大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

あなたのデータバックアップ、本当にバックアップされていますか?

~バッファローのデータ復旧サービスから学ぶ、HDD故障によるデータ喪失を回避するコツ

東京・新川の「データ復旧センター」の様子

 株式会社バッファローは、2017年5月1日から、「データ復旧サービス」を開始している。東京、名古屋、大阪の3カ所に開設した「データ復旧センター」は、いずれもサービス開始から約半年で、作業エリアを1.5~2倍に拡張。当初の想定を上回る実績になっている。

 同社によると、2017年9月30日までに、2,429件の復旧サービスを行なっており、年内までに約4,500件のサービスを完了する見通しだ。同社のデータ復旧サービスへの取り組みを追うとともに、そこから浮き彫りになったデータ破損および削除の失敗事例などを通じて、「失敗しないデータ保護」を探った。

バッファローが提供するデータ復旧サービスとは

 バッファローの「データ復旧サービス」は、HDD、NAS、SSDなどストレージ製品において、の破損、消去したデータを復旧するサービスであり、同社の持ち株会社であるメルコホールディングスが、データ復旧事業で長年の実績を持つアドバンスデザインを子会社化したことで開始したものだ。

 東京・新川、名古屋・大須、大阪・新大阪の3カ所に、データ復旧センターを開設。製品の状態と復旧の可能性を即日診断するほか、高い技術を生かしてデータを復旧。さらに、障害レベルなどに応じた一律固定料金を設定していることから、費用が明確である点などが受けている。

 論理障害の軽度の場合、1ドライブのデータ復旧価格は、データ容量に関係なく、3万円となっており、保証期間内であれば無償で復旧作業を行なってくれる。

 バッファロー 営業本部営業推進部営業技術課営業技術2係の山下誠氏は、「価格が明確に示されていること、メーカーが直接復旧作業を行なうという安心感があることが評価を得ている。また、HDDの故障修理では、ユーザーがデータを保存することを前提としているため、データ保護を重視するユーザーにとっては、修理に出すよりも、データ復旧サービスの方が適しているといった使い方も出ている」という。

バッファロー 営業本部営業推進部営業技術課営業技術2係の山下誠氏

 2017年9月30日までの5カ月間で行なった2,429件の復旧サービスのうち、全体の51.2%となる1,437件が個人ユーザー、48.2%となる992件が法人ユーザーとなっている。また、個人ユーザーでは、64.8%が、製品自体にデータ保護機構を持たないUSB外付けHDDのデータ破損によるものであることがわかったという。また、法人ユーザーでは、コンシューマ向けNASの比率が48.4%と高く、オフィスで家庭用製品を酷使した結果、故障させてしまった例が多かったという。

 さらに、障害種別の内訳では、稼働中に落としたり、倒したりして、プラッタに傷を付けるなどの「物理障害」が49.0%、誤ってデータを消去してしまった場合などの「論理障害」が51.0%を占めている。だが、修理作業件数のうち、約90%を復旧させることができたという。

 「いまや、HDDには、家族写真をはじめとした大切なデータの保存に利用されているため、思い出が消えてしまったり、大切な業務データが読みだせなくなり、仕事に支障を来すといったことが起きている。データ復旧を利用することで、こうした大切なデータや重要なデータを取り戻すことができる」というわけだ。

 データ普及を行なうHDDなどは、郵送での受付とともに、持ち込み受付も行なっている。じつは、この「持ち込み」がかなり多い。

 山下氏は、「全体の3分の1程度が持ち込みによるもの。とくに月曜日の午前中に持ち込みが集中する傾向が高い。なかには、月曜日の朝に出社したらNASが立ちあがらず、慌てて持ち込んできたというケースもある」という。

想定を上回る需要

 データ復旧サービスの利用は、同社の想定を大きく上回っている。

 「持ち込まれたHDDなどは、障害の診断を行なって、診断書および見積書を提示するが、重度の障害の場合、10万円を超える場合もあり、個人ユーザーではどうしても費用が負担しにくいというケースもある。だが、診断した案件の約6割が、データ復旧サービスを利用している。当初の想定を上回る受付件数となっており、データ復旧センターのエリアを拡張し、人員も増強している」という。

