Hothotレビュー
超広角カメラに加えて深度スキャナまで搭載したタブレットの最高峰「iPad Pro」の実力に迫る
2020年3月24日 21:30
Appleは3月18日、iPad Proの12.9インチモデル(第4世代)と11インチモデル(第2世代)を発表、3月25日より販売を開始する。
約1年4カ月ぶりとなる新型は、プロセッサは末尾のみが変わる小規模なアップデートにとどまっているが、超広角を加えたデュアルカメラ、空間の3次元構造をスキャンする「LiDAR(ライダー)スキャナ」を搭載し、「iPadOS 13.4」で従来モデルも含めてトラックパッド、マウスに対応するなど、多くの進化を遂げている。
筆者は現在、第3世代12.9インチiPad Proを常用しているので、そのユーザー視点からレビューをお届けしたい。
新型でもっとも驚かされたのは大幅値下げ
iPad Proの2020年モデルは、通信機能(Wi-Fi/Wi-Fi+Cellular)、ストレージ容量(128GB/256GB/512GB/1TB)、カラー(スペースグレイ/シルバー)などを組み合わせた16モデルが用意されている。
今回の発表で筆者がもっとも驚いたのが価格設定。最廉価モデルが64GBから128GBに増量されている上、最廉価モデル(64GB→128GB)が5,000円/7,000円(11インチ/12.9インチ)、256GB/512GBモデルが11,000円/13,000円(同)、1TBモデルが33,000円/35,000円(同)と、上位モデルほど大幅値下げされているのだ。
たとえば12.9インチのWi-Fi+Cellular版で新旧モデルを比較すると、最廉価モデル(64GB→128GB)と1TBモデルの価格差は83,000円から55,000円へと圧縮されている。リセールバリューを考慮すれば最上位モデルのお買い得感は非常に高い。正直、2018年モデルを購入したことをちょっと後悔するぐらいの価格設定だ。
【表1】iPad Proの世代別一覧 | ||
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世代 | 製品名 | 発売日 |
第1世代 | 12.9インチ iPad Pro | 2015年11月発売 |
第1世代 | 9.7インチ iPad Pro | 2016年3月31日発売 |
第2世代 | 12.9インチ iPad Pro | 2017年6月13日発売 |
第1世代 | 10.5インチ iPad Pro | 2017年6月13日発売 |
第3世代 | 12.9インチ iPad Pro | 2018年11月7日発売 |
第1世代 | 11インチ iPad Pro | 2018年11月7日発売 |
第4世代 | 12.9インチ iPad Pro | 2020年3月27日発売 |
第2世代 | 11インチ iPad Pro | 2020年3月27日発売 |
【表2】iPad Proのモデル別直販価格一覧 | ||||
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2018年モデル | 2020年モデル | |||
Wi-Fi | Wi-Fi+Cellular | Wi-Fi | Wi-Fi+Cellular | |
11インチ/64GB | 89,800円 | 106,800円 | - | - |
11インチ/128GB | - | - | 84,800円 | 101,800円 |
11インチ/256GB | 106,800円 | 123,800円 | 95,800円 | 112,800円 |
11インチ/512GB | 128,800円 | 145,800円 | 117,800円 | 134,800円 |
11インチ/1TB | 172,800円 | 189,800円 | 139,800円 | 156,800円 |
12.9インチ/64GB | 111,800円 | 128,800円 | - | - |
12.9インチ/128GB | - | - | 104,800円 | 121,800円 |
12.9インチ/256GB | 128,800円 | 145,800円 | 115,800円 | 132,800円 |
12.9インチ/512GB | 150,800円 | 167,800円 | 137,800円 | 154,800円 |
12.9インチ/1TB | 194,800円 | 211,800円 | 159,800円 | 176,800円 |
新型キーボードカバー「Magic Keyboard」は第3世代iPad Proにも対応
iPad Pro 2020年モデルのおもな進化点は下記の5つ。
- プロセッサをA12X Bionicから、A12Z Bionicにアップグレード
