eスポーツチーム代表者に聞く

パートナー企業に正社員就職!名古屋OJAが地元と創るeスポーツ選手の新しいキャリア 岩田滉平氏インタビュー

名古屋王者株式会社 取締役 副社長の岩田滉平氏

 名古屋を拠点に活動する名古屋OJAは、eスポーツに限らずアーバンスポーツにも進出するなど、幅広く活動している。折しも2026年に第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)が開催予定と、名古屋にはeスポーツ、スポーツ双方の業界から注目が集まっている。そういった中、名古屋OJAを運営する名古屋王者株式会社で取締役 副社長を務める岩田滉平氏(以下、敬称略)に話を伺ってきた。

「尾張三河からアジアの王者へ」名古屋OJA発足の経緯

――古屋OJAの発足の経緯をお聞かせください。

岩田:名古屋OJAは2016年の創業です。代表の片桐は東南アジアでスポーツビジネスを展開していましたが、eスポーツの存在を知り、eスポーツには破壊的なイノベーション性があると感じ、名古屋の地で発足しました。

 片桐は新卒でプロ野球球団の福岡ダイエーホークスに入社し、東北楽天ゴールデンイーグルスの創業メンバーとして転職。その後、パシフィックリーグのマーケティングで営業部長をへて、起業しました。プロ野球、Jリーグ、東南アジアでのスポーツビジネスの経験から、“スポーツ×地域”という文脈に関心が強く、地方都市であり、地元である名古屋で発足し、チーム名にも名古屋を入れることを考えていました。

 OJAの部分ですが、名古屋から世界に羽ばたくチームを目指すということで、尾張三河(O)、ジャパン(J)、アジア(A)の頭文字をとってOJAなんです。また、名古屋と言えば、三英傑(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)に大きく係わる土地です。天下人がいた土地からeスポーツの天下を取りに行く、王者(OJA)になるということを掛け合わせて、名古屋OJAというチームが誕生しました。

 最初は「オーバーウォッチ」部門を立ち上げたのち、「Shadowverse」のプロリーグに参加させていただきました。「Shadowverse」のリーグは初期の名古屋OJAにとってメインとなるタイトルでした。

NTPOJA発足お披露目イベントにて

プロ野球球団のビジネスを経て、再びeスポーツの舞台・名古屋へ

――岩田さん自体はどのタイミングで名古屋OJAに関わり始めたのでしょうか。

岩田:私は2020年10月くらいです。私自身は元々野球を12年間やっていました。そこから大学に入って一度ビジネス側に舵を切っていたのですが、スポーツに携わる仕事がしたいという思いがありました。

 名古屋でスポーツとなるとプロ野球の中日ドラゴンズや、Jリーグの名古屋グランパスとなるんですけど、インターンの問い合わせをしてもなかなか扉を開けてもらえない状態でした。そこで、会う人、会う人に「名古屋でスポーツが学べるところはないですか?」と聞きまくっていたら、代表の片桐と会う機会ができたんです(笑)。

 その時片桐からは「今やっているのはeスポーツだけど、野球やサッカーで培ったスポーツビジネスのノウハウをeスポーツに転用している」と説明され、即座にインターンの申し出をしました。

 しばらくはインターンとして名古屋OJAにお世話になるんですけど、卒業を機に福岡ソフトバンクホークスに新卒入社しました。そこから2年間はプロ野球ビジネスに携わっていました。そこでまた片桐から声がかかり「そろそろ名古屋OJAに戻ってこい」と言われ、2024年4月に名古屋OJAに戻ってきました。

――せっかく入れたプロ野球団で、しかもようやく仕事になれ始めた時期に古巣に戻る話は結構迷われたのではないですか。

岩田:いえ、そこは即答で戻る決意をしました。アジア競技大会が名古屋で開かれるというのも大きかったですね。私は名古屋OJAの肩書きのほかに、eスポーツ競技団体である一般社団法人日本eスポーツ協会の地方支部である、一般社団法人愛知eスポーツ連合 理事の肩書きもありまして、アジア競技大会の一部に関わらせていただいています。2026年のeスポーツは愛知、名古屋が中心となるのは分かっていたので、自分のキャリアとしてすごくよい経験になりますし、中核で関われる機会は滅多にないだろうと思いました。

 オリンピックも2021年に東京で開催しましたし、スポーツの国際大会に関われる機会は少ないので、アジア競技大会は本当に魅力的だと思います。そういったことも考慮して、名古屋に戻ってきました。

