山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
楽天「kobo mini」
~一回り小さい5型パネルを採用したE Ink端末
(2013/1/10 00:00)
楽天「kobo mini」は、5型のE Ink電子ペーパーを搭載した電子書籍端末だ。一般的な電子書籍端末に比べてコンパクトなボディで、ポケットに入れての持ち運びを可能にした製品だ。
世界で昨今販売されているE Ink端末の多くは、画面サイズが6型で横並びの状態にある。そこに、フロントライトの搭載と、パネルの高精細化が進みつつあるのが、2012年以来のトレンドだ。今回紹介する「kobo mini」は、こうしたトレンドとは一線を画し、コンパクトな5型のパネルを採用することで、可搬性の向上を狙った製品である。
5型のE Ink端末としては、2010年に発売されたソニーの「Reader Pocket Edition(PRS-350)」があるが(ちなみに今も現行品である)、通信機能を搭載せず、PCで購入したコンテンツをUSBケーブルで転送する必要がある。その点でkobo miniは、「kobo glo」や「kobo Touch」と同様に通信機能を備えているので、使い勝手の面で遜色がない。純粋に画面およびボディサイズが異なるバリエーションという位置付けだ。
ただしフロントライトなどの現在トレンドとなりつつある機能は搭載せず、またkoboシリーズがこれまでアピールしてきたmicroSDスロットも省かれているなど、可搬性を重視した設計によって切り捨てられている機能はいくつかある。これらも含め、使い勝手をチェックしていこう。
5型のコンパクトな画面。ライトやmicroSDスロットは非搭載
まずは競合製品との比較から。同社の6型モデルであるkobo glo、kobo Touchのほか、冒頭で紹介したソニーのPRS-350と比較している。
kobo mini | kobo glo | kobo Touch | Reader Pocket Edition (PRS-350) | |
楽天 | 楽天 | 楽天 | ソニー | |
サイズ (幅×奥行き×高さ、最厚部) | 102×133×10mm | 114×157×10mm | 114×165×10mm | 104.6×145.4×9.2mm |
重量 | 約134g | 約185g | 約185g | 約155g |
解像度/画面サイズ | 600×800ドット/5型 | 758×1,024ドット/6型 | 600×800ドット/6型 | 600×800ドット/5型 |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | - |
内蔵ストレージ | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.4GB) |
メモリカードスロット | - | microSD | microSD | - |
内蔵ライト | - | ○ | - | - |
バッテリ持続時間 (メーカー公称値) | 約1カ月、約40,000ページ(Wi-Fiオフ) | 約1カ月、約30,000ページ(Wi-Fiオフ) | 約1カ月、約15,000ページ(Wi-Fiオフ) | 約2.5週間、約10,000ページ |
電子書籍対応フォーマット | EPUB、PDF(同社ストアで販売しているPDF書籍のみサポート) | EPUB、PDF(同社ストアで販売しているPDF書籍のみサポート) | EPUB、PDF(同社ストアで販売しているPDF書籍のみサポート) | 配信コンテンツ(.mnh)、XMDF、.book、EPUB、PDF、TXT |
電子書籍ストア | koboイーブックストア | koboイーブックストア | koboイーブックストア | Reader Store |
価格 (2013年1月6日現在) | 6,980円 | 7,980円 | 6,980円 | 7,980円 |
画面サイズは5型と一回り小さいが、解像度は従来の6型E Ink端末と同じ600×800ドットなので、密度はそれなりに高いことになる。もっとも、ソニー PRS-350も600×800ドットなので、驚くほど高精細というわけでは決してない。
通信機能や内蔵ストレージ、対応フォーマットなどの仕様は同社のkobo glo/kobo Touchとほぼ共通だが、一方で大きく異なるのはmicroSDに対応しないことだ。コンテンツを保存できるのはユーザー使用可能領域の約1GBだけなので、容量を気にせず多くのコンテンツを持ち運ぶのは難しい。とはいえ、本製品の小さな画面でコミックを読むのは根本的に無理があるので最初から諦めざるを得ず、テキスト本中心で使うことを考えると、1GBでもとくに小容量というわけではない。
