山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
カラーE Ink搭載Androidタブレット「BOOX Nova3 Color」。モノクロとの違いを検証
2021年3月24日 06:55
Onyx Internationalの「BOOX Nova3 Color」は、最新のカラーE Ink電子ペーパー「E INK Kaleido Plus(カレイドプラス)」を搭載した7.8型のAndroid 10タブレットだ。KindleやKoboなど、特定の電子書籍ストアと紐づいたE Ink端末と異なり、Google Playストアからさまざまなアプリをインストールし、カラー表示で使えることが特徴だ。
カラー電子ペーパー端末が長らく待望されながらもなかなか普及しなかったのは、1つは色の再現性、もう1つは書き換え時間などの性能の問題だ。採用製品はちらほら登場するものの、テストマーケティング的な意味合いが強く、ネットで評判になることもほとんどなかった。
今回の製品は、カラーE Inkの新世代にあたる「E INK Kaleido Plus」を採用しており、従来のカラー電子ペーパー採用製品とは一線を画す完成度だ。ベースとなっているBOOXシリーズは、Android 10搭載でGoogle Playにも対応していることから、電子書籍にかぎらず、好みのAndroidアプリを自由にインストールして利用できる。
今回は、国内代理店であるSKTから借用した製品をもとに、従来のモノクロE Inkモデル「BOOX Nova 3」と比較しつつレビューをお届けする。
従来モデルの筐体に新世代のカラーE Inkを搭載
まずは本製品のモノクロ版に相当する「BOOX Nova 3(以下従来モデル)」とスペックを比較する。なおソフトウェアは2021年3月20日時点の最新版を使用している(一部スクリーンショットのみ例外あり)。
BOOX Nova3 Color | BOOX Nova3 | |
---|---|---|
CPU | Qualcomm 8コア(Cortex-A72 + Cortex-A55) | Qualcomm 8コア(Cortex-A72 + Cortex-A55) |
メモリ | 3GB(LPDDR4X) | 3GB(LPDDR4X) |
ROM | 32GB(eMMC) | 32GB(eMMC) |
ディスプレイ | 7.8型ニューカレイドスクリーン(カレイドプラス、4,096色) | 7.8型E Ink Cartaフレキシブルスクリーン |
解像度 | 468×624(100dpi カラー) 1,404×1,872(300dpi 白黒) | 1,872×1,404(300 dpi) |
ライト | フロントライト(寒色) | フロントライト(寒色および暖色) |
ネットワーク | Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac) 2.4G + 5G | Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac) 2.4G + 5G |
Bluetooth | BT 5.0 | BT 5.0 |
バッテリ | 3,150mAhリチウムポリマーイオン電池 | 3,150mAhリチウムポリマーイオン電池 |
拡張端子 | USB Type-C(OTGサポート) | USB Type-C(OTGサポート) |
スピーカー | あり | あり |
マイク | あり | あり |
OS | Android 10 | Android 10 |
寸法(幅×奥行き×高さ) | 197.3×137×7.7mm | 197.3×137×7.7mm |
重量 | 265g | 265g |
7.8型のタッチスクリーンを備えた外観は、従来モデルとまったく同じ。画面下の「戻る」ボタンやUSB Type-Cポート、および本体上部の電源ボタンなど、見た目はまったく区別がつかない。Wi-FiやBluetooth、バッテリまわりのスペックも同等だ。
フロントライトは、従来モデルは2種類の色(暖色/寒色)が搭載されていたが、本製品は寒色のみ。明るさの調整は画面上ステータスバーから呼び出せるスライダーのほか、ジェスチャー機能を有効にすれば画面右端の上下スライド操作でも行なえる。詳しくは後述する。
重量は従来と同じく265g。実測値では269g→274gとわずかに増えているのだが、サイズがほぼ同じiPad mini(約300g)と比べて1割ほど軽量であることに変わりはない。
