山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Google Playストアが使える“ほぼAndroidタブレット”な10.3型E Ink端末「BOOX Note Air」

「BOOX Note Air」。実売価格は59,800円

 Onyx Internationalの「BOOX Note Air」は、10.3型のE Ink電子ペーパーを搭載したAndroidタブレットだ。Google Playストアにも対応しており、電子書籍に限らず、好みのAndroidアプリを自由にインストールして利用できる。

 また樹脂製の筐体を採用していた従来のBOOXシリーズと異なり、金属製の薄型筐体を採用しているほか、重力センサーの搭載により、本体の向きに合わせて画面が回転する機構を備えるなど、通常のE Inkデバイスよりも一般的な液晶タブレットに近い特性を備えている。

 今年頭に国内販売が開始されたこの製品、レビューのタイミングがやや遅くなったが、国内代理店であるSKTから機材を借用できたので、レビューをお届けする。

金属筐体を採用、厚みわずか5.8mm

 読書に対応した10型クラスのE Ink端末はもともと数がなく、国内で販売されている製品となると、以前紹介した楽天の「Kobo Elipsa」くらいしか選択肢がない。まずはざっと特徴を比較してみよう。

BOOX Note AirKobo Elipsa
販売元Onyx International楽天
OSAndroid 10独自
CPUクアルコム8コア (Cortex-A72 + Cortex-A55)不明
メモリ3GB (LPDDR3)不明
ストレージ32GB (eMMC)約32GB
ディスプレイフラット10.3型Einkフレキシブルスクリーン10.3型のCarta E Ink HD タッチスクリーン
解像度1,872×1,404ドットCarta (227dpi)1,872×1,404ドット(227 ppi)
ネットワークWi-Fi(2.4GHz+5GHz)IEEE 802.11 ac/b/g/n
BluetoothBT 5.0-
バッテリー3000mAh Polymer Li-on数週間
端子Type-C(OTGサポート)USB Type-C
ライトフロントライト(寒色及び暖色)ComfortLight (フロントライト内蔵)
サイズ229.4×195.4×5.8mm227.5×193.0×7.6 mm
重量420g383g
実売価格(本稿執筆時点)59,800円46,990円
備考スタイラスペン、専用保護ケースが付属スタイラスペン、専用スリープカバーが付属

 画面サイズは10.3型、解像度も227ppiと、表示性能はほぼ同等。筐体の右側だけがベゼルに幅のあるデザインや、本体の天地を逆にして使えるギミックも酷似しているが、樹脂製筐体のKoboと違って本製品は金属製の筐体ゆえ剛性は高く、また手の脂も目立ちにくい特徴がある。

 本製品の特徴となるのは筐体の薄さだ。厚さ5.8mmということでiPad Air(6.1mm)よりも薄く、金属筐体を採用したこのサイズの端末の中では最薄クラスだ。重量は420gと、E Inkデバイスとしてそれほど軽量ではないが、液晶タブレットと比べると数十g軽く、手に持って長時間保持することの多い電子書籍利用には適する。

金属製の筐体を採用。片方のベゼルだけが幅のあるデザインで、画面サイズは10.3型
向きを反転させることもできる。これら特徴は前回紹介した楽天の「Kobo Elipsa」とよく似ている
背面は特に何もない。同等製品は上下左右の端が薄くなっている製品もあるが、本製品は厚みはどこも均一
側面にはUSB Type-Cポートと電源ボタンがある。また写真に映っていない左側にはスピーカーも搭載する
ベゼルは幅およそ10mmと標準的。画面との間に段差はない
幅のある側のベゼルは28.5mmあり、手に持つ時に握りやすい
Kobo Elipsa(右)との比較。同じ10.3型、片側のベゼルだけ幅があるなどデザインは酷似しているが、本製品のほうが薄く、筐体もまったく別物
10.9型のiPad Air(右)との比較。金属の筐体など、手に持った時の印象はよく似ている
厚みの比較。いずれも左側が本製品(5.8mm)、右上はKobo Elipsa(7.6mm)、右下はiPad Air(6.1mm)
重量は公称420g、実測では411g。E Inkデバイスとしてはそれほど軽量ではないが同等サイズのタブレットと比較すると軽い部類だ

