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Amazon「Kindle Fire HD 8.9」

~8.9型、1,920×1,200ドットの大画面/高解像度タブレット

発売中

価格:24,800円(16GB)、29,800円(32GB)

「Kindle Fire HD 8.9」。16GBモデルと32GBモデルをラインアップする。ちなみに海外では「Kindle Fire HD 8.9"」といった具合に型番の後ろに「"」が付くが、国内ではサイト上の表記を見る限り、省略するのが正しいようだ。

 「Kindle Fire HD 8.9」は、Amazonのサービスの利用に最適化されたカラータブレット「Kindle Fire」ファミリーの中で、もっとも大きな画面サイズ(8.9型)を持つモデルだ。その名称からも分かるように、すでに発売されている7型モデル「Kindle Fire HD」の大画面版という位置付けである。

 第2世代のKindle Fireファミリーのうち、7型の「Kindle Fire」および「Kindle Fire HD」の国内販売が開始されたのが2012年12月。この時点で海外での発売から3カ月遅れてのリリースだったわけだが、この8.9型モデルはその時点では投入が見送られ、さらに3カ月経過してからの発売となった。つまり国内での扱いこそ新製品ではあるものの、すでに海外では広く普及しているモデルが、半年経ってようやく投入されるという構図になる。

 それだけに、突出した新機能を持っているわけではないものの、ハード/ソフトともにある程度枯れており、信頼性という意味では高いと考えられる。また16GBモデルで24,800円という価格は、現在市販されている同容量の9~10型タブレットの多くが3~4万円台であることを考えると、かなりリーズナブルである。今回は発売されたばかりの市販モデルの実機を使ってチェックしていこう。

7型のKindle Fire HDをそのまま拡大したルックスと機能

 まずは発売済みの、7型のKindle Fire HDと比較してみよう。Kind Fire HD 8.9は、Kindle Fire HDをそのまま拡大したかのようなルックスと機能で、サイズと画面解像度を除いてはほとんど違いがない。身も蓋もない表現を使うと「でっかいKindle Fire HD」だ。横向きにした時の左右のスピーカーや端子などのレイアウトも同一。MIMO対応のデュアルアンテナやデュアルチャネル対応といった機能も共通である。背面カメラがなく前面カメラのみという点も踏襲している。さらに言うと、充電ステータスを表示するLEDがないという、どちらかというと欠点にあたる特徴も同じだ。

【表】スペック比較1

Kindle Fire HD 8.9Kindle Fire HD
メーカーAmazonAmazon
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)240×164×8.8mm137×193×10.3mm
重量約567g約395g
OS独自(Androidベース)独自(Androidベース)
解像度/画面サイズ1,920×1,200ドット/8.9型1,280×800ドット/7型
ディスプレイカラー液晶カラー液晶
通信方式802.11a/b/g/n802.11a/b/g/n
内蔵ストレージ16GB(ユーザー利用可能領域は12.7GB)/32GB(同27.1GB)16GB(同12.6GB)/32GB(同26.9GB)
バッテリ持続時間10時間(無線LANオン)11時間(無線LANオン)
電子書籍対応フォーマットKindle (AZW3)、KF8、TXT、PDF、保護されていないMOBI、PRC、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMP、HTML5、CSS3Kindle (AZW3)、TXT、PDF、保護されていないMOBI、PRC、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMP、HTML5、CSS3
価格24,800円(16GB)、29,800円(32GB)15,800円(16GB)、19,800円(32GB)

 見落とされがちな特徴としては、7型のKindle Fire HDよりも薄いことが挙げられる。面積があって内部の実装スペースに余裕があるためか、7型に比べると厚みが1.5mm薄くなっている。画面サイズが大きいことも相まって、かなり薄く感じられる。7型のKindle Fire HDに慣れている人は羨ましく感じるはずだ。またデュアルコアプロセッサは7型Kindle Fire HDの1.2GHzに対して本製品は1.5GHzとクロックが引き上げられている。

 Kindle Fire HDの特徴である幅広のベゼルは、本製品でも踏襲されている。幅もわずかに広くなっているのだが、それ以上に画面サイズが大きくなっていることもあり、7型に比べると目立たない。後述するNexus 10とはおおむね同程度だ。