――岩田さんは子どもの頃ゲームはプレイしていたんですか。

岩田:最初にゲームに触れたのはスーパーファミコンの「ドンキーコング」だったと思います。父が昔遊んでいたゲームが家にあったのでやっていました。自分のゲーム機を買ってもらったのはゲームボーイアドバンスで、そこから一通りのゲーム機には触っている感じです。PSPで「モンスターハンター」も友達とよくプレイしていました。対戦系ゲームはあまりやっていなくて、ストラテジー系のシミュレーションゲームとかやっていました。スポーツチームを運営するやつとかも好きでした。

――「プロサッカーチームをつくろう!」とかですね。

岩田:「サカつく」は好きでした。野球つながりで「プロ野球スピリッツ」も中学生くらいの時にやっていましたね。

地元ゆかりの選手が活躍。看板タイトル「スト6」の躍進

SFL2025宣材撮影にて

――「プロ野球スピリッツ」が野球ゲームのメインタイトルとなるのは世代を感じますね。話は変わりますが、名古屋OJAとは「Shadowverse」のプロリーグくらいから取材させていただいているんですけど、NTPがスポンサーに入って「VALORANT」部門とeスポーツ施設の立ち上げの時に取材に行かせていただきました。現時点での主力タイトルはどんな感じでしょうか。

岩田:「ストリートファイター6」が現在の看板タイトルですね。ストリートファイターリーグ: Pro-JP(SFL)に参加させていただいています。あとはeモータースポーツリーグのUNIZONEにも参加させていただいています。近日PUACL2026 FINALSがあるんですけど(取材は3月末に実施)、そのタイトルである「Pokémon UNITE」部門もあります。あとは「リアルタイムバトル将棋」と「鉄拳8」のYUKIMURA選手が居ます。

――名古屋OJAの所属選手の多くは名古屋もしくは愛知、中部地方に関わる方が多いですよね。

岩田:昨年のSFLのロースターは、全員何かしら名古屋に関係する選手ばかりですね。KEI.B選手は名古屋在住、もっちー選手と大谷選手は愛知県出身。Seiya選手は名古屋OJA主催のライセンス大会でライセンス取得した選手です。UNIZONEの武藤壮汰選手も名古屋出身、在住なんですよね。

――武藤選手は昨年ぶっちぎりの成績を残し、大活躍でした。

岩田:武藤選手は「iRacing」の日本ナンバーワンプレイヤーですね。アジアチャンピオンであり、世界4位の実力があります。UNIZONEのドライバーズランキングでもダントツの成績を残してくれました。

――SFLでも本節2位でプレイオフに進出し、「Pokémon UNITE」でもアジア6位と、2025年はどの部門でも好成績を残していますね。

岩田:選手のおかけですね。「Pokemon UNITE」はリーグに出られず、PUACL2026 FINALSにも残念ながら出場が叶いませんでした。ポケモンワールドチャンピオンシップ(WCS)などのトーナメントで勝ち抜きアジア一、世界一を目指していきます。

 先ほど名古屋OJAはアーバンスポーツにも参入していると言いましたが、その1つで「Baseball5」という5人制の手打ち野球もやっています。

――アーバンスポーツ部門はこれから増えていく感じでしょうか。

岩田:いいタイミングと出会いがあれば増やしていきたいですね。現時点では、仲良くさせていただいているスクールと一緒にパルクールのイベントなどを行なったりもしています。

パートナー企業で正社員雇用。選手の「セカンドキャリア」と「生活基盤」を守る

――アーバンスポーツもオリンピックの種目になったりと注目され始めてきていますよね。名古屋OJAはそういった意味でも覇権を取ったタイトルやスポーツに参入するというよりは、先物買い的にまだマイナーな時に参入するイメージがあります。

岩田:eスポーツ自体が新しい産業なので、ビジネスとして見た時に、まずは挑戦する姿勢が重要だと思っています。ただ、どうやってマネタイズしていくかという課題もあります。特に選手が生活できるようにするかは重要視しています。

 その1つに名古屋OJAのパートナー企業様に選手を正社員で雇っていただく試みをしています。もちろん、大会やリーグへの出場給とか、イベント出演料とかはチームが負担するんですけど、ベースの生活基盤を支えるところは、いわゆる兼業プレイヤーという形になります。これで選手の収入が安定し、長期にわたって競技に集中する環境を作ります。

 たとえば、「ストリートファイター6」部門に所属しているマッキー選手はSFLには出ていない選手なんですけど、NTPグループ様(名古屋トヨペット)の正社員として働いています。この春からはpopoLinLin選手も入社します。ほかにも「リアルタイムバトル将棋」の公人直人選手は愛知eスポーツ連合の事務局長をしながら、eスポーツ高等学院様で教員も務めています。元々、文科省の官僚という経歴もある異色の兼業選手です。

