山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Googleの6.3型スマホ「Pixel 4 XL」で電子書籍を試す
~ほぼ同等サイズのiPhone 11 Pro Maxとの違いは?
2019年11月12日 11:00
米Googleの「Pixel 4 XL」は、Android 10を搭載した6.3型スマートフォンだ。同時発売の「Pixel 4」とともに、最新のAndroid OSを搭載したGoogle自社ブランドの製品で、従来の「Pixel 3 XL」の後継に位置づけられる。
レーダー技術を用いたジェスチャー機能「Motion Sense」が日本国内では来春からしか利用できないほか、テキストの自動書き起こしなどいくつかの機能が使えないのはマイナスだが、デュアルレンズの採用による超解像ズームや、国内向けモデルで初採用されたeSIMなど、従来モデルとの違いは目白押しだ。
今回はメーカーからSIMフリーモデルを借用できたので、ほぼ同等サイズの「iPhone 11 Pro Max」と比較しつつ、電子書籍ユースを中心にレビューする。基本機能やカメラまわりの性能については、公開済みの平澤氏のレビュー記事(カメラが強化され、eSIMにも対応したGoogle製スマホ「Pixel 4/XL」レビュー)を参照されたい。
細部に至るまでフルモデルチェンジ。重量増がやや気になる
まずは従来モデルなどとの比較から。項目は電子書籍まわりで必要なものに絞り込んでいるのでご了承いただきたい。
Pixel 4 XL | Pixel 3 XL | iPhone 11 Pro Max | |
---|---|---|---|
発売元 | Apple | ||
OS(発売時) | Android 10 | Android 9 Pie | iOS 13 |
発売年月 | 2019年10月 | 2018年11月 | 2019年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 75.1×160.4×8.2 mm | 76.7×158×7.9mm | 77.8×158.0×8.1mm |
重量 | 193g | 184g | 226g |
CPU | Qualcomm Snapdragon 855 2.84 GHz + 1.78 GHz、64 ビット オクタコア | Qualcomm Snapdragon 845 2.5 GHz + 1.6 GHz、64 ビット オクタコア | A13 Bionicチップ 第3世代のNeural Engine |
RAM | 6GB | 4GB | 4GB |
ストレージ | 64/128GB | 64/128GB | 64/256/512GB |
画面サイズ | 6.3型 | 6.3型 | 6.5型 |
解像度 | 3,040×1,440ドット(537ppi) | 2,960×1,440ドット(523ppi) | 2,688×1,242ドット(458ppi) |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ax(Wi‑Fi6) |
コネクタ | USB Type-C | USB Type-C | Lightning |
防水防塵 | IP68 | IP68 | IP68 |
駆動時間/バッテリー容量 | 3,700mAh | 3,430mAh | ビデオ再生:最大20時間 ビデオ再生(ストリーミング):最大12時間 オーディオ再生:最大80時間 |
本製品はPixel 3 XLの後継に相当するが、デザインも一新され、またCPUやメモリも強化されるなど、フルモデルチェンジといって差し支えない進化を遂げている。
画面サイズは従来と同じ6.3型だが、上部のノッチがなくなり、すっきりしたデザインになったほか、全体的にわずかに縦長になっている。アスペクト比で言うと、従来は18.5:9だったのが本製品は19:9と、じわりと伸びている。その影響で、横幅はわずかに短くなっている。
一方、気になるのは重量が増したことだ。従来のPixel 3XLは、直接のライバルに当たるiPhone Xs Maxが208gというヘビー級だったのに対して184gと、20g以上の差をつけていた。今回のモデルは193gと、大台超えには至らなかったものの、着実に重量が増している。
対するiPhoneは新モデルのiPhone 11 Pro Maxで一気に重量が増えた(226g)こと、また同時発売のPixel 4は従来モデル比でより重量が増した(146g→162g)ため、本製品の重量増はまだマシな部類なのだが、比較的軽量だったPixelシリーズの強みが失われつつあるのは気になるところだ。
また本稿では取り上げないが、進化したカメラ機能は本製品の大きな強みだ。デュアルレンズ化による最大8倍の「超解像ズーム」は実用性も高く、さらに進化した夜景モードと合わせて、カメラ機能を目当てに本製品を購入する人は多いだろう。ただし昨今のトレンドである、超広角レンズを搭載していないのは(とくにiPhone 11との比較では)マイナスだ。
このほか、従来の指紋認証から顔認証に変更され、背面の指紋認証センサーが廃止されたのも大きな変化だ。これについては電子書籍端末としての使い勝手においても大きな影響がある。のちほど詳しくチェックする。
従来モデルと性能の差もチェックしてみた。「Sling Shot Extreme」によるベンチマークでは、スコアは「5,741」。以前のPixel 3 XLは「3,414」だったので、処理性能が68%も向上したことになる。このPixel 3 XLのスコアは発売直後の計測値なので、実際の差はもう少し縮まるだろうが、かなりの性能アップと見てよいだろう。
顔認証への一本化は電子書籍用途ではマイナス?
