山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
2万円切りの格安タブレット「Amazon Fire HD 10(第7世代)」をレビュー
~10.1型のWUXGA化でより電子書籍向きに
2017年10月11日 00:00
【お詫びと訂正】初出時に、Fire HD 10(第6世代)としておりましたが、正しくは第7世代になります。お詫びして訂正させていただきます。
「Fire HD 10(第7世代)」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツを楽しめる10.1型タブレットだ。同社のタブレットFireシリーズのラインナップのなかではもっとも大きな画面を持ちつつ、32GBモデルで18,980円、64GBモデルでも22,980円と、従来モデルから大幅に価格を引き下げたリーズナブルな価格が特徴だ。
Fireシリーズの各製品はほぼ年1回のペースで定期的にモデルチェンジされているが、この10型モデルについては昨年(2016年)は新製品の投入は見送られ、今回のモデルが2年ぶりの新製品となった。メインストリームはあくまで7~8型とはいえ、電子書籍の見開き表示を行なう場合や、雑誌など判型の大きいコンテンツを表示するさい、さらに動画再生などの用途において、この10型はぴったりの製品と言える。
今回は発売前の製品を借用できたので、それをもとにレビューをお届けする。ハードウェアは市販モデルと同等だと考えられるが、ソフトウェアは発売時点でバージョンアップが行なわれる可能性があるので、その点は差し引いてお読みいただきたい(本稿執筆時点のバージョンは5.5.0.0)。
CPUやメモリ、画面解像度などあらゆる点で進化
まずは従来モデルとの比較から。10型前後のタブレットの代表格である10.5インチiPad Proについても参考までに比較する。
Fire HD 10(第7世代) | Fire HD 10(第5世代) | 10.5インチiPad Pro | |
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発売 | 2017年10月 | 2015年9月 | 2017年6月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 262×159×9.8mm | 262×159×7.7mm | 250.6×174.1×6.1mm |
重量 | 約500g | 約432g | 約469g |
CPU | クアッドコア1.8GHz×2、1.4GHz×2 | クアッドコア 1.5GHz×2、1.2GHz×2 | 64bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ |
メモリ | 2GB | 1GB | 4GB |
画面サイズ/解像度 | 10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi) | 10.1型/1,280×800ドット (149ppi) | 10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11ac | ||
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 10時間 | 8時間 | 最大10時間 |
スピーカー | 2基 | 4基 | |
microSDカードスロット | ○(最大256GB) | ○(最大200GB) | - |
価格(発売時) | 18,980円(32GB) 22,980円(64GB) | 29,980円(16GB) 32,980円(32GB) | 69,800円(64GB) 80,800円(256GB) 102,800円(512GB) |
現行のFireシリーズはコストパフォーマンス重視のラインナップであるため、原則年1回行なわれるモデルチェンジでもそれほど劇的な進化は見られないのが常だ。7~8型のモデルはそれが顕著で、ベンチマークを取ってもまったく代わり映えしないこともしばしばだ。
しかし今回のFire HD 10(第7世代)は、2年前に発売されたFire HD 10(第5世代)と比較して、CPU、メモリ、画面解像度とそれぞれ明確に進化しているほか、バッテリの持続時間も伸び、さらにはmicroSDの最大容量もほかのFireシリーズに準じて200GB→256GBに増えるなど、あらゆる点で進化が見られる。この表にはないが、同じ第7世代のFire 7/Fire HD 8と違ってWi-Fiが11acに対応しているのも特徴だ。