本製品(8.9型)とKindle Fire HD(7型)を重ねたところ。本製品の画面サイズが、Kindle Fire HDの本体サイズよりもわずかに小さい程度
本体底面にMicro USBポート、Micro HDMIポートを備える
本体上面に電源ボタンと音量大/小キーを備える。7型と同様、電源ボタンと音量小キーの組み合わせでスクリーンショットを取得できる。ボタンの間隔は7型よりは広い
本体背面。横向きを基本としたデザインで、左右の端にドルビースピーカーを備える。7型のKindle Fire HD(下)と同じ配置だ
厚みの比較。左が本製品、右が7型のKindle Fire HD。本製品の方が薄い

iPadやNexus 10と同クラスの高解像度で、かつ最薄/最軽量

 続いて、競合となりうる9~10型のタブレットと比較してみよう。本製品はKindleストアをはじめとするAmazonのサービスに特化した製品ということで、スペックだけを取り上げて同等サイズのタブレットと比較するのはナンセンスなのだが、ハードの違いを知ることは、何ができて何ができないのかを理解するのにつながる。一通りのスペックを確認しておこう。

【表】スペック比較2

Kindle Fire HD 8.9Google Nexus 10iPad(Retina)
メーカーAmazonSamsungApple
サイズ(同)240×164×8.8mm263.9×177.6×8.9mm241.2×185.7×9.4mm
重量約567g約603g約652g(Wi-Fi)
OS独自(Androidベース)Android 4.2iOS 6
解像度/画面サイズ1,920×1,200ドット/8.9型(254ppi)2,560×1,600ドット/10.055型(300ppi)2,048×1,536ドット/9.7型(264ppi)
ディスプレイカラー液晶カラー液晶カラー液晶
通信方式802.11a/b/g/n802.11b/g/n802.11a/b/g/n
内蔵ストレージ16GB(同12.7GB)/32GB(同27.1GB)16GB/32GB16GB/32GB/64GB/128GB
バッテリ持続時間/容量10時間(無線LANオン)9,000mAh10時間(無線LANオン)
電子書籍対応フォーマットKindle (AZW3)、KF8、TXT、PDF、保護されていないMOBI、PRC、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMP、HTML5、CSS3アプリに依存アプリに依存
電子書籍ストアKindleストアGoogle Play ブックスなどiBookstoreなど
価格24,800円(16GB)、29,800円(32GB)36,800円(16GB)、44,800円(32GB)42,800円(Wi-Fi 16GB)、50,800円(Wi-Fi 32GB)、58,800円(Wi-Fi 64GB)、66,800円(Wi-Fi 128GB)※このほかWi-Fi+Cellularモデルも存在

 7型のKindle Fire HDを比較する際、競合製品として「iPad mini」「Nexus 7」が挙がったのと同様、本製品の競合として名前が挙がるのは、「iPad」および「Nexus 10」だろう。画面サイズで見ると多少の差はあるが、高密度なディスプレイなどの特徴、さらにKindleなどのアプリが動作可能という点では、競合となることに間違いない。

 解像度については、1,920×1,200ドット(254ppi)、iPadのRetinaディスプレイモデルは2,048×1,536ドット(264ppi)、Nexus 10は2,560×1,600ドット(300ppi)ということで、数値だけで見るとわずかながら分が悪いが、いずれもフルHD以上であり、肉眼で見比べて差が分かるレベルではない。これらの製品を見た後で、iPad miniやノーマルのKindle Fireを見てしまうと、解像度の違いをはっきりと感じられるという意味では、3製品とも十分すぎるほどの解像度である。

 また、iPadおよびNexus 10と比べるともっとも薄く、また軽量である。画面サイズが同一ではないのでインチ比などで計算すると違った結果になるだろうが、比べた場合はやはり際立つ。ただ、実際に手に持った時は、どちらかというとサイズの違いを意識しがちで、際立った重さの差は感じないことは補足しておく。

 価格については本製品が圧倒的に優位で、Nexus 10が16GBで36,800円、32GBで44,800円であるのに対し、本製品は16GBで24,800円、32GBで29,800円とかなりの破壊力がある。ただこれはAmazonとの親和性を取るか、汎用性を取るかといった条件によって、お買い得と感じる場合もあればそうでない場合もあるだろう。ユーザーの使い方に大きく左右される部分だ。

 そのほか目立つのは、本製品とNexus 10は横向き利用が前提でスピーカーが左右に配置されているのに対してiPadは縦向きが前提、またNexus 10のみ無線LANが5GHz帯に非対応といったところだろうか。また本製品は海外ではLTE搭載モデルがラインナップされているが、国内では今のところリリースされていないため、単体で屋外で通信をしたい場合は(この3機種の中では)iPadのWi-Fi+Cellularモデルが唯一の選択肢ということになる。

