山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
高速化&USB Type-C対応になった「Amazon Fire HD 10(第9世代)」
2019年11月5日 11:00
「Fire HD 10(第9世代)」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonのデジタルコンテンツ向けの10.1型タブレットだ。同社のFireシリーズのなかでは、もっとも画面サイズの大きい製品で、フルHD解像度でありながら32GBモデルが15,980円と、リーズナブルな価格設定が特徴だ。
おおむね1~2年の間隔で定期的にモデルチェンジが行なわれているFireシリーズだが、このFire HD 10は今回が約2年ぶりのリニューアルとなる。前回は64bit化とフルHD化、また外観も一新されるなど文字どおりのフルモデルチェンジで、価格が1万円以上引き下げられて2万円以下で入手可能になったこともあり、ネットでの露出も飛躍的に伸びた。
今回の新モデルは、外観は従来モデルとほぼ同一ということで、いわばマイナーチェンジモデルに相当するが、それだけに従来モデルと比べて、性能および機能にどのような違いがあるのかは気になるところ。今回は筆者が購入した32GBモデルを、従来モデルと比較しつつレビューする。
CPUまわりの強化がメイン。安かった価格はさらに引き下げ
まずは先代のモデルとの比較から。
Fire HD 10(第9世代) | Fire HD 10(第7世代) | Fire HD 10(第5世代) | |
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発売 | 2019年10月 | 2017年10月 | 2015年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 262×159×9.8mm | 262×159×9.8mm | 262×159×7.7mm |
重量 | 504g | 500g | 432g |
SoC | MediaTek MT8183(64ビットオクタコア) | MediaTek MT8173(64ビットクアッドコア) | MediaTek MT8135(クアッドコア) |
CPU | 4xArm Cortex-A73(2.0GHz)、4xArm Cortex-A53(2.0GHz) | 2xArm Cortex-A72(1.8GHz)、2xArm Cortex-A53(1.4GHz) | 2xArm Cortex A15(1.5GHz)、2xArm Cortex A7(1.2GHz) |
GPU | Arm Mali-G72 MP3 GPU | PowerVR GX6250 GPU | PowerVR G6200 |
メモリ | 2GB | 2GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi) | 10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi) | 10.1型/1,280×800ドット (149ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 12時間 | 10時間 | 8時間 |
スピーカー | 2基 | 2基 | 2基 |
端子 | USB Type-C | Micro USB | Micro USB |
microSDカードスロット | ○(最大512GB) | ○(最大256GB) | ○(最大200GB) |
価格(発売時) | 15,980円(32GB) 19,980円(64GB) | 18,980円(32GB) 22,980円(64GB) | 29,980円(16GB) 32,980円(32GB) |
2年ぶりのリニューアルとなった本製品だが、この表からもわかるように、本体や画面のサイズ、解像度などは同一だ。公称値ではわずかに増えている重量も、実測では499gと逆に軽くなっており、誤差レベルとみなして問題ない。
従来モデルとの大きな違いとしては、CPUまわりの強化(クアッドコア→オクタコア)とUSB Type-Cの採用、バッテリ駆動時間の延長が挙げられる。本製品はFire OSのベースとなるAndroidが従来の5.1から9へと変更になっており、バッテリ駆動時間の延長はこれらの影響もあると考えられる。
外観での違いとしては、背面のAmazonロゴの代わりにAmazonの梱包箱などでおなじみの矢印マークが用いられるようになったことと、電源ボタンと音量ボタンが従来のシルバーから黒へと変更されたことが挙げられる。いずれも今年(2019年)6月発売のFire 7(第9世代)ですでに取り入れられていた意匠で、従来モデルと見分けるときのポイントになるだろう。
その一方で、一般的なタブレットにありながら本製品にない機能、たとえば指紋認証もしくは顔認証は相変わらず非搭載で、ロック解除時はPINもしくはパスワードを利用することになる。画面の映り込みもかなり激しく、明るい部屋などでは反射防止のシートなどが必須だ。重量も従来とほぼ同じとはいえ、ヘビー級であることに変わりはない。
価格が3,000円引き下げられたのも、見逃せないポイントだろう。2つ前の第5世代モデルの32GBモデルと比べると、半額以下になっている計算だ。もう限界に違いないと思っているとさらに下げてくるところに、Amazonの凄みを感じる。
外観、セットアップ
従来モデルはフック掛けが可能なフラストレーション・フリー・パッケージだったが、今回は箱型のデザインに改められている。付属品は、ケーブルがType-C仕様に改められていることを除けば違いはない。充電アダプタも同一型番だ。