なかでももっとも大きな変化が、画面解像度の向上だろう。従来のFire HD 10は、10型であるにもかかわらず解像度が1,280×800ドット止まりだったことから、大きな画面を活かして電子書籍の見開き表示を行なおうにも、解像度不足で細かい文字がつぶれるという、やや本末転倒な仕様だった。本製品は解像度が1,920×1,200ドットに向上しているので、十分な品質が期待できる。電子書籍だけでなく、動画やゲームでも恩恵があることだろう。
一方でネックとなるのは重量で、従来の約432gから約500gへと増えており、10型クラスのタブレットとしてはややヘビー級だ。本製品にはWi-Fiモデルのみのラインナップで、使用するのはおもに自宅内になると考えられるので、外出時に持ち歩くにあたって重くて困ることはないだろうが、それでも長時間両手で持って読書したり、動画を観たりする場合には少々つらい。
また本体の厚みについても、従来の7.7mmから9.8mmへと、約2mm厚くなっている。現行のFire 7は厚みが9.6mm、Fire HD 8が9.7mmということで、Fireシリーズとして見たときに辻褄は合っているのだが、廉価モデルに当たるiPad(第5世代)ですら7.5mmなので、最近のタブレットやスマートフォンを使っているユーザーからすると、厚いと感じる機会は多そうだ。
パッケージおよびセットアップ手順は従来と同様
では開封してみよう。
従来の第5世代モデルは背面のピアノ調加工が特徴だったが、今回の第7世代モデルは今春発売された第7世代のFire HD 8やFire 7とほぼ共通の、プラスチック感の強い筐体が特徴だ。パッケージについては同様のフラストレーション・フリー仕様となっている。
セットアップ手順も同様で、従来と大きく変わるところは見当たらず、また一般的なタブレットのセットアップのフローと変わらない。それゆえ初めてタブレットを購入する人でも戸惑うことはないはずだ。以下、スクリーンショットで紹介する。
従来モデルに比べて性能は約25%向上、もっさり感も解消
Fireシリーズに採用されているAndroidベースのOS「Fire OS」は、本製品登場とほぼときを同じくして新しいバージョンへとアップデートされている(5.4.0.0→5.5.0.0)。操作性などで大きな違いは感じないが、ホーム画面の左側に「FOR YOU」という画面が新設されているのが目を引く。ただしこれは従来の「最近のコンテンツ」の名称を変更した上でレコメンド要素を追加したもので、天気や気温表示などが加わってはいるものの、全体的な使い勝手は従来と変わらない。
Fireシリーズ共通の特徴である、既読位置を同期するWhisperSync、ブルーライトを抑制するBlue Shade、空きストレージ領域にコンテンツを自動ダウンロードするOn Deckといった機能も変わらず搭載する。個人的にはOn Deckについては余計なお世話という印象が強いのだが、合わなければ設定画面からオフにしておけばよい。
さて、ユーザーとして気になるのは、ハードウェアの強化によって、本製品の処理速度がどれだけ向上したかだろう。ベンチマークアプリ「Ice Storm Extreme」による比較は以下のとおりで、従来モデルと比べるとスコアはおおむね25%増しとなっている。
実際に使っていても、従来モデルでよく見られたスクロール時のもたつきは大幅に減少しており、快適性は段違いだ。本稿執筆中にしばらく従来モデルを使ってみたが、本製品を使ったあとだと、あまりのもっさりぶりに耐えられなかったほどだ。画面を切り替えるさいのプチフリーズに似た症状が見られなくなったのも大きい。
もっとも、ハードウェアが大幅に進化したとはいえ、かつてFireがラインナップしていたSnapdragon搭載のハイエンドモデル「Fire HDX 8.9」ほどの突出したスペックではなく、「Ice Storm Unlimited」による同製品とのスコア差は2倍近くある。
おそらく、モデルチェンジにあたってまず画面解像度を上げるというテーマがあり、それにあわせてCPUやメモリを見直した結果、エントリーモデル以上、ハイエンドモデル未満という今回のスペックに収まったのだろう。
ただ、価格を踏まえて考えると、本製品のコストパフォーマンスのよさは際立っている。同じ32GBモデルで比較した場合、従来モデルが32,980円(32GB)であるのに対し、本製品は18,980円(同)と、1万円以上も安価だ。
さらに前述の「Fire HDX 8.9」は47,180円(同)と、性能だけでなく価格までハイエンドだったため、その半額どころか3分の1に届こうかというリーズナブルな価格で購入でき、かつ実用レベル以上の性能を持つ本製品のコストパフォーマンスのよさは、これまでの10型前後のモデルのなかで最強と言えるだろう。
