山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Kindle Fire HD」(後編)
~アプリや音楽、動画などの機能をチェック
(2013/1/8 00:00)
Amazon専用の7型カラー液晶タブレット「Kindle Fire HD」。レビューの前編では、基本的な使い勝手とKindleストア周りの機能について紹介した。後編となる今回は、アプリや音楽、動画といった電子書籍以外の機能についてチェックしていく。
Amazonの各サービスとシームレスに結びついたタブレット
Kindle Fireシリーズの機能を見ていくと、大きく2つに分類できることが分かる。
○Amazonからコンテンツを購入して楽しむもの
- 本(Kindleストア)
- ミュージック(Amazon MP3ストア)
- アプリ&ゲーム(Amazon Androidアプリストア)
- 買い物(Amazon.co.jp)
○Amazonの機能を利用するもの
- Webアクセス(Amazon Silk)
- ドキュメント(パーソナルドキュメント)
- 写真(Amazon Cloud Drive)
本来ならばここに「ビデオ」が入ってくるべきなのだが、現時点でAmazonの動画配信サービス「Amazon Instant Video」は日本ではサービスインしていないため、Kindle Fireシリーズにおける「ビデオ」は、USBケーブルで転送した動画を再生できるだけにとどまっている。MIMO技術を利用した本製品のデュアルアンテナは、動画などの大容量データのストリーミングにこそ真価を発揮するわけで、現時点では宝の持ち腐れに近いのだが、そのうちサービスが開始されることは間違いないので、気長に待つことにしたい。
さて、この「ビデオ」のように、国内ではなんらかの制約があって利用できないコンテンツを除けば、上記の機能はなんらかの形でAmazonのクラウドを利用するという点で共通している。それだけAmazonの各サービスとシームレスに結びついたタブレットであり、汎用的なタブレットとは大きく異なるところだ。この点については事前に知っておいた方が、理解が深まるだろう。
アプリ
まずは「アプリ」から見ていこう。Amazonサイト上の本製品のカスタマーレビューでもっとも言及数が多いのが、この「アプリ」に関するものだ。内容の多くは、AppStoreやGoogle Playといったストアに比べ、ラインナップが圧倒的に少ないことに対する指摘である。TV CMで放映されているアプリの一部がいまだ登録されていないケースもあるようで、一概にユーザーの下調べ不足と言えない節もある。
アプリストアのラインナップについては拡充を待つしかないが、ベンダーによってはストアを経由せずにアプリを配布している場合もあるので、ストアにないからといって諦めるのは早計だ。著名なアプリではDropboxが挙げられ、apkファイルをダウンロードしてインストールする方法が、同社Webサイトで詳しく解説されている。
Dropboxがあれば、撮影した写真やスクリーンショットを素早くDropboxのクラウドにアップロードできるようになるほか、手持ちのファイルをKindle Fireシリーズに転送するのも容易になるので、Dropboxのユーザーは入れておくことをお勧めする。
ちなみにほかのオンラインストレージでは「Box」がストア上で公式アプリを配布しているが、アップロードを手動で1ファイルずつしかできないなど、現状では使い勝手はいまいちだ。
なお注意したいのは、Amazon Androidアプリストアを経由せずにapkファイルからインストールしたアプリは、クラウドにバックアップされないことだ。通常のアプリであれば、いったん削除してもアプリストアを開くことなくクラウド(アプリコンテンツライブラリ)から簡単に再インストールできる。しかし独自にapkファイルからインストールしたアプリはクラウドには保存されないので、本製品を初期化すればそれっきりだ。本製品は起動パスワードを5回連続して間違うと出荷時状態に戻さなくてはいけないので、こうしたリスクはある。Amazonがアプリの動作保障をしているわけではない点も含め、自己責任であることは忘れないようにしよう。
ちなみにストアの使い勝手についてだが、悪い意味でAppStoreやGoogle Playとよく似ており、カテゴライズが独特なうえに和洋のアプリが混在しており、非常に探しにくい。後者については単に日本向けのアプリが少ないことが影響しているようだが、もう少し絞り込みなどの機能を強化してほしいと感じる。
ミュージック
Amazon MP3ストアは、大雑把に言ってしまえばKindleストアの音楽版であり、購入した楽曲をKindle FireシリーズやiOS/Androidアプリ、さらにはPCで再生して楽しめる。PC用のソフト「Amazon MP3 ダウンローダー」を使えば、ローカルにダウンロードしてiTunesなどに自動追加することもできるなど、DRMフリーならではの強みをもつ。フォーマットはMP3およびiTunesのAACファイル(.m4p)をサポートしている。