- カメラを1,200万画素広角から、1,200万画素広角+1,000万画素超広角に変更
- 深度スキャナ「LiDARスキャナ」の追加
- 無線LANをWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)からWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に高速化
- LTEのバンド数を最大29バンドから最大30バンドに増加
なお、iPad Pro 2020年モデルと同時に、トラックパッドを搭載した新型キーボードカバー「Magic Keyboard」(12.9インチ用37,800円、11インチ用31,800円)が発表されており、5月に発売される予定だが、これはiPad Pro 2018年モデルでも使用できる。また、「iPadOS 13.4」でトラックパッドやマウスに対応するが、こちらはアップデートを適用可能なすべてのiPadで利用可能だ。
今回はMagic Keyboardを借用できなかったが、トラックパッドの搭載、1mmのシザー構造キーの採用、バックライト内蔵、パススルー充電できるUSB Type-Cポートを装備、無段階に角度調整できるヒンジ機構と、Smart Keyboard Folioとはまったくの別物と言えるほどの進化を遂げている。キーボードカバーを購入するならMagic Keyboardの発売を待つべきだ。
CPU、Neural Engineに変更なし、GPUは1コア増えて8コアに
それでは基本スペックを順番にチェックしていこう。プロセッサは前述のとおり、A12Z Bionicが採用されている。2018年モデルのA12X Bionicと数字が同じで末尾だけが変わっていることからわかるとおり、大きな変更はない。CPUは高性能コア×4基、省電力コア×4基を合わせて計8コア、マシンラーニング用SoC「Neural Engine」、「組み込み型M12コプロセッサ」はそのまま搭載している。
大きく異なっているのはGPUが7コアから8コアに増やされていること。また、「高度な熱設計と調整されたパフォーマンスコントローラ」が実装されているとのことだ。GPUコアが増えたぶんグラフィックス性能の向上が期待されるが、この点についてはベンチマークの章で確認したい。
メモリは例によって公表されていないが、今回借用した12.9インチiPad Proの1TBモデルをベンチマークのシステム情報で確認したところ、6GBが搭載されていた。128GB、256GB、512GBモデルのメモリ容量は今回の記事では確定できないが、少なくとも1TBモデルは前回と同じ容量のメモリを搭載していることになる。
ストレージは前述のとおり、128GB、256GB、512GB、1TBの4種類を用意。「Pro」で64GBはさすがに厳しいので、最廉価モデルのストレージが128GBに増量されたことは歓迎したい。
カメラは、背面に広角(1,200万画素、f/1.8)、超広角(1,000万画素、f/2.4、視野角125度)のデュアル構成となり、前面には「TrueDepthカメラ」(700万画素、f/2.2)を引き続き搭載。また具体的なスペックは公表されていないが、背面フラッシュ「True Toneフラッシュ」がより明るくなっている。
背面カメラ部分に新搭載されたLiDARスキャナは、最大5m離れたオブジェクトも認識可能な深度スキャナ。iOS端末は通常のカメラだけでも「ARKit」で拡張現実を実現しているが、LiDARスキャナを搭載したiPad Proは、さらに広く、速く、正確に計測が可能となる。
今後、身体機能評価ツール「Complete Anatomy」、家具配置アプリ「IKEA Place」、AR¬アドベンチャーゲーム「Hot Lava」、モバイルCADアプリ「Shapr:3DモデリングCAD」などで、LiDARスキャナが活用されるとのことだ。
ディスプレイは2018年モデルと同様に角丸加工された「Liquid Retinaディスプレイ」が採用されており、解像度は12.9インチが2,732×2,048ドット(264ppi)、11インチが2,388×1,668ドット(264ppi)。600cd/平方mの輝度、最大120Hzの可変リフレッシュレート「ProMotionテクノロジー」、P3の広色域、環境光に応じて同じ色に見えるように調整する「True Tone」などはそのまま継承している。4スピーカーオーディオ、5つのマイクを搭載している点も同一だ。
通信機能についてはBluetooth 5.0で同じだが、LTEの対応バンドが最大29バンドから最大30バンドに増えて、無線LANがWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)からWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に高速化されている。5Gサービスがスタートするのとほぼ同時に発売されるタブレットが5G非対応なのは残念。Apple初の5G端末になると予想される次期iPhoneを楽しみに待ちたい。
