2017年には17%へと大幅に減少。代わって、「故障による買い換え」は、2002年の27%から、2017年は67%にまで高まっている。

 買い換えサイクルが長期化し、しかも、買い換えの理由はPCが壊れたからというのが主流。「上位機に買い換えるという理由が減少したのは、長年にわたり、魅力的なPCを提案しきれていなかったという反省がある」と、NECパーソナルコンピュータの森部グループマネージャーは語る。国内トップメーカーであるからこそ、この責任は強く感じていた。

改良に改良を加える従来の開発手法

 もともと、ノートPCの開発手法は、前機種のフィードバックをもとに改良が加えられるという仕組みになっている。

 よっぽどネガティブな意見がでなければ、前機種のやり方を踏襲するのが基本だ。そこに、前機種にはなかった新たな機能や、他社との差別化で必要とされる機能などが追加され、新製品が完成するという具合だ。この繰り返しから外れることがなかったために、6年前のPCと比べても、外観上は、なんら変化がないという結果に陥ったとも言える。

 とくに、もっとも売れ筋であり、メインストリームと位置づけられる15.6型液晶ディスプレイを搭載したA4ノートPCであれば、売れ行きに影響が出ないように、無難な進化が前提となり、大幅なモデルチェンジという「冒険」はしないというのが定番であった。

 PCの買い換えが長期化していることや、その理由が故障であるという状況には気がついていたものの、「ドル箱中のドル箱」と言える製品を、危険を承知でデザイン変更することにはためらいが出るのは当然と言えば当然だろう。

鍵は狭額縁ディスプレイ

 だが、今年のNECパーソナルコンピュータは違った。

 「これまでの殻を破る」。

 そうした姿勢で開発されたのが、今年(2017年)、新たに発表したLAVIE Note NEXTなのである。

 では、なぜ、今年なのか。

 森部氏は、「これまでにも何度か挑戦しようと考えたことはあったが、今年が最適なタイミングであった」と語る。

 それを補足するように、NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部プラットフォームグループ・飛田裕貴主任は、「新たなデザインのノートPCに踏み出せた大きな要素は、狭額縁ディスプレイが使えるようになったこと。昨年(2016年)の時点では、狭額縁ディスプレイのコストが高く、まだメインストリームの製品には搭載できなかった。その状況が今年は大きく変わった」とする。

NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部プラットフォームグループ・飛田裕貴主任

 まずは、外観から大きく変えるための重要な部材が手に入るようになったことは、「NEXT」を実現するには欠かせない要素だった。

 今から約1年半前となる2016年春時点で、NECパーソナルコンピュータは、次世代化に向けたPCとして再定義したメインストリームのA4ノートPCを投入することを決定した。

 そこから、同社では、これまでにない手法を取り入れて、仕様を固めていった。それは、まさに「ゼロリセット」の考え方だった。

 「お客様に本当に必要なものはなにか。その観点から、すべての機能を見直し、絶対に必要な機能はなにかを洗い出していった」という。

 取捨選択のさいに問題となったのは、「あったほうがいい機能」にカテゴラズされる機能だったという。ここには、過去に訴求していた機能や過去のしがらみで搭載していた機能、そして、他社との競合上、搭載していた機能などが含まれていた。

 たとえば、NECパーソナルコンピュータのノートPCには、数多くのボタンが搭載されていた。電源ボタンのほか、音量を上げ下げするボタンや、ワンタッチで登録したソフトウェア一覧が表示されるといったマイチョイスボタンやソフトボタンなどである。

 とくに、量販店の売り場では、ソフトウェア一覧ボタンを押せば、ソフトウェアの起動がしやすいことを訴求できたり、多くのソフトウェアが搭載されていることを示したりするには最適であり、営業部門からはこのボタンを廃止することには反対の声もあった。

 だが、ユーザーが購入後に、実際の利用シーンでこれらのボタンを使用することは少なく、すべてのボタンの利用率を集計しても、わずか3割程度に留まっていたのだった。使う人は使っていたが、多くの人が使っていない、まさに、「あったほうがいい機能」の典型であった。

 一方で、メインストリームのノートPCが、15.6型ディスプレイでなくてはならないのか、という、まさに基点とも言える部分にも踏み込んだ。

 同社では、14型ディスプレイを搭載したモックアップを作り、実際に比べてみることまで行なった。「画面の視認性や操作性といった点から、15.6型が最適であるということを改めて確認した」と、NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部プラットフォームグループ・飛田裕貴主任は語る。

 じつは、LAVIE Note NEXTで、製品デザインが最終決定するまでに4種類のモックアップを作っている。モックアップは、通常の製品では1種類、多くても2種類というのがこれまでの状況であったが、それを考えると、異例とも言える数のモックアップを作って、検証をしたことがわかる。14型のモックアップを作ったのは、そこまで本気で検討したことの表れだ。