セットアップ画面のデザインはオレンジ色を基調としたカラーから、白バックのおとなしいデザインに変更されている。従来はイメージカラー重視でユニバーサルからかけ離れた配色だったが、そうした点にも配慮したのではないかと思える。
また画面のフローもかなり変わっており、SNSアカウントの登録画面などが省かれたほか、Alexa利用の可否を問う画面などが追加されている。以前の画面は従来モデル時のレビューをご覧いただきたい2万円切りの格安タブレット「Amazon Fire HD 10(第7世代)」をレビュー参照)。
ところで今回のモデルをはじめ、Fireタブレットに新しく「Wi-Fi簡単設定」という機能が追加されている。これはFireやKindle、Echoなど同社のデバイスでWi-Fiのパスワードを共有する機能で、デバイスの買い替えや買い足しにあたってWi-Fiへの設定がほぼ不要になる。
これらは製品の購入時に、注文ボタンの下にある「Amazonアカウントに登録 (簡単セットアップ)」という項目にチェックを入れることで適用される。便利な機能だがパスワードをクラウドに保存されることに抵抗を感じる人はもちろんいるだろう。その場合は上記の設定画面のなかにある「Wi-FiパスワードをAmazonに保存」をオフにしておけばよい(Amazon.co.jp内のWi-Fiに関するFAQへのリンク)。
Android 9ベースへと進化、従来モデル比で50%近く高速化
さて、ホーム画面以下の画面を従来モデルと比較すると、見た目はそっくりなのだが、細かいところでいろいろと変更されていることに気づく。
たとえばホーム画面で、上から下へとスワイプして表示される設定メニューは、項目こそほぼ同じながら、デザインは一新されている。また設定画面も、従来の面影がないくらい項目が細分化され、また各項目の下段に細かい説明が追加されている。
これはおそらく、Fire OSのベースとなっているAndroidが、従来の5.1から9と変更されたことが原因だろう。外見をそっくりに似せているが、中身はまったく別物ゆえ、細かいところで相違があるというわけだ。わかりやすいところで言うと、音量調整時に表示されるバーが、Android 9そのままのデザインおよび位置である。
なお、これは従来モデルもすでにアップデートされているのだが、従来の「アプリ」、「ゲーム」のカテゴリが統合され、1つの画面(ゲームとアプリ)にまとまっている。もともとアプリ内の一項目であるゲームが別カテゴリとして表示されているというややこしい状況だったので、個人的には歓迎だ。
さて、実際の動作はどうだろうか。本製品は「30%高速化」とアピールしているが、ベンチマークで見るかぎり、スコア上は30%どころか50%近く速くなっている。とくにグラフィックまわりのスコアが向上しており、GPU強化などが反映されていると見られる。
もっとも、新しいページを読み込んだ時にワンテンポ待たされるなど、Fireシリーズ特有の挙動がゼロになったわけではないのだが、動作自体はサクサクで、従来モデルと比べても体感的に高速だ。2つ前、第5世代モデルのもっさり感を知っていると、同じシリーズの製品と思えない。
余白は目立つものの解像度は十分
さて電子書籍まわりについて見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。
本製品は、従来モデルと解像度がまったく同じため、画質も基本的に同等である。224ppiということで、昨今のデバイスのなかで決して高解像度というわけではないが、電子書籍用途としては十分だ。雑誌を全画面表示しての細かい注釈も、拡大なしで問題なく読める。
アスペクト比は16:10ということで、iPadなど4:3のデバイスと比べると、天地に余白が発生しがちだ。なかでも画面サイズが9.7型から10.2型へと大型化した第7世代iPadは、ラインナップ上の位置づけや画面サイズからして本製品の直接の競合と言えるが、同じ電子書籍を表示した場合、本製品のほうがサイズがひとまわり小さくなる。
逆に、動画のようにワイド比率が一般的なコンテンツだと、アスペクト比4:3の製品よりも本製品のほうが有利なのだが、電子書籍はどうしても分が悪い。致命的というわけではないが、少しでも大きなサイズで表示したい人は、気をつけるべきだろう。
ちなみに画面まわりについては、購入者から「画面がやや黄色い」、「上下左右が暗い」という声が出ているようだが、前者は筆者手元の個体でもそのとおりで、後者は白紙のドキュメントを表示してみたが確認できなかった。レビューでも意見が割れているようで、ロットなどによって相違があるのかもしれない。
レスポンスの向上は魅力。軽量化が課題
以上のように本製品はあくまでもマイナーチェンジであり、機能的に大きな変化はないため、従来モデルのユーザーが急いで買い替えたとして、これまでできなかった新しいことができるようになるわけではない。
とはいえ全体的にレスポンスが向上しているのは魅力的で、USB Type-Cへの統一なども含めて、利用頻度の高いユーザーにとっては買い替えの選択肢も十分にあるだろう。価格も1万円台半ばからと破格で、さらにFire 7およびFire 8 HDが90日保証なのに対し、本製品は1年保証というメリットもある。
次期モデルに望むことがあるとすれば、やはり軽量化だろう。筆者自身、Fire HD 10は購入してしばらくは使うものの、じょじょに利用頻度が下がっていくのは、サイズや内容よりも、やはり重量が大きく影響している。
位置づけからして持ち歩く製品ではないことから、バッテリの量を減らして軽量化を進める手もありそうだが、どうもそうした設計思想ではないようだ。約432gという軽さを実現していた第5世代モデル並みとは言わないが、せめてその中間、現行のiPad Air(456g)と肩を並べるところまで軽量化してほしいというのが個人的な願いだ。