 東京のデータ復旧センターの場合、サービス開始から半年を経て2017年10月末にエリアを約2倍に拡張。2人体制から5人体制へと増員した。拡張に当たっては、データ復旧センターに隣接する第3会議室を潰した。そのため、バッファロー東京支店内の会議室は第2会議室の次が第4会議室になるというユニークな状況も発生している。

 また、名古屋および大阪のデータ復旧センターも、それぞれ1.5倍にエリアを拡大。いずも2人から4人体制へと増員した。

 12月5日からは、バッファロー製品以外のデータ復旧サービスも開始。アイ・オー・データ機器やエレコム、東芝デバイス&ストレージ、WD、Seagateなどの製品にも対応している。

 「現時点では、他社製品のデータ復旧サービスの利用はまだ少なく、全体の数%に留まっているが、すでにバッファロー製品でデータ復旧サービスを利用したユーザーが、併用している他社製HDDでデータ復旧サービスを利用するといった例があった」という。

 他社製HDDにまで対象を広げたことで、今後、データ復旧サービスの利用率は高まると予想しており、年内には、累計対応件数は約4,500件に達しそうだ。

 ちなみに、重度障害の場合には、データを再現するために、ロット番号が近い新たなHDDを分解して、そのヘッドを使用するといった細心の配慮のもとに作業が行なわれているが、プラッタの損傷が大きい場合には、ヘッドに対する負荷が高く、複数台の新たな製品のヘッドを用いて作業を行なう場合もある。「確かに10万円以上の費用は個人負担としては高いと感じるかもしれないが、ヘッドの部品交換だけで作業を行なうことができず、新たなHDDを分解し、そのヘッドを使用しているために、場合によっては赤字になって作業を行う場合も発生している」という。

 なお、障害のレベルと価格は以下のようになっている。

論理障害

・軽度障害…ファイルシステム障害(破損・損失=バッファロー製品:3万円 他社製品:4万円
・中度障害…誤操作による初期化・削除=バッファロー製品:4万5000万円 他社製品:5万5,000円
・重度障害…複合的な要因で、復旧により高度な解析を必要とする論理障害=バッファロー製品:別途見積り 他社製品:別途見積り

物理障害

・軽度障害…S.M.A.R.T.障害(不良セクタ)=バッファロー製品:6万円 他社製品:7万円
・中度障害…ヘッド、メディア等の破損が認められ、HDDの開封作業を要する障害=バッファロー製品:12万円 他社製品:13万円
・重度障害…重度なハードウェアの障害、データ部の破損、重複障害により極めて復旧が困難で高度な設備と技術が必要な障害、他社ですでに復旧作業されている機器 =バッファロー製品:別途見積り 他社製品:別途見積り

どうすればデータを保護できるのか

 では、これまでのデータ復旧サービスの事例を通じて、HDD利用のさいに、データ保護の観点で、どんなことに注意すればいいのかを聞いてみた。

 バッファローの山下氏がまず最初にあげたのが、「データのバックアップを取る」という基本だ。

 「データ復旧作業を行なうということは、データのバックアップを取っていないことが原因。オリジナルしかないために、データ復旧作業を利用することになる。HDDは、残容量の大小に関わらず使用可能期間は有限。データ損失を防ぐためには、ほかのメディアへのコピーやバックアップが重要である」とする。

 そして、「バックアップ」という言葉を正しく理解していない人も多く、これもデータ復旧サービスを利用せざるを得ない状況につながっていると指摘する。

 「最近のノートPCは、SSDによって容量が少ないため、ここに蓄積したデータを外付けHDDに移行するといったことが行なわれている。だが、HDDにデータを移行し、PC本体からデータを消去したことで、バックアップが完了したと考えている人がいる。これは、オリジナルのデータをHDDに移行した、いわばデータの移し替え(メディアコンバート)であり、バックアップではない。オリジナルが存在して、さらにもうひとつ保護用にデータを持つことがバックアップであるということが、理解されていないことが意外にも多い」という。

