山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

5万円以下で買えるNECの11型Androidタブレット「T1175/BAS」で電子書籍を試す

NEC PCの「T1175/BAS」。実売価格は4万7,080円

 NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の「T1175/BAS」は、11型のAndroid 10タブレットだ。薄型軽量のボディにミドルクラスの性能を備えつつ、5万円以下で購入できることが特徴だ。

 最近は10型前後のAndroidタブレットは選択肢が少なくなりつつあるが、そのなかで本製品はミドルクラスとして貴重な製品だ。Snapdragon 730G/メモリ6GBの上位モデル「T1195/BAS」は6万円台半ばとかなりのお値段だが、Snapdragon 662/メモリ4GBの本製品は価格も手頃で、かつマグネットで吸着できる専用キーボードなど汎用性も高い。

 今回はメーカーから実機を借用したので、前回紹介したFFF SMART LIFE CONNECTEDの「FFF-TAB10H」やAmazonの「Fire HD 10」と比較しつつ、電子書籍ユースでの使い勝手を紹介する。一般的な用途については、すでに西川氏による以下のレビューが掲載されているので、そちらを参照していただきたい。

ルックスは「iPad Air 4」似。やや横長の画面が特徴

 まずは競合製品と比べてみよう。ほぼ同時期に発表されたFFF-TAB10Hのほか、Fire HD 10とスペックを比較する。

【表】T1175/BASのスペック比較
T1175/BASFFF-TAB10HFire HD 10(第9世代)
発売元NECパーソナルコンピュータFFF SMART LIFE CONNECTEDAmazon
発売2021年3月2021年2月2019年10月
サイズ(幅×奥行き×高さ)258.4×163×7.5mm253×163×8.2mm262×159×9.8mm
重量490g555g504g
OSAndroid 10Android 10Fire OS 7(Android 9ベース)
SoCQualcomm Snapdragon 662(オクタコア)MediaTek MT8788(オクタコア)MediaTek MT8183(オクタコア)
CPUCortex A73(2GHz)×4+A53(1,8GHz)×4Cortex A73(2GHz)×4+A53(1.8GHz)×4Cortex A73(2GHz)×4+A53(2GHz)×4
GPUAdreno 610Arm Mali-G72 MP3Arm Mali-G72 MP3
メモリ4GB6GB2GB
ストレージ128GB128GB32GB/64GB
画面サイズ/解像度11型/2,000×1,200ドット (212ppi)10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi)10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi)
通信方式Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)Wi-Fi 5Wi-Fi 5
BluetoothBluetooth 5.1Bluetooth 4.1Bluetooth 4.2 LE
バッテリ持続時間(メーカー公称値)13.6時間11時間12時間
スピーカー4基1基2基
インターフェイスUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
microSDカードスロット○(最大256GB)○(最大128GB)○(最大512GB)
価格(発売時)4万7,080円4万7,800円(初回のみ3万9,800円)1万5,980円(32GB)/1万9,980円(64GB)

 前回のFFF-TAB10HとFire HD 10は、CPU周りのスペックは近いものの、メモリ容量は前者が6GB、後者が2GBと大きな差があった。本製品はその中間、4GBのメモリを搭載しつつ、USB Type-C対応、さらにはBluetooth 5.1対応と、やや新しめの規格を採用している。CPU周りについてはのちほどベンチマークでチェックする。

 画面は11型2,000×1,200ドットというめずらしい解像度で、アスペクト比だと前回の2製品(1,920×1,200ドット)よりもわずかに横長だ。電子書籍ユースでは横方向に画面が伸びたところでとくにプラスにならないが、動画視聴などでは有利だろう。

 490gという重量は、ほかの2製品に比べると軽量だが、これはほかの2製品が重過ぎるだけで、画面がやや大きめの11型であることを考えると「わずかに軽い」という程度。一方で7.5mmという薄さは、上位モデル「T1195/BAS」の5.8mmにはおよばないが、Androidタブレットとしては十分にスリムな部類だ。

 ほかの2製品との大きな違いとして、顔認証に対応していることが挙げられる。できれば指紋認証にも対応していてほしかったが、そもそも生体認証が用意されていないほかの2製品に比べるとプラスだろう。このほか防塵防水に対応(IP5X/IPX2)しているのも利点だ。

 ちなみに本稿では同等サイズのAndroidタブレットと比較しているが、実際には本製品がライバルと想定しているのは、画面サイズが同じ11型の「iPad Pro」、および10.9型の「iPad Air 4」だろう。事実、マグネットで吸着するオプションのキーボードなどもあわせて、近い使い方が可能だ。