実際に手に持った印象としては、画面サイズが大きい割には持ちやすい。今回試用したのはブラック(Just Black)だが、側面がマット加工で適度に滑りにくく、両端を握ってホールドしやすい。背面は光沢加工が施されているが、実際に持つと意外なほど滑らず驚く。指紋が付きにくいのもよい。
またAndroidは、音量ボタンでページめくりが行なえる(ストアにもよる)のが強みだが、本製品は側面の音量ボタンが電源ボタンより下に配置されているので押しやすい。うっかり電源ボタンを押すミスも起こりにくく、ページめくりのために握り方を変える必要もない。ただしボタンはかなり硬く、カチカチと音もするのはマイナスだ。
気になるのは、従来の指紋認証から顔認証へと変更されたことだ。本製品の顔認証はiPhoneのFace IDと違い、認証完了後に画面を上にスワイプする必要がなく、よりスピーディーに使えるのだが、そのせいで意図せずロックが解除されてホーム画面が表示されることがある。今回の試用中も、ふと気づいたらホーム画面が表示されていることが何度かあった。
これはおそらく筆者が無意識に顔を向けた結果であり、所有者がいないところで勝手にロックが解除されるわけではないが、電子書籍を表示したままロックしていた場合、たまたま顔を向けたことで不意にそのページが人前で表示される危険があり、個人的にはちょっと怖い。
これが起こるためには、少なくとも画面が点灯していなくてはいけないなど、複数の条件が重なる必要があるのだが、現時点で本製品は、目を閉じていてもロックが解除できてしまう問題もあるため、決して低確率というわけではない。
この「人に見せたくないページが気づいたら表示されていた」という事故を確実に防ぐには、顔認証の設定にある「ロック画面をスキップ」をオフにすればよい。こうすればスワイプしてはじめてロックが解除されるという、iPhoneのFace IDと同じ挙動になる。ただしこの場合、すばやくロック状態から復帰できる本製品の利点が失われるので難しい。
一方、これから冬場にかけて、顔にマスクをしたままではロックを解除できず、毎回PIN/パスワードでロック解除を行わなくてはいけないのは、間違いなくマイナスだ。指紋認証は手袋をしていると解除できない欠点があるが、手袋必須の環境ではそもそも電子書籍は読まないだろうし、マスクをしていると解除できない顔認証のほうがよりクリティカルな問題だ。
マスクをしていると顔認証が使えない問題はiPhone X以降にも見られるが、これに関しては指紋認証だった従来モデル(Pixel 3 XL)のほうが有利と言わざるを得ない。将来的には顔認証と指紋認証、両対応してもらえることを望みたい。
余談だが本製品は、マスクをした状態の顔を登録できる裏技がある。まさかと思いつつ試したところ(エラーは繰り返し出つつも)登録を完了できて驚いた。ただ同時に登録できる顔情報は1つだけなので、今度はマスクなしでの顔認証が行なえなくなる。したがって上記問題の解決にはならない。
ところで従来のPixel 3/XLから本製品に乗り換えた場合に戸惑うのが、画面下部の「戻る」アイコンがないことだ。そのため前の画面に戻ろうとした時、どのように操作してよいか戸惑う。
本製品で画面を戻るには、画面左端もしくは右端から中央に向けてスワイプする。画面上に「<」というマークが表示されるので、そこで指を離すと前の画面に戻る仕組みだ。もし従来と同じ「戻る」のナビゲーションを表示したい場合は、「システムナビゲーション」にある「3ボタンナビゲーション」をオンにするとよい。
表示品質は文句なし。ダウンロードが従来より高速に?