 同様に、現在使用しているHDDから、大容量のHDDに買い換える際に、コピーではなく、ムーブの作業を行なってしまい、結果として、オリジナルしか残らないという状況のユーザーも多いという。

 さらに、「ムーブの作業を行なったさいに、元のHDD側のどこかにエラーがあり、そこを読んだために、途中でデータ移行ができなくなってしまい、結果として、古いHDDと新たなHDDの2台を送ってきて、2台のHDDから、オリジナルのデータを作ってほしいというケースもあった。2台持ち込めば、2台分の料金になってしまう。オリジナルとバックアップという関係を正しく理解し、しっかりとコピーをして、バックアップデータを持つようにしてほしい」とする。

 だが、こまめにバックアップをする作業は明らかに手間である。

 山下氏は、「重要なデータを追加することが多いユーザーは、バックアップ用のHDDにNASを活用して、夜間に更新作業を自動に行なうというような設定にしておけば、手間をかけずに差分のデータをバックアップできる」と推奨する。

 また、日常的な操作にも注意しておくことが必要だという。

 先に触れたように、最も件数が多かったのが、製品自体にデータ保護機構を持たないUSB外付けHDDでのデータ破損である。

 この時に想定されるのが、USBポートの抜き差しの際に、「ハードウェアを安全に取り外してメディアを取り出す」という操作を行なわずに、外付けHDDのコネクタを抜いてしまうという使い方だ。持ち運びの多いノートPCと、外付けHDDをつなげて使っている人には多い例だろう。

 「確かに100回のうち、99回はエラーがないかもしれない。いつもやっているから大丈夫だと思っている人もいる多いだろう。しかし、ごくまれに、これによってパーティションテーブルが飛んでしまったりといったことが起こる。USBコネクタの抜き差しだけで、データが見られなくなってしまうケースがある」という。

 だが、これは論理障害の軽度にあたり、多くの場合、データ復旧が可能だという。ここで注意しなくてはならないのは、それ以上、自ら操作をしないことだ。

 「PCに表示される『フォーマットをしますか?』のメッセージにあわせて、フォーマットをしてしまったり、あるいは上書きの操作をしてしまうと、論理障害の中度になってしまう。復旧のための費用がかかるばかりでなく、データを復旧される難易度も上がってしまう」というから注意が必要だ。

 増加している論理障害の1つに、PC用に使用していたHDDを、TV用に使ってしまったというものがある。

 大切なオリジナルデータが残ったまま、HDDをTVに接続した場合、TV側がHDDをフォーマットしてしまう場合があるのだ。「テレビに接続して使用しますか」といったように、フォーマットしてしまうことを明確に示さないまま、作業が進んでしまうため、気がつかないうちにHDDがフォーマットされ、PCに接続して利用していた際に蓄積していたデータがすべて消去されてしまうといったことが起こるのだ。

 フォーマットしてしまった場合には、論理障害の中度以上になってしまうため、データ復旧の困難度があがることから、注意しなくてはならないケースだ。

 また、PC上で、Windowsの回復ドライブを作成する場合、データを保存していたHDD上に誤って作成してしまうと、データが削除されたり、NTFS形式でフォーマットされたHDDやUSBメモリの場合、先頭部分に、FAT32形式の領域が作成され、データが読み込めなくなるといったケースがある。復旧作業においても、フォルダーツリーが表示されないために、復旧に時間と手間がかかるといったことが起こることになる。回復ドライブの作成の際には、不要なHDDを接続したままにしないといった措置が最適だ。

 一方で、物理障害の事例から見てみると、やはり稼働中に振動を与えてしまい、それによって、データを記録するプラッターをヘッドがこすり、傷をつけたしまう例が多いという。

 HDDは、容量が高まるとともに、高精度化しているが、最近増加している高精度型の製品の方が、こうした障害が発生している傾向が見られるという。

 とくに多いのが、HDDを縦置きにして使用し、書き込んでいる際に倒してしまうという例だ。手があたりやすい場所や、モノがぶつかりやすい場所に縦置きした場合に、何かに当たって倒れてしまうことで、障害を発生させるという。