実売価格は5万1,800円で、iPad miniの64GBモデル(5万380円)とはほぼ同額。デバイスとしての性格は異なるが、画面サイズがほぼ等しいため、比較対象になることは多いだろう。ちなみに手書き用途であれば、Apple Pencilが別売のiPad miniよりも、本製品のほうが圧倒的に安価とも言える。
セットアップは、最初に電源まわりとスタイラスの設定を行ない、ホーム画面を表示させたあとで必要に応じてWi-Fi設定、およびGoogleログインの設定を行なうという、素のAndroidのそれとはかなり異なる手順だ。前回紹介したモノクロ大画面版の「BOOX Max Lumi」とほぼ同じなので、そちらを参照してほしい。
モノクロ300ppi、カラー100ppiはどのように表示されるのか
本製品が採用するカラーE Inkこと「E INK Kaleido Plus」は、第3世代のカラー対応E Ink電子ペーパーで、4,096色のカラー表示に対応している。同社では従来の「E INK Kaleido」と比べて色域が3倍広がったとしている。まずはざっと特性をチェックしよう。
E Inkがカラーになったと言っても、特徴は従来のモノクロE Inkと変わらない。具体的には紙のような見た目や質感、視野角の広さ、スタンバイモードで約40日持つ低消費電力などが挙げられる。バックライトではなくフロントライトを採用するため目に優しく疲れにくいのも、従来と同様だ。
さて、この「E INK Kaleido Plus」でおもしろいのは、モノクロ部分が300ppi、カラー部分が100ppiと、異なる解像度が混在していることだ(それぞれが異なるレイヤー層で表示されている)。たとえばカラーのコミックを表示した場合、輪郭線や吹き出し、セリフなどは従来のモノクロE Inkと同等の表現力で、そこに色が乗る格好になる。
こうしたことから、カラーの解像度自体は低くても、表示のシャープさは、従来のモノクロE Inkと(ほぼ)変わらない。ページ内に色が1箇所でもあるからと言って、ページごと100ppiにダウンスケール表示されるわけではない。また古い世代のカラー電子ペーパーのように、カラーを表示するのに複数回にわたって書き換えを行なうこともない。
一方で、黒い文字であっても、その周囲が色で塗りつぶされていると、極端に見づらいことがある。E Inkの図解を見ると、1枚のパネルのなかで、白黒を表現するマイクロカプセル層の上にカラーフィルタアレイが乗っているので、黒が黒のまま見えるのを、カラー層が遮っていると見られる。
このほか書き替えのたびに発生する残像や、それをクリアするためのリフレッシュが必要になるという、E Inkの欠点にあたる特性もそのままで、スクロールや動画再生など、絶え間なく描き替わるコンテンツの表示には向いていない。これらが読書にどのような影響を与えるかは、本製品特有の発色と併せて、このあとじっくり見ていく。
色合いに過剰な期待は禁物
実際に電子書籍ユースで使ってみよう。以下電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。
また今回はカラーということで、新たに「ニブンノイクジ 1巻」についても、うめ氏より許諾を得て借用している。電子書籍アプリは原則Kindleを使用している。
画面構成は従来と同様で、書庫/ストア/ノート/保管庫/アプリ/設定という6つのカテゴリのアイコンが画面左に縦に並んで配置され、選択したカテゴリが画面右に表示される仕組みだ。ホーム画面として表示する画面は、これら6つのカテゴリから自由に選べる。
従来のモノクロE Inkモデルは、カラー表示を前提に設計されたアプリをモノクロで表示するため、アプリごとにさまざまな最適化機能を用意していた。本製品もそれらチューニング機能はほぼそのまま踏襲している。一部の画面には、カラー向けに新しい項目が追加されている。
そのカラーE Inkこと「E INK Kaleido Plus」は、従来と比べ、全体的に白く曇りがちだった色調は大幅に改善されている。離れたところから見ても色がついているときちんと認識できるし、視野角も120度と広い。レスポンスも高速で、カラーになったからと言ってページめくりがもっさりしていることもない。
もっとも、実際の以下の写真ではじめて「E INK Kaleido Plus」を見た人は「えっ、これで色調が改善されたレベルなの!?」と驚くかもしれない。実際のところ「カラーE Inkにしては鮮やか」というだけで、液晶や有機ELの発色と比較できるレベルではない。かつてのSTN液晶に近いと言えば、一部の人には伝わりやすいかもしれない。