本体サイズ・重量は12.9インチモデルが214.9×280.6×5.9mm(幅×奥行き×高さ)・641g(Wi-Fi)/643g(Wi-Fi+Cellular)、11インチモデルが178.5×247.6×5.9mm(同)・471g(Wi-Fi)/473 g(Wi-Fi+Cellular)。なお、サイズは2018年モデルと同じだが、重量は12.9インチモデルが10g、11インチモデルが3~5gとわずかに増えている。
インターフェイスはUSB Type-C、キーボードカバーと接続するための「Smart Connector」を装備。SIMはNano SIMカード(Apple SIM対応)とeSIMをサポートする。
第3世代iPad Proユーザーにも魅力的なMagic Keyboard
今回AppleからMagic Keyboardの代わりにトラックパッド「Magic Trackpad 2」が送られてきたので、変則的なレビューとなるがMagic Keyboardの使い勝手を想像してみよう。
まず最大の特徴であるトラックパッドだが、間違いなくiPad Proの生産性を上げてくれる。3本指で上にスワイプするとアプリをサムネイル表示するAppスイッチャーが表示され、すばやくアプリを切り替えられる。アプリを全画面表示しているときに3本指で左右にスワイプすれば、起動した順番でアプリを行き来可能。どちらの操作もタッチパネルで可能だが、手の移動量を考えるとMagic Keyboardのトラックパッドのほうが効率的だ。
シザー構造となったキーは、多くの人にとってなじみのある感触となっていることが予想される。Magic Keyboardの1mmのキーストロークはやや浅い。しかしキーストロークだけが打鍵感、打鍵音を決めるわけではないので、どのようなフィーリングになっているのか楽しみに待ちたい。なお、バックライトが重宝する装備であることは言うまでもない。
個人的にもっとも歓迎しているのが、「フローティングカンチレバー」によって見やすい角度に画面を調整できること。筆者はSmart Keyboard Folioの打鍵感よりも、角度を2段階にしか調整できないことのほうが不満だった。いまSmart Keyboard Folioを使っているが、Magic Keyboardはできるだけ早く購入する予定だ。
もっとも大きな性能向上を体感できるのは無線LAN
今回第4世代の12.9インチiPad Proのベンチマークを実施するにあたっては、第3世代を比較対象機種として使用した。条件をそろえるために第3世代もいったん初期化して、同じ設定を施している。
ただしベンチマークを実施した時期の都合上、第4世代と第3世代のOSのバージョンは異なっている。また第3世代のiPad Proは、発売日に購入して約1年4カ月日常的に利用してきたので、バッテリが経年劣化している。その点を踏まえて、バッテリベンチマークはご覧いただきたい。
今回実施したベンチマークは、総合ベンチマーク「AnTuTu Benchmark」、CPU/GPUベンチマーク「Geekbench 5」、グラフィックスベンチマーク「Basemark Metal Free」、「iMovie」で約5分の4K動画を書き出し、「iPerf 3」で無線LANのダウンロード速度を計測、最大輝度/輝度50%でYouTube動画を連続再生したさいのバッテリ駆動時間となる。下記が検証機の仕様とその結果だ。
12.9インチiPad Pro(第4世代) | 12.9インチiPad Pro(第3世代) | |
---|---|---|
CPU | A12Z Bionic | A12X Bionic |
メモリ | 6GB | |
ストレージ | 1TB | |
ディスプレイ解像度 | 2,732×2,048ドット | |
OS | iOS 13.4 | iOS 13.3.1 |
12.9インチiPad Pro(第4世代) | 12.9インチiPad Pro(第3世代) | |
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AnTuTu Benchmark | ||
Total | 768,816 | 758,102 |
CPU | 185,154 | 188,192 |
GPU | 376,918 | 357,056 |
MEM | 129,037 | 134,640 |
UX | 77,707 | 78,214 |
Geekbench 5 | ||
Single-Core Score | 1,118 | 1,120 |