 「できればHDDは、横置きにして使用してほしい。当社の製品カタログやサイトでも、製品写真は横置きのものを使用し、ロゴも横置きで正式に表示されるようにデザインしている。これも横置きを推奨する取り組みの1つ」とする。

 データ復旧サービスから生まれた提案の1つともいえそうだ。

 また、ポータブルHDDを稼働中に揺すってしまうことで、データを破損してしまうこともあるから注意が必要だ。「データ復旧サービスを受けるために、ポータブルHDDを持ち込んできた人が、手元でポータブルHDDを振りながら不具合を説明していたことに閉口した」という笑えない事実もあるという。

 一方で、書き込み中の急な停電による電源ダウンや、気温が上昇する夏場に故障が多発するといった傾向が高いことも指摘。利用環境に配慮することも大切だ。

 そのほか、法人ユースではNASを利用することも多いが、RAID6によるミラーリング環境に安心してしまい、ドライブが1台故障していてもそのまま継続的に利用。その繰り返しによってRAID6が崩壊してしまい、結果としてオリジナルデータを破損してしまうことにつながったという例もあるという。

 「RAIDであっても、正しくデータバックアップを行なうことが大切。また、NASで不具合が発生したときに、むやみに電源を落としてしまうということを避けてほしい」と呼びかける。

 ちなみに、NASでは、ドライブがブートできない場合にも、Linuxから起動をさせてディスクを復旧させることができるケースがあるという。「我々はメーカーであり、データ復旧サービスが本業ではない。メーカーとしてディスクの動作を保証しており、もしそれが起動ができたのであれば、復旧サービスとしての対価をもらうのではなく、メーカーの責任として、ディスク動作したことを優先し、費用をもらわずに、起動したドライブからユーザー自身でデータを取り出してもらうようにしている」とする。こうした点もメーカーであるバッファローが直接サービスを行なっている安心感の1つだといえるだろう。

 一方、データ復旧サービスでは、すべてのHDDを分解して、筐体から取り出すことになるが、そのさいに、内部が汚れていることが多いという。とくにファン周りが汚れていることがあるという。

 山下氏は、「自然空冷の場合には、それほど汚れていることはないが、ファンの場合にはホコリがたまりやすい。ファンは掃除ができる製品もあり、HDDを長持ちさせるためにも、ファンの掃除をしてほしい」と語る。

 また、バッファローでは、外付けHDDの故障予測サービス「みまもり合図」を、2017年7月5日より開始しており、ソフトウェアをインストールすれば、PCに接続している外付けHDDのS.M.A.R.T.情報をクラウドに蓄積し、状態を把握することで、HDDの状態判定。適切な移し替え交換時期をポップアップ通知で知らせることで、HDD故障によるデータ消失を未然に回避することができるようにしている。

 2017年7月以降の製品には同梱されており、それ以前の製品でも、同社サイトから無償でダウンロードして使用することができる。

 「データを安心して保存し、利用するという上でも、みまもり合図はぜひ利用してほしいソフトウェア」としている。

 それでは、最後に、拡張した東京・新川の「データ復旧センター」を見てみよう。

データ復旧センターの様子。入退出管理を徹底している
データ復旧センター内は監視カメラを導入している
受付エリア。持ち込まれたHDDはここで情報を登録して管理
HDDを分解するエリア
分解されて取り出されたHDD
分解されて作業に必要がない筐体は別に管理する
取り出されたHDDは初期診断が行なわれる
左が持ち込まれたHDD。復旧作業は負荷をかけないようにデータを移したクローンのHDDで行なわれる
データの復旧作業が行なわれるエリア
重度の障害のものは、アドバンスデザイン(ADC)に持ち込まれて作業がな行われる
クローンに移されたデータは、復旧後2週間は保管されている
データ復旧センターにバッファローの96TBのテラステーションを設置し、復旧後のデータを2週間保存する
復旧したデータは新品のHDDに入れられてユーザーに送られる
作業が完了して梱包が終わったHDD