本体サイズはかなりコンパクト。同じ5型のソニー PRS-350は下部にボタンを装備する関係で全長がそこそこあるので、本製品の方が圧倒的に小ぶりに見える。ワイシャツの胸ポケットは無理があるとしても、コートなどのポケットにすっぽり収まるのは、6型のE Ink端末や、7型タブレットにはない利点だ。重量も約134gと、50gほど軽い。
細かい違いとしては、従来のkoboシリーズでは外部に露出していたリセット用の穴が本体背面パネルの内側に移動したため、リセット時に背面パネルを取り外さなくてはいけなくなったことが挙げられる。リセットの機会が皆無ならたいした問題ではないのだが、使用開始から1週間で本体のフリーズが6回あり、うち3回はこのリセット用の穴を使わなければ再起動できず(ちなみに3回とも検索画面でのハングアップだ)かなりのわずらわしさを感じた。
なお、背面パネルはかどに爪をひっかけるくぼみがあるというだけで、上下左右あわせて15カ所に爪があるので構造的にも容易には外れない。誤って割ってしまう人もいそうで、ちょっと設計に無理があるのではないか、というのが正直な感想だ。kobo Touchのようにリセットに通じる穴を背面パネルに開けておけば済むと思うのだが、不思議な仕様である。
セットアップはスムーズ。ライブラリの自動同期に注意
セットアップの手順は、兄弟製品にあたるkobo gloとまったく同じである。具体的に言うと、言語や時間を設定したあとネットワークの設定を行ない、楽天IDを入れてログインすると、ホーム画面が表示されるという流れだ。kobo gloと同様、途中でソフトウェアの更新が行なわれたので再起動のプロセスを1回挟んでいるが、所要時間はそれを含めても9分。きわめて早く、とくに迷うところもない。
セットアップが完了すると、ライブラリの自動同期、悪く言ってしまえば過去に購入した本の強制ダウンロードが始まる。kobo gloの記事でも紹介したように、過去に購入済みで「収納箱」に入っていない本は全てダウンロードするので、不要な本は事前にPCのブラウザから「マイライブラリ」を開いて「収納箱」に退避させておかないと、あっという間にストレージがいっぱいになる。
とくに本製品では、ユーザー利用可能領域が実質1GB、コミックでいうと約20~30冊分しかないにもかかわらず、どのコンテンツをダウンロードするか選択するための画面を持たないので、気が付いたら購入済みコンテンツでストレージが埋め尽くされ、新しく買ったコンテンツをダウンロードするための空き容量がゼロになってしまう。後述するようにAndroid向けのkoboアプリもリリースされ、複数の環境でコンテンツが扱われる確率が高まっている現在、早急に改善すべき問題だろう。
ホーム画面をリニューアル、オンラインとオフラインで異なるメニューに
続いて操作性を見ていこう。操作方法は従来モデルと同じで、物理的なホームボタンもなく、全てをタッチスクリーン上で行なう。ただ画面サイズが小さくなった分、画面の隅にあるボタンが押しにくく、左上のホームボタンや右上のメニューボタン、ソフトキーボード右端の「0」などはかなりタップしにくい。利用頻度の高いボタンほど隅に寄せて配置されていることが裏目に出ている格好だ。マージンを増やして、もう少し内側に寄せるなどの改善を望みたい。
タッチのレスポンスについては、これまでと同じく一定頻度で空振りも発生するほか、さくさくとめくれていると思ったら不意に重くなったりと、従来のkoboシリーズから改善されているようには見えない。kobo gloとは1画面に表示可能な文字数に差異があるので厳密な比較が難しいのだが、しばらく本製品を使ったあとにkobo gloを使ったところ、きびきびと動くように感じられたことは記しておく。
ところで本製品は、これまでのkoboシリーズとホーム画面のレイアウトがやや異なる。デザインこそ従来と同じだが、メニューが一部入れ替わっているほか、階層構造も異なる。具体的には、上部に「読書中」、「ディスカバリー」という2つのメニューが並んでいたのが「読書中」、「ストア」の2つに改められたほか、右下には「同期する」というメニューが追加された。
またこの「読書中」、「ストア」のどちらを選ぶかによって、下段のメニューが切り替わるようになった。「読書中」ではローカルの本棚などを表示するためのメニューが表示されるが、「ストア」に切り替えるとそれがクラウド上の本を探すためのメニューに変わる。つまり、
- 「読書中」はオフラインで利用できるメニュー
- 「ストア」はオンラインで利用できるメニュー