カメラが長辺側にあるなど、筐体デザインは横向きを前提としている
上下左右のベゼル幅が等しいため縦向きでの利用も違和感はない
Fire HD 10(右)との比較。画面は本製品のほうがひとまわり大きい
iPad Air 4(右)との比較。アスペクト比の関係で本製品のほうが縦長だ
厚みの比較。左はいずれも本製品、右上がFire HD 10、右下がiPad Air 4。6.1mmのiPad Air 4にこそ負けるが、十分に薄型と言える部類だ
重量は実測489g
背面。横置きを前提としたデザインであることがわかる
顔認証を搭載するのは競合製品と比べた場合にプラスだ。ちなみに認証時は顔を若干左右に振ってやる必要がある

スタイリッシュなボディ。スクロールも快適

 本製品を手に取ったときにまず感じるのが、ボディのスタイリッシュさだ。iPad Air 4に似た薄さと軽さで、電源ボタンが左側面上、音量ボタンが上面左という配置や、背面カメラの突出具合もiPad Air 4にひじょうに近い。

 この薄さのせいか、実測489gのわりに軽く感じるのがおもしろい。体感的には400g台前半と言われても信じかねないほどだ。

 ベゼルの幅はiPad Air 4ほどスリムではないが、上下左右ともに均等で、縦向きでの利用も違和感はない。スピーカーは本体を横向きにしたときに、左右それぞれの側面に上下2カ所ずつ並ぶ配置で、縦横どちらの向きでもステレオ再生になるのは大きなメリットだ。

背面にシングルカメラ、さらに上面に音量ボタン、側面に電源ボタンという配置は、iPad Air 4のそれとそっくりだ。なお、上面の反対側にはmicoSDカードスロットもある
ベゼル幅は実測で上下左右ともに10mm
両側面にそれぞれスピーカーを搭載する。ポートはUSB Type-C
底面には専用キーボードをマグネットで吸着させるための端子がある

 セットアップ手順は、ユーザーの年齢(18歳以上または13歳以上/13歳未満)を尋ねてくることを除けば、Android標準のそれで、余分なフローもない。一方でホーム画面は、中央にウィジェットが配置されていたりと、やや独自要素が多い。

 プリインストールアプリは、Google標準アプリ以外にも、多数のアプリが用意されている。1画面に収まりきらないほどで、シンプルさを理想とするユーザーにとっては、やや目障りに感じるかもしれない。Netflixなどアンインストールに対応しないアプリもあるので要注意だ。

ホーム画面。中央にニュース/天気/カレンダーを切り替えられるウィジェットがある
プリインストールアプリ。この上に3行ほど隠れており、アプリ数はかなり多い。電子書籍関連ではGoogle Playブックスがインストールされている
デフォルトでは3ボタンナビゲーションだが、設定画面の「システムナビゲーション」で任意のスタイルに切り替えられる

 実際に使ってみてまず感じるのは、動きのスムーズさだ。とくにスクロールは、前回紹介したFFF-TAB10Hと比べても、本製品のほうがいわゆるヌルヌル感が強く、快適に利用できる。

 ただしベンチマークの数値については、前回のFFF-TAB10Hが「1,255」、Fire HD 10が「1,152」だったのに対し、本製品は「1,188」と芳しくない。スペック的には妥当ではあるのだが、実際に触れたあとにこの値を見ると、もっと高くてもおかしくないのではと首をひねってしまう。

ベンチマークアプリ「Sling Shot Extreme」のスコア。左が本製品、右がFire HD 10。わずかに勝っているが、メモリが倍あるほどの差ではない

読書まわりの操作はスムーズ。無理な持ち方には注意

 では電子書籍ユースについて見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。電子書籍ストアは原則としてKindleを使った。

 解像度は2,000×1,200ドット(212ppi)ということで、このクラスのタブレットとしては標準的。突出して高解像度ではないが、前回のFFF-TAB10Hと同じく200ppiの大台はクリアしているので、8型で1,280×800ドットのタブレットのようなあからさまな粗さはなく、雑誌などの細かい注釈も問題なく読み取れる。

 アスペクト比は5:3。前回のFFF-TAB10HやFire HD 10よりも横に広いため、左右にできる余白も広くなるが、コミックはページの背景色が白ということもあり、余白と一体化するのであまり気にならない。ちなみにプリインストールされているGoogle Playブックスは背景色が黒なので、ベゼルと一体化してより目立たなくなる。