――eスポーツ選手には兼業プレイヤーは多くいますが、そのほとんどが就職先は自分で見つけてきて、就活して入社したところなんですよね。所属チームがチームのパートナー企業を就職先としてあっせんしてくれるのは、選手としてもありがたいですね。

岩田:そうですね、我々のチームにはフィジカルスポーツの現場を経験した者が多く、プロ選手が引退した後のキャリアですごく苦労している選手を見てきました。なので、eスポーツで同じ轍を踏ませたくないという思いがあります。

 基本的に選手にはゲーム以外の職も推奨しています。たとえば、大学生の選手には、大学で教員免許を取ることを推奨しています。教員免許があれば、教員として正社員採用などにつながることもあるわけです。eスポーツ選手や引退した選手が専門学校などの講師を務めることもありますが、それだと任期があったり、契約が解除されたりと安定しません。パートナー企業に正社員として雇用してもらうことで、生活基盤をより安定にできます。

名古屋OJAのサイトより

――現在、正社員として雇用しているパートナー企業は何社くらいなんでしょうか。

岩田:現在、2社で社員を受け入れていただいています。

 NTPグループ様にはパートナーになっていただいたとき、アジア競技大会で名古屋から金メダリストを出すということを目標として掲げさせていただきました。

 ほかにも、NTPグループ様が運営するNTP Esports PLAZAを普段の練習やイベントの開催の際に利用させていただいております。昨年もファンミーティングやファンの皆様の前でのオフラインでの公式リーグ出場もNTP Esports PLAZAにて開催させていただきました。

 ほかにも、NTPグループ様が運営するNTP Esports PLAZAで普段の練習やイベントなどを開催させていただいてます。以前、SFLでSaishunkan Sol 熊本との一戦で、どちらも会場に選手とファンを呼んで、ホーム&ホームの対決を行ないました。ホームに観客を入れての対戦は楽しいですね。

 この形式はUNIZONEでも採用しており、各チーム拠点にて、ファンの前でレースをしています。

 ほかにも、NTP様が所有のビルで普段の練習やイベントなどをさせていただいています。以前、SFLでsaishunkanSOL熊本との一戦で、どちらも会場に選手とファンを呼んで、ホーム&ホームの対決を行ないましたが、その時もそこで開催させていただきました。ほかにもUNIZONEでは毎回選手を呼び、ファンの前で試合をしています。

――UNIZONEのホーム拠点のイベントは面白いですよね。レースゲーム大会の配信では必然的にトップ選手がメインで写されますが、各チームの会場でもイベントを行なうことで、1位でなくてもホームチームのマシンが映し出されるしかけになっていますし、実況や解説も会場専用のものでファンにとってはまさにホームでの開催と感じられます。

岩田:たぶん、取材されたのは東京の会場だと思います。東京にはタレントもそろっていますし、できることも多いのでその形になっていたと思います。一方、地方チームのイベントだと、公式配信をそのまま視聴することになると思います。幸い名古屋OJAの選手はずっと1位で走ってくれるので、地方配信と公式配信が変わらない状況になっていました(笑)。

UNIZONE会場
UNIZONE名古屋OJAブース

――パートナー企業のNTPグループだけでなく名古屋OJAも、名古屋を盛り上げるために名古屋に関わりのある選手の起用を行なっているわけですよね。

岩田:そうです。加えて、一度選手として採用した方とは末永くお付き合いしたいと思っています。もし、名古屋OJAを離れて他のチームに移籍することになっても、「それで終わり、あとは知らない」ってことにはしたくないんです。そのためにも、入り口の管理は厳しくしています。長く付き合える選手と一緒にやっていきたいので、ただ強いだけの選手を取ることはないです。

プロライセンス大会を積極的に開催する、チームの存在意義

――名古屋OJAは、地域以外にも業界を盛り上げる活動もしていると感じています。例えば、ストリートファイター6だと、SFL参加チームはプロライセンス大会を開く権利があるわけですが、定期的に開催しているのは名古屋OJAだけですよね。

岩田:そうですね。ライセンス大会は一番多くやっています。業界発展のためと考えています。ライセンスをたくさん出すことに賛否はあると思うのですが、ライセンスによって選手個人の価値が上がり、仕事の幅も増えていくわけです。業界的にはポジティブな影響があると考えています。SFLも6チームから12チームに増えたわけですが、年によって内容に変動があるにしろ、ライセンスの所持の条件があるので、ライセンス持ちの選手が増えると、チームとしても選手選びの幅が拡がります。