と、オンラインとオフラインがきれいに分かれた格好になる。要するにKindleの「端末」、「クラウド」と同じ構成だ。「ストア」を表示した状態からライブラリを表示する際など、操作によっては手順が増えた場合もあるが、階層構造としてはこちらの方が正しい。方向性としては間違っておらず、よい改善だと感じる。
ちなみにこの画面は、本製品向けにホーム画面のレイアウトを変更したというよりも、最適化したホーム画面の公開時期がたまたま本製品のリリースに重なっただけではないかと考えられる。本稿執筆時点ではkobo gloは新ソフトウェアの適用がうまくいかず(再起動しても適用されずにループ状態になる)、実機で確認が取れないのだが、5型の画面に最適化したレイアウトというわけではないので、ほかのkoboシリーズの端末にも適用されるのではないだろうか。
細い線がかすれやすく、濃度も全体的に薄め
さて、しばらく使っていると気になり始めるのが、細い線がかすれぎみであることだ。コミックの細い線はもちろん、テキストの明朝体の細い部分までかすれてしまう。画面サイズが小さいが故の問題というのももちろんあるのだが、同じ5型のソニー PRS-350に比べても明らかにかすれているので、単純にチューニング不足の印象はある。
また、濃度も全体的に薄めで、黒がくっきりと出ないために、余計かすれて見える傾向にあるようだ。詳しくは以下の画像で見てほしいが、発売時期が2年も前の端末と比較して同等以下のクオリティというのは少々つらい。もしブラインドテストをしたら多くの人がソニー PRS-350の方を選ぶのではないだろうか。
ただし、デフォルトの明朝をやや太めの「モリサワゴシックMB101」に変更すると嘘のように視認性が高まる。要するに細い線が苦手というだけなので、太くしてやればいいわけだ。本製品でテキストを読んでいて見にくいと感じられるようなら、この設定に変更するのがお勧めだ。
評価が難しいのがコミックで、グラデーションなどの再現性についてはとくに問題なく、また、線が太めでディテールもあまり細かく書き込まれていない絵柄はそこそこ読めるのだが、細い線がかすれてしまうので、キャラクターの微妙な表情まで違って見えることすらある。細い線の再現性に問題があることから、それに耐えられる絵柄とそうでない絵柄があるわけだ。
ただ、それ以前の問題として、コミックはテキストに比べて容量が必要なうえ、文庫版のコミックよりもさらに一回り小さいサイズとあっては、やはりコミック向けの端末というには無理がある。
すでに同社ストアで買ったコミックが手元にあり、それを読むのにチャレンジするならともかく、これから新規にコミックを読むための端末を探している段階であれば、あまりお勧めはしない。あくまでkoboにこだわるのであれば、後述するAndroidアプリを使った方が、ストレスのない読書が可能だろう。
端末からのコンテンツ購入もある程度使えるレベルに
ストアについては、本製品のリリースと前後して、これまで巻数表示がなかった一部のコミックで、巻数が表示されるようになっている。ストア内のラインナップ全てに適用されているかは確認できていないが、筆者が前回のkobo glo検証時に取り上げていたコンテンツについては直っているようである。
また、一部のコミックで同じ巻が重複表示されていた問題も解決されている。これによって、端末からの購入もある程度使えるレベルになった。これは歓迎すべきだろう。
ただ、並び順が無秩序なままなのと、検索キーワードに関係なさそうなコンテンツがひっかかってくる問題はそのままなので、探しやすさはまだまだである。また後述のAndroidアプリでもそうなのだが、ほかの電子書籍ストアでいうところのトップページが存在せず、ジャンルやカテゴリ、特集を直接ジャンプしないと開けないのは、個人的には使いにくい。「ひまな時にとりあえずトップページを開いて興味をそそる特集やカテゴリを探す」という使い方ができないからだ。方向性の違いと言われればそれまでだが、なんらかの代替策がほしいところではある。
Androidアプリは自動更新の問題はあるものの、完成度高し
本製品とほぼ同じタイミングでリリースされた、Android向けのkoboアプリについても触れておこう。結論から言うと「ライブラリを強制的に同期することを除いては十分に使えるレベルにある」という評価だ。
ホーム画面は、最上段に「最近のアクティビティ」として購入済みコンテンツが最近読んだ順に並び、その下には「あなたへのおすすめ」、「新作」さらに「バッジ」が並ぶ。購入済みコンテンツをタップするとページが表示される。きわめてオーソドックスな作りだ。