その一方で、従来はモノクロ表示のせいで見づらかったWebページのボタンや境界線が、カラー化によって識別しやすくなったケースはあちこちに見られる。発色では分が悪くとも、こうした表現力の差は圧倒的だ。なぜモノクロではなくカラーが必要かと問われた場合に、有力な答えの1つとなるだろう。
むしろ問題となるのは「残像」
もっとも、ディスプレイコントロールおよびフロントライトの光量である程度調整できる「発色」よりも、電子書籍ユースについてはむしろ「残像」のほうがクリティカルな問題だ。
数ページごとのリフレッシュで済むモノクロE Ink(Carta)と異なり、本製品の「Kaleido Plus」は、毎ページごとにリフレッシュしたくなるほど残像が目立つ。ページめくり時の挙動は電子書籍アプリによっても若干違うが、残像のわずらわしさはおおむね同様だ。
ではどうすればよいか。手っ取り早いのは、実際に毎ページごとにリフレッシュが実行されるよう、設定を変更してしまうことだ。たとえば全ページがカラーのコミックでは、以下のように設定することで、残像をほぼゼロにして読むことができる。
- 本体側のリフレッシュを「ノーマルモード」に設定
- アプリ個別の最適化設定でもリフレッシュを「ノーマルモード」に設定
- リフレッシュの値を「1」に設定
残像を完全にゼロにできないのが悩ましいのだが、試したかぎりではこの方法が現時点ではもっともマシなようだ(リフレッシュ設定は本来アプリ側が優先されるはずなので、挙動としては矛盾しており、将来的に変更になる可能性はある)。
ただしこの設定では毎ページごとに画面がリフレッシュされるため、動きはかなり目障りで、かつページ遷移に時間がかかる。またモノクロのコンテンツではここまで頻繁なリフレッシュは必要ないので(後述)、逆にわずらわしく感じることもある。
こうしたことから、この設定を使うのは全ページがカラーのコンテンツのみに限定し、モノクロ主体のコンテンツはがまんしてそのまま使い、必要に応じて手動リフレッシュを行なうのが現実的だろう。写真集など、白黒ページとカラーページが交互に表示されるコンテンツも、ページをめくるだけで残像がほぼ解消されるので、こうした設定は必要ない。
これらコンテンツごとのリフレッシュの有無と頻度は、正解が1つならばまだしも、ユーザーの好みにも依存するので、デバイス側で推奨設定を用意するのは今後も難しいだろう。ユーザー自身が自分にとっての最適解をプロファイルとして保存し、ワンタッチで切り替えられるようになれば、かなり使いやすくなるのではないかと思う。
ちなみにモノクロ部分に限れば、本製品は従来のモノクロE Inkよりも残像が目立ちにくい。速度についてもとくに差は見られず、むしろページの空振りが起こりにくい傾向があるなど、反応は良好だ。
ただし画質については、解像度は同じ300ppiながら、カラーフィルタアレイらしき走査線が見えるせいで、従来のモノクロE Inkよりも粗く感じられる。モノクロページばかりのコンテンツを読むならば、本製品よりもむしろ従来のモノクロE Inkを選んだほうが快適かもしれない。
本製品を快適に使うためのTipsいろいろ
本製品を購入した人、これから手に取る予定がある人向けに、10日ほど使って気づいた操作のコツをまとめておく。
本製品を利用するにあたって、まず極めたいのがナビボールの利用だ。ナビボールとは、画面の右下に表示される、タップすることでさまざまなコンテクストメニューを表示できるナビゲーション用のメニューだ。
活用したい機能はおもに3つ。1つは上から2つ目、画面をリフレッシュするボタン。これは前述の、E Inkの残像を解消するために用いる。余談だが、リフレッシュ完了後ボタンは表示されたままになるため、ナビボール自体の残像が残るのはいただけない。リフレッシュ完了後に自動的に非表示になるよう挙動を変更してほしいものだ。
またその次、3つ目のボタンからは、アプリ最適化のメニューが呼び出せる。前述のリフレッシュ方式の切り替えのほか、背景の希薄化など行なえる。ちなみに画面上ステータスバーから呼び出せる「最適化」と違い、ここでの「最適化」はアプリ単体に適用される。
もう1つ、下から3つ目には、画面を1ページずつ上下スクロールさせるメニューが用意されている。これを使えば、Webページのように縦に長いページを、ページをめくるように表示できるので、残像を最小限に抑えつつ、ページを閲覧できる。電子書籍のライブラリの検索や、ストアのランキングを見る場合に便利だ。