 ちなみに本製品は上下左右のベゼル幅が均等なので、縦向きでの雑誌やムックの表示にも適しているが、これらの多くはページの背景色が白ではないため、コミックなどと比べると上下の余白がかなり目立ってしまう。解像度的には何ら問題はないのだが、見た目はいまいちだ。

コミックを見開きで表示した状態。サイズも十分で快適に読める。ページめくりをはじめとしたレスポンスも良好
Fire HD 10(下)との比較。表示面積はほぼ同じ。余白は本製品のほうが広いが、背景色と一体化しているのでそれほど気にならない
10.9型のiPad Air 4(下)と比べると、表示サイズは本製品のほうがひとまわり小さくなる
縦向きにすると雑誌やムックも表示できるが、上下の余白はやや目立つ。また、原寸大というわけでもない
もっとも注釈の細かな文字もしっかりと読み取れるので、雑誌の表示も十分に合格点だ

 ページめくりなどのレスポンスは極めて良好。コンテンツのダウンロードもコミック1冊に数秒程度と高速で、エントリークラスのタブレットによく見られる、サムネイルが多数並んだページで読み込みを待たされることもない。前述のベンチマークの結果からはいい意味で想像できない使い勝手だ。

 またAndroidタブレットゆえ、コミックの読了後にすぐにアプリ上で続刊を購入できたり、サンプルを読み終えるとそのまま購入できるシームレスなフローも健在だ。

 音量ボタンを使ってのページめくりも行なえるが、画面を横向きにすると音量ボタンが左上にくるため、通常の持ち方では操作しづらい。一方で縦置きのときは、右手の人差し指で操作できるが、距離があるため持ち方自体を変えなくてはいけない。前回紹介したFFF-TAB10Hと同じ傾向だ。

 実際に使っていてやや気になったのが、タッチパネルがかなり敏感なことだ。普通に両手持ちで使っている場合は問題ないのだが、いわゆるパームリジェクションの効きが弱めなのか、片手持ちで深く握っていると、親指の付け根がタッチスクリーンに反応して、不意にページがめくられてしまう場合がある。

 この症状は、ベゼルが細い最近のスマホやタブレットではたまに見かけるが、iPad Air 4などは同様の持ち方でもまったく反応しないので、実際に使っていて多少気になる。寝転がっての読書など若干無理がある姿勢では、ついつい深く握ることがあるので、そのあたりは注意したい。

横向きに保持した場合、音量ボタンは左上になるため、ページめくりボタンとして使うのは厳しい
縦向きに保持した場合、右手で操作できるが、本体の上方寄りを握る必要がある
タッチスクリーンはかなり敏感で、あまりにも深く握ると不用意にページがめくられる場合がある
Google Playブックスは音量ボタンによるページめくりに加えて、対応コミックでふきだしが拡大表示されるというギミックがある

電子書籍用途への適性は高いが、価格的にはもう一押しほしい

 以上のように、ベンチマークの値こそいまいちだが、挙動はひじょうにスムーズで、Fire HD 10はもちろんのこと、メモリ容量では本製品より多いFFF-TAB10Hと比べても動きはきびきびしている。細かい点で気になる箇所がないわけではないが、その薄さ軽さもあって、電子書籍用途への適性は高い。

 ただし、一部のCATV系の動画アプリではストリーミング再生中にコマ落ちする症状が見られるなど、やや重いアプリを使うには「いっぱいいっぱい」な印象はある。一般的な動画配信サービスではとくに問題は見られなかったが、汎用性を重視してポテンシャルに余裕を持たせたければ、メモリ容量や解像度を強化した上位モデルを選ぶ手もあるだろう。

今回は未検証だが、別売のタッチパッドつきキーボードを接続することでノートPC的な使い方にも対応。スタイラスペンも利用できる
背面のキックスタンドはマグネットで吸着させ、下半分を折り曲げて立たせる構造

 そんな本製品でポイントになるのはやはり価格だろう。4万7,080円と、5万円の範囲には収まるものの、このクラスではiPadのエントリーモデル(4万9,280円/128GB)という選択肢もある。

 Androidならではのメリットを見出せるなら問題ないが、前回紹介したFFF-TAB10Hも同じ価格帯にひかえており、顔認証対応、防水防塵という強みがあるにせよ、もう一押しほしいのは事実。NEC Directでは、本製品のストレージを128GBから64GBに減らした限定モデル「TAB11/201」が4万3,780円で販売されているので、こちらを狙うのも1つの手と言えそうだ。