山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

性能大幅向上、指紋認証も搭載したフラグシップ「Amazon Fire Max 11」

「Fire Max 11」。実売価格は64GBで3万4,980円

 「Fire Max 11」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonのデジタルコンテンツ向けの11型タブレットだ。スペック的には従来の「Fire HD 10 Plus」よりもさらにワンランク上に位置するフラグシップモデルで、同社のFireシリーズの中では最上位となる「Fire Max」なるペットネームが新たに冠されている。

 今回は、筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、既存の「Fire HD 10 Plus」と比較しつつチェックする。

性能が大幅向上。Fire初の指紋認証も搭載

 まずは既存のFire HD 10 PlusおよびFire HD 10との比較から。

Fire Max 11(第13世代)Fire HD 10 Plus(第11世代)Fire HD 10(第11世代)
AmazonAmazonAmazon
発売日2023年6月2021年5月2021年5月
サイズ(最厚部)259.1×163.7×7.50mm247×166×9.2mm247×166×9.2mm
重量490g468g465g
OSFire OSFire OSFire OS
CPU8コアプロセッサ - 2x Arm Cortex-A78 (最大2.2GHz)、6x Arm Cortex A55 (最大2GHz)MediaTek MT8183(64ビットオクタコア、最大2GHz)MediaTek MT8183(64ビットオクタコア、最大2GHz)
メモリ4GB4GB3GB
画面サイズ/解像度11型/2,000×1,200ドット(213ppi)10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi)10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi)
通信方式Wi-Fi 6(802.11ax)Wi-Fi 5(802.11ac)Wi-Fi 5(802.11ac)
生体認証指紋認証--
バッテリ持続時間(メーカー公称値)14時間/7,500mAh12時間12時間
コネクタUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
スピーカーデュアルデュアルデュアル
メモリカード○(最大1TB)○(最大1TB)○(最大1TB)
ワイヤレス充電--
価格(発売時)3万4,980円(64GB)
3万9,980円(128GB)
1万8,980円(32GB)
2万2,980円(64GB)
1万5,980円(32GB)
1万9,980円(64GB)

 こうして従来のFire HD 10 Plusと比較すると、あらゆる箇所に手が入っていることが分かる。画面サイズは一回り大きくなったぶん、解像度は相対的に低くなっているが、CPUまわりは大幅に高速化し(ベンチマークは後述)、またWi-Fiなどの細かいスペックについても順調に進化している。Fireの強みであるメモリカードの対応も従来通りだ。

 筐体は大幅に薄くなり、従来の厚みのある野暮ったいイメージは大幅に払拭されている。また新たに追加されたのが生体認証への対応で、電源ボタンと一体化した指紋認証センサーを搭載している。Fireの中で生体認証に対応したモデルは、本製品が初ということになる。

 一方で、Fire HD 10 Plusにあったワイヤレス充電は省略されている。Fire HD 10 Plusのワイヤレス充電は充電器側の不具合とみられる長期間の出荷停止があり、決して成功したとは言い難かったが、本製品はそれらの搭載は最初から見送られた格好だ。

 もっとも本製品は前述の薄型化に加えて、オプションのキーボードを装着するマグネットを内蔵する関係もあり、薄型となった筐体にはワイヤレス充電のモジュールはどのみち搭載できなかったと考えられる。また従来と同じく、GPSは非搭載のままだ。

筐体は横向きを前提としたデザインで、上部に前面カメラを搭載する
ベゼル幅は上下左右ともに均等なので縦向きの利用も支障はない
筐体はアルミを採用。昨年(2022年)暮れに発売されたKindle Scribeと同じ質感だ
オートフォーカスに対応した背面カメラを搭載する。やや出っ張ったデザイン
電源ボタンと一体化した指紋認証センサーを搭載する。Fireへの生体認証デバイスの搭載はこれが初
電源ボタンや音量調整ボタン、USB Type-Cポート、メモリカードスロットはすべて同一面にある
反対側の面はなにもないが、マグネットが内蔵されており、別売のスタイラスペンを吸着させられる
底面はオプションのキーボードと通信するためのポゴピンが用意されている
上面は左右にDolby Atmos対応のスピーカーが配置されている
重量は実測495g。軽くはないが500gを超えていないのは優秀だ

筐体はアルミ製。Alexaアプリで簡単セットアップ

 では箱から出してセットアップの過程までを見ていこう。筐体はアルミ製で、樹脂製だったこれまでのFireと違って高級感がある。アルミ製筐体は2022年暮れに発売されたKindleの大画面モデル「Kindle Scribe」でも採用されており、同社のフラグシップモデルのアイコンとなっている。

 また従来のFireシリーズが全体的に丸みのあるデザインだったのに対して、本製品は直線的なイメージでまとめられており、背面もフラットだ。オプションのキーボードとの接続に使われるポゴピンなども含めて、現行のiPadシリーズに大きく影響を受けていることを感じさせる。