これに加えて、このナビボール自体、ダブルタップをすることで、ホームボタンと同じ役割を果たす。画面の下にあるハードウェアボタンはデフォルトの「戻る」のまま固定しておき、ホームに戻りたい場合はこのナビボールのダブルタップで戻るようにしたほうが効率的だ。
また本製品は(従来モデルもそうだが)、電源オフの状態からの起動には、30秒近く時間がかかるため、電源は完全にオフにせず、スリープモードで運用したほうが、ストレスなく利用できる。もちろんそうなるとバッテリの消費が速くなるが、それでも数日は持つので、あとは使い方とのバランス次第だ。
最後に、画面端の上下スライドによる明るさ調整も要チェックだ。Koboに酷似したこの機能、クイック設定パネルを開いて左右スライダで明るさを調整するよりも手軽なので、活用したいところ。ただし割当先が画面右端のせいでスクロールと操作がバッティングすることがあり、割当を左側に変更するなどのカスタマイズ機能がほしい。
ノート機能はカラーに対応するも若干マイナスも
最後に、本製品のもう1つの大きな機能である、付属のスタイラスを使ったノート機能にも触れておこう。
ノート機能としては、ひととおりの機能がそろっている。ペン先が数種類、太さもスライダーで自由に調整でき、扱えるカラーの数も増えている。また消しゴム機能や、範囲選択からの移動や拡大縮小、さらには(日本語には対応していないが)テキストへの変換機能なども備えている。さらに新機能のボイスメモ機能も用意されている。
本製品の最大の利点は、書き込んだカラーが画面上で確認できることだが、やや困りものなのは、従来モデルには搭載されていた「RD(赤)」、「GN(緑)」、「BU(青)」という色がパレットから姿を消し、淡い色ばかりに改められてしまったことだ。
これは赤・緑・青といった原色系の色が、画面上での色の再現性が低いことが理由ではないかと推測されるが、新しく追加された色も、画面上で注意深く見ないと、色がついていることに気づかない場合すらある。ちなみに赤にもっとも近い色は、画面上ではほぼ茶色で表示される。
そのため、画面上ではモノクロでも、エクスポートして別のデバイスで表示すれば赤・緑・青がはっきり表示できた従来よりも、本製品のほうが制限がつく。画面上で色を判別するには、なるべく色が識別しやすいよう、線は太めに、フロントライトは強めにするなどの工夫が必要だろう。
なお本製品はパームリジェクションに対応しており、画面に手を載せた状態での筆記も問題なく行なえるが、画面の右下に配置されているナビボールは、ノートでの手書き中に何かと反応しがちだ。ノート機能を使うときは、ナビボールを右端に隠すか、ドラッグして左側に移すなどの対策をしておいたほうが快適に使える。
万人向けではないがカラーE Ink端末の1つの完成形
以上のように、本製品は、カラーE Ink端末の1つの完成形と言っていい製品だ。実用レベルに達していない過去のカラー電子ペーパー端末と比べると、よくぞここまで来たものだと感慨深く感じる。それでいて実売価格が5万円強と、モノクロE Inkと比較して極端に値段が上がっていないのも好印象だ。
ただしこれが万人向けの製品かというと、これは明確に「No」だ。世代を重ねてある程度完成されてから日本に上陸したKindle Paperwhiteですら、E Inkにはじめて触れるユーザーからは動作速度や白黒反転の挙動など、否定的な評価は少なくなかった。本製品も一般ユーザーから見ると、そうした評価は避けられないだろう。
「いやいや、実用レベルのカラーE Ink端末が出てきただけで画期的だよ」という意見はあるだろうし、筆者も個人的にもそう思うが、それはテクノロジ側の事情を斟酌した視点で、一般ユーザーはそうは考えないだろう。「カラーE Inkってどうですか」という質問に対しては、過剰な期待をもたせるのではなく、デメリットもしっかり説明すべきだ。
ただしひととおりの特性を知った上で、カラーE Inkならではの利点に魅力を感じるならば、一定の完成形としておすすめできる製品だ。一般的に、最新技術を搭載したデバイスでは、本体サイズや重量、動作速度など別の部分が割を食うことがあるが、本製品はそうした問題もない。当たり前すぎて見逃されがちだが、これは特筆すべきことだろう。
なお現時点で、このE INK Kaleido Plusで量産工程に乗っているパネルサイズは7.8型のみということで、さらなる大画面版が出てくるのは、仮にあったとしても、かなり先になるだろう。購入するか否かを考える場合、そうした状況も頭に入れておいたほうがよさそうだ。