山田祥平のRe:config.sys

タブレット、似ているようでみんな違う、その方向性

 今年(2023年)はタブレットが久しぶりに豊作で、各社の新製品が続々と登場している。直近ではAmazonの「Fire Max 11」が発表された。11型2K(2,000×1,200ドット)解像度の液晶ディスプレイを持つ製品で、縦横比を計算すると5:3という珍しい比率の画面だ。その新タブレットにAmazonが企んだ新しいチャレンジとは。

見て楽しむだけじゃない、タブレットを使って創造する楽しみ

 ご多分にもれず、同時に発売される各種アクセサリは、デタッチャブルなカバーを兼ねたキーボードや、本体を自立させることができる背面カバーなどが強くアピールされている。AmazonのFireタブレットは昨2022年に10周年を迎えたが、今回の製品では、コンテンツを見る楽しさに加え、創造する楽しみを提供するべく、スペック等が強化されているという。

 Amazonによれば、ここのところのタブレット利用は、若年層の利用率の伸長が著しいそうだ。もちろんその背景としてはGIGAスクールの影響も少なからずある。

 今、一般的なタブレット利用は動画視聴、ネット検索、電子書籍という3つの用途に集中している。だからこそ、タブレットはやはり画面サイズが大きいことというニーズが高まってきているそうだ。それは明確な事実でもある。

 だが、今回発表されたFire Max 11は、コンテンツを見るのみならず、コンテンツを創造する楽しみを訴求している。そして、そのためにはアプリが必要だということも同社は知っている。

 Fireタブレットは、Fire OSと呼ばれるAndroid OSを元にAmazonが開発したOSが稼働するデバイスだ。業界的な言い方をすると、Fire OSはAndroid OSのフォーク(派生)だ。

 ちなみに、各社のAndroidスマートフォンやAndroidタブレットでは、Googleが提供するAndroid OSが使われ、Google Mobile Serviceを利用することができ、アプリはGoogle Playストアで流通している。エンドユーザーとしては、ほとんど何も考えることなく、使いたいアプリをPlayストアで探し、それをインストールして使う。何も難しいことはない。

 一方、FireタブレットのFire OSは、アプリストアはAmazonアプリストアを使って入手する。方法としてはAndroidスマホと似ているし、実行バイナリーイメージもほぼ同じAndroidアプリで、ほとんどの場合はそのまま動いたりするのだが、Google Playストアに登録されているアプリがAmazonアプリストアにもあるとは限らない。セキュリティの観点からも使い回しは難しい。また、標準ブラウザも異なるので、環境の同期も難しい。AmazonアプリストアでFire OSで稼働するChromeが提供されていれば、それだけでずいぶん使い勝手が高まると思うのだが、それはかなわぬ夢だ。

大きかったWidowsのAmazon Storeを使ったAndoroidアプリサポート

 Amazonアプリストアというと、直近で画期的な動きがあった。昨年(2022年)夏に、Windows 11がAndoroidアプリをサポートするようになるにあたり、そのAndoroidアプリを入手するために、MicrosoftはAmazonとの協業を開始した。その結果、WindowsでAndroidアプリを使うには、まず、Micorosoft StoreでAmazon Storeアプリを探してインストールし、Amazon Storeを使って欲しいアプリを探すという段取りでAndroidアプリをWindowsで使う。

 ただ、Andoroidスマホやタブレットで愛用しているアプリが、必ずAmazon Storeでも見つかるかといえば、残念ながら、決してそうはなっていない。アプリの種類が圧倒的に少ないのだ。もちろんAmazonとしてはせっせとアプリ関係者/社をリクルートして参入を促してはいるのだが、なかなか整ってはこないでいる。

 これまでのようにコンテンツを見るというだけであれば、アプリの数や種類が限定的でも、エンドユーザーが大きく困ることはなかっただろうけれど、コンテンツを創るという用途に目を向けたとたん、アプリ不足が気になりはじめてしまう。あのアプリがあれば、これができるのにといった不自由を感じる場面が少なからず出てくるだろう。

 とはいえ、YouTuberになりたいという若年層が少なからずいるらしいが、そんな夢を持つ層が、クリエイティブに使う最初のデバイスがFireタブレットであるというのは想像しにくい。でも、そこのところをすくい上げたいという姿勢が、Amazonにはあるようなのだ。

Fireデバイスの再定義

 Fireタブレットの出自は、Amazonそのもののサービスやコンテンツサービスの入り口として、それらを低コストで楽しめるようにすることだった。同程度のスペックを持つ他社製品に対して、比較的廉価なデバイスは、豊富なコンテンツサービスを楽しむにはうってつけだったし、Amazonとしても、ハードウェアデバイスでのビジネスが採算ギリギリだとしても、購入したユーザーがそれを使ってAmazonによるコンテンツサービスを利用し、少しでも多くの対価をAmazonに払ってもらえばそれでよかったという面もある。

 今回、AmazonがFireタブレットの使い方を、これまでのようにコンテンツ消費のみならず、コンテンツ生成までをカバーするものと再定義したことで、このあたりのビジネスバランスに多少なりとも影響が出てくる可能性もある。エンドユーザーとしても、コンテンツを楽しむのみならず、スマホなどよりも快適な作業環境でコンテンツを創りたいという欲ある気持ちを満たすためには、アプリを吟味したりすることも必要になるだろう。そこをどうつじつまあわせてくるかは興味深いところだ。

 Amazonとしても、そこのところはよく分かっていて、今後のアプリ充実に対して積極的に注力していくという。Amazonとしては、WindowsがAndroidアプリをサポートするようになり、その入り口としてAmazon Storeを使うようになったことでのMicrosoftとの協業は、同社にとって大きな意味があったという。おそらくは、Amazon Storeでアプリを配布/販売するベンダー、開発者にとって、市場が大きく広がるということでもあるからだ。そんな中で、Amazonが「創る喜び」に注力するということを表明したというのは、1つのパラダイムシフトが起こる可能性も期待できそうだ。

 これからのタブレットは、キーボードに不慣れで、コンピュータとの対話に不自由するエンドユーザーをターゲットにするのみならず、スマホに慣れ親しんだことで、その使い道には無限の可能性があることを知り、より快適に創ることにチャレンジしたい積極的なエンドユーザーに広い画面を提供することが求められる。もはやデジタルデバイドのためだけのものではない。その領域にFireタブレットが取り組むことで、より面白い未来が見えてきそうな予感もある。