 CPUは8コアで、メモリは3GB、ストレージは32GB。コミックなど容量が大きいコンテンツを保存するにもじゅうぶんな量だが、本製品は読書専用のデバイスではないので、そうした意味では容量的にやや心もとない。メモリカードスロットは非搭載だ。

 またこれだけの薄型でありながら、フロントライトも搭載し、かつ寒色と暖色を切り替えられるのも特徴だ。Kobo Elipsaはフロントライトは寒色のみで暖色に対応しないので、本製品の強みの1つと言える。またE Ink端末としては珍しく、スピーカーやマイクを搭載しているのも特徴だ。

フロントライトは画面上部のメニューで調整する。これは寒色100%の状態
こちらは暖色100%の状態。実際には寒色と両方点灯させて使うことになる
同梱品。ケーブルのほかスタイラスペンが標準添付される。またSKT販売分は保護ケースも付属する

レスポンスは良好、ホームへの移動には「ナビボール」を活用

 セットアップはBOOX独自のフローで、Googleアカウントにログインしないまま基本設定を完了させたのち、Wi-Fiなどを設定し、その上で必要に応じGoogleアカウントの設定を行なう流れだ。かなりクセがあるので、Androidの利用経験がある人ほど、てこずるかもしれない。手順は以前の「BOOX Max Lumi」でも紹介しているので、そちらを参照してほしい。

 画面構成は、左列にカテゴリのアイコンが並び、それらをタップすると各カテゴリの詳細が右側に表示されるという、BOOXおなじみのメニューだ。電子書籍ユースであれば、ストアを呼び出すには「アプリ」を、ストアに依存しないPDFを表示するのであれば「保管庫」から探すことになる。いったん表示したデータは「書庫」から呼び出せるようになる。

ホーム画面。左列にカテゴリのアイコンが並び、それらをタップすると各カテゴリの内容が右側に表示される。なお本線品の画面はモノクロだがスクリーンショットはこのようにカラーになる(以下同様)
「保管庫」はいわゆるエクスプローラで、本体内のファイルを探す時に使う
「アプリ」は、プリインストールアプリのほか、Google Playストアからインストールしたアプリを表示できる。電子書籍ユースではここが操作の基点になる
設定画面。マニュアルの参照のほか細かい設定が行なえる。セットアップ完了後はまずここからWi-FiおよびGoogleアカウントの設定を行なう

 操作は基本的にタッチスクリーンで行なう。本製品はレスポンスも良好で、サクサクと操作できるためストレスもないが、より快適に使う上で抑えておきたいのが、このBOOXシリーズ共通のインターフェイスである、画面の右下に配置されている「ナビボール」だ。

 これはE Inkのリフレッシュや、「戻る」、「メモリ解放」、さらには後述の「最適化」などさまざまなメニューを呼び出せるボタンで、普段は丸いアイコンとして画面上にフローティング表示されており、タップしたときだけ展開するので、読書中も邪魔にならない。

 このナビボールはダブルタップすることでホーム画面に戻るので、実質ホームボタンとしても機能する。本製品は従来の樹脂製筐体のBOOXシリーズと違い、画面下に物理ボタンを備えていないため、これの利用頻度は高くなるはずだ。

ナビボール。ふだんはこのように丸いアイコンとして画面隅に待機している。ドラッグして場所を動かすこともできる
タップするとメニューが展開する。またダブルタップでホーム画面に戻る機能も備える

 画面の最上部にはWi-Fiのステータスやバッテリ残量、リフレッシュモード(後述)のアイコンが表示されているほか、画面上部をタップすることで表示される通知領域からは、明るさや音量の調整、さらにリフレッシュ設定なども行なえる。これらはAndroidの基本的な画面構成と近いので、操作に迷うことはないだろう。