 また、新しい才能を発掘したいという思いもあります。

――個人的にはプロ選手はもっと多くても良いと思っています。プロの希少性をよしとする人も居ますが、ストリートファイター6に限っては、プロの中でも厳選された存在であるSFリーガーの存在もありますし、ライセンスを持つことで活動の幅が増え、大化けする選手もいると思っています

岩田:業界の発展や競技者のモチベーションの維持の観点からも、ライセンスの発行は積極的にやるべきだと思っています。それが地域経済への発展にもつながりますし、名古屋OJAのチームとしての存在意義だとも思っています。

――他の地方のチームもそうですけど、名古屋OJAも地元企業や地場産業のスポンサーがついていますよね。

岩田:現在、NTPグループ様以外には、中部テレコミュニケーション株式会社様、株式会社中日新聞社様、株式会社NOE様、ヤマモリ株式会社様で、愛知や中部地方の企業です。これまでパートナーになっていただいた企業も含め、愛知、岐阜、三重など中部エリアの中核企業からご支援いただいています。もちろん、東京など他の地域の企業を排除しているわけではないですが、方針としては中部エリアを大事にしたいと考えています。

地方チームの壁を越え、持続可能なeスポーツビジネスを創る

――トヨタはZETA DIVISIONにスポンサーしていますけど、NTPがパートナーになる方が名古屋OJAっぽいですよね。名古屋OJAは今年で10年目を迎えるわけですが、苦労した点はありますか。

岩田:この10年でeスポーツ業界もeスポーツチームも規模が大きくなってきました。その中で、自分たちの存在感、eスポーツ業界にとってどういう存在であるべきかというのは片桐とも議論しています。

 そうなるとやはり地域であることに帰結します。SFLでは、ライバルの東京大手チームと同じことができるかというと、ロスターの面でも、環境面でも難しいわけです。多くの選手は東京在住ですし、地方はある意味ハンデでもあるわけです。地方チームであるメリットとデメリットを享受し、どう戦っていくかというのは、これまでも、そしてこれからも課題として残っていくんだろうなと思っています。

 チームとして毎年苦労している点はリクルーティングですね。名古屋ゆかりを重視しているので、名古屋に縁のある選手を見つけるのが大変です。選手の来歴が調べにくい点もあって、いろいろ調べて「あ、この選手は愛知出身だ」とようやくたどり着けるような感じです。それでいてリーグで戦えるレベルの人はなかなかいませんね。

――出身だけでなく、在住とかの関わりでもいいんですよね。逆に言えば、SFリーガーになりたい選手は、名古屋に移り住むことで名古屋と関わりができて、名古屋OJAのメンバーになる確率は高くなるわけですよね。

岩田:無理矢理にでも名古屋に縁を作ってしまうことはできますね(笑)。ただ、名古屋という場所は、プレイヤーにとって東京以上にメリットがあるとは言いにくいのも事実です。東京のチームの練習部屋に頻繁には行けなくなるといった環境の差があるわけです。CAPCOM CUPの賞金もすごく高くなっていますし、SFLよりも個人的大会/活動を重視するかも重要になりますね。

――最後にチームとしての今後の目標や課題を聞かせてください。

岩田:まずは今年開催されるアジア競技大会が終わったあとの、アジア競技大会のレガシーをどう活用していくかが課題ですね。これはチームとしてもそうですし、愛知eスポーツ連合の競技団体としての視点もあります。アジア競技大会を開催して、盛り上がっても、それで終わりにしてはダメです。この盛り上がりを愛知の地でeスポーツを根付かせるかが、地域経済の向上にもつながっていくわけです。

 チーム名の由来のように、名古屋から世界へ向けて拡大していくには、世界大会を誘致するといった取り組みも必要でしょう。そのレベルになると私たちだけではできることではないので、パートナー企業を含めたさまざまな人たちと協業が必要になってきます。

 ビジネスとしての課題は、eスポーツの領域でしっかり収益を上げていくことと、持続可能な形を作ることです。スポンサー様からの協賛金だけで運営していると、契約が終了したときに問題となります。他の事業でしっかり稼げている状態であれば、その資金を逆にパートナー様との共同事業に回すこともでき、循環する仕組みができていきます。

 現状ではeスポーツがスポンサービジネスであるのは確かですが、eスポーツだからこそ、展開先や手法はいろいろ生み出せると思っています。