10.1型のFire HD 10 Plus(右)との比較。ベゼルが狭くなったことで画面占有率が高くなっている
ベゼル幅の比較。左が本製品、右がFire HD 10 Plus。ベゼルの外側の筐体の厚みも含めて本製品のほうがよりスリムだ
背面の比較。アルミ筐体を採用したことでスタイリッシュさが増している反面、滑りやすいという欠点も
左側面にはスタイラスペンを磁力で吸着できる
同梱品。ケーブル、アダプタに加えてスタートガイドという構成。ケーブルはUSB A-C仕様
USB充電器は従来と同じ「PS57CP」。最大出力9W、ポートはUSB Standard A

 セットアップの手順は、手動でWi-FiやAmazonのアカウントを設定する手順に加えて、スマホのAlexaアプリを用いた簡単セットアップも用意されており、スピーディーに使い始められる。Alexaを利用しているユーザーならば、後者のほうが簡単だろう。以下、ざっと手順を紹介する。

セットアップ手順。まずは言語を選択
手動セットアップか、アプリによるセットアップかを選ぶ。ここではひとまず前者を選択
Wi-Fiのパスワードを入力。「アプリによるセットアップ」を選んだ場合はこの画面は省略される
続いてAmazonのアカウントを入力する。「アプリによるセットアップ」を選んだ場合はこの画面は省略される
不要なオプション項目のチェックを外して次に進む。このあと紹介ビデオが再生される
子ども用のプロフィールを作るか選択する
ロック画面を設定する。指紋認証の設定を選択した場合もPINまたはパスワードの設定は必須
指紋の設定を行なう。従来はなかった画面だ
Kindle Unlimitedに未登録だとここで案内画面が表示される
プライム登録済みだとここでおすすめ本やアプリが表示される
最後にAlexaまわりの設定を行なう
セットアップが完了するとホーム画面が表示される
セットアップ手順の冒頭で「アプリによるセットアップ」を選択した場合は、スマホのAlexaアプリを起動することで本製品が検出され(左)、Wi-Fiへの自動接続(中)とAmazonアカウントの自動入力(右)が行なわれる

 ホーム以下の画面、すなわち「おすすめ」、「ホーム」、「ライブラリ」から成る構成は、従来からまったく変わっていない。本製品に搭載されているFire OS(本稿執筆時点ではFire OS 8.3.1.9)はAndroid 11ベースなのだが、Android 9ベースだった従来のFire HD 10 Plusと機能的に大きく違う点はない。中身は違うがガワは揃えてある格好だ。

 ただし設定画面を見ていくと、前述の指紋認証まわりの設定項目に加えて、従来はなかったペンや物理キーボードのオプション画面が追加されているなどの違いがある。また面白いところでは、かつては搭載されていたものの過去数世代は省かれていた「画面ミラーリング」の項目が復活していたりもする。

「ホーム」画面。従来と同じく、上段に最近使ったコンテンツおよびおすすめコンテンツが表示され、下段にアプリが並ぶレイアウト
「おすすめ」画面。本や動画、アプリなどのおすすめが並ぶ。Kindle Unlimitedを契約しているか否かなどの条件によって表示項目は変化する
「ライブラリ」画面。Kindleだけでなくさまざまな購入済みコンテンツが並ぶ
設定画面。従来なかったアクセサリにまつわるカテゴリが追加されている
通知領域。ベースとなったAndroidのバージョンが異なるためかデザインは変わっているが機能は同様
Fire HDX 8.9など過去のモデルには搭載されていたものの、最近のモデルからは省かれていたミラーリング機能が久々に復活している

 ベンチマークについては、Fire HD 10 Plusの約2倍のスコアを叩き出している。実際に使っていても、もっさり感を感じることはほとんどなく、お世辞にも高速とは言えなかった従来のFireの印象が完全に払拭されている。レスポンスの遅さがネックで従来モデルを挫折したユーザーでも、あらためて試す価値はある。

Google Octane 2.0による比較。本製品が「22060」、Fire HD 10 Plusが「10003」。倍を超えるスコアを叩き出している
GeekBenchによる比較。シングルコアは本製品が「701」、Fire HD 10 Plusが「303」。マルチコアは本製品が「2016」、Fire HD 10 Plusが「971」。こちらも倍以上のスコアだ

表示性能は従来と変わらず。表示サイズの変更機能を活用したい

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 画面サイズは2,000×1,200ドットと、Fire HD 10 Plusの1,920×1,200ドットよりも横方向にわずかに伸びている。そのぶん解像度は213ppiと従来よりも若干下がっているが、電子書籍を表示していてクオリティに問題を感じることはほぼない。Fire HD 10 Plusと比較した場合はもちろん、264ppiの第10世代iPadとの比較でも、違いを見分けることは困難だ。

 ただし画面が横方向に広がったことで、コミックや雑誌など固定レイアウトのコンテンツを表示した場合の余白は、従来よりも大きくなっている。Fire HD 10 Plusとの比較でもこれは明らかなほか、もともと本の判型に近い第10世代iPadと比較すると、本製品のほうが余白は大きいぶんページの表示サイズは小さくなる。大きさにこだわる場合は要注意だ。