 利用にあたって注意したいのは、電源周りの設定だ。本製品はいったんシャットダウンすると再起動に時間がかかるので、なるべくスリープモードを中心に運用したほうがストレスがない。

 またWi-Fi接続についても、スリープからの復帰時にすぐ再接続するよう設定しておいたほうが、電子書籍ストアに接続する場合も長時間待たされずに済む。もちろんそのぶんバッテリの消費は早くなるので、なるべく充電の回数を少なくしたい場合は、これらの設定をやりくりして最適解を探すことになる。

画面上部をタップすると表示されるメニューからは明るさや音量の調整、画面の回転、リフレッシュモードの切り替えなどの設定が行なえる
電源管理の画面。本製品はシャットダウンすると再起動に時間がかかるのでスリープでの運用がおすすめだ
アプリの画面。Googleアカウントの設定はここから行なう。詳細は以前の「BOOX Max Lumi」のレビューを参照されたい
ジェスチャーマネージャーの設定。Androidでよくあるホーム/戻るなどの操作のほか、画面左右を上下にスワイプして音量やフロントライトの調整を行なう機能も備える

コミックの見開き用途に最適。画質の調整機能も豊富

 では電子書籍ユースでの使い勝手を見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、アプリは原則としてKindleストアを使用している。

 本製品は10.3型という大画面ゆえ、単ページ表示はもちろん、見開きでの利用も快適だ。ちなみに画面の回転は、従来と同じ手動回転のほか、センサーを用いた自動回転にも対応している。こうした使い勝手の部分も、液晶タブレットにかなり近い。

 解像度は227ppiと決して高いわけではないが、実用上問題ないレベル。見開き表示でも十分なクオリティを確保しており、後述するリフレッシュモードの設定を間違えなければ、コミックなども快適に読むことができる。

 もとがモノクロゆえ、雑誌などの表示には適さないが、解像度などのクオリティは十分なレベルで、薄いグレーもざらつきなく表示できる。上に乗っているテキストが読みにくい場合は、後述の「ディスプレイコントロール」などを使って調整してやるとよいだろう。

単ページ表示。10.3型ということで十分なサイズだ。どちらの手で持つかに合わせて天地を反転させることもできる
見開きでも文庫版程度のページサイズはキープできる。ベゼルが狭いため握りやすさは縦向き表示に比べていまいちだ
7型のKindle Oasis(右)との比較。ページサイズは見開き状態での本製品のほうがわずかに大きい
画面の回転は従来の手動回転に加えて、重力センサーによる自動回転にも対応する
Kobo Elipsa(下)との比較。同じ10.3型で、ページの表示サイズもほぼ同じだ
10.9型のiPad Air(下)との比較。本製品のほうがひとまわり小さく表示される
見開き状態での画質の比較(Kindle Oasisのみ単ページ表示)。上段左が本製品、右がKobo Elipsa、下段左がiPad Air 4、右がKindle Oasis。クオリティは十分だ

 さて本製品は、上の例で利用しているKindleのように、Google Playストアから任意のアプリをダウンロードして利用できる。なかには表示が若干乱れるアプリもあるが、Android向けの電子書籍ストアアプリであれば、原則どれも対応している。

 ただしE Inkゆえ、ストア内でのバナーのスクロールや、画面が切り替わる時のアニメーション効果が目障りな場合があるほか、画面が絶えず書き換わる上下スクロールには決して強くない。またもともとカラー表示を想定して作られているアプリをモノクロで表示することから、エリアの区切りが見づらかったり、ボタンがうっすらとしか見えないこともある。

楽天Koboでオプション画面を開いたところ。画面下部のメニューバーの表示が乱れて中央にタテ一列で表示されている。こうした表示の不具合は他のアプリでもちらほら見られる
Google Playストアを表示したところ。本来の画面の上にポップアップで画面が表示されているのだが、モノクロの画面ゆえ境界が分かりにくい。電子書籍アプリでもこうした例はある