なお、使っていて少々気になるのは、本体の背面、カメラを中心としたエリアが長時間使っていると熱を帯びることだ。とくに動画を長時間再生している場合は顕著で、手持ちだとかなり気になる。熱くてふれられないほとではないが、常時握りしめているのはつらい温度なので、手で持たずにスタンドに立て掛けたり、保護ケースで熱を緩和させるなどの工夫が必要だ。どうしても手で持たざるを得ない場合、熱くなったら本体の上下を反転させ、ふれる手を切り替えるのも効果的だ。
高解像度化で小さい文字や細い線もつぶれず表示可能
電子書籍ユースで重要なポイントとなる解像度についてもチェックしよう。
従来のFire HD 10は、10型であるにもかかわらず解像度が8型と同じ1,280×800ドットだったが、本製品は解像度が1,920×1,200ドットに向上しているため、十分な品質が期待できる。画素密度も224ppiと、10.5インチiPad Proの264ppiにかなり近いところまで来ている。
実際にコミックを見開きで表示した状態で、細部をズームアップしたのが以下の写真だ。
さすがに前述のハイエンドモデル「Fire HDX 8.9」(339ppi)にはおよばないものの、従来モデルや第7世代Fire HD 8と比べると、その表現力の差は歴然だ。ここでは電子書籍で比較しているが、Amazonビデオで動画を視聴するさいも、WUXGAならではの品質で楽しむことができる。
比較写真での各製品の並び順は以下のとおり。単ページ表示ではなく、見開き表示での画質比較である点に留意してほしい。
- 上段左: 本製品(10.1型/1,920×1,200ドット/224ppi)
- 上段中: 10.5インチiPad Pro(10.5型/2,224×1,668ドット/264ppi)
- 上段右: Fire HDX 8.9(8.9型/2,560×1,600ドット/339ppi)
- 下段左: 第5世代Fire HD 10(10.1型/1,280×800ドット/149ppi)
- 下段中: 第7世代Fire HD 8(8型/1,280×800ドット/189ppi)
- 下段右: 第7世代Fire 7(7型/1,024×600ドット/171ppi)
また雑誌など、判型の大きなコンテンツを表示するさいにも強みを発揮する。10.1型という画面サイズはB5サイズの雑誌と比べると実際にはかなり小さいのだが、従来モデルよりも高解像度であるため、本文の注釈などの細かい文字も苦にせず読み取れる。これまでのFireシリーズはラインナップ上、こうした使い方ができるモデルが存在しなかっただけに、用途によっては重宝することだろう。
実質14,980円で購入可能でコスパは抜群。Alexa対応にも期待
以上見てきたように、「Fireシリーズといえば廉価モデルでスペックは二の次」という先入観を改めるべき製品だ。
エントリーモデルと呼ぶにはあまりにもスペックが充実しているため、中級者でも納得だろう。なにより、ただでさえ安価なところ、プライム会員ならクーポン利用でさらに4,000円安くなるため、32GBモデルであれば実質14,980円で買えてしまうのが恐ろしいところだ。
どのようなユーザーにニーズがあるか見ていこう。まず従来のFire HD 10を使っているユーザーだが、これは買い替えを強くおすすめする。ボタンやコネクタ類の配置がまったく同じで使い勝手が変わらないことに加えて、画面の解像度は上がり、さらに従来モデルのもっさり感が解消されるなど、メリットだらけだからだ。唯一、若干厚く重くなる点だけが懸念材料ということになる。
現在Fire HD 8やFire 7を使っているユーザーで、電子書籍で見開き表示をしたい、動画をさらに高い解像度で楽しみたい人にもおすすめできる。10.1型ともなると筐体サイズはそこそこ大きく、Fire HD 8やFire 7をそっくり置き換えるには向かないので、コミックおよび動画視聴専用のデバイスとして併用するのがベターだろう。
製品ページには小さくしか書かれていないが、Fire HD 8/Fire 7が90日保証なのに対して、本製品は1年保証というのも利点だ。
一方、とくにAmazonのコンテンツにこだわりがなく、漠然と10型前後のタブレットがほしいと考えているユーザーの場合は、必要なアプリがきちんと用意されていることが確認できれば、魅力的な製品と言えるだろう。
iOSやAndroidに比べると、Amazon Appストアのラインナップは決して多いとはいえないだけに、それさえクリアされれば間違いなくお買い得だ。
最後になったが、年内に日本投入が予告されているAmazonのスマートスピーカー「Amazon Echo」と、それに搭載される音声アシスタント「Alexa」が国内で解禁されれば、本製品でもAlexaの機能が利用可能になると予想される。
本製品はFire HD 8/Fire 7と違ってAlexa利用時にハンズフリーモードが使えるメリットがあり、そうした意味でも本製品は注目に値する。こちらについてはAlexaが国内で使えるようになったのち、機会があればあらためて紹介したい。