コミックを見開きで表示したところ。サイズ的には十分だが、アスペクト比の関係で左右に大きな余白ができる
上が本製品、下がFire HD 10 Plus。ページサイズは一回り大きいが、余白もそのぶん広い
上が本製品、下が第10世代iPad。iPadのほうが余白が少なく画面にフィットしている
表示クオリティの比較。左から本製品(213ppi)、Fire HD 10 Plus(224ppi)、第10世代iPad(264ppi)。髪のディティールにやや差はあるが、解像度ほどの違いは感じられない
雑誌を単ページ表示したところ。左が本製品、右がFire HD 10 Plus。ページサイズは本製品のほうがわずかに大きいが、天地の余白もまた目立つ
左が本製品、右が第10世代iPad。こちらもやはりフィット感はiPadのほうが上だ
表示クオリティの比較。左から本製品(213ppi)、Fire HD 10 Plus(224ppi)、第10世代iPad(264ppi)。ページ下部の注釈部分での比較だが、こちらも解像度ほどの違いは感じられない

 このように、表示面に関してはあまり進化はないのだが、性能が向上したことで、ライブラリやストアのように多くのサムネイルを同時に読み込んだり、アプリを切り替える場合のスピードは、従来よりも明らかに向上しており、待たされることもほぼない。電子書籍ユースを通して見ると、むしろこちらのほうが恩恵は大きいだろう。

 ところで本製品は、2022年に発売されたFire HD 8 Plusと同じく、アイコンなど画面上のパーツの表示サイズを5段階で変更する機能が搭載されている。

 Fire OSはもともと縦向きを想定した画面レイアウトであるため、画面を横向きで使おうとすると、画面下のナビゲーションバーが天地を圧迫してしまい、息苦しさを感じることもしばしばだ。しかしこの機能を使えば、アイコンやナビゲーションバーを縮小表示できるので、多少なりとも天地に余裕を持って表示できるようになる。

表示サイズの変更画面。適用後が右の画面。アイコンサイズや画面下部のナビゲーションバーが小さくなっている
ホーム画面で適用前(左)適用後(右)の比較。横に並ぶアイコン数は変わらないが天地に余裕ができている

 ためしに、Kindleアプリのライブラリ画面で、表示をデフォルトから最小に切り替えてみたが、デフォルトだと縦に1.5個程度しか並ばないサムネイルが、1.8個程度並ぶようになる。2段表示だったのがいきなり3段表示になるほどの極端な違いはないが、息苦しさはかなり改善される。

 そのため横向きの画面で使う機会が多い人は、こちらの設定に変更しておいたほうが、ライブラリ画面だけでなくストアなどでも余裕ができるのでおすすめだ。ただしそのぶんメニューのテキストなどは縮小されて読みづらくなるので、老眼の人などは注意をしたほうがよいだろう。

ライブラリの画面で、適用前(左)適用後(右)の比較。わずかとはいえ実際に使っていると適用後のほうが断然使い勝手がよい

 もっとも根本的な問題は、画面下の戻るボタンやホームボタンを含むナビゲーションバー自体を非表示にできないことだろう。Fire OSは、Androidでいうところの3ボタンナビゲーションで固定されており、ジェスチャーナビゲーションが選択できず、ナビゲーションバーが常時表示された状態になっているからだ。

 ジェスチャーナビゲーションはAndroid 10から導入された仕組みなので、Android 11ベースのFire OS 8では意図的にオフにされていると見られるが、従来モデルよりも横幅が広がった本製品は、それだけ天地方向の圧迫感を感じやすいので、このナビゲーションバーをはじめとして、圧迫感を軽減するプラスアルファの工夫はほしいように感じた。

「Fire Max 8(仮)」はまだか

 本製品の実売価格は64GBモデルで3万4,980円と、従来のFire HD 10が同容量で2万3,980円だったのに比べると、かなり高価だ。もっとも中を見ていくと、性能の大幅な向上に指紋認証の追加、外部キーボードを利用するギミックの追加、さらにスタイラス対応など、一般的なタブレットと張り合えるだけの機能が多数追加されている。

 特に現在は、このクラスのタブレットの標準と言えるiPadが、エントリーモデルであっても6万8,800円からと、5万円切りが当たり前だった頃とは状況が変わってきており、そんな中で3万円台から購入できる本製品は、明らかにリーズナブルだ。Fire Maxという新しい名前が示すように、Fire HD 10と比べるのではなく、まったく別のモデルだと考えたほうが、本筋を見失わずに済むだろう。

 ところで今回のFire Max 11のような高スペックモデルは、どちらかというと8型にこそ必要なラインナップと言える。というのも10.1型の「Fire HD 10」は、解像度はまがりなりにもフルHD(1,920×1,200ドット)をサポートしており、画質面では問題がなかったのに対して、8型の「Fire HD 8」は1,280×800ドットという、一昔前の解像度のままだからだ。

 「Fire Max」という新しいペットネームを立ち上げたことからして、今回の11型モデルだけでラインナップが完結することは考えにくく、将来的には8型前後の小型モデルが投入される可能性は高い。もちろん現時点では何の確定情報もないが、8型前後のタブレットは、現在「iPad mini」以外の選択肢は豊富とは言えないだけに、近い将来の登場を心待ちにしたい。