本製品はこうした場合のために、画質周りの調整機能は豊富に用意されている。ひとつはリフレッシュ設定で、4つの中から適切なモードを選択することで、目障りな動きを緩和できる。アプリにもよるが、電子書籍ユースであれば「ノーマル」「スピード」のどちらかが適切であることが多い。以下の動画では挙動の違いを紹介しているので参考にしてほしい。

リフレッシュ設定の画面。「ノーマル」「スピード」「A2」「X」から適した設定を選ぶ。これらによってページめくり時の挙動や、画面の粒子感などが変化する
【動画】Kindleアプリにおける、リフレッシュ設定による動作の違い。前半が「ノーマル」、後半が「スピード」。ページめくり時の動きがまったく異なることが分かる

 またアプリごとにリフレッシュ設定や背景色の調整を行なえる「最適化」メニューも活用したい。設定はアプリ単位で行なうため、あるアプリにおける設定が、ほかのアプリに影響を及ぼすこともない。複数の電子書籍ストアを併用するには便利な機能だ。

 さらに画面全体のコントラストを調整する「ディスプレイコントロール」を使えば、ホーム画面まで含めた色調の変更が可能だ。このように、画質周りの調整機能は豊富に用意されており、好みに合わせたカスタマイズが可能だ。

 ただしあまりにも設定のパラメータが多すぎるせいで、自分の行なったカスタマイズが果たして最適解なのかどうか、自信を持って「Yes」と言えない弊害もある。電子書籍アプリごとのおすすめのプリセットなど、ある程度の下地になる情報が公開されれば、ユーザは悩まずに済むようになるかもしれない。

アプリのアイコンを長押しすると「最適化」メニューが呼び出せる
アプリごとに詳細な表示設定が行なえる。この「画面表示」ではDPI設定などが行なえる
こちらにもリフレッシュモードの設定があり、本体側の設定より優先される
設定内容がわからなくなっていったんリセットしたい場合はこの「その他」から行なう
画面表示の中にある「背景の希薄化」メニュー。濃度を調整したい時に試してみたい
画面全体の濃度を調整する「ディスプレイコントロール」は、ホーム画面上のメニューから呼び出せる

ポテンシャルの高い1台。電子ノート用途も実用的

 従来のBOOXシリーズは、樹脂製の筐体ゆえ剛性はそれほど高くなく、また外見もややチープな印象があった。しかし今回の製品は金属製ということで質感も高く、剛性も高い。

 それだけに、ふとしたことで凹んだり、傷がつかないか心配になることもあるが、そのスリムさゆえ、電子書籍を読むための端末としては非常に優秀だ。個人的にはもう少し軽量であればなお良かったが、従来モデルのように筐体全体がしなるプラスチック素材よりも、本製品のほうが使っていて安心感がある。

金属筐体を採用しており薄型ながら高い剛性を備える

 また本稿では紹介していないが、電子ノート機能についても、豊富なテンプレートを備えているほか、オンラインストレージ経由での外部へのエクスポートも自由に行なえるなど実用性は高く、こちらの用途でも注目すべき逸品だ。価格は59,800円と安くはないが、汎用性の高さや機能の豊富さを考慮すると、むしろ安価に感じられる。

ノート機能は前回紹介した「Kobo Elipsa」よりも充実している
ベゼルの太い部分に、付属のスタイラスをマグネットで吸着させられる。スタイラスの着脱と連動して本体がスリープから復帰するギミックも備える

 BOOXシリーズはメモリ2GBまでだとややもっさり、3GB以上だとサクサクというのが、過去に複数の製品を試してきた筆者の印象なのだが、本製品は3GBのメモリを搭載しており、そうした意味でも合格点だ。目の疲れる液晶タブレットではなくE Ink端末が欲しい、でも汎用性がないのは困る、そう考えている人におすすめできる、ポテンシャルの高い1台だ。