生かした光学ドライブと妥協したスピーカー

 そして、最後の最後まで悩んだのが、光学ドライブとスピーカーの搭載であった。

 15.6型ディスプレイを搭載したWindows PCでは、光学ドライブの搭載は半ば「前提」とも言えるものだ。だが、調査によると、「光学ドライブがほしい」という声は、ちょうど半分。一方で、「光学ドライブがなくても薄さを重視する」という声も半分を占めた。半分というのはまさに開発者泣かせの課題だ。

 「最終的には、光学ドライブを必要としている人が半分いるということで採用した。光学ドライブがなくても薄さを求める人を獲得するというのは、いくら半分の市場が想定されても、A4ノートPCではNECパーソナルコンピュータが挑戦したことがない領域。リスクを取るよりも、すでに実績がある『読める』需要を選んだ」というわけだ。

 スピーカーでは、これまで搭載していたヤマハ製大型スピーカーの採用を見送った。これは、「音質を重視するか」と「本体全体の大きさを重視するか」のいずれかを選択することと同義語であった。ヤマハ製スピーカーは、どうしても筐体が大きくなる。そのため、従来のA4ノートPCのサイズとはほぼ同じになってしまう。だが、ヤマハ製スピーカーを採用せずに、小型化したスピーカーを採用することで、本体サイズを、従来製品に比べて、約85%に抑えることができるのだ。

 検討の結果、ヤマハ製大型スピーカーを採用しない選択をしたのは、小型化することでの使い勝手と、狭額縁の強みを活かすことができるサイズによるデザイン面からのインパクトを重視したこと、スピーカーの性能については、ヤマハ製のAudio Engineの搭載によって、カバーできると考えたこと、そして、Blutoothスピーカーが普及しはじめており、これを利用するユーザーが増加していることも考慮した。

 だが、ヤマハ製スピーカーの搭載を、最後の最後まで迷ったように、同社にとってこれが苦渋の決断だったことは明らかだ。こうした判断が数々の機能や部品で下されたのである。

まったく新しいデザインとこだわったキーボード

 一方、LAVIE Note NEXTの最大の特徴は、そのデザインにある。

 従来のラウンドフォルムを取り入れたデザインから一新し、直線を取り入れ、シンプルさを重視したデザインとした。

 「目指したのは、積層された紙の束」と、森部氏は表現する。

 「机の上に置いてあっても、まわりの雰囲気を邪魔せず、自然に置かれているのが紙の束。PCを置いていても邪魔に感じないデザインを採用した」と続ける。

 ディスプレイを閉じた状態にすると、ツートンカラーが交互に4層に積層されているように見える。これも紙の束をイメージすることにつながっている。

紙の束をイメージしたデザインを採用

 「シンプルこそ美しいという、引き算の美学を採用したのがLAVIE Note NEXT。『自然とそこにある形』を大切にした」(森部氏)という。

 PCを操作するさいに必要なのは、極論すれば、ディスプレイとキーボード、そしてマウスパッドだ。LAVIE Note NEXTは、操作時には、それだけが見えるようにデザインした。

 ボタンやインジケータなどは操作時には、見える場所にはなく、まさに作業に没頭できることを優先した。そして、キーボードのキートップのラウンドと、マウスパッドの過度のラウンドは、同じ角度にするというデザイン上でのこだわりもみせた。NECパーソナルコンピュータのPCでここまでこだわったのは、今回のLAVIE Note NEXTが初めてだ。

 そして、LAVIE史上最高の打ち心地と表するキーボードは、打鍵音を「木の葉がふれ合う」レベルと同等の20dbに抑えるとともに、耳障りな帯域のノイズを抑えることで、体感的には打鍵音を半減。裏面に鉄板を入れた吊橋式キーボードにより、不快なたわみを排除したり、高耐摩耗UVコーティングにより、長期間使用してもキートップの文字が消えにくいようにしたりといった配慮も行なっている。

 「6年間使用しても、きれいなままのキーボードであり、長時間入力時のストレスを低減することもができている」(飛田主任)と自信をみせる。

 キーピッチは18.7mm 、キーストロークは1.7mmを実現。それぞれ従来モデルの19mm、2.0mmから変更している。「昔からPCを使っている人は、深めを好む傾向があるが、若い人たちは浅いキーストロークを好む傾向がある。その点を配慮して、設計した」というように、ここでも見直しをかけている。従来のA4ノートPCよりも、若年層を狙った製品になっているとも言えよう。

 また、従来のA4ノートPCでは、キートップの文字にさまざまな色を使うことで視認性を高めるといった工夫もしてきたが、LAVIE Note NEXTでは、文字色を一色に統一し、濃淡で表現。これも、過去からの常識を見直した結果のデザイン面からのこだわりだ。

マウトパッドの角のラウンドと、キーボードの角のラウンドを同じ角度にするというこだわりもみせた
キートップの文字も同系色でまとめている

 さらに、電源ボタンを右側面に配置。ボタンそのものに、Windows Hello対応指紋認証機能を搭載することで、ワンタッチで、セキュアに起動できるようにした。こうした使い勝手のシンプルさもこだわりのポイントだ。

 一方で、本体カラーには、これまでのホワイト、ブラック、レッドのラインナップから、ホワイト、ブラック、ゴールドの3色に変更し、グレイスゴールドをヒーローカラーと位置づけた。