次に画面まわりについて見ていこう。以下、本文中でとくに断りがないかぎり、電子書籍ストアはKindleを、コミックの表示サンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を、テキストの表示サンプルには太宰治著「グッド・バイ」を用いている。
解像度は従来同様、500ppiオーバー(537ppi)ということで、品質はじゅうぶんだ。現行のタブレットの多くが200~300ppi程度であることを考えると、なおさらである。
もちろん、タブレットに比べると画面サイズははるかに小さいが、単ページ表示であれば相応のサイズで、コミックの細かい文字でも問題なく表示できる。少なくとも兄弟モデルのPixel 4や、その前モデルであるPixel 3よりはるかに余裕がある。
また従来モデルにあった画面上部のノッチがなくなったので、全体的に見やすくなったのもプラス要因だ。従来も設定を変更すればノッチの左右を塗りつぶしてオフにすることはできたものの、その場合は表示領域が狭くなる弊害があった。最初から塗りつぶされているだけといえばそのとおりなのだが、本来あるべき姿はやはりこれではないかと個人的に思う。
前述のようにアスペクト比がより縦長になったため、電子書籍を表示した時にできる画面上下の余白がさらに目立つようになった。とはいえ、電子コミックサイトの作品一覧などで多くの情報を表示でき、スクロール量を減らせるので、トータルで見ると決して悪いわけではない。
ただしテキストコンテンツは、上から下までびっしりとテキストを表示すると目で追うのが疲れるため、逆に一定の余白を作って、1行の文字数を減らしたほうがよい。なにも画面の情報量が多いほどよいわけではないので、このあたりは見やすさ優先で調整したほうがよいだろう。
ちなみに横向きでの表示だが、解像度的には問題ないが、やはり絶対的なサイズが小さいことから、見開きでコミックを読む用途には向かない。また本製品は画面下部のベゼルが上部よりも細いため、横向きにすると親指の置き場所がなく、持ちにくいことこの上ない。横向きでの利用は考えないほうがよさそうだ。
ところで本製品で実際に電子書籍の購入やダウンロードを行なってみて、Pixel 3との顕著な違いを感じたのがダウンロード速度だ。Kindleストアで同じコミック1冊をダウンロードするのに、Pixel 3の半分くらいの速度でダウンロードが完了する。
本製品はiPhone 11シリーズと違って11axに対応せず、従来と同じ11acのままなので、考えられる原因があるとすれば、CPUやメモリの影響だろうか。あらゆるストアで試したわけではないが、コミックのように1冊のファイルサイズが大きく、かつ連続して読んでいくコンテンツをよく読む人にとってはありがたい。
電子書籍ユースでは十分にプッシュできる製品
筆者はこの1年余り、電子書籍を読む時は、就寝前に枕元でiPad mini 5を使う以外は、ほとんどのシーンでPixel 3を使っている。理由はなんといっても146gと軽量なことで、画面が小さいハンデを、軽量で持ちやすく疲れにくいという利点が上回っている格好だ。
しかし、画面サイズの広い本製品をしばらく使うと、やはりサイズの差を痛感する。Pixel 3だと、コミックによっては線が細かすぎて読みにくい作品もあるが、本製品であれば問題なく読めてしまう。筐体の横幅で言うと6.3mmの違いなのだが、コミックではこの差はかなり影響が大きい。
もちろん、画面サイズが大きいぶん重量がトレードオフになるのだが、本製品と同等サイズであるiPhone 11 Pro Maxよりは軽量だし、またiOSならではの、多くのストアで新規購入にブラウザが必要になる問題もない。仰向けになっての読書では、スマホリングを使うなど一工夫が必要になるが、このサイズのスマホはどれも同じだ。
またほかのAndroidスマホとの比較では、OSとセキュリティのアップデート3年保証のほか、来春対応のMotion Senseが利用可能になれば、いずれ電子書籍のページめくりをジェスチャで行えるようになるのでは、という期待もかかる(何らかの計画が公表されているわけではない。念のため)。
もともと10万円オーバーという価格帯からして、電子書籍ユースでのみ購入する製品では決してないため、カメラ機能やeSIMなど、トータルのメリットで判断することになる。その点において、少なくとも電子書籍ユースでは、十分にプッシュできる製品と言えるだろう。