左上から時計回りに、本製品(8.9型)、Nexus 10(10型)、iPad 3rd(9.6型)、Kindle Fire HD(7型)。いずれもKindleストアのライブラリを表示しているが、見た目がまったく違うのが面白い。なお機材の関係で以下の写真ではiPadは第4世代ではなく第3世代を使用しているのでご了承いただきたい
厚みの比較。左列はいずれも本製品、右列は上から順に7型のKindle Fire HD、Nexus 10、iPad 3rd。本製品がもっとも薄い

セットアップは容易。Amazonで購入すればアカウント登録済みで届く

 もともと7型のKindle Fire HDと同時にリリースされた製品であるため、パッケージ周りの仕様やセットアップ手順は基本的に同一である。電源を投入して言語を選択、Wi-Fiをセットアップした後、操作についてのチュートリアルが表示され、終わるとホーム画面が表示される、といった流れだ。特に難しいことはない。Amazonから直接購入していれば、アカウントがセットアップされた状態で届くので、メールアドレスやパスワードを手入力する必要もない。

製品パッケージ。Kindle Fire HDやKindle Paperwhiteなどと同じく、一片が斜めにカットされた特徴的な形状
本体のほかに、ライセンス情報、電源の入れ方などについて書かれた2冊の小冊子、USBケーブルが同梱される。USB ACアダプタは別売となる
電源の入れ方と充電についての小冊子。各国語版が一冊にまとまっている簡素なもので、マニュアルというわけではない。使い方は本体内のヘルプを参照することになる
セットアップ開始。まずは電源を入れ、Androidと同様に鍵マークを横方向にスワイプしてスクリーンセーバーを解除する
言語選択。「日本語」を選んで次へ
無線LANのセットアップ。デュアルチャネルが売りの製品ということで、5GHz帯のIEEE 802.11aにも対応している。任意のSSIDを選んでパスワードを入力する
Amazon.co.jpから購入した場合、到着した時点でAmazonアカウントがセットアップされているので、設定は不要。そのまま続行する。このほかタイムゾーンの選択などの画面もある
登録済みのFacebookおよびTwitterアカウントが表示される。確認したら「今すぐ開始」をタップ
7ページに渡って使い方ガイドが表示される
使い方ガイドの表示が終わり、ホーム画面が表示された。すでにKindleでコンテンツを購入した経験があれば、「クラウド」をタップすることで購入済みコンテンツを表示できる

慣れれば使いやすい、Kindle Fireならではの操作体系

 画面が広い分レイアウトに余裕があるといった違いを除けば、画面の構成も基本的には7型と同じだ。ホーム画面上部のメニューバーには、ゲーム/アプリ/本/ミュージック/ビデオといったコンテンツが表示されており、これらをタップすることで、各コンテンツライブラリに移動できる。またアプリや本、ミュージックなどストアが併設されている場合は「ストア」をタップすればストアに移動できる。

 いずれも「Kindle Fireならでは」のメニュー体系であり、iOSやAndroidのそれとは異なる独自の操作体系を持っているが、ユーザビリティに反したことをしているわけではないので、使い慣れればとくに違和感なく使える。どの画面からでも呼び出せるお気に入りなど、むしろこちらの方が使いやすいという人もいるだろう。

 強いて挙げれば、ホーム画面中央のスライダーに表示される「最近使用したコンテンツ」について、表示するものとしないものをカスタマイズできるようになれば、さらに分かりやすくなるのではないかと思う。現状では、表示させたくないコンテンツが表示されるたびに、ロングタップ→削除するしか方法がないからだ。

ホーム画面。画面中央のスライダーには、最近使用したコンテンツが表示される。画面が縦向きの場合は下に関連商品のエリアが表示される
デジタルコンテンツだけではなく、Amazon.co.jpでの買い物もできる
アプリのストア。購入するとクラウドからダウンロードされ、ライブラリから起動できるようになる
本のストア。いわゆるKindleストアのトップページにあたる
ミュージック。Amazon MP3ストアから音楽を購入して再生できる
ビデオ。現時点で配信サービスが開始されていないため、ローカルで転送した動画(パーソナルビデオ)の再生にのみ対応する
写真。Amazon Cloud Drive上の写真や、本体カメラで撮った写真、取得したスクリーンショットといった画像類がまとめて表示できる。ただしスライドショー機能などもなく、機能はやや簡素
ドキュメント。パーソナルドキュメントに保存されたオフィス文書やPDFファイルなどの一覧を表示し、ダウンロードして表示できる。オフィス文書はOffice Suiteで開かれる
Web。独自ブラウザであるAmazon Silkを用いてインターネットアクセスができる
こちらはPC Watchを表示したところ。モバイルではなく通常ページが表示された
画面上部を下にスライドすることで表示される通知領域からは、音量や明るさの調節ができるほか、設定画面へのアクセスも可能。またTwitterなどの新着情報も表示される
設定画面。デザインこそ違うが、Androidの設定画面ほぼそのままだ
ソフトウェアバージョンは、本稿執筆時点でAmazon.comのサイト上では8.1.4となっているが、こちらはそれより新しい8.2.0
設定画面で「アプリケーションのインストールを許可」をオンにしておけば、ベンダーが独自に配布しているapkファイルからアプリをインストールすることも可能。これはDropbox
TSUTAYA.comの「TSUTAYA TV」アプリ。本稿執筆時点ではKindle Fireユーザー向けに400円分のクーポンがもらえるキャンペーンを行なっている