ページめくりはタップもしくはフリック、また端末によっては音量大/小キーを使うこともできる。オプションで、フォントの種類やサイズの調整のほか、配色をセピアに切り替えることもできる。今回試した限りでは、行間や余白の設定はメニュー自体が表示されず、どうやら機能として存在しないようである。コミックについてはダブルタップで拡大が行なえる。
また、kobo Touch以来まったく実用的でなかった範囲選択もこのAndroidアプリではきちんと使えるので、ハイライトやコメントといった機能も実用レベルで利用できる。
ただし辞書については選択肢に日本語辞書がなく利用できない(デフォルトは英語)。なんらかのアドオンが用意されているのか、そもそも日本語辞書に対応していないのかは調べきれていない。少なくともデフォルトですぐ使えたり、日本語辞書のダウンロード先が画面内で明示されたりといったことはないのは惜しいところだ。
以上のように、辞書機能など枝葉の部分で気になる点はあるものの、重要な幹の部分はよくできていて読書もストレスなく行なえる。ただ、ここでもやはり問題になるのが、購入済みの全コンテンツを強制的にダウンロードしようとする問題だ。アプリをダウンロードしてログインした途端、ライブラリの更新が開始され、ものすごい勢いでダウンロードが始まるので面食らう。
ちなみにライブラリの更新を停止するには、ホーム画面右下の「↓」マークをタップして「すべて停止」を選べばよいのだが、アプリを使い始めたばかりで右も左も分からない中、このようなメニューがあることに気付くのは至難だろう。
ちなみに「収納箱」に入れて同期されないようにすれば万事解決のように見えるが、実はそう単純な問題ではない。というのも、ユーザーが使える容量は端末によって異なるので、例えば、容量約1GBのkobo miniに合わせてコンテンツを分別していた場合、容量の大きいkobo glo/TouchやAndroid端末で同期すると、逆に容量を余らせる結果になるからだ。つまり「端末側の空き容量があればダウンロードするが、そうでなければダウンロードしない」という選択肢がないわけである。
このあたり、もしかすると筆者がなんらかの機能を見落としているのかと思いAndroidアプリのページを確認したところ、同じような感想でレビューが埋め尽くされていた。ユーザーが保有コンテンツ数がまだ多くないために改善が後回しにされているのかもしれないが、現状では利用頻度の高いユーザーほど買い増しや買い替えのたびに不便を強いられることになるわけで、自分がそのような状況にありながら他人に勧めるユーザーはおそらくいないだろう。とくに今回のAndroidアプリは、ビューワとしての出来は決して悪くないだけに、早期の改善を期待したい。
「バリエーションの一環」として見るならあり
kobo miniの最大の特徴は、なんといってもその持ち運びやすさだ。実際に使ってみるまで、それほどメリットがあると思えなかったのだが、ポケットに入れて持ち歩けるのは悪くない。通勤で電車の乗り換えが多いユーザーなどにとっては、6型以上に便利に使える端末だといえるだろう。
ただ、すでに6型を使っている人が本製品を導入して使い分けるほどのメリットがあるかというと、これは悩ましいところだ。これがiPadとiPad miniほどのサイズ差ならともかく、画面サイズの違いはわずかで、重量差もたった50gだ。となると本製品単体での利用が主ということになるが、あと1,000円プラスするとライトやmicroSDが使えるkobo gloが手に入るとなると、さすがに躊躇する。
となると文庫本並みのサイズにどれだけの価値を見出すかがポイントになりそうだ。新たにリリースされたAndroidアプリをスマートフォンに入れれば、画面サイズがきわめて近い読書環境を簡単に構築できるのも、本製品にとっては強力なライバルである(例えばGALAXY Note IIは画面サイズが本製品に近い5.5型である)。むしろ本製品の価値はkoboシリーズ全体のラインナップを充実させることにあり、結果的にkobo gloが引き立って売れればよいという、現状ではそうした「バリエーションの一環」という域を出ないように感じられる。
koboのサービスイン時に挙げられていた問題点にA、B、Cといったランクを付けるとして、Aがおおむね片付いてBの改善に着手したというのが現在の印象だ。だが、今回のライブラリ自動同期のように、たくさんのコンテンツを買えば買うほど不便になる仕様を改善しないと、どれだけキャンペーンを行なおうがコンテンツを増やそうが、局地的な支持しか得られないのではないかと思われる。着実に改善されつつあるのは事実だが、それはほかのストアとて同様である。koboという電子書籍ストアがこの先どのような方向に向かうのか。今年1年は文字通り正念場になるのではないだろうか。