 「レッドは人気色の1つで、約3割の販売構成比があった。だが、シンプルを追求したこの新たなデザインでは、レッドが合わないと感じた。また、ブラックも、ホワイトもそれぞれに色調を変えている。そして、シンプルなデザインにもっとも合った色の1つとして、ゴールドを加えた。ディスプレイも非光沢のものを採用し、指紋が目立たないようにしたのも視認性だけでなく、シンプルなデザインを意識したものになっている」(森部氏)とする。

 NECロゴを目立たない場所に配置したり、一方で天板部のLAVIEのロゴは金型で直接成形するなど、デザイン性や質感に配慮したモノづくりも行なっている。

グレイスゴールドをヒーローカラーとしたのも特徴的だ
NECロゴは目立たない場所に配置
電源ボタンにはWindows Hello対応の指紋認証センサーを内蔵

部品配置と性能も重視

 LAVIE Note NEXTは、従来製品に比べて、約85%という筐体サイズを実現している。これを実現するために、部品のレイアウトでも苦労を伴った。

 「ファンは数%の小型化、スピーカーは10%程度小型化したが、基板をはじめとするそれ以外の部品は、基本的には従来製品とサイズは同等。それでいて、従来から継承すべき部分は継承するレイアウトを採用した」と、飛田主任は語る。

 たとえば、排熱口を左側に設置しているのは、NECのA4ノートPCの伝統的とも言えるレイアウトである。「マウス操作を右手で行なう人が約9割を占めるというデータをもとに、マウスを操作する手に風が当たらないように左側に設置している」(飛田主任)からだ。

 同様に、電源コードを差しこむACアダプタを左の奥に配置しているのも、A4ノートPCは、持ち運ぶよりも、特定の場所に設置し、電源コードを差し込んだままの利用が多いということを想定して、電源コードがひっかかりにくく、一番邪魔にならないという場所として決めたものであり、これも伝統の1つだ。

 そして、インジケータを前面部分に配置しているのは、ディスプレイを閉じても状況が確認できるようにする狙いがある。また、左右にUSBコネクタを配置することで使いやすさを高めたことも従来製品からの継承である。今回の製品では、電源ボタンを別基板化し、マザーボードへの負荷を回避し、信頼性を高めているが、むしろ、これはレイアウト上の制限を高めることにもなる。このように、伝統の継承と、新たな部材の採用による困難を乗り越えたレイアウトを採用しているのだ。

 「NECパーソナルコンピュータのA4ノートPCとしてのこだわりのレイアウトを維持しながら、約85%の筐体内に詰め込んだのが、今回のLAVIE Note NEXTで苦労したポンイトの1つ。従来のA4ノートでは、レイアウトに余裕があったが、LAVIE Note NEXTでは、ぎりぎりのところに詰め込んでいる」(飛田主任)と語る。

 当然のことだが、LAVIE Note NEXTは、性能にもこだわっている。

 40%の性能向上を実現した第8世代Coreプロセッサを採用。上位モデルでは、PCI Express接続のSSDとSATA HDDのデュアル構成とし、中位モデルではSSHDを採用。上位モデルでは、OSの起動時間を約10.6秒と高速化し、「速さは正義」というキャッチフレーズを裏付ける高速性を実現している。「PCは速くないとストレスを感じるだけ。デザインのシンプルさと、性能の高さ、速さを両立することで、ストレスを感じないようになる」(森部氏)というわけだ。

ゼロからの定義

 このように、LAVIE Note NEXTは、まさに、「ゼロからノートを再定義したPC」である。

 出足の良さを見れば、その方向性は、市場から評価されていると言えよう。

 「一般的に、国内PCメーカーの製品は、デザイン性に劣るという評価があるが、LAVIE Note NEXTは、A4ノートPCの領域で、一石を投じることができた製品と自負している。再定義という点でも、納得感を持ってもらえるのではないか」と森部氏は語る。

森部氏

 そして、NECパーソナルコンピュータの今後のモノづくりにおいても、「LAVIE Note NEXT」が与える影響は大きいと言えそうだ。

 「NEXTという言葉に込めた意味は、次世代の新たなスタンダードをになう商品であるということ。NEXTへの取り組みは、つねに続けていくことになる。それがさまざまな製品に波及し、NECパーソナルコンピュータのPC全体が変わっていくことに期待している」と、森部氏は語る。

 今後、同社の製品ランイアップに、NEXTの文字を組み込んだ新シリーズが登場するかどうかはわからないが、すべてのモノづくりにNEXTの精神が広く浸透することになるのは確かだろう。

 そして、森部氏は、こうも語る。

 「LAVIE Note NEXTに刺激を受けた他社が、NEXTという要素をそれぞれの製品に取り込めば、PC業界全体が活性化することになる。業界全体の盛り上がりにも期待したい」。

 国内トップシェアメーカーであるNECパーソナルコンピュータが、ゼロリセットという発想で、果敢に挑戦したLAVIE Note NEXTが、業界全体にどんな影響をおよぼすのか、という点にも注目しておきたい。