 なお、ビデオについては依然として国内向けに配信サービスが開始されておらず、本製品ではPCからUSBケーブル経由で自前のコンテンツを転送して再生することしかできない。筆者はこの8.9型モデルが国内で投入されるとすれば、動画サービスが開始されるタイミングか、あるいは新聞雑誌の定期購読サービス開始のタイミングと予想していたのだが、結果的にどちらでもなかった。現時点で動画を楽しむのであれば、TSUTAYA.comの「TSUTAYA TV」アプリの利用を検討するとよいだろう。

見開きで快適な読書が可能。むしろデータの解像度が気になる?

 さて、動画配信サービスが現時点でスタートしていないこともあり、現時点では画面サイズの広さを有効に活かせるのは、電子書籍の見開き表示/大判ページの表示が筆頭に挙げられる。詳しく見ていこう。

 まずは見開き表示。本製品は画面を横向きにすることで、Kindle本の見開き表示ができる。コミックは横に2ページを並べた形で、ページ間の継ぎ目もなくぴったりくっついた状態で表示されるので、見開きの表示には最適だ。テキストデータについては中央に綴じ代がなく、左右ページがつながった1つの横長の領域とみなされて表示される。

うめ氏「大東京トイボックス」1巻の見開きページを表示したところ。ページ間の継ぎ目がなく、ぴったりくっついている
こちらはテキストデータ。電子書籍リーダーによってはテキストの見開きで本を模した綴じ代の影を表示するものもあるが、本製品は綴じ代はなく横長で表示される

 興味深いのはコミックなどにおける、左右の余白の扱いだ。本製品はiPadのように画面比率が4:3ではなく、横長の16:10ということで、多くのコミックでは画面左右に余白ができてしまう。例えばAndroid用のKindleアプリでは、左右が真っ白なまま表示されるため、やや間延びしてしまうのだが、本製品では左右が黒く塗りつぶされた状態で表示されるので、余白の存在をあまり意識しなくて済む。比べると一目瞭然だ。

 まあ、これはAndroidアプリも本来そうあるべきで、いずれ修正される可能性が高いが、ひとまず本製品については現時点で最適化が図られているわけで、コミックを読む人にはありがたい仕様になっている。AV Watchの西田宗千佳氏のインタビューによると「内部で様々な処理を行ない、縁を切り落として表示するなど、コミックの魅力を最大限に生かせるようにして」いるとのことで、こうした細かな配慮が読みやすさにつながっているのだろう。

Nexus 10のKindleアプリで同じページを表示したところ。左右の余白が白いまま残されており、やや間延びした印象を与える。とくに端ギリギリまで絵がある、いわゆる断ち切りのページにおいては違和感が強い
参考までに、こちらはiPadのKindleアプリで同じページを表示したところ。もともと4:3比率ということで左右の余白はなく、違和感はないが、逆に上下にわずかな余白が発生している
拙書「できる Amazon Kindle Fire HD スタート→活用 完全ガイド」を並べたところ。さすがに同等ではないが、中の文字が細かくて読めないといったことはない

 一方の大画面表示については、Kindleファミリーの中で最大の画面サイズとなる8.9型ということで、大判の書籍も違和感なく読むことができる。以下はB5判の拙書「できる Amazon Kindle Fire HD スタート→活用 完全ガイド」を縦向きの単ページで表示したところだが、実物と同等とは言わないまでも、7型で表示するのに比べると読みやすさは段違いだ。