Multi-Core Score | 4,695 | 4,699 |
Compute | 10,135 | 9,252 |
Basemark Metal Free | ||
Overall | 5,830 | 5,742 |
Lightning | 80 | 80 |
Compute | 88 | 90 |
Instancing | 98 | 100 |
Post-Processing | 83 | 83 |
iMovie | ||
5分11秒の4K動画を書き出し | 2分55秒59 | 2分55秒22 |
無線LANの通信速度 | ||
iPerf 3でダウンロード速度を計測 | 789Mbps | 570Mbps |
バッテリ駆動時間 | ||
最大輝度でYouTube動画を再生 | 4時間41分1秒 | 4時間4分31秒 |
輝度50%でYouTube動画を再生 | 13時間9分26秒 | 11時間46分6秒 |
※AnTuTu、Geekbench 5、Basemark、iPerf 3は3回計測したなかでもっともよかったスコアを採用
※12.9インチiPad Pro(第3世代)のバッテリは約1年4カ月使用してバッテリが劣化している
まずCPU性能を見てみよう。AnTuTu Benchmarkの「CPU」で第4世代は第3世代の約101%に相当する「768,816」、Geekbench 5の「Multi-Core Score」で約100%に相当する「4,695」というスコアを記録している。やはりCPU性能はA12Z BionicとA12X Bionicで大きな差はないようだ。
GPU性能については、AnTuTu Benchmarkの「GPU」で第4世代は第3世代の約106%に相当する「376,918」、Geekbench 5の「Compute(Metal Score)」で約110%に相当する「10,135」というスコアを記録している。GPUコアが7コアから8コアに増えたことで、GPU性能が着実に底上げされていることがわかる。
しかし、その一方で同じくグラフィックスベンチマークのBasemark Metal Freeでは、なぜかスコアに差が見られない。この結果だけを見ると、増えたGPUコアをまるで使っていないかのようだ。
iMovieでの4K動画書き出しについては誤差以上の差は見られなかった。iMovieは動画の書き出しにGPUコアを使っていないのだと思われる。
今回もっとも性能が向上したのが無線LANの速度。バッファローのWi-Fi 6対応無線LANルーター「WXR-5950AX12」に、Thunderbolt 3対応10GbE有線LANアダプタ「SANLink3 T1」経由で接続した「16インチMacBook Pro」で、「iPerf 3」をサーバーモードで実行して無線LANのダウンロード速度を計測したが、Wi-Fi 6対応の第4世代はWi-Fi 5対応の第3世代の約138%に相当する「789Mbps」というスコアを記録した。動画視聴やストリーミング音楽にはオーバースペックだが、オンラインストレージから大容量データをダウンロードするさいなどに効果を発揮するはずだ。
第4世代のバッテリ駆動時間については最大輝度でYouTube動画を再生した場合は4時間41分1秒、約50%の輝度では13時間9分26秒という結果だった。バッテリ駆動時間についてはおおむねスペックどおりの結果と言える。
なおAnTuTu Benchmark実行時の本体前面の温度を計測してみたが、第4世代が最大36.4℃、第3世代が36.8℃と後者のほうがわずかに高かった。これが第4世代に施された「高度な熱設計と調整されたパフォーマンスコントローラ」によるものだとしたら微妙すぎる差だが、少なくともGPUコアが増えたことによって極端に発熱が増えていないことは確認できた。
最高峰のタブレット端末としてさらに進化したことは間違いなし
率直に言って今回の新モデルは、第3世代の12.9インチiPad Pro、第1世代の11インチiPad Proを所有しているユーザーが買い換えるほどの決定的な魅力には欠けている。ハードウェア的には超広角カメラが追加されたことと、LiDARスキャナが新搭載されたことが大きなトピックだが、撮影するならiPadよりもiPhoneのほうが手軽だし、iPadによる拡張現実用途はクリエイターには求められていても一般ユーザーにはあまり響かない機能だと思う。
しかし、機能が強化されて最大35,000円の値下げというのは大きなインパクトがある。また、トラックパッド、マウスに対応したことでノートPC的な使い勝手が大幅に向上したことは間違いない。無印やmini、AirなどのiPadを使っている方だけでなく、Windows搭載2in1 PCをいま活用している方にとっても、最高峰のタブレット端末としてさらに魅力を増したはずだ。