Amazon MP3ストアで購入した楽曲はクラウドに保存されるので、Kindle Fireシリーズだけでなく、iOS/Android用アプリ「Amazon Cloud Player」や、PCのブラウザで聴くこともできる。PCにプレーヤーを入れておかなくても、ブラウザがあればアクセスして聴けるのは便利だ。またスマホ用アプリはオフライン再生にも対応しているので、地下鉄など電波の入りにくいところでも聴くことができる。
このCloud Player、海外版では手持ちの音楽ファイルも取り込める機能があり、CDなどからリッピングした楽曲ファイルを複数環境で共有するのに便利なのだが、日本国内では対応していない。そのため現状ではAmazon MP3ストアで購入した楽曲のみの対応となる。このあたりは国内未リリースのiTunes MatchやGoogle Musicも同様で、法的な問題が絡むので難しい。将来的になんらかの解決を期待したいところである。あとはなんといってもラインナップの増強だろう。
ちなみに手持ちの楽曲ファイルをKindle Fireシリーズで再生するには、USBケーブル経由で楽曲をKindle Fireシリーズに転送すればよいのだが、やや時代遅れな感は否めない。それなら、楽曲ファイルをリモートで再生できる「aVia Media Player」のようなプレーヤーを使った方がいいだろう。これがあれば、DLNA対応のNASなどの機器に保存されている楽曲ファイルをリモートで再生できるので、わざわざ転送する必要もない。DLNA特有の階層構造の複雑さはあるが、ランダム再生なども可能なほか、プレイリストも作成できる。なにより、iTunes MusicフォルダをNAS上に置いているような場合は、そのままKindle Fireシリーズで使えてしまうのでお勧めだ。
この「aVia Media Player」が秀逸なのは、Dropboxに保存されているMP3ファイルのストリーミング再生ができることで(有料のPro版のみ)、これとモバイルルータなどを組み合わせれば、外出先でDropbox内のMP3ファイルを再生するという芸当も可能だ。再生の進み具合に対してどれだけキャッシュが進んでいるのか分かりにくいのがやや難だが、ネットワーク環境さえあればクラウド経由で楽曲が再生できるのは便利だ(Androidのスマートフォンとの共用もできる)。おそらくAmazon Cloud Playerはこのようなことをやりたかったのではないだろうか。この「aVia Media Player」は後述する動画や写真の再生にも使えるので、Kindle Fireシリーズのユーザーは導入しておくことをお勧めする。
なお、Kindle Fireについては本体に音量調節キーがないほか、スピーカーも2基がともに本体上部に並ぶなど、あまり音楽再生に向いた設計とは言えない。Kindle Fire HDであれば音量調節キーも備えるのはもちろん、本体左右にドルビーオーディオスピーカーを備え、さらにBluetoothのヘッドフォンまで使える。音楽/動画機能を重視するのであれば、Kindle FireよりもKindle Fire HDをチョイスした方がよい。
ビデオ
「ビデオ」については冒頭で述べたように国内ではAmazonの対応ストアがサービスインしていないため、現状ではUSBケーブルで転送したmp4形式の動画ファイルを再生する機能しか持たない。ただし「ミュージック」と同様、別の動画アプリを入れることで使い道は大きく広がる。
オンラインで動画コンテンツを視聴できるサービスとしては、 TSUTAYA.comの「TSUTAYA TV」がある。多くは48時間のレンタル制で、新作が400円から、旧作が300円からとなっており、月間20作品までを視聴できる980円の月間レンタルサービスも用意されている。品揃えはカテゴリによっても数に差があるので各自で判断いただくとして、個人的には、Amazon Instant Videoが国内でサービスインすれば競合になるはずの動画視聴サービスを、Kindle Fireシリーズ上でアプリを提供していること自体にむしろ驚く。
動画コンテンツを新たに入手するのではなく、手持ちの動画ファイルを観るのであれば、「VPlayer」をお勧めする。標準プレーヤーよりも多彩なファイルフォーマットに対応するほか、DLNAをサポートしている機器上の動画データをストリーミング再生できる。
ストリーミング再生については「ミュージック」の項で紹介した「aVia Media Player」でも構わないのだが、手持ちのDLNA機器で試した限りでは「aVia Media Player」ではエラーが出る動画が、この「VPlayer」では再生できるケースも多かった。すでに「aVia Media Player」を購入していればまずそちらを試し、うまくいかなければこの「VPlayer」を試してみるのがいいだろう。
ちなみにこの「VPlayer」で動画コンテンツを観ていると、Nexus 7では転送速度の関係でまともに再生できなかった動画ファイルが、Kindle Fire HDではちゃんと再生される場合があった。これは本製品のデュアルアンテナの威力とみていいだろう。個人的には、無線LAN搭載のPC上で再生した際も頻繁に止まっていたHD動画がスムーズに再生されたのは感動した。早送りや巻き戻しの際のバッファの時間も明らかに短かく、ポテンシャルの高さを感じる。