 今後、固定レイアウトの雑誌コンテンツが本格的に売られるようになれば、この画面サイズはさらに効果を発揮するだろう。もちろんNexus 10やiPadにKindleアプリを入れても同等以上のサイズで表示できるわけだが、いかんせん純正ということで、コンテンツを制作する側からすると、本製品の解像度(1,920×1,200ドット)まではサポートし、それ以上はノンサポート、といった動きになっていっても不思議ではない。

 もっとも、ここで懸念されるのは、Kindleストアにおけるコミックなどの画質だ。6~7型クラスまでの表示しか想定されていないデータを8.9型で表示することで、低解像度のデータが引き伸ばされてボケたように表示される。特にデータが作られた時期が古く、高解像度での表示を想定していない場合、画質の低さが目視で判別できるようになる。かつて低解像度の自炊データをiPadのRetinaディスプレイで表示した場合と同じ問題だ。

 中でも、Kindleの自費出版サービスであるKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)では、料率を70%に設定した場合、コンテンツの配信コストは著者が負担しなくてはいけないため、画質をなるべく下げることで容量を抑えるというノウハウが流通している。大画面化&高精細化はこれと真っ向からぶつかるわけで、これから先、著者の頭を悩ませる問題になりそうだ。

望ましいバリエーション拡充。動画配信サービスの開始にも期待

 以上ざっと使ってみたが、本製品そのものは動作もきびきびしており、デュアルアンテナの恩恵もあってかデータの転送も速く、ストレスなく使える。7型のKindle Fire HDゆずりの高パフォーマンスで、家庭用のタブレットとしてはなかなかの実力派といえる。

 余談だが、7型のKindle Fire HDでは、動画再生アプリ「VPlayer」での動画再生中にとある操作をすると決まって(おそらくアプリ側の問題で)ハングアップするのだが、本製品でもまったく同じ挙動が見られた。このほかいくつかのファイルに対する挙動もそっくりで、冒頭で述べた「でっかいKindle Fire HD」という表現はまったく間違っていないようだ。7型ともどもすでに完成されたモデルということで、後はとにかく動画配信サービスの開始を待つばかり、といったところだろう。

 ところでタブレットを探しているユーザーにとって気になるのは、Kindle間での比較よりも、汎用タブレットと比較してどちらを買うべきかだろう。冒頭で競合製品として紹介したiPadやNexus 10も、本製品と同等の機能を利用するならば、「本」であればKindleアプリを、「音楽」であればAmazon Cloud Playerを入れればよい。

 またAndroid端末であれば、「ゲーム」「アプリ」についてはAmazonアプリストアをインストールすればよいし、「写真」「ドキュメント」はAmazon Cloud Driveを使えばよい。iPadであれば、Amazon.co.jpの買い物に最適化された「Amazon ショーケース」なるアプリもある。汎用性の点からも、そちらの方が得と考える人も少なくないはずだ。

 ズバリ言ってしまうと、Amazonサービスとの親和性の高さをどう評価するか、および価格をどれだけ重要視するかが決め手になるだろう。前者については、KindleアプリなどAmazon製アプリを入れることで同等の機能は得られるが、iPad版ではストア機能がないがゆえにブラウザを使わざるを得ないなど、シームレスに使えない点があるのは否めないし、サービスによっては利用できない場合がある。

 もともと価格競争力では圧倒的な強さを持つだけに、Amazonサービスとの親和性を重視する人、また今後登場するであろうAmazonの動画サービスや雑誌コンテンツへの先行投資をしておきたいユーザーにとっては、大変魅力のある製品だろう。一方、対応アプリの少なさなどは、iPadなどを魅力に感じる人からすると物足りないはずで、こうした点が気になる人は、出費が増える結果になってもiPadやNexus 10などを選択した方が、満足感は高いだろう。

 その点、Amazonサービスを重要視するユーザーにとっての比較対象となるのは、iPadやNexus 10といった同等サイズの汎用タブレットではなく、本製品の兄弟機である7型のKindle Fire HDかもしれない。たしかに画面サイズに違いはあるものの、スマートフォンとタブレットほどのサイズ差があるわけではない上、手に持った時の重量感もかなり近い。少なくともiPad miniとiPadのような明らかな差はない。

 それでいて価格は16GBモデルで24,800円と15,800円ということで、9,000円もの差がある。これなら画面サイズが一回り小さくても、ハンドリング重視で7型で良いと考えるユーザーも多いはずだ。言い替えると、ユーザーの選択肢を増やすという意味で、本製品の発売は望ましいバリエーションの拡充であり、本製品と7型のどちらが売れるかではなく、7型と合わせてシェアを広げていく存在になるのは間違いないはずだ。

(山口 真弘)