またサウンドのクオリティについては、比較にならないレベルで本製品の方が上である。7型タブレットで横向きにした際に左右にスピーカーが来る製品自体が数少ないことに加えて、音の拡がり、深みともに、タブレットではこれまでなかったクオリティだ。このようにハードの性能は十分なだけに、Amazonネイティブの動画配信サービスの開始が待ち望まれるところだ。
写真とドキュメント(Amazon Cloud Drive)
「写真」と「ドキュメント」については、Amazonのオンラインストレージサービス「Amazon Cloud Drive」にアップロードしたものが「写真」、「ドキュメント」にそれぞれ表示される。また本体前面カメラで撮影した画像やスクリーンショット、またFacebookから取り込んだ画像についても「写真」に表示できる。
もっとも、この「写真」のビューワはスライドショー機能もなければ、写真の向きを回転させる機能もなく、お世辞にも高機能とは言えない。お勧めは、「ミュージック」の項でも紹介したアプリ「aVia Media Player」を使って表示する方法だ。これなら本体にダウンロードした写真やDLNA対応機器に保存されている写真だけでなく、Dropbox、さらにはPicasaに保存してある写真についてもスライドショー表示できる。
なお「Amazon Cloud Drive」は無料で5GBまで利用できるが、追加容量を購入することもできる。20GBで800円/年から、1,000GBで40,000円/年までかなり幅広い。オンラインストレージサービスとして見た場合は競合も多いが、Kindle Fireシリーズとのシームレスな連携性はなかなか魅力である。Dropboxのようにローカルフォルダと自動同期する機能がPC側のユーティリティに追加されれば、利用頻度も増えるのではないかと思う。
ウェブとメール
最後に紹介するのは「ウェブ」、つまりブラウザによるインターネットアクセスと、あとは「メール」だ。ブラウザについては、クラウドを利用して転送時間を短縮するという触れ込みの「Amazon Silk」を搭載しているが、正直なところ、普通に使っている限りでは高速なのかどうかはよく分からない。ブラウザとしての機能そのものは標準的で、とくに使い勝手が悪いことはないのだが、もう少しエッジの立った機能があってもいいかもしれない。スターターページの「話題のサイト」「おすすめサイト」が随時更新されるのが、1つの特徴といえばそうだろう。
一方の「メール」については、GmailやYahoo!メールのほか、一般的なプロバイダも設定できる。「本」や「ミュージック」と並列に並んでいる「ウェブ」とは異なり、アプリの1つとして一階層下に位置付けられるなど、あまり機能的には重視されていない感はある。
まとめ
読書やTV、音楽、映画、インターネット、そしてゲームに至るまで、今の時代は過酷な可処分時間の取り合いである。ハマるゲームが登場すれば、ほかのゲームはもちろん、ほかの娯楽のための時間までもが持っていかれる。同じジャンルで競り合っているように見えて、実際にはまったく違う争いがジャンル間で繰り広げられているわけだ。
そうした意味で、Kindle Fireシリーズは、これら可処分時間の取り合いをするさまざまな娯楽が1台に詰まった端末である。本に飽きたらゲーム、ゲームに飽きたらネットといった具合に、1台あればあらゆる娯楽が楽しめる、いわば可処分時間キラーだ。ないのはTVくらいで、これにしても一部サードパーティーが外付けデバイスを開発中との話もある。
これは汎用タブレットも似たような形になりつつあるのでKindle Fireシリーズだけが特別な存在というわけではないのだが、結果的にそのような形になりつつある汎用タブレットと、当初からそれらを指向して設計されたKindle Fireシリーズとでは、囲い込み方のレベルが少々違う。Kindle Fireシリーズはホーム画面に戻るたびに別のコンテンツが提示されるので、あらゆる意味で飽きさせないのだ(逃れにくいとも言う)。このあたりの感覚は、従来の汎用タブレットとはやや異質である。
ただ、今回国内向けにリリースされたKindle Fireシリーズでは、海外版では利用可能な機能のいくつかが省かれているが故に、汎用タブレットとそれほど大きな差が感じられず、逆にアプリなどの品揃えの少なさに目が行きがちというのもまた事実だ。これもまた視点としては正しい。Amazonのカスタマーレビューで本製品の評価が二分しているのは、このあたりを肯定的に見るか、否定的に見るかの違いだけで、感覚的にはきわめて近しい気がする。
ともあれ、今回のレビューで紹介したように、現時点で欠けている機能の一部は別のアプリでカバーできる場合も少なからずあるので、これらのアプリを「お気に入り」に登録してすばやく星マークから起動できるようにしておけば、ずいぶんと印象は変わる。なによりこの価格にして、この音質や画質のポテンシャルである。Kindleストアはこの年末年始にかけてもコンテンツが大幅に増強されていたりと(ほかのストアに遅れをとっていたジャンプコミックスカラー版の大量投入は嬉しい)、Amazonの本気を感じる。当面はこうした「中身